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祠の悪魔と、貧乏貴族 〜屋敷の地下ダンジョンと悪魔の商店で、領地再建はじめます〜  作者: ななほし


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第14話 封印解除

「ギィィィィィィィッ!!」


 巣の主が絶叫した。


 耳障りな金切り音が広場に響き渡る。


 巨体がのたうち回り、長い角を滅茶苦茶に振り回した。


「くそっ! 目すら硬いのかよ!?」


 俺は咄嗟に剣から手を放し、飛び退く。


 轟音。


 角が石床を抉り、砕けた破片が飛び散った。

 さっきまで俺のいた場所が、ごっそりとえぐれている。


 危ねぇ。あんなもんをまともに喰らったら、胴体ごと持っていかれる。


 だが、怯んでいる暇はない。


 渾身の一撃だったが、致命には至らなかった。

 巣の主は片目に剣が刺さったまま、激痛で完全に狂っている。

 このまま暴れ回らせれば、こっちが先に食い潰される。


「ロロ! そっちに行くぞっ!」


 俺が叫ぶのと、巣の主が暴れながら方向を変えるのは、ほぼ同時だった。


 巨体がロロとクレーネのいる入口側へ突っ込む。


「っ!? ロシュ! きっちり止め刺しやがれ!!」


 ロロが吐き捨てるように言い、正面から迎え撃たんと構えを取った。


 だが、相手は馬並みの巨体だ。真正面からぶつかれば、さすがのロロでも危険だ。


「バカ、避けろ!」


 その直後――巣の主の右脚すべてに矢が突き刺さった。


 甲殻に覆われていない、わずかに見える節の部分すべてに。


 巨体が大きく体勢を崩す。


「クレーネ!!」


「ん」


 クレーネが細腕に力こぶを作り、どや顔を見せた。


「往生際が悪いんだよ、くそ虫がっ! 死んどけっ!!」


 ロロが地面を蹴り、跳躍する。


「鉄拳! 解放!!」


 鈍色に変色した拳を、複眼に刺さった剣の柄頭へ叩き込んだ。


 ――スドンッ!!


 爆発のような衝撃音。


 剣が勢いよく深く沈み込む。

 硬質な何かを突き破る嫌な感触が、広場にまで伝わってくるようだった。


 巣の主の巨体が、びくりと大きく痙攣した。


 次の瞬間、巨体の反対側から剣先が突き抜け、地面へ深々と突き刺さる。


「ギィィィィィィィィィ!?」


 巣の主が最後の断末魔を上げ、巨体がぐらりと傾いた。


 そして――


 轟音を立てて、床へ崩れ落ちる。


 静寂。


 ヤツの体から光の粒子が宙へ舞い、その身を少しずつ消していく。

 さっきまであれほど圧を放っていた巨体が、嘘みたいに世界からほどけていく。


「やりやがった……」


 緊張が切れた途端、脇腹の痛みがどっと押し寄せた。

 その場で膝をつきそうになるのを、なんとか踏みとどまる。


 俺は肩で息をしながら、辺りを見回した。


 周囲の虫たちも、主と同様に光の粒子となって消えていく。

 あれほど広場を埋めていた黒い影が、みるみるうちに薄れていった。


「巣の主を倒すと、眷属たちも消える仕組みか。難儀な相手じゃったな」


 ルシアは虫たちに追いかけ回されたせいなのか、なぜか髪も衣服も乱れまくっていた。


 戦ってさえいないのに、酷い有様である。


「……お腹すいた」


 クレーネ、相変わらずブレないな。


 だが、彼女がいてくれて本当に助かった。

 要所での判断。

 俺たちへのフォロー。

 彼女が虫の道に気づかなければ、また違った結末になっていたかもしれない。


「――はっ!? 夕食の支度しなきゃ!」


 そしてロロ。


 どこまで記憶を飛ばしてるんだ……。


 今回、一番の功労者が辺りをきょろきょろと見回し、首を傾げている。


 久方ぶりに見た暴力の権化は、スキルの力を得てさらに凶悪な存在となっていた。

 絶対にキレられないようにしないとな……。


 俺は苦笑しながら三人を見渡す。


「生き残れてよかったよ。……本当に」


 四人で無事に切り抜けることができた。


 心からの安堵とともに、その言葉が自然とこぼれていた。

 勝てたことより、誰も欠けなかったことの方が、今はずっと大きかった。


「え? う、うん。そうだね!」


「ロシュもがんばった」


「わらわのおかげじゃな」


「荷物持ち、お前は逃げ回っただけだろ!」


「なんじゃと!」


 思わず叫んだところで、クレーネが巣の主がいた方を指差した。


「ん?」


「どうした」


「大きな宝箱」


 視線を向けると、巣の主が倒れていた場所には、いつの間にか木でできた宝箱らしきものが鎮座していた。


 装飾もなく、鍵すら付いていないシンプルな作りだ。

 だが、こんな場所にこんなタイミングで現れている時点で、まともな代物に見えるはずもない。


「何故、宝箱?」


「さてのぉ。素材代わりの報酬……ではないかの?」


 ルシアでも分からないのか。


 俺は無造作に宝箱の蓋へ手を伸ばす。


 ――が、クレーネに手で制止された。


「罠かも。不用心」


「た、確かに」


 俺はちらりとルシアに目を向けた。


「ルシア、開けてくれ」


「な、何故わらわなのじゃ!?」


「いや、お前なら何か起きても大丈夫そうかなと……」


 仮に宝箱が爆発しても死にそうにないしな。


 結局、俺たちは宝箱をルシアに任せ、少し離れた場所から見守ることにした。


「この薄情者どもめ! 呪われろ!!」


 もう、呪われてるんだよなぁ。


 ルシアは怒りながらも、躊躇いなく蓋を開け放った。


「む。これは……」


 特に何も起きなかったことを確認した俺は、ルシアの横から中を覗き込んだ。


 宝箱の中には、巣の主の甲殻で作られたと思しき武具が三本入っていた。


 だが、本当に目を引いたのは――一枚のメダルだった。


 巣の主を象った小さなメダル。

 金属とも石ともつかない質感で、表面には虫の複眼まで細かく刻まれている。

 妙に冷たく、妙に重い。見ているだけで、胸の奥がざわつくような代物だった。


「メダルはよく分からぬが、この武具は地の魔力を多量に含んでおるの」


「魔法が打てちゃうとか?」


 ロロの問いに、ルシアは首を横に振る。


「いや、そんな効果はないのじゃ。そこらで売ってる武具と大して変わらん」


 じゃが、とルシアは続ける。


「武具としては普通じゃが、これらは素材としては一級品ぞ。わらわの炉に突っ込めば、さぞ面白い武具に生まれ変わるじゃろうな」


 ルシアがそう告げると、口端を上げて不敵に笑った。


 強敵を倒したダンジョン側からのご褒美、ってわけか。


 なら、このメダルにはどんな価値があるのだろうか。


 俺はメダルを手に取り、触れた。


 ひやり、とした感触が掌に走る。


 その次の瞬間。


 広場の空気が変わった。


 どこかで何かが噛み合ったような、妙に嫌な感覚。

 石壁の奥で、巨大な歯車でも回り始めたみたいな圧が迷宮全体に広がる。


 すると、どこからともなく無機質な声が広場に響いた。


『第一層守護者の破壊を確認しました。世界管理者◇◇◇◇の権限により、第二層の封印を解除します』


 ――ゴゴゴゴゴゴッ


 巣の主が陣取っていたさらに奥。


 広場の壁際に、巨大な裂け目が横に広がっていき、階下へ降りる階段が現れた。

 石と石が擦れる重い音が腹の底に響く。


「なっ!?」


 驚く俺たちを尻目に、無機質な声はさらなる驚愕の言葉を紡いだ。


『警告。封印の綻びにより、地のダンジョンに不具合が発生。これに伴い、1年の期限をもって当ダンジョンの攻略を推奨――』


 嫌な沈黙が落ちる。


 一年。


 その言葉だけで、背中に冷たいものが走った。

 短い。

 あまりにも短すぎる。


『地上に魔物たちの大狂騒モンスターパレードが予測されます』


「……嘘だろ」

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