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祠の悪魔と、貧乏貴族 〜屋敷の地下ダンジョンと悪魔の商店で、領地再建はじめます〜  作者: ななほし


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第10話 凄腕の弓使い

「やめろ! やめてくれぇぇぇ!!」


 屋敷に俺の絶叫が響き渡った。


 食堂のテーブルの上には、空になった皿が山のように積み上がっている。

 煮込みの鍋は底を見せ、パン籠は空っぽ、香草のスープまで一滴残らず消えていた。


 その中心で、静かな戦いが繰り広げられていた。


「まだまだいける」


 淡々とパンを口に運ぶのは、さっき拾ったエルフの女――クレーネだ。


 新緑の瞳。整った顔立ち。背には長弓。

 見た目だけなら神秘的な森の住人だが――


 とにかく食う。


 目の前の皿が空く。

 次の皿に手が伸びる。

 咀嚼は静かで上品ですらあるのに、減っていく量だけがまるで災害だった。


「ぐふぅ……」


 テーブルに突っ伏しているのはルシアだ。


「わ、わらわが……エルフごときに食欲で負けるとは……不覚……」


「食い意地で勝負なんかするな!?」


 俺は思わず叫んだ。


 クレーネに食事を施してやろうと考えた、過去の自分をぶん殴りたい。


 彼女は森で獲物を追っているうちに道に迷ったらしい。


 腹を空かせたまま村の匂いを嗅ぎつけてここまで来たという。


 そして行き倒れた場所が――


 よりにもよって、うちの屋敷の敷地内だった。


 不憫に思った俺が食事を誘い、屋敷に招き入れた。

 そこまではよかった。


 問題はその後だ。


「ロシュ様」


 台所からロロが顔を出す。


「一週間分の食材、なくなりそうなんだけど……まだ作る?」


「作って」


 クレーネが即答した。


「作らんでいい!!」


 俺は全力で叫び、その場で勢いよく土下座した。


「頼む! 本当に勘弁してくれ! うちは貧乏なんだ!」


 床に額を擦りつけながら訴える。

 これ以上食われたら五年後の破滅どころか、明日には俺たちが破滅する!


 クレーネはしばらく黙って俺を見ていた。


「そう……」


 一拍置いて言う。


「残念。デザートまだ?」


「いい加減にしろ食欲魔人!!」


 俺が叫ぶと、ルシアは椅子に座り直してお茶をすすった。


「ふむ……よく食う者は見ていて気持ちがよいのう」


「お前が言うな!」


 ロロが倉庫を確認して戻ってくる。


「……ロシュ様」


「言うな。聞きたくない」


「小麦、全部なくなったよ」


「終わった……」


 俺は椅子に崩れ落ちた。


 レオを招いたときにも食材をかなり使った。

 そこへこの大食い怪物である。


 ロロが困った顔で聞く。


「明日からの食事どうしよっか?」


「……ダンジョンの食材、出すしかないな」


 レオには商売のタネだから出来るだけ保管しておけと言われていた。

 だが背に腹は代えられない。

 ちなみに食材はルシアに収納で保管してもらっている。

 収納していると鮮度を落とさず保管出来るみたいだ。何でもありだな、この悪魔。


「ダンジョン?」


 クレーネの目がわずかに動いた。


「そこで食べ物、取れる?」


「魔物肉とかならな」


「魔物肉? 興味深い。行く」


 即答だった。


「ご飯のお礼。わたし、手伝う」


 俺はロロと顔を見合わせた。


「……まあ戦力は多い方がいいか」


 そこでふと気づく。


「待て」


 クレーネの背を見る。


 長弓はある。


 だが。


「お前、矢はないよな」


 クレーネは首を傾げた。


「ない。途中で全部使った」


「じゃあ弓使えないだろ!」


「近づかれたら弓でぶん殴る?」


「弓使いとして致命的だろ!」


 頭を抱えた、その時だった。


 ふと、思い出す。


「……待てよ」


 以前、ルシア商店で試作した武具の中に妙な腕輪があった。


 弓なんてうちには使い手がいないから、そのまま保管していたやつだ。


「ロロ、保管箱!」


 地下の保管庫へ走り込み、武具の山をひっくり返す。

 剣、盾、よく分からん棒、微妙に使い道の怪しい小物。

 その奥から、目当ての品をようやく引っ張り出した。


「これだ」


 細い腕輪。


 食堂へ戻り、クレーネに差し出す。


「つけてみろ」


 クレーネは無言で腕輪をはめた瞬間、わずかに目を見開いた。


「なにこれ……」


「まぁ、試しに頭の中で浮かび上がったスキル名のあと、解放と唱えてみろ」


 クレーネが弓を構え、呟く。


「土矢生成。解放」


 弦を引く。


 その瞬間。


 何もない空間に、ざらりと砂が集まる音がした。


「……!」


 ロロが息を呑む。


 瞬時に弦の上へ土粒が集まり、固まり、一本の矢の形を作る。

 先端は鋭く締まり、シャフトは滑らかに伸びる。

 即席にしては出来が良すぎる。完全な土の矢だ。


「やっぱりか」


 腕輪を見る。


【土矢生成Ⅰ 50/50】

 土を凝固し矢を作る


「矢を作る武具……」


 ロロが呟く。


 ルシアは楽しそうに笑った。


「ランダム生成の妙味じゃな」


 クレーネは何も言わず、窓から見える木へ矢を放つ。


 かなり離れた庭木に、乾いた音が鳴り響く。


 矢は幹の中心に突き刺さっていた。


 次の矢。


 一本目の刺さった矢を砕き、まったく同じ場所へ突き刺さる。


 三本目。


 同様に、前の矢を壊してその一点へ吸い込まれる。


「……すごい」


 ロロが感嘆の声を漏らし、ルシアは面白いものを見るように目を細めた。


 俺は腕輪から視線を上げる。


 理解した。


 武具が凄いんじゃない。


 こいつ、とんでもない腕前だ。

 狙っているというより、見えた場所に当然のように矢が届いている。

 ワイバーンを射殺したのも伊達じゃないみたいだな。


「使える」


 クレーネは短く言った。


「……そうだな」


 俺は頷く。


「ダンジョンに行くぞ」


    ◇


 地下通路を抜け、第一層へ入ると見慣れた魔物が現れる。


 グラベルウルフだ。


 こいつらは四、五頭の群れで襲い掛かって来るからやっかいだ。


「来るぞ!」


 俺が剣を抜く前に、クレーネが言う。


「動かないで」


 流れるような動作で次々と土矢が放たれ、弦が鳴る。


 一射。


 グラベルウルフの目を矢が貫く。


 二射。


 別の個体が跳んだ瞬間、空中で目を撃ち抜かれた。


 三射。


 最後の一頭は方向を変えようとしたが――


 土矢がその目を穿つ。


 魔物は声も上げず崩れ落ちた。


「「……え?」」


 俺とロロが呆然とする。


 さらに二体。

 射線を切ろうと軌道を変えながら襲いかかるグラベルウルフさえ、クレーネの土矢は正確にその目を貫いた。


 速い。

 いや、速いだけじゃない。

 放たれた時にはもう当たっているように見える。躱すとか、防ぐとか、そういう段階にすら入らせてもらえない。


 ルシアが呟く。


「ほう……」


 クレーネは淡々と言った。


「残念。食べ物落ちなかった」


 この後もクレーネの射殺ショーが続いた。


 クレーネに狙われた獲物は全て目を射抜かれ絶命する。どれだけ的が動こうが、必ず。

 距離も、角度も、障害物も、こいつにとっては誤差でしかないらしい。


「クレーネ。もしかして魔物の目だけを狙っているのか?」


 俺の問いに、当然のように彼女は答えた。


「ん。どんな生き物も目は弱点。いい的」


「とんでもないな……」


 クレーネの言葉に、俺は背筋に冷たいものが流れた。


 それと同時に俺はクレーネを仲間に引き込めないか考えていた。

 もっと強力なスキル武具を装備したクレーネ。まさにオーガに金棒だ。

 この戦力は是非とも欲しい。どう説得したものか。


「クレーネ。少し相談が――」


 その瞬間。


 グラウンドボアが肉塊を落とした。


 すぐさまクレーネが飛びつき、頬擦りしている。


「魔物肉。本当に落ちた。しゅごい」


 肉塊に頬擦りする彼女の姿に、意外と説得はちょろそうだと確信した。


 このエルフ、肉で釣れる。

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