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嗤う道化は殺されない  作者: からう
笑わぬ子供は道化に至る
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笑わぬ子供と試験・Ⅶ


 追試を合格した次の日、ラクーンは朝早くから念入りに準備をしていた。軽く走って体を温めたり、動きを確認したりする。


「早いですね。ラクーン君」


 声を掛けられた方を向くとクラークがいる。


「クラークさん。どうしたんですか?」

「いえ、朝早くから熱心に準備している君がいたので様子を見に」

「なるほど」

「随分と気合が入ってますね」

「今回の試験が一番難しそうな気がするので」

「なるほど。私的には明日の方が大変だと思いますよ。ラクーン君は攻撃魔法があまり使えませんから。……けれど以外と今日の試験の方が大変かもしれませんね。気合が入っていて、いつも以上に頑張っているラクーン君にプレゼントとして、練習に付き合ってあげます。夢幻魔法<夢幻戦闘>」


 クラークが魔法を発動すると大剣を持ったガンズが現れる。


「この幻と戦ってみましょう。より速い、より強い動きを先に見ておけば、反応は良くなりますよ」

「ありがとうございます。<魔力武装・サーベル>」


 ラクーンは武器を作りだし、幻のガンズに向かって突進しながら突きを放つ。放った突きがガンズに当たる直前、サーベルは折れ、お腹に痛みを感じる。すぐにその痛みは消え、武器も元に戻っている。魔法の効果だと分かっていても、あまりにリアルな痛みと光景に困惑する。


「怪我はしないので安心してください」

「はい。まったく見えないですね」

「少しでも動きが見えたなら、今日の試験は余裕で合格出来てしまいますよ。それでは私は屋敷に戻っていますので、頑張って訓練してください」

「はい」


 その後もラクーンは武器を変え、攻撃する角度などを細かく変えて攻撃し続ける。しかしどれだけ攻撃しても武器は一撃でいつの間にか折られ、ラクーンは攻撃を喰らっている。それでも攻撃し続ける。強化魔法を発動しても、遠距離から魔法を放っても攻撃は届かない。


 十分、二十分、三十分、一時間と戦っているうちに徐々に体は幻想の痛みに慣れ、反応速度は上がっていき、魔力もよく動くようになってくる。それでも動きは見えず、何も出来ないまま攻撃を喰らい続けるがそれでも時間を忘れて挑み続ける。


 何十種類もの武器を試し、何通りもの攻撃を試し、全て打ち砕かれる。それでもさらに考えて攻撃して、砕かれる。久しぶりの一人で戦う感覚と強い相手と戦う楽しさを思い出し、時を忘れて攻撃し続ける。


 幻のガンズと戦い始めて三時間が経った頃、幻のガンズが突如消える。少し驚くが、魔法が解除されたのだと判断し、周囲を見回すとかなり明るくなってきている事に気が付く。


「私からのプレゼントはどうだった?」

「助かりました。おかげで調子が良くなってきました」

「……」

「それは良かった。それじゃ、そろそろ試験の準備をしようか。カルード」

「はい。それでは今回の試験の説明をします。今回は武器を使った戦闘の試験です。その為、攻撃魔法の使用は禁止です。そして今回の試験官は……」

「カルード。俺がやる」

「ガンズ! ガンズが試験官をしたら試験にならないですよ!」

「どうせハンデは付けるんだ。誰でも良いだろ?」

「けど、昨日は別の者で良いと……」

「気が変わった」

「……ラクーン殿。ガンズでも良いですか?」

「はい」

「それでは試験官はガンズです。ハンデはまずは重り。足首、手首、胴体に合計で自分の体重の半分の重りを付けます。その上でいつもの武器では無く、刃を潰してあり、少し脆い大剣を使用してもらいます。そして剣技の使用禁止。強化魔法を使った攻撃禁止。こんな感じです」

「おう」

「分かりました」

「今回の試験は別に勝たなくても合格出来ます。サーカスに入ってもある程度戦えるかどうかが判断基準ですから、戦いの内容で判断します」

「はい」

「ラクーン殿は攻撃魔法以外の魔法は使用して問題ありません。そして武器を作る魔法の使用は問題ありません。そして今回はクライスの参加は禁止です」

「分かりました」

「それではこのポーションを飲んで下さい。疲れがとれます」

「ありがとうございます」


 渡されたポーションを飲み、少し休憩すると疲れが無くなり、疲労感が無くなった事でさらに調子が良くなってくる。


「そろそろ始めるぞ。カルード。早く始めろ」

「分かりました。ラクーン殿も始めていいですか?」

「はい」

「それでは始め!」

「<魔力武装・双剣>」


 カルードが戦闘開始を宣言すると同時にラクーンは突きに特化したまっすぐな短剣を作り、構える。ガンズは大剣を持ち上げ、構える。

 ラクーンは強化魔法を発動し、ガンズに近づき、突きを放つ。その突きを大剣の腹で防ぐガンズ。ラクーンは短剣を引き、もう片方の短剣を突きだす。その攻撃も簡単に防ぐガンズ。ラクーンはどんどん速度を上げ、連続で突きを放つ。全ての攻撃を少し大剣を動かして防ぐガンズ。


「軽いな。速度はまあまあだが、致命的に威力が足りない」


 ガンズはそう言って大剣を振る。その大剣に短剣が当たり、短剣が手から離れる。ラクーンは急いでガンズから距離を取る。


「重りで動きが鈍くなっている俺に素早い連続攻撃で攻めるのは良いが、一撃一撃が軽すぎてダメージにならないぞ」


 ラクーンは強化魔法を発動しながらガンズの周りを回り、近づくふりなどを混ぜながら攻撃のチャンスを待つ。


「攻撃しないと勝負にならないぞ? 仕方ないから俺から動いてやろう」


 ガンズはそう言って強化魔法を発動する。強化魔法を使った攻撃が禁止なだけで強化魔法を使って移動する分には問題ない。強化魔法を発動したガンズはラクーンが強化魔法を使った時と同じか少し遅いくらいの速度で接近してくる。

 近づいてくるガンズと距離を取る様に後ろに跳ぶ。残った短剣を投擲するが、簡単に防がれる。


「<魔力黒装・双剣>」


 武器が無くなった為、新しく武器を作る。今度の短剣は曲刀タイプで、突きの攻撃力は下がるが切れ味が上がった形にした。


「今度はそれか。しかし攻撃力は上がらないぞ?」


 ラクーンは強化魔法を発動してガンズに接近し、短剣を振る。途中で軌道を変えながら攻撃するが、全て躱されるか大剣で防がれる。

 ラクーンは一度距離を取り、作戦を練る。


(武器での攻撃じゃ勝てないかな……)


「カルードさん。魔貫通魔法は使って良いの?」

「問題ありません。強化魔法と同じく、使って問題ありません」

「分かりました」

「今度は格闘か?」


(もっと威力を出すには……ジュークさんのあの技みたいに回転の力を加えてみようかな)


 ラクーンは強化魔法を発動し、体内にある魔力に螺旋の様な回転を加える。


(ちょっと痛いけど、成功。この魔力を回転を維持したまま槍に流して大剣にぶつける。槍が大剣に当たる瞬間に槍から手を離して懐に入る。そこから魔貫通魔法を使って武器を作る。これにしよう)


「作戦は決まったか?」

「はい。<魔力武装・ランス>」


 ラクーンは片手で持つことが出来、槍よりも太く威力の高いランスを作り出す。ラクーンはランスをガンズに向けて構え、普通の強化魔法を発動し、ガンズに向かって突進する。ガンズとの距離がランスを突きだした時に一番威力が出る所よりも少し離れているタイミングで一度減速し、強化魔法に螺旋回転を加え、ガンズ目掛けて突きを放つ。強化魔法の魔力を体からランスに流し込み、ランスの中で魔力が回転しながら放たれた一撃をガンズは大剣の腹で受け止める。


「なるほど。かなり威力が上がっているな。魔力に回転を加えて威力を上げたのか。しかし防がれては意味は無いだろ」

「いえ、問題ありません」


 ガンズが大剣で防いだ事を確認したラクーンはすぐにランスから手を離し、ガンズの懐に入り込む。


「――なるほど」


 そのままガンズの腹に手の平を当てる。


「<魔力武装・槍>」


 魔貫通魔法を使い、ガンズの腹を貫通するように槍を作り出そうと魔力を込める。しかし槍が生えてくる事は無く、それどころかラクーンが放った魔力は跳ね返され、ラクーンの手が弾かれる。ラクーンは弾かれた事に驚いたが、すぐにガンズから距離を取る。


「なるほど。相手の体の中に武器を作り出し、臓器や血管などを破壊する技か。どんな防具を着ていても、どんなに屈強であろうと関係なく一撃で殺せる技だが、魔力が入ってくる所さえわかれば自分の魔力を同じ所に集める事で防ぐ事も可能。良い技だが、残念だったな」


 ラクーンはこの時、手応えを感じていた。攻撃は通じなかったが、その攻撃はガンズの懐に入る隙を作る事が出来た。そしてラクーンはさらに考える。


(今のは今回の試験で一番良い攻撃だった。やはり威力が足りない。威力を上げるのに一番簡単な方法は武器を大きくする事だが、それでは振り回せない)


 魔力武装は魔力で武器を作り上げている為、普通の武器よりは軽い。しかしそれでも大きな武器をラクーンの力で振り回すには無理がある。手っ取り早い方法だが、あまりにも筋力的に不可能な方法だった。


(大きな武器を作る事は無理かな。やっぱり別の方法を考えるしかない。けど魔力武装の中に強化魔法を流しこむ……)


 そこまで考えて気づく。魔力が集まり過ぎれば爆発する筈なのに爆発しなかった事に。これはラクーンの魔力操作技術が向上し、魔力を扱える量が増えた為である。そこでラクーンは考えた。もしかしたら今なら一度作った武器に魔力を流し込み、より大きな武器に変える事が出来るのではないかと。


(試してみる価値はある。これが出来れば今まで以上に戦闘に幅が出来る)


「<魔力武装・短剣>」

「今度は何だ?」

「ここにさらに……」


 ラクーンは作り上げた短剣に魔力を注ぎ込む。そして注ぎ込んだ魔力を短剣の周りで圧縮し、短剣を徐々に普通の剣に変えていく。そして出来上がった剣は少し歪で、普通に作った物よりも性能が低そうだった。

出来上がった剣を振ってみると、一度振っただけで新しく作った部分が壊れ、元の短剣に戻る。


「中々に面白い技だ。その技を使って今度はどうするんだ?」


 ラクーンはもう一度短剣に魔力を流し込み、剣に変える。先ほどよりはマシな剣が出来たが、それでもあまり使える技では無いだろう。そして今度は剣に魔力を流しながら、剣を振る。すると剣は壊れずにそのまま性能の低い剣だった。その剣をもう一度、今度は魔力を流さずに振ると壊れて短剣に戻ってしまう。


(なるほど。魔力を流し込んでおけば壊れないのか。もしかしたら面白い事が出来るかもしれないな。後は魔力が足りるかどうかだけど、それはやってみれば分かる事)


「<魔力武装・短剣>」


 ラクーンは短剣をもう一本作り、その場で短剣を横に振る体勢に構える。


「その距離でその構えか? 今度はどんな技を見せてくれるんだ?」


 ガンズはもうすぐ始まる劇を見る子供の様な楽しみそうな顔をしながらラクーンの動きに注目する。

 ラクーンはその場で短剣を何度か振った後、勢いを付けてその場で回転する。その行動にガンズやクラーク、カルードは戸惑う。何も無い所で短剣を何かを攻撃する様に短剣を持って回るラクーンの行動が分からなすぎた。

 ラクーンはある程度勢いがついてきたと判断すると、回りながら短剣に魔力を注ぎ込み、剣に変える。その状態でも回転し続け、さらに魔力を注ぎ込む。そして二本の剣を合わせて大剣に、大剣にさらに魔力を注ぎ込み、バトルアックスに変え、さらにバトルアックスを大きくしていき、巨大化したバトルアックスをハンマーに変える。遠心力によって振り回されるハンマーにさらに魔力を注ぎ、さらに大きくしていく。そのハンマーは体の倍近い大きさに変わり、少しでも回転速度を落としたらハンマーを落としてしまうだろう大きさ。それでも魔力を注ぎ、ガンズに当たるまでハンマーを大きくしていく。

 ガンズはそのどんどん巨大化していくハンマーを面白がり、そのハンマーを真正面から受け止める為、大剣を地面に突き刺し、腰を落としていつでも受け止めれる様に準備する。

 ラクーンはそろそろガンズに当たるだろうと判断し、流し込む魔力の一部に回転を加え、ハンマーがガンズに当たった瞬間の威力を上げていく。

 ラクーンが振り回すハンマーとガンズの大剣がついにぶつかり合う。ハンマーは大剣の腹に直撃し、強化魔法によってさらに威力の上がったハンマーの威力で曲がり始める。大剣が横に凹みはじめ、折れ曲がっていく。しかしガンズが大剣を支え、ガンズについた重りのせいでガンズは吹き飛ばない。そしてラクーンはさらに力を込めてハンマーを振ろうとする。振ろうと力を込めた瞬間、ハンマーの柄が折れ、ラクーンは急に掛かる力が弱くなり、さらに力を入れていた為、その場で変な回転をし、倒れこむ。ガンズの方は大剣にひびが入り、折れ曲がり使い物にならなくなっていた。

 そしてラクーンはまた魔力の使い過ぎで気絶する。


ここまで読んで下さってありがとうございます。

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