笑わぬ子供と試験・Ⅷ
また目覚めると天井を見上げていた。何度も魔力を使い果たし、気絶を繰り返す最近に危機感を覚え始めるラクーン。こう何度も戦うたびに気絶している様ではサーカスのメンバーに迷惑をかけるだけだと自覚する。
「起きたか。ラクーン」
「ガンズさん」
「先に試験の結果を教えておこう。合格だ」
「けど、毎回毎回気絶してしまいます。激しい戦闘をした時、毎回最後に無理矢理魔力を使うせいで魔力が切れて気絶してしまう。カルードさんにも指揮官がやられてはいけないと言われたのに、また気絶してしまった……」
「それは経験で治せるものだ。それは戦っていくうちにもっと自分を把握出来るようになり、動きは洗練され、魔力の消費量は減っていく。そして魔力の消費量についてはサーカスに入った後、アレートにでも聞く事で。アイツはお前と似た悩みを乗り越えた人物だ。どちらにせよ、サーカスに入った後にはジュルクを除いた役職持ちの下について全ての技術を学ぶ事になるんだ。その時に治るさ」
「……まだ入団出来ると決まった訳では無いのにそんな予定まで決まってるんですか?」
「……今の所の結果は上々だ。それにお前は作戦と指揮をメインにしつつ他も全てサポートしたいんだろ? だったら先にある程度決めておかないとな」
「そうですか」
「そうだ。では俺は戻る。後、試験は明日だ。それまでしっかり休む事だ」
「はい」
次の日……。
体は完全に回復し、魔力も回復し、最高の状態で最終試験に挑む。庭に出るとカルードとクラーク、ガンズとアレートが居る。
「おはようございます。ラクーン殿」
「おはようございます」
「早速今日の試験内容の話をしましょう」
「はい」
「今日は最後の試験です。内容は魔法攻撃の試験です。魔法使いの役割は後ろから魔法を撃つ事ですが、一々止まって撃っていては良い的です。そして魔法の撃ち合いをした時、動けない事は非常に大きい。相手の魔法を見て回避しながら相手の隙を突いて魔法を撃つ。その時の魔法は素早く、精確で、高い威力でなければいけません。今回の試験はいかに戦闘中に動きながら強く精確な魔法を撃てるかを見ます」
「はい」
「試験官は要望によりアレートで、ハンデはマジックアイテムの使用禁止、動きについては近接戦闘が出来るラクーン殿と同じくらいなので重りはなしとします」
「はい」
「そしてラクーン殿の肉弾戦の禁止です。強化魔法を使った攻撃は勿論、魔貫通魔法や魔力武装も禁止です。ただ、相手に近づいて魔法を撃つ行為は問題ありません」
「分かりました」
「それではアレート。任せました」
「任されたわ。さて、それじゃ早速始めましょう?」
「分かりました」
「それじゃ坊やに一つ最初にアドバイスをしておくわ。坊やの魔法は魔力の無駄が多すぎるわ。今ならもっと上手く扱えるはずよ。頑張りなさい」
「ありがとうございます」
「それでは、始め!」
カルードが開始を宣言する。それと同時にラクーンは大きく距離を取り、アレートの魔法の射程外に出ようとする。そのまま庭の端まで移動したラクーンはアレートの動きを見ながら考える。ラクーンには攻撃魔法がほぼない。闇属性魔法と夢幻魔法には攻撃力を持った魔法は無く、光属性魔法の攻撃魔法は使えない。使える攻撃魔法はショットのみ。その低級の魔法が最大威力で、遠距離の魔法戦よりも近接戦の方が得意なラクーンにとってアレートの魔法が分からないこの状況は非常に不利な状態だった。魔法によって対策が変わってくる魔法戦において、相手には魔法を知られていて、相手の魔法を知らない状態で近接戦に持ち込むのは危険だった。しかしこの時ラクーンの予想外だったのはアレートの使える魔法は一種では無く、複数の属性を使える事だった。
「水、光魔法<反射光>」
アレートが遠くから撃った魔法は目にもとまらぬ速さで複雑な軌道を描きラクーンの頬を掠る。その魔法は光魔法の直線にしか進まないという欠点を水を鏡の様に使い、水に光を反射させる事で防御の外からでも攻撃できる魔法。
「次は外さないわ。二つの魔法を混ぜて複合属性にするのではなく、別々の魔法を合わせる事も出来るのよ」
ラクーンは距離を取ったままではすぐに負けると判断し、強化魔法を発動しアレートと距離をつめようと行動を開始する。しかしラクーンの行く手を阻むように水が生成され、その水を避けようとラクーンは右に移動しようとするが、光魔法を撃たれてはたまらないと止まる。その瞬間ラクーンの目の前を光魔法が通り過ぎる。
(速い。速すぎる。これじゃ対策のしようが……)
「残念。けど止まっていて良いの……」
ラクーンはロビンから聞いた光属性魔法の特徴を思い出す。光属性魔法は一対一最強の魔法だとロビンは言っていた。そして先ほどの攻撃。あれだけの速度と威力がありながら何故複数戦闘も最強ではないのか。先ほどの魔法は何故もっと範囲を大きくしなかったのかと。その結果ラクーンは光属性魔法は攻撃範囲が非常に狭いのでは考えた。光属性魔法は点での攻撃としては優秀だが、太い光を出すには大量の魔力が要るか、この試験では使えないのではないかと。よくよく考えると試験で死人を出す訳にもいかない為、本当に体を消し飛ばすような範囲で魔法を使えないのではないかと。そしてラクーンには相手に的を絞らせず、この状況にピッタリな魔法が使える。
「夢幻魔法<幻想分身>」
ラクーンはアレートに向かって夢幻魔法を発動し、大量の分身を作り出す。その大量の分身に紛れ、アレートに向かって突撃する。アレートは一切攻撃せず、分身が近づいてくるのを待っている。かなり距離が縮まった時、アレートが漸く動く。
「見事に光魔法を封じられたわね。けど忘れてないかしら? 私は水属性魔法も使えるのよ。水魔法<水鞭>」
アレートの生成した水が鞭の様に撓り、ラクーンの作った分身をすり抜けていく。しかし分身はすり抜けても本体であるラクーン自身には当たる。もう少しで当たるというタイミングでイーターが水を喰い、防御に成功する。しかし位置を知られてしまった為、行動が難しくなる。
「夢幻魔法<幻想分身>」
ラクーンは分身をさらに増やす。
「夢幻魔法<幻想同化>」
ラクーンの姿は周囲に溶け込む様に消えていく。完全に姿を消したラクーンはアレートの水鞭の射程外と予想する場所に移動し、考える。
(さて、どうしよう。近づかないと勝てないけど、近づくと水でダメージを負う、どうしようも無いかも……)
「良いわ。隠れ続ける気ならこっちから見つけてあげるわ。水、光魔法<オーバーフラッシュ>」
アレートが魔法を発動すると、アレートを中心としてラクーンも範囲に収めた水のドームが生成され、フラッシュの光を反射し、水のドームの中に光を閉じ込める。フラッシュは一瞬だけ強い光を放つ魔法だが、距離が遠くなると光の威力は弱まって目眩ましとしては使えなくなる。そして光が放たれる方向は術者からなので、別の方向を向き、目を閉じれば効果を薄くさせる事が出来る。しかしアレートの魔法は光が弱くなる前に水に反射させる事で全方位から強い光を浴びせる事が出来る。その為相手がどの方向を向いていても関係無く目眩ましとして機能する。その光を浴び、視覚が封じられたラクーンは周囲を把握しようと動こうとするが、動いたせいで自分の位置を知られては不味いと思い、ジッと耐える。軽く目を開け、目を慣らしていると薄らと水の繭の様な物が見える。その水が弾けると中からアレートが出てくる。それを見てラクーンはある作戦を思いつく。
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