笑わぬ子供と試験・Ⅵ
サーカスの役職持ちでジュルクと他七人が完全に対立しており、ジュルク、アレート、ムドールが貴族である事が分かった。発言内容からアレートとムドールは由緒正しい貴族で、ジュルクは貴族の爵位を買った貴族なのだろう。
アガルタでは貴族が没落する事は無く、新しく貴族になる者は居ないが、一応貴族は居る。その為一応貴族に関する知識はある。
貴族の当主には男しかなれず、基本的には長男が家を引き継ぐ。
貴族になると名字が与えられる。名字は家を引き継いだ時に教えられ、当主となった者かその嫁、歴代当主しか名乗れない。次男や三男、長女などは正式な名字を名乗る事は許されず、正式な名字から何文字か引いた名字を名乗る事になっている。
貴族になる方法は二つあり、一つは王から爵位を与えられる事でなれる。例えば戦争で活躍したり、高い知力を持ち、村などを大きく発展させたりすると貴族の位を与えられる事が稀にある。こういった貴族は大体がプライドが非常に高く、貴族であるという意識が高い。二つ目が大量の金を国に献上し、定期的に莫大な金額を国に治め続ける事を約束に貴族になる方法である。こういった貴族はピンきりであり、王より任せられた貴族よりプライドの高い者もいれば、非常に低姿勢で謙虚な人物も居るらしい。貴族の爵位は公爵が一番高く、侯、伯、子、男の順で低くなっていく。金で買えるのは子爵まででそれ以上の位は功績を挙げなければならない。金に物言わせて功績を買う者もいるが。
ジュルクは貴族としてのプライドが非常に高い為、昔から貴族なのかもしれない。貴族として長い、昔から貴族であるということはステータスらしい。逆にアレートとムドールは没落寸前なのかもしれない。貴族の仕事は国に利益をもたらす事の為、資金力は非常に重要だ。アレートとジュルクの発言からどちらも爵位は同じで、資金力はジュルクの方が上、アレートとムドールは資金は無いが昔からの貴族なのだろう。貴族の爵位が同じ場合、貴族になった経緯が重視される。金で買った爵位と王から任された爵位では重さが違うと王より功績を認められた貴族は主張しており、大体の場合は成果を残した貴族の方が上であると考えられている。
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ラクーンは一応貴族としての爵位は高い。しかし何個かの理由で外だと爵位を低く見られる。アガルタ内であればラクーンの家は侯爵であるが、外だと良くて子爵程度と考えられる。理由としてまずはアガルタという国の小ささだろう。他の国に対してアガルタは非常に小さく、街も村も無く、たった一つ首都があるだけ。首都の大きさも他の国に比べて小さく、活気も無い。これだけ小さいのに何故主要国に数えられるのかは分かっていない。二つ目に外との関わりを絶ち、戦争などもしていない為だ。戦争をし、領土を拡張する事も無く、ただ地下に籠って生活する。戦争が起こる要因はあるのに何故か戦争にはならない。そして爵位を低く見られる理由の最後に軟弱なイメージを持たれている事が原因だろう。アガルタの人間は戦闘をしない。外の貴族は武闘派な者が多く、戦いを知らないアガルタの貴族を嫌っている者も多い。
戦争が起きそうな要因としてはアガルタの資源がある。アガルタが外の国に誇れる唯一の長所は鉱石採掘量である。アガルタにはドワーフがおり、ドワーフの作る武器を目当てに冒険者が来る事も稀にある。そしてアガルタでドワーフ達が武器を作れる理由は鉱脈があるからである。ドワーフ街から鉱脈に入れる。鉱脈には非常に希少な鉱石などが大量にあり、ミスリルやアダマンタイトも採掘出来る程である。これ程の鉱脈は滅多に無く、噂では無限に鉱石が出来るという話もある。これだけで莫大な利益を得ることが出来るし、アガルタの兵力は低く、戦争になった場合アガルタは絶対に勝てないだろう。なのに攻められない。一説では昔、一人の男が攻めてきた他の国の兵を一掃したとの伝説もある。それを恐れて他の国は攻めてこないと言われている。これは現実的な話では無く、あくまで伝説程度だろう
そしてアガルタが攻められない現実的な理由としてアガルタの立地もあるだろう。アガルタは森に囲まれており、侵入しにくい。そしてアガルタを一番手に入れたいだろうエルドラドからアガルタを守る様にそびえたっている山の存在も大きいだろう。エルドラドは金を手に入れる為なら戦争を仕掛ける様な国だが、山を迂回するとなると必ずエリュシオンに入るか、アヴァロンが支配している海から回るしかない。しかしエリュシオンは武装して戦争の通り道になる事を嫌っており、許可はでないだろう。許可無く通ろうとすると戦争に発展する恐れもある。エリュシオン単体は弱いが、エリュシオンはアヴァロン、アルカディアと仲がいい。どちらの国にもエリュシオンに本神殿を置く宗教の信者が多い為である。その為アガルタは安全な国となっている。この様な理由でアガルタは戦争に巻き込まれずに続いて来ていた。
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ラクーンはアレートから受け取った指輪を懐にしまい、気持ちを入れ替え、追試に臨む。
「それでは追試を始めましょう。それでは我々は紙に……」
「……それについてだが、正直に言って今回は失敗の理由が明白過ぎないか? 此処にいる全員が理由を答えれるだろう」
「では、どうするのです? ムドール」
「態々紙に書かずとも良いのではないか? ラクーンに失敗、ミスした所を挙げさせ、それを我々が聞いて、判断すれば良い」
「それでは……」
「カルード。ジュルクが居たならそれも良いだろうが、今ジュルクは私の魔法で封じている。このメンバーならそこまで面倒な事にもならないでしょう」
「確かに……。分かりました。ラクーン殿もそれで良いですか?」
「はい」
「それではそう言う事で。始めましょう」
「はい」
「では一番の失敗は?」
「最初の二十分で時間を見誤り、編成した人物の能力を把握しきれていなかった事です。能力を聞く前にせめて魔法で攻めるのか近接戦で攻めるのかを決めるべきでした」
「そうですね。俺もそこが一番の失敗だと思います」
カルードのその言葉に他の六人も頷く。
「ではその結果起きた失敗は?」
「まずは編成ミスです。最初に作戦を決めれず、ある程度使える人を編成しましたが、メアリーの能力を主軸にした作戦に決定した時はもう戦闘時間でした。その為ブーヴィンさんが完全にあまりました。ここを別の人に変えていれば勝てたかもしれません。僕を含めて六人という制限の中で一人が何も出来なかったのは失敗でした」
「そうですね」
「ただそれについてはブーヴィンにも落ち度がある。サポート出来る部分はあったのに、その判断が出来なかった」
「それについては僕が明確な命令を……」
「ラクーン君。それは無理だよ。一人の人間が戦闘中に複数人に細かい命令を出す事は無理だ。それが出来ないから私達統括役が居て、作戦の概要と大まかな流れを聞いて私達が部下に最適化した命令を出し、その命令を聞いて個人個人がやるべき事を判断する」
「それは十人位……」
「確かに今のは十人以上の話だよ。けどそれは指揮を執る事だけに集中していた場合だよ。戦闘に参加しながら細かい命令を下す事はどれだけ優秀でも三人程度が限界だよ。だから班に分かれて行動するんだよ。班毎に大まかな指示を出す。常に指示を出せるわけでも無いから今必要な事を自分で判断する能力は大事だよ。そしてブーヴィンはサポート出来る部分があった。例えばラクーン君がガンズに突っ込んだ際に地属性の魔法で動きを制限したり出来た。ブーヴィンが幾ら攻撃的な魔法が得意だからと言って土を上げたり下げたり出来ない訳じゃ無い。そう言う判断が出来なかったから、ガンズはブーヴィンにも落ち度があると言ったんだよ」
「なるほど。確かに指示できる人数に限界はありますね。ただ最初にもっと明確に指示を出すべきでした」
「まあ、まだ仕方ないんじゃない?」
「アレートさん。どこが仕方ないんです? 彼は指示を出す人間になりたいと言ってるのに、それに気付けないなんて……」
「……俺はアレートに賛成だ。ラクーンの師は狩人なのだろう? ならば個人での作戦は知っていても、集団での戦闘についての知識が低くとも納得できる」
「確かにそうですが……」
「それはまだ良いだろう。マユ。どちらにせよすぐに作戦参謀の地位につける訳じゃ無いんだ。サーカスに入ってから学んでも遅くはないだろ」
「ぐっ……確かに……。確かにまだ成長の余地はありますね」
「だろ? お前はもっと落ち着いて考えろよ。弓使いは冷静さが大事なんだから」
「確かにそうですね。マユたまに考えなしになりますから」
「ちょっ……」
「はい。そこまでにしましょう。まだ追試の途中ですよ」
「はい……」
カルードに注意され、少し凹みながらマユが返事をすると他の人が軽く笑う。
「ほら、ガンズ達も笑ってないで次にいきますよ」
「おう」
「では他にどんな失敗がありましたか?」
「……他……無いです」
「うん。まあ、今回はそれでも大丈夫かな。……ちゃんと大きな失敗は理解できているので、追試は合格です」
「ありがとうございます」
「ただし、指揮官が倒される作戦はダメです。絶対に決着がつくと思っていても決着がつくとは限らないのが戦いです。指揮官は何としても生き残り、もし相手が生きていた時にも味方に指示を出せる様に準備していなければなりません。今後は自分を犠牲にした作戦は使わないでください。これはラクーン殿の為では無く、我々の為の話です」
「はい……」
「それじゃ、明日は戦闘力の試験です。今日はゆっくり休んで下さい」
「はい」
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