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嗤う道化は殺されない  作者: からう
笑わぬ子供は道化に至る
32/35

笑わぬ子供と試験・Ⅴ


 ラクーンが身を犠牲にした作戦はあと一歩といった所で失敗に終わった。


「……失敗か」

「後一歩……」

「あと少しだったのに……」

「あと一歩及ばず……」

「……俺、何もしていない……」

「惜しかったな。後十秒……いや、五秒あれば負けていた」

「ガンズ。それよりもラクーン君をこちらに。魔力を一気に使いすぎです。運んでください」

「おう。分かった」

「サックはポーションを持ってきてください」

「ポーションはいつもここに」


 サックは背負ったリュックから箱を取り出す。箱を開けると十本のポーションが入っている。そこからサックは二本選んでクラークに渡す。


「今回はこれとこれですね」

「効果は?」

「魔力回復のポーションと出血死を防ぐ為の造血ポーションです。造血ポーションの効果が出るのは遅いですが、飲ませておいた方がいいでしょう」

「分かった」



 目が覚めると見知った天井を眺めている。いつも寝ている屋敷の一室だ。サーカスのメンバーに与えられた部屋の一つを使ってラクーンは生活している。自分の部屋はあるが、ばれる訳にはいかないので此処で生活している。


「起きたかい?」


 ベッドの横に座っているクラークが声を掛ける。

「は、はい」

「動けそう?」


 ベッドから立ち上がってみる。少しふらつくが、激しい運動さえしなければ問題無いだろう。


「大丈夫そうです」

「じゃあ先に庭に向かっていて。カルード達を呼んでくる」

「分かりました」


 少しふらつきながらも庭に出る。庭に出た後少し待っていると、サーカスのメンバーが屋敷から出てくる。


「思っていたよりも元気そうで良かったです。ラクーン殿」

「心配をお掛けしてすみません」

「それでは本題、試験の結果の話をしましょう」

「分かりました」

「先に結果をお伝えします。結果は作戦失敗。後一歩まで追い詰めたものの、時間制限である十分が経過しましたので失敗です」

「……そうですか……。これで僕のサーカス入団は出来なくなりましたね……」

「普通であればそうなのですが、今回はあまりにも惜しかったので……」

「後五秒あれば負けていた。それほどギリギリの勝負だった」

「……なので今回は特別に追試を行います」

「追試?」

「はい。追試の内容は簡単です。反省会をしましょう。ラクーン殿の反省点が役職持ち八人の内五人以上と同じだった場合、今回の試験を合格とします」

「なるほど。反省点ですか。パッと思いつくだけでも何個かありますね」

「じゃあそれを言う前に役職持ちは紙に今回の一番ダメだった所を書いておこう。。そうすれば公平だ」

「「「「「「了解」」」」」」

「何故俺様が……」

「ジュルク。従いなさい」

「アレート! お前に指図される覚えは無い!」

「あら? これはリーダーの命令なのだけれども、貴方はリーダーの命令すら聞けないのかしら?」


 アレートとジュルクの言い争いが始まる。

「平民ごときが俺様に指示する権限など無い! 平民は即座に貴族である俺様にリーダーの座を渡すべきだ。なあ? カルード」

「あら? 忘れたの? サーカスのルールでは貴族も平民も関係ないわよ? それと私は貴族よ。それに貴方は金を積んでなった貴族よ。生粋の貴族であるムドールと私は貴族の序列的に貴方より上に立つ。つまりリーダーの座を渡すのは貴方では無く、私がムドールのどちらかよ」

「貴様如きが貴族であるなど烏滸がましい。貧乏貴族は疾く潰れるべきだと思うが?」

「あら。金しか無いゴミ貴族はすぐに潰れるべきだと思うわよ」

「貴様……」

「……その程度にしておけ。ジュルク」


 言い争いが激化し始め、アレートが魔法を、ジュルクがレイピアを抜こうとした時、ムドールが割って入る。


「ムドール。下がっていろ。これは貴様には関係の無い事だ」

「……それは出来ない。これ以上騒ぐのならば、俺が相手をするぞ」

「……ぐっ!」

「そうだぞ。ジュルク。俺も本気で戦おう」


 ガンズや他の役職持ちもアレート側に付き、ジュルクに厳しい視線を向けている。徐々に闘気とでも呼ぶものが出始め、戦闘が始まりそうになる。どんどんと緊張感を増していき、ガンズ、ムドール、アレートは殺気を放ち始める。ただジュルクから殺気の様な闘気のようなものは感じない。

 ラクーンはガンズ達が放つ殺気に気圧され始めていた。今までラクーンは『強い』と感じる事や、闘気を感じる事はあったが、今回初めて圧倒的な殺気を肌で感じる。ラクーンの脳が逃げろ逃げろと指示を出す。しかし体は動かない。それでもなお膨れ上がり続ける殺気に遂にラクーンは地面に座り込む。

 殺気に気圧され、腰が抜けたラクーンにいち早く気付いたクラークは、すぐにラクーンの前に立ち、殺気からラクーンを守る。


「大丈夫かい?」

「……は、はい……」

「立てる?」


 ラクーンは立とうとするが、腰が抜けて立てない。


「無理です……」

「分かった」


 クラークは少しラクーンに近づき、ラクーンが感じる殺気を軽減する。


「ありがとうございます。少し楽になりました」

「うん。ただこれでもガンズの殺気はまだまだ上がる。アレートもムドールも、今は放っていないけどカルードもまだ上がる」


 その言葉でラクーンは気づく。これだけの殺気の中で自分以外誰も怯んでいない事に。戦闘員でないサックですら余裕綽々といった表情で立っている。それどころからサックからも殺気が漏れ始めている。そして変わらずジュルクから殺気は感じない。


「あの……」

「なんだい?」

「何故……ジュルクはこの殺気の中で立っていられるんです? 僕にはジュルクがこの殺気に耐えられるほど強そうに思えないのですが……」

「ああ……。うん。それは……うん。ジュルクは殺気を感じ取れるほど強くないからだね……」

「……そうなんですか……」

「うん。……けど流石マユだね。こっちまで殺気を流してない」

「マユさんですか? 殺気は感じませんが……」

「殺気自体は出してるよ。ただ周囲に殺気を放つんじゃなくてジュルクにだけ殺気を向けているからね。マユは私の次に殺気のコントロールが良くて、サーカスの中で一番強い殺気を放てるからね。けどそろそろ止めないとね」


 クラークはそう言うと魔法を発動する。


「夢幻魔法<夢幻獣>」


 体長二十メートルを超えるだろう巨人が現れる。その巨人がガンズやアレートの上に右手を持ってくる。


「加圧」


 クラークがそう言った瞬間、ガンズ達の居る場所が地面ごと音を立てて押し潰される。


「両方とも。その位で止めましょう。これ以上は私が許しません」

「……き、貴様が許さ……」

「夢幻地獄」


 クラークがそう言った瞬間、ジュルクの体に濃い紫色の魔力が覆いかぶさり、ジュルクが言葉を発さなくなる。


「ガンズ、ムドール、アレートもそこまでにしてください。今回の目的はラクーン君の追試です。それなのにラクーン君にも殺気を浴びせ、追い込むのはどうなのでしょうか?」

「む……。我を忘れて殺気を撒き散らしてしまった。悪いな。ラクーン」

「それだけですか? ガンズ」

「す、すみませんでした……」

「宜しい。次。ムドール」

「……すまない。止める立場の俺が熱くなってしまった」

「宜しい。次。アレート」

「私! ちょっと……」

「……」


 クラークがアレートを睨み付ける」


「悪いと……」

「夢幻地……」

「待って待って待って! 謝る。謝るから……」

「アレート。一番最初にジュルクに突っ掛かったのは君だろう? ジュルクと一番問題を起こすのも君で、今回一番強い殺気を放ったのも君だった。一度地獄を見て反省するべきだと思うけどな……」

「それは……止めて。ちゃんと反省するわ。ごめんなさい」

「私に言っても意味ないだろ? 今回、君の一番の被害者はラクーン君だよ?」

「分かったわ。ちゃんと目の前で謝るわ。だからこの圧力を解除して欲しいのだけれども……」

「……良いだろう。ただちゃんと謝れよ」

「分かっているわ」

「……解除」


 クラークがそう言うと巨人は消え、潰れた地面は元に戻る。そこでラクーンは理解する。先ほどまで見ていた巨人は夢幻でしか無いのだと。しかし本当に地面が潰れていると思ったし、地面が潰れる音も確かに聞いていた。その事から推察し、先ほどの魔法が本当の夢幻魔法なのだと気付く。

 ラクーンがそんな事を考えているとアレートが近づいてくる。


「坊や。今回はごめんなさい」

「……それは……」

「今回のお詫びって事で、この指輪を上げるわ。だからこれで許して?」


 そう言ってアレートが渡してきた指輪は青色の綺麗な指輪だ。


「これは……」

「これはね、特別なマジックアイテムなのよ。この指輪を嵌めた状態で指輪に魔力を流すと、魔力量に応じて思考を分裂出来る貴重な指輪よ」

「凄い……。けど、これは……」

「ラクーン君。受け取った方が良いですよ。これは君を強くしてくれます。それに本当に貴重なアイテムですから、この指輪を受け取って、今回の事を許してあげてください」

「……クラークさんがそう言うなら。分かりました。この指輪を受け取ります。それに今回は凄い殺気を感じれたので、僕にも得るものがありました。だからありがとうございます」


 ラクーンがそう言うとアレートはパッと顔を上げ、涙ぐみながら嬉しそうな顔をする。


「ありがとう。坊や。クラークは怒るとそれはそれは怖い……」

「……」


 アレートの後ろからクラークが顔を出し、アレートを睨み付けている。


「いえ、何でもないわ。そ、それじゃあ、ありがとうね」


 そう言ってアレートは逃げる様にその場を去る。


「カルード。カルードもサーカスのリーダーなのだからしっかり止めてくださいよ」

「ごめん、クラーク。けど俺が出るともっと荒れるだろ?」

「それは……はぁ。殺気は抑えていたので許しますが、次からはしっかり押さえてくださいよ。ラクーン君にはまだあの殺気は速いですからね」

「分かりました」


 今回の一件でクラークが怒ると非常に怖い事を知ったラクーンは、今後は絶対にクラークにだけは絶対に迷惑を掛けないと心に誓う。

 そんな事を誓っているラクーンにカルードは近づく。


「ごめんね。ちょっとやり過ぎてしまいました」

「いえ」

「それでは気を取り直して追試をしましょう」

「あの、ジュルクは……」

「あれは追試が終わるまで夢幻地獄の中ですよ」

「らしいので、試験官は七人に変更です」


 こうしてクラークが怒るとサーカスの役職持ちが怖がる程怖い事を知り、その結果マジックアイテムを入手したラクーンの追試が始まる。


ここまで読んで下さってありがとうございます。

面白いと思って頂けたら嬉しいです。


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