笑わぬ子供と試験・Ⅳ
サーカスに入る試験の二つ目、制限時間内にサーカスのメンバーから五人選び、五人と自身でガンズに勝利するという目標に対してラクーンはブーヴィン、デニス、メアリー、シルク、ジュークの五人を選び、今から十分でガンズを倒さなければならない。ガンズと戦って普通に勝つ事はほぼ無理な為、勝利する条件が決まっている。条件はガンズの周りにある線からガンズを出せば勝ちである。ガンズと戦える時間は十分。十分の間に作戦を考え、伝え、その為の指示を出しながら自分も戦わなくてはならない。
そして今、ガンズと戦う十分が始まる。
「二十分経ちました。それでは戦いの十分を開始します。始め!」
戦いの時間が始まってラクーンが最初にとった行動は……メアリーの能力確認である。ラクーンは二十分の間で四人は決めれたが、後一人を迷っていた。その結果残り時間が一分程となり、しっかりと考えて選ぶ時間が無く、強いからという単純な理由でメアリーを選んだ為、メアリーの能力を把握していなかった。
「それで? 俺は何をすればいい?」
「それよりもです。メアリーさんの魔法って何なんです?」
「……知らずに選んだんですか? ラクーンさん」
「時間が無かったので。あとさんは要りませんよ、ジュークさん」
「いえいえ、作戦を考える人には敬意を示すべきだと考えていますので、ここままで」
「そうですか? 分かりました。メアリーさんの魔法は前に見た事はありますが、詳しい説明は受けていませんから、教えてください」
「私の魔法は特殊な闇魔法でね、呪魔法って言うのよ。この魔法は対人戦、それも相手がどれだけ強くても関係ない所が強みなのよ」
「相手が強くても関係ない?」
「私の魔法は使う為に幾つか条件があるの。けど条件さえクリアすればとても強いのよ」
「条件はなんです?」
「前にも見せたと思うけれど、相手の髪と人形、紙があれば使えるわ」
「なるほど。これは選んで正解でした」
「そう? ガンズさんから髪の毛を一本でも取るのは難しいわよ?」
「そうですよ。ラクーンさん」
「簡単に言いますね……。僕の移動術も効かないでしょうし……」
「……」
「シルクも何とか言ったらどうだ?」
「……速く指示を出せ。時間が無くなるぞ」
「そうですね。とりあえずメアリーさんの魔法を発動して勝つ方向で考えましょう。メアリーさんはすぐに魔法を発動できるように待機してください。ブーヴィンさんはサポートを」
「おう」
「シルクさんはとりあえずガンズさんに攻撃してください。無理に狙う必要はありません。何発も撃ってガンズさんの動きを制限してください」
「……了解」
「デニスさんと僕はガンズさんから直接髪を取りに行きます。ジュークさんは重い一撃を準備してください。僕が指示をしたら撃ってください」
「分かった」
「その後は……」
少し時間を使い、作戦を伝える。
「無謀な作戦ですね……」
「……俺の役目は分かった。後はやるだけだ」
「……では行きます!」
ラクーンは強化魔法を発動しガンズに近づく。ガンズの手には黒い大剣。デニスもラクーンを追うような形で接近する。
「クライス!」
ラクーンとガンズの間にクライスが現れる。
「闇魔法<ハイド>」
ハイドを発動するが、前の様に闇が濃すぎて煙幕の様になってしまう。煙幕で姿を隠したラクーンは夢幻魔法を発動し、クライスをラクーンの様に見せかける。ラクーンの姿に見えているクライスを跳躍させ、煙幕から飛び出させる。そのままガンズの上から拳を構えたクライスが落ちていく。
そのタイミングでシルクが連続で弓を撃つ。全ての矢を黒い大剣で弾くガンズ。
「今です!」
「分かった。空撃拳!」
ラクーンが合図を出すとジュークが拳を突きだす。
ジュークの技、空撃拳は強化魔法をで足から順に拳まで一直線に、一番力が必要な場所に一瞬だけ強化魔法を通り過ぎる様に使い、肘辺りから拳に魔力を移動させる強化魔法では無く、つま先から拳まで一切止めずに魔力を移動させる技と、体を捻り拳の威力を上げる技を使っている。拳では無く、拳を使って空気を押し出す技。
押し出された空気は大砲の様な速度で放たれる。放たれた空気はラクーンのハイドの中に入っていく。その空気の威力に圧しだされる様にラクーンはガンズに発射される。
「いったあぁぁああああっぁあ!」
あまりの威力に悲鳴を上げながらラクーンはガンズ目掛けて吹き飛ばされる。
「なるほど。考えたな。だが! まだまだだ!」
そう言ってガンズが大剣を地面に振り下ろす。
「剣技<岩壁>」
「がっ!」
「<鏡反>」
ガンズの大剣が地面に触れると、ガンズの周りに書かれている円の外側の土が弾け、土の塊が幾つも上に向けて発射される。イーターが反応出来ない程の速度で発射された土の塊がラクーンの腹に直撃する。
地面に触れた後の大剣は<鏡反>の効果で力が反射し、その勢いでクライスの動きを止め、大剣を手の中で少し動かしたガンズは、大剣の腹でクライスを打ち、ラクーンに向かって飛ばす。大剣を振った事による風でラクーンとクライスは吹き飛び、庭に生えている木に激突する。
「がはっ!」
「ラクーンさん!」
「ラクーンちゃん!」
吹き飛ばされ、血を吐くラクーンに向けてジュークとメアリーが声を掛ける。
「……大丈夫……です。……クライス!」
ラクーンと同じく吹き飛ばされたクライスをガンズに向かって突撃させる。
「強化魔法。血の筋肉」
二つを同時に発動し、ガンズに突撃する。全速力で突撃し、円の手前でジャンプする。
「血の魔法<蜘蛛の巣>」
ラクーンは大量の血を使い、周囲一帯に血で出来た糸を張り巡らす。その糸は全てガンズの上、ラクーンを中心に展開されている。
「――む! 隙だらけだぞ? ラクーン」
「闇魔法<魔界> 任せたぞ。クライス!」
残りの魔力をほんの少しだけを残し、一気に闇属性に変換し、先の見えない闇をイメージしながら放出する。
「うおっ! これは!?」
ラクーンが発動しようとした魔界はしっかりとは発動せず、確かに普通よりは暗く、手すら見えないが、魔界ほど暗くない。ラクーンは大量の魔力を消費したが、魔界の発動に失敗した。しかしそれでも辺りは闇に包まれた。
「……」
「――!」
シルクが最後にガンズを見た位置に向けて矢を連続で放つ。ガンズは矢の風切り音を頼りに全て切り落とす。シルクはそれでも止めずに矢を撃ち続ける。その音に紛れてクライスはガンズに近づき、頭に噛みつこうと口を開ける。
「気づかないとでも思ったか?」
ガンズは大剣を振り、クライスを吹き飛ばす。クライスは吹き飛ばされると、手を伸ばし、ガンズの上側で血の糸に乗って気絶しているラクーンに爪を刺す。その痛みで辛うじて目を覚ますラクーン。ラクーンが目を覚ますと同時に闇が晴れる。
「ようや……」
「光魔法<フラッシュ>」
ラクーンは残ったほんの少しの魔力を光属性に変換し、ガンズの目の前でフラッシュを発動する。全ての魔力を失ったラクーンはそのまま気絶する。
「音撃拳!」
光を合図にジュークは音撃拳を放つ。この技は強化魔法で強化した拳と拳をぶつけ、爆音を鳴らす技。
「ぐぅ……」
強い光と爆発音に近い音により、視覚と聴覚を奪われ、脳の機能が一瞬低下した隙を突き、目を閉じて耳を塞いだデニスが近づき、ガンズから髪を奪う事に成功する。
「取った!」
デニスがそう言うとメアリーは駆け出し、デニスから髪を受け取り、人形に入れる。
「呪魔法<呪物心同> これで……」
「そこまで! 十分経過!」
メアリーが魔法を発動し、後は人形に命令を下せば勝利といった所で虚しくも十分が経過する。
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