笑わぬ子供と試験・Ⅱ
「それでは詳しい説明に移ります」
「「「「「了解」」」」」
「それでは第一段階です。まずは森に入り、ゴブリンがいる場所近くで少し開けた場所を探してください。今回は全員での出発では無く、剣士の三人のみでの出発です。開けた場所を見つけ次第帰還してください。出来るだけ一直線に帰還してください。帰還までの間ケイドさんとガンクさんには荷物を纏め、薪を全て運ぶ準備をしてください。それではデジンさん、レードさん、ジルクさん、出発してください」
「「「了解」」」
「それではケイドさんとガンクさんも薪を纏めてください。何度か往復する事になるかもはしれませんが、まあ仕方のない事です」
「「了解」」
◆
「この作戦。どう思う? クラーク」
「薪を使いつつ、ケイドが鍵を握っているならば燃やすんでしょう」
「だろうな。だがそれだけなら薪はいらんだろ?」
「……確かに要りませんね」
「それは彼の師がそう教えたのでしょう」
「狩人でしたっけ?」
「確かに狩人……一人で相手をする者から策を教われば確実かつ安全、そして異常なほど慎重な作戦を教えるでしょうしね」
「クラーク。それにしても慎重過ぎないかしら? あれでは作戦に時間が掛かりすぎないかしら?」
「そうだぞ。全員を突撃させれば良いだろう?」
「……慎重なのは良い事だ。俺達の負担が減るからな」
「そうね。それとジュルク。貴方は黙って」
「何だと! アレート! 誰に向かって……」
「その位にしてください。アレート。ジュルク」
「はいはい」
「チッ!」
◆
三十分程経ち、デジン、レード、ジルクが帰ってくる。
「戻りました」
「良い場所はあったかい?」
「ありました」
「じゃあ移動しようか」
「はい。分かり……」
「ラクーン殿。それは出来ません。貴方は作戦を考え、伝えるだけです。作戦に貴方が関わる事は許しません」
(うん。やっぱりダメだよな。けど貴方はって言ったって事は出来る手はまだある。サポートように少し手を打つか。クライス。俺が自由にしろと言ったら、薪を運ぶのを手伝え)
心の中でクライスに命令を出す
「やっぱり僕は動いちゃダメか……」
「はい」
「……そう。じゃあここで説明しようか」
「そうしてください」
「じゃあ説明しよう」
「「「「「分かりました」」」」」
「じゃあ今からの行動だけど、まずはさっき見つけてもらった場所に薪を運んで。そして薪を丸く置いて。大体直径二メートルくらい。丸の中は約一メートル程穴を掘って。正直に言えば水を運んできて泥を作りたいんんだけど、水場は多分遠いから……」
「水場ありましたよ?」
「……それはラッキー。では水を運び、泥を作ってください。穴の中を泥で満たし、泥の上に葉を被せ、泥を隠してください。この中で強化魔法を使える人は?」
「ケイド以外使えます」
「ではゴブリンを釣る役はデジンさんお願いします。ゴブリンを釣って穴まで戻ったら強化魔法を発動し、穴を挟んでゴブリンの対角に移動してください。ケイドさんは魔法でゴブリンが逸れない様にしてください。ゴブリンの知能はそこまで高くなにので泥に入るでしょう。泥に入ったら薪に火をつけてください。後は待ちです。じっくり薪が全て燃えるまで待機です。泥で体力を奪い、炎でより体力を奪い、熱い泥で殺しましょう」
「けどこれだけの量の薪をどうやって?」
「ガンクさんに何度も往復して運んでもらいます」
「――な! これだけの量の薪をですか!?」
「はい」
「金貨一枚分の薪ですよ。何回往復すれば……」
「さあ? まあ二十回位では?」
「この山みたいな薪を二十回ですか……」
「まあ何回に別けても構いませんよ。正直に言えば補給部隊が欲しかったですが、まあ仕方ありません」
◆
「ふふっ。アレの量の薪を運ばせるの? かなり厳しいわね」
「……負担が増えてる……。あの量を運ばせるのか……。中々に鬼畜」
「あの量は補給部隊でも一人に任せるのは無謀ですよ」
「自分でも運べない物を重り付きの人間に持たせるとか、馬鹿だな。俺様の様な考える力が足りないんじゃないか?」
「ラクーン君は自分の目的の為なら手段を選ばないタイプです。目的を達成する為の犠牲を問題視しないタイプでもあります。ラクーン君は誰にでも丁寧に接しますが、自分の判断を聞かない人や自分に文句を言ってくる人に価値を一切見出さない。そしてラクーン君にはアレを運ぶ算段があるんでしょう。故に他人にもそれを求める」
「ただ作戦を考える者には必要な才能だ。正直に言って今回の試験において重い盾を使うアイツは足で纏いだ。必要ない者を切り捨てる覚悟。それを覚悟無しでただ行える。幾らでも出来る奴は居るが、それを最初から出来るのは珍しい」
◆
「そうだ! 最後に聞きたいんですが、僕が参加するのはダメなんですよね?」
「ダメです」
「分かりました。……クライス。自由にしろ」
クライスの事でわかった事が二つある。
一つ目はクライスは目で世界を捉えていない事。何で空間を把握しているのか分からないが、目も鼻も耳も無い為残るのは口だけで、口でどうやって把握するのか見当もつかない。
二つ目はクライスの体の一部が攻撃力を持っている事だ。影従には攻撃力がない筈だが、クライスの爪、脛、歯が物に当たると傷が付く。予想だがクライスの形が異形なのは魔力が体の一部に集中した結果だと考える。魔力そのものに攻撃力は無い。それを魔法に変える事で攻撃力を持つ。しかし魔力だけで出来ている魔力武装には攻撃力がある。これは魔力が高密度に圧縮されているからだ。クライスもこれと同じで、体全体を形成する筈だった魔力が一部に集中したのでは無いかと考えれる。
自由にしろと命令したクライスは薪を纏めたリュックを爪に引っ掛けて持ち上げる。
「ラクーン殿? それは……」
「僕は聞きました」よね? 『僕が』参加するのはダメですかと。なので僕はここから動かないし、僕はクライスに自由にしろと命令しました。つまりクライスは『勝手に』薪を持ってます。僕は自由にしろと言ったので、今クライスは自由に動いてますよ」
「……勝手をするなと命令してください」
「お断りします。そろそろ自由にさせないと拗ねるんですよね」
「拗ねるなんてないでしょう……」
「拗ねますよ。クラークさんの影従と一緒にしないでください」
「……さすがにそれは……」
「良いじゃないですか」
「サック……しかし……」
「これも彼の作戦だったんだろ? 今回の目的は作戦を考える能力だったんだから良いじゃないか。まさか我々を騙す事まで視野に入れた作戦なんて普通は思いつかないだろ?」
「けどですね……」
「カルード。これは別に良いんじゃないか? 作戦を見る試験なんだ、別に戦う作戦だけを見る訳じゃ無い。そして彼は前々から色々と仕込んでいた。特に薪を何回も往復させると思わせた所。君も我々も気付かなかった。まさか彼が動く事は無いだろうと。彼の作戦にだけ注目すれば良いと」
「……分かりました。クライスの自由行動を認めます」
「ありがとうございます。それでは皆さんは出発してください」
デジン、レード、ジルク、ガンク、ケイドは出発し、クライスはそれに付いて行く。クライスが付いて行った事で大量の薪を運ぶ為に何度も往復する事が無くなり、そのまま作戦は開始する。
約三時間後……。漸く帰ってくる。
帰ってきた五人は無傷で、クライスも当然無傷だった。
「今回の成果を報告します」
「お願いします」
「ゴブリン十匹の討伐に成功しました。怪我人は無し。ゴブリンの状態も悪くないです」
「ゴブリンの耳は持ってきましたね?」
「全て回収しています」
「……確かにゴブリンの耳十個を確認しました。よって今回の試験、合格です」
サーカスの統括者達――ジュルクを除く――が拍手してくれる。
「それでは明日、指揮を執る試験を行います」
ここまで読んで下さってありがとうございます。
今日で投稿を初めて一か月が経ちました。本当にありがとうございます。
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