笑わぬ子供の魔法と反動
目が覚めるとまた天井を見上げていた。今回の天井は自分の部屋では無く、屋敷の一室だとは思うが何処かは分からなかった。
「目が覚めたか?」
声がした方を見るとガンズが居る。その隣にカルードとクラーク、メアリーが居る。
「あれ? 魔法の訓練! 痛っ!」
昨日の事を思い出し起き上がると体に痛みが走る。痛みに耐えれず倒れてしまう。
「まだ起き上がるな」
「はい」
「ラクーン君。昨日の事はどこまで覚えていますか?」
「魔力を闇属性に変換しようとして……まっくらになった所です」
「しっかり覚えているようですね」
「ラクーン殿、今日は少し聞きたい事があるのです。答えれる範囲で答えてくれますか」
「分かりました」
「では私から聞いていきましょう。まずは昨日、どんな闇をイメージした?」
「何も見えない暗闇。自分の手すら確認出来ない闇をイメージしました」
「なるほど。じゃあ獣人をどう思う?」
「獣人ですか? 人間より優れた存在だと思います」
「お前はクラークと同じ事を言うんだな」
「クラークさんと?」
「獣人ってのは人によって差別の対象だったりする」
「それは分かります。ブリューデンとセイデンは差別しますから」
「クラークとメアリーは獣人擁護派で俺とカルードは中立派、サーカスの中でも少数だが差別派がある。クラークは獣人ってのは人間より優れた身体能力と特殊な能力を持っているんだから優遇するべきだ、って主張してる。差別派は獣と同じ存在として差別してる。お前は父親が差別派なのに擁護派なんだな」
「それはそうですよ。だって獣人の方が戦っていて楽しそうですから」
「そうか」
「そろそろ次の質問をしたいんだが、良いかな? ガンズ」
「おお、悪い」
「じゃあ次の質問だ。モンスターをどう思う?」
「戦いたい。まだ勝てないと思うけど戦いたい」
「じゃあ人を百人殺したモンスターが居るとしよう。君はどう思う?」
「別に良いんじゃないですか? だってそのモンスターより人の方が人を殺してますよ?」
「ではそのモンスターが君の目の前にいるとしよう。どうする?」
「戦います。人をそれだけ殺してきたモンスターですよ。戦ったら絶対楽しいじゃないですか」
「なるほど。予想通り君は闇の神に近いね。彼女と似た考えだ」
「闇の神? 彼女?」
「クラークは闇の神と光の神、両方から加護を貰ってるんだ。闇の神から加護を貰った時に会ったんだとさ」
「彼女はとても優しい神だよ。自分の子たる獣人とモンスターが差別されている事に傷ついている。大半の人に闇の神は無情な神だと言われているが、彼女は多分光の神より優しく、愛に満ちているよ。そのぶん人を恨んでいるけどね」
「そのくらいにしておけ。クラーク。話を戻そう」
「そうだな。彼女は獣人とモンスターを作った神だ。そして彼女の居る魔界と呼ばれる場所は本当に真っ暗だ。それこそ昨日の闇よりも。自分の位置も、立っているのか座っているのかすら分からない世界。それが魔界だよ。そして昨日君が発動したのは闇の神に加護を貰っていないと発動出来ない筈の魔法、魔界だ。世界に魔界を再現する魔法だね」
「……加護なんて貰ってないですよ」
「多分偶然だね。君の考えが闇の神に近く、イメージした場所が魔界に近かった。そして初めて魔力を変換しようとして魔力が暴走した結果、偶然に偶然が重なって発動したんだろうね」
「なるほど……」
「それで? クラーク。反動はありそうか?」
「何とも言えないね」
「反動?」
「うん。言ってしまえば普通では発動出来ない魔界を君が発動した事でどんな影響があるのか分からないんだ」
「どうやったら分かりますか?」
「そうだな……体は大丈夫?」
「もう大丈夫です」
「じゃあ少し庭に行こうか」
「分かりました」
言われた通りベッドから起き上がり庭に向かう。ベッドを起き上がる時少し痛みを感じたが無視して庭に行く。
「それじゃあ魔力の変換をしてみて」
「分かりました」
魔力を変換し、放出していく。昨日とは違い、大量の魔力が放出される感覚は無い。
「これはラッキーかもね。二回目とは思えない程安定して変換出来ている。それこそ十年程訓練しないと出来ないくらいには。これは一度魔界を発動した事で変化したのかな?」
「魔法を発動しても良いですか?」
「良いよ。そうだな……ハイドを発動すると良い。イメージは闇に溶け込み姿を消すイメージだ」
言われた通りイメージする。闇に溶け込み姿を消す。
(自分を暗く。自分を消して。自分を闇で覆う)
「闇魔法<ハイド>」
「……それは違う魔法だね」
「そうだな。闇が濃過ぎる」
「一度解除して」
「分かりました」
言われた通り魔法を解除する。
「うーん? 闇が濃すぎて消えてないね。今度は闇魔法シャドウを発動してくれ。イメージは自分の分身を作る感じで」
「分かりました」
(闇は集まり人型に。それは自分で勝手に動いて、勝手に戦う)
「闇魔法<シャドウ>」
闇が集まり人型になる。しかしその姿は異常で、体の一部を除き体が非常に細い。特徴として、腕が長く、腕を下ろすと手が膝と同じ位置にある。肘から先は普通の太さであり、手は爪が鋭く伸びている。脚も腿の辺りは細いが膝からしたは普通である。顔も特殊で、耳が無く目も鼻も無く、それどころか口から上がない。口より上は無く、全て平になっている。唯一ある口も異常な程裂けており、鋭い歯が全て見えている。
「不思議な形をしてますね。そして濃い。私のシャドウよりハッキリしてますね。ラクーン君。あれに命令出来ますか?」
「分かりました。あの辺の木を殴れ」
庭に生えている木を殴るよう命令する。すると黒いのは木に近づき殴り始める。しかし木に傷は一切つかない。
「では命令を解除して、自由に行動させてください」
「好きに動け」
黒いのは木を殴るのを止め、庭を駆け回る。
「うん。これはシャドウじゃ無いね。シャドウは自分が命令した行動を取るだけで自由に行動はしない。自由に動けと命令するとその場からずっと動かないからね。だから今発動した魔法はシャドウより上、影従だね。影従は一度発動すると絶対に消えない。闇を薄めれば姿は消せるけど存在は絶対に消えない。光魔法で消滅させても時間が経てば必ず復活する。そして影従は君が成長するように成長する。いずれは闇魔法を発動する様になるよ」
「それは……じゃあ名前を付けた方が良いですかね?」
「それも良いと思うよ。ちなみに私の影従はこれだね」
クラークの隣に黒い人が現れる。しかしその黒さはラクーンの影従よりも薄い。その姿は女性っぽく、姿は普通の人間である。
「この影従の注意点は攻撃力が無い所だ。一切攻撃力は無いから注意してね。魔法には触れるけど、影従が殴った所で大した意味は無いね」
「攻撃力無い分身……使い方が分かりません」
「言ってしまえば偵察だね。ある程度使える様になれば視界を共有……目が無くても出来るのかな? まあそんな事が出来たり、後は潜入、潜伏かな? 戦闘だと一瞬目を引く事と魔法だね」
「なるほど。それと一つ聞きたいんですが、この影従ってずっと魔力を消費し続けたりしますか?」
「しないね。一度発動すれば後は勝手に維持される。成長すれば魔法を使える事から魔蔵器官があるんだろうね。だから安心して良いよ」
「そうですか。ありがとうございます。じゃあ名前どうしようかな……」
「それより誰か触れろよ。あの姿について」
「そうね……私も聞きたいわ」
「俺も聞いてみたですね」
ガンズ、メアリー、カルードが影従の姿についての説明を求める。
「さあ? なんであんな姿なのかまったく分かりません。多分これも魔界を発動した影響でしょうが、どう影響してこうなったのかは分かりません」
「……」
「来い。名前を付けてやる」
呼ぶとすぐに近づいてくる。
「よし。お前の名前は……クライスだ」
ラクーンの影従……クライスは頷く。
「名前を付けた所でラクーン君。今度は光魔法を使ってみませんか?」
「光属性魔法ですか? 分かりました」
「では闇魔法と同じようにイメージしてください。光を」
「分かりました」
(光か……。とりあえず明るい。何も見えない程明るい。イメージしにくいな)
少し不安定ではあるが魔力が変換される。
「とりあえず変換は出来ましたね。それでは光魔法の術式を展開して」
星型の術式を作る。
「それじゃあ光魔法<ライト>を発動しよう。イメージは自分が見ている先を照らす光だ」
「光魔法<ライト>」
光る玉が出来上がり、自分の目線に合わせて目線の先を照らす。
「成功ですね。次は光魔法<フォトン>を使ってみてくれ。イメージは光が当たった場所を消し飛ばす感じで」
「光魔法<フォトン>」
確かに魔法を発動した。しかし光は出ず、術式は消えてしまう。
「あれ?」
「うーん。ライトは使えるのにフォトンは使えないか。じゃあ今度は光魔法<フラッシュ>を使ってみよう。イメージは一瞬光で塗りつぶす感じで」
「分かりました。光魔法<フラッシュ>」
今度はしっかりと発動出来る。
「なるほど。どうしてかは分からないけど、光属性の攻撃魔法が使えなくなってるね」
「……そうですか……」
「けどその分闇魔法を使える様だし、問題は無いかな」
「分かりました」
「明日からは属性魔法の練習をしながら、そのほかの技術も身に付けていこう」
「じゃあ明日は俺だな。剣の使い方を教えてやる」
「ありがとうございます」
「それと君の影従を呼んでくれるかい? 夢幻魔法で姿を消しておこう」
「そう言えばそれって闇魔法じゃダメなんですか?」
「ダメじゃ無いけど、夢幻魔法は効果が長いんだ。闇魔法は長くても三十分程で消える事があるけど、夢幻魔法は掛けたら解除されるまでずっと効果があるからね」
「なるほど。クライス来い」
命令通りクライスはこちらに来る。
「じゃあ夢幻魔法<認識阻害> これで大丈夫かな」
「ありがとうございます」
「それじゃ明日も頑張ろうね」
「はい」
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