笑わぬ子供とサーカス
次で一章完結です。
アガルタの出入り口にて出会った者達はボロボロで満身創痍であった。全員傷だらけで武器は刃毀れし、鎧は穴だらけ。そんな存在にラクーンは出会う。
「……誰が一番強いかな……」
「お、おい。そんなに走るなよ……なんだ?」
「ちょっと話しかけてくる」
「お、おい……はぁ」
傷だらけの人達の中で一番傷が少なそうな者に話しかける。
「珍しいですね。冒険者ですか?」
「……後にしてくれ……」
「え~。どうしたら話してくれます?」
「そうだな……俺達の怪我が全て治ったら話してやってもいいぞ」
「おい、良いのか」
「怪我が全て治れば良いんですね?」
「ああ」
「そう……ランズ」
「なんだ。面倒事は避けろよ」
「この状況で面倒事を避ける訳無いじゃん。今、此処が一番楽しそうな気がするんだ。だから僕はこの人達の怪我を治して話をしたいんだ」
「おい……まさか……屋敷に連れて行くつもりじゃ無いだろうな」
「分かってるじゃん。と言う訳でセイデンに伝えて来てね。ランズ」
「俺は監視役だぞ……」
「監視役というより機嫌取りでしょ」
「……はぁ。頼むから戦わないでくれよ……」
「分かってる分かってる」
ランズと別れ、冒険者に少しだけ必要な事を聞く。
「この人数だからギルドだよね?」
「……そうだ」
「ギルドリーダーはどの人? その人と話してくる」
「あそこで警備兵と話してる人だ。あんまり迷惑はかけないでくれよ。俺が怒られるから」
「分かった。ありがと」
警備兵と話している人物に近づき声を掛ける。
「お困りですか?」
「え、ああ。中々アガルタに……」
「ラクーン様……お目覚めになったのですか」
「うん。さっきね」
「そうですか……。あの……何故ここに?」
「一番楽しそうな気がしたから」
「そ、そうですか。……あの……戦わないでくださいよ」
「分かってるよ。けどこの人と話しても良い?」
「え、俺?」
「そうそう。色々話たいし」
「……面倒事は避けてくださいね」
「アガルタに入る手続きの後でもいいかな?」
「まだ入る手続きの途中だったんですか? じゃあ僕が許可します」
「え……」
「警備兵の人は後で屋敷に向かい、セイデンかブリューデンに事後許可を貰いにいってください」
「そういう面倒事はしないようにランズが注意した言っていましたが……やはり来てよかったですね」
「すいません。セイデンさん」
「あれ? セイデン! 丁度良かった。この人達がアガルタに入る許可頂戴」
「……はぁ。何故もっと寝ていてくれなかったのでしょうか……まあ許可はしますが。後で主様からどんな罰が下っても知りませよ」
「そしたらまた戦えるから僕的には嬉しいね。一番楽しそうな流れだ」
「……はぁ……。ああ貴方達がアガルタに入る許可はわたくしが出すので入って良いですよ」
「……あ、ありがとうございます?」
「じゃあセイデンここは任せた。僕はこの人達を屋敷に案内する」
「ランズ。付いて行きなさい」
「わかりました」
「そう言えばギルドリーダーさん。お名前は?」
「えっ……カルードだ」
「そう。じゃあカルードさん。ギルドのメンバーに付いてくるように伝えてください。屋敷に案内します。なんと今なら治療付きですよ」
「……ああ。み、皆。アガルタに入る許可が出た。この子が許可を出してくれた。この子の家に案内してくれるそうだから一度行こう」
「え?」「何で?」「?????」
「ああ、そう言えば屋敷での治療などの報酬は治療が終わった後色々な話を聞かせてくれれば良いので安心してください」
「……そうらしい」
「ちょ、信じるんですか」「怪しい」
「まあアガルタだし安全だと思うよ」
「軽い」「軽すぎる」「もう少し意見をしっかり持って下さいよギルドリーダー」
「ご、ごめん。いきなり過ぎて混乱した。けどもう約束したから一度行くよ。重症者は慎重に運べよ」
「重症者が居るんですか? どこです?」
「あ、ああ。最後尾にいる」
「そう」
ギルドリーダー……カルードのそばから離れ、五十人程の最後尾に向かう。最後尾には二人重症者がいた。一人は右腕と右足を失っている。もう一人は胴体に大きな引っ掻き傷がある。
「うん。重症」
「どうする気だ」
重症者の近くにいた男が話しかけてくる。
「うん? まあ僕が出来る最大限の応急処置でもしようかなと。血の魔法<血の糸>」
自分の手の平を少し切り、血を流す。流した血に魔力を混ぜ、血の糸を作り、血の糸で止血を行う。
「……なに? 今の……」
「魔法ですよ。それじゃ気を付けて運んでくださいね」
簡単に処置をしてカルードの元に戻り、屋敷に向けて進み始める。
「おまたせしました。それじゃ向かいますか」
「何をしてきたんだ?」
「とりあえず血を止めただけですよ。僕は残念ながら回復魔法を使えませんから」
「そ、そうか……」
「そう言えばギルドの名前は何て言うんですか?」
「サーカスだ」
「へぇ……それは楽しみだ。名前は聞いてますよ。なんでも複合属性魔法の使い手がいるとか。どの人です?」
「あ、ああ。あそこにいる変なメイクをした人だ」
カルードが指差した先には真っ白な顔のメイクに、耳まで赤い口の様なメイクを施した細身の男がいる。
「なるほど」
その後は大して何も聞かずにドワーフ街を出て貴族街に入り、屋敷に移動する。
「……ああ、着きました」
「え……これが君の家? 貴族?」
「一応。それではどうぞお入りください」
屋敷の門を開け、サーカスのメンバーを全員入れる。屋敷に入ると使用人が驚いた顔をして問い詰めてくる。
「ど、どういう事ですか!」「いきなり何!?」
「気にしない気にしない。ああ回復魔法の使い手……名前なんだっけ?」
「セレス様ですか?」
「そうそう。セレス呼んで来て」
「あの。回復魔法の使い手がいるのですか?」
「いるよ。僕の左腕も治してもらったわけだし」
「そ、そうですか」
セレスを待つ事三分。漸くセレスが到着する。
「あ、あの~。な、何ですか?」
「うん。この人達の治療をお願い。後ろの方に居る重症者からお願いね」
「……わ、わかりました」
「じゃあ任せた。ああ、皆さんはどうぞお入りください。とりあえず部屋を用意させます。と言う訳で準備してきて」
「……は、はい」
「お願いね。残りの人達はドワーフ街にいってポーションでも買ってきて」
「は、はい」
「任せたよ~。……さて、それじゃカルードさんと後一人くらいに事情を聴きたいな。あとの人達は使用人に従って部屋で休んでいてください」
「分かった。じゃあ俺とクラークとガンズが話そう」
「じゃあ応接室に案内するよ」
「ああ」
カルードと他二人を――変なメイクをした男とかなり背が高く筋肉の付いた体をしている人物――応接室に案内し、全員が座った事を確認すると話を始める。
「さて、何から聞こうかな」
「あの、その前にこちらから幾つか聞いても良いですか?」
「良いよ」
「あの我々をアガルタに入れたり此処に連れてきた目的は何ですか?」
「あの時、あの場所が一番楽しそうだと思ったから、そこに居た人に興味が出た」
「一番楽しそう?」
「だって貴方達は僕が出会ったことのある人の中で一番強そうだから」
「……アガルタの人は好戦的では無いと聞きましたが……」
「別に全員がそういう訳でも無いでしょ。現に僕は戦いたくて戦いたくてたまらない訳だし。正直サーカスの皆さんが怪我をしていなければ戦いを挑んでましたよ」
「……そうですか。では我々をどうやって知ったのですか? 先ほど夢幻魔法の使い手であるクラークの事を知っているようでしたので」
「狩人に教えてもらった。そろそろ僕からも質問して良い?」
「どうぞ」
「僕が聞いていた話では貴方達は強いって聞いていたんだけど、どうしてそんなにボロボロだったの?」
「モンスターとの戦闘で」
「どんなモンスター?」
「マザーフェンリルです」
「フェンリルか~。うん。納得した」
フェンリルは巨大なオオカミのモンスターで、光属性魔法を使用すると言われているモンスターだ。最初は普通のオオカミだが、光属性魔法を使える様になるとフェンリルになると言われている。
「それもただのフェンリルでは無くマザー種です」
マザー種……特殊な進化した種が子供を産み、その子供が同種に進化するとマザー種に進化する。例えばフェンリルAが子供を産んだとして、産んだ子供がフェンリルに進化するとフェンリルAはマザー種に進化する。。原種では起こらない。
モンスターの進化……モンスターは特定の条件を満たすと進化し、より強力になる。毒を持つとポイズン種に、死んだあと蘇ればアンデット種に、長年生きる事で進化する種もある。
「どこにいたの?」
「近くの山の山頂付近です」
「へぇ……。そう。ありがと。じゃあ次は夢幻魔法を使える人に少し聞いてみたい事があるんだ」
「なにかな」
「その変なメイクは何?」
「これは道化師のメイクだよ」
「道化師は何をするの?」
「もしアガルタでサーカスをするなら、その時見せるよ」
「じゃあ楽しみにしておきますね。さて、貴方達も疲れていると思いますし、部屋にいって休んでください。僕が屋敷に居る間は何か困った事があれば色々と融通は利かせますよ」
「あ、ありがとう」
こうしてサーカスと少しだけの話を終え、自分の部屋に戻り、ベッドに入ったラクーンは笑顔で眠る。今まで会った事の無い強さを持つ者の出現に。
ここまで読んで下さってありがとうございます。
面白いと思って頂けたら嬉しいです。




