笑わぬ子供の目覚めと新たな出会い
多分ですが後、一話か二話程度で一章が終わる予定です。
セイデンはラクーンが爆発魔法を発動するのと同時にラクーンの鳩尾を殴り、気絶させる。ラクーンを気絶させたセイデンは即座に主であるブリューデンの元に向かう。
「主様!」
頭の中を爆発されたブリューデンは死んではいなかった。
理由は二つ。一つ目はラクーンが込めた魔力が少なく、純粋に爆発の威力が弱かった事。二つ目は爆発の衝撃がしっかりと逃げた事である。もしブリューデンが血の筋肉を解除していなければ爆発の衝撃が頭の中で封じられ、結果的に爆発の威力が上がっていただろう。死ぬ覚悟で血の筋肉を解除した事で死ななかったのだ。しかしいつ死んでもおかしくない状況ではある。目を貫通し、後頭部に穴が開いているのだ。当然このままでは失血死してもおかしくない状況である。
「何の音だ!」「何があった?」「お、おい。これ……」
「貴方達。良い所に来ました。ラクーン様の処置をお願いします」
「わ、わかりました」
セイデンは戦闘の音を聞きつけて来た警備兵にラクーンの処置を命令し、自分はブリューデンの処置にあたる。
「これを主様に使う事になるとは……予想以上でしたね……」
セイデンはポーチからポーションを取り出す。
本来このポーションはラクーンに使う予定で持ってきていた。どのような怪我でも即座に表面的な傷を治す事の出来るポーション。どんな傷でも塞げるが、腕を生やす事は出来ず、脳を再生する事は出来ない。このポーションは外では晶貨五十枚程度だがアガルタでは青晶貨三枚もする代物。
このポーションを使い、一命を取り留めるブリューデン。
警備兵は左腕を失ったラクーンの止血を行う。
「貴方達。担架を持ってきなさい。屋敷まで運びますよ」
「は、はい。行くぞ」「わかった」「俺は止血をしてないといけない」
「では一人は残り、二人で担架を二つ持ってきてください」
「わかりました」
担架を探しに警備兵二人が走り去っていく。
五分後。担架を引きずって警備兵が帰ってくる。
「お待たせいたしました」
「すぐに屋敷に運びますよ。まずは担架を下してください」
「わかりました」
担架をブリューデンとラクーンの隣に下ろし、二人を担架に乗せる。
「運びますよ」
「わかりました」
出来るだけ急ぎ屋敷に戻る。
「セレス様。居ますか? すぐに来てください」
屋敷に入るとすぐにセレスを呼ぶ。
「は、はい。な、なんでしょ……ひ、ひぇ」
「すぐに回復魔法を使って治してください。まずはラクーン様の左腕をくっつけてください」
「わ、わかりました。<結合><治癒><再生>」
ラクーンの左腕が繋がり、傷痕が消えていき、ミチミチと音がする。
「こ、これで繋がりました。た、ただ骨はまだ繋がりませんから安静にしないとダメですよ」
「わかりました。ランズ。居ますか」
「なんでしょう。セイデンさん?」
「ラクーン様の左腕を固定しベッドに寝かせてください。常に四人で監視してください」
「……わかりました」
「任せました」
「はい」
ランズがラクーンを部屋に連れて行く。
「セレス様。主様の方もお願いします」
「わ、わかりました。す、少し怪我の具合を見ますね……」
「お願いします」
数分ブリューデンの頭部を見たり触ったりしているとどんどんセレスの顔色が悪くなっていく。
「どうされました?」
「こ、これは……まずいです。と、とてもまずいです」
「どうしたのです!」
「お、落ち着いて聞いて欲しいんですが……こ、これは私では完治は無理です」
「な、何故です!?」
「こ、今回は脳の治療です。そ、それも形が変わってしまった脳を戻して欠けた部分は作らなければなりません。の、脳と目を治す魔力はあります。け、けど脳を治せば目は治せません。め、目を治せば脳は治せません」
「何故です!」
「ふ、普通脳は回復しません。お、大きく欠損した部分が生成される事は無く、魔力を使って無理やり回復させます。そ、それには体にかなりの負担が掛かります。そ、そして目も生成されません。う、腕も生えはしませんが、離れた腕が繋がる事はあります。そ、そんな無理をすれば一気に老い、再生能力は著しく低下し、回復しても寿命は半年程度です。戦える程の筋肉は無く、喋る事も難しく、ただ生きてるだけになってしまいます」
「な、なんと……そんな……」
「わ、私としては脳の治療をすすめます。め、目の治療をしても意識が戻る可能性は低いです。の、脳を治療すれば意識は確実に戻ります」
「わかりました……脳の治療をお願いします……」
完全回復は無理だとしったセイデンは力無く答える。
「せ、セイデンさんは休んでいてください。あ、貴方達。あ、主様を私の部屋に運んでください。し、慎重にお願いします」
セレスは屋敷の使用人にブリューデンを運ぶよう頼み、自分はゆっくりと戻る。
セイデンは力無く自分の部屋に戻り横になる。
屋敷の一角、セレスの自室で治療室に運ばれたブリューデンは特別なベッドに乗せられる。
「こ、ここまで運んでくれてありがとうございます。あ、あとは任せて下がっていてください」
「失礼します」
部屋から誰も居なくなったセレスは深呼吸し、今までになく集中してブリューデンの治療にあたる。
「<再現>」
少し形の崩れてしまった脳を魔力を使って元に戻し、元がどういう形だったのかを考える。
「<固定>」
この魔法はラクーンの使っているものとは違い魔力同士では無く、魔力を与えた細胞を動かない様にする魔法。
セレスはこの魔法を使い、脳の形が崩れないようにする。
「<強制分裂>」
この魔法で細胞を強制的に増やす。
「<形成>」
増やした細胞を動かし、欠損した部分にはまるよう形を変える。
「<結合>」
形を変えた細胞と本来の脳を結合し、脳の形を戻す。
「<再生>」
この魔法で新しい部分と元からあった部分と合わせてしっかり働けるよう整える。
「<活性化>」
この魔法で脳の機能を戻し、脳が正常に動いているか確かめる。
「<治癒>」
これでその他の傷口を直し、一回目の治療は終わる。
◆
ラクーンとの戦闘後、全てをセレスに任せて一度寝たセイデンはかなり苦しんでいたが、次の日には様々な問題の解決と収集の為忙しく働く事になる。寝る間も惜しんで三日間仕事をして漸く休めると言う時、一番の問題が目を覚ます。
「セイデンさん。ラクーン様が目覚めました」
「…………今ですか……向かいますか……」
この報告を受けた時セイデンは非常に頭が痛くなった。
ラクーンの部屋に向かうと何故かラクーンが部屋を出ていた。
「元気そうだね。セイデン」
「……何故……部屋を出ているのですか?」
その後も少し話し、結果的にラクーンが屋敷の外に出る事を許可することになる。正直に言えば止めたかったが、今のセイデンでは止める事は出来ない。ブリューデンは治療中で戦闘は出来ない。今は止める手段が無い。
そのせいでセイデンは頭だけで無く胃も痛くなる。
「せ、セイデンさん。セレス様を呼んでください。ラクーン様が彼の腕を……」
ラクーンが自由に行動するようになった事でさらに頭と胃が痛くなるのだった。
◆
目が覚めると見慣れた部屋だった。屋敷の自分の部屋だ。外は少し暗い。
「目が覚めたか」
男が話しかけてくる。多分使用人で監視を命じられた者だろう。
「うん。おはよう」
「お前。自分が何をしたのか分かってるか!」
「分かってるさ。けどお前も分かってる? 僕はブリューデンを倒したんだよ?」
「……」
「君一人じゃ無いだろ? 四人くらいかな? けどその程度は問題ない」
「……セイデンさんにラクーン様が目覚めたと伝えてこい」
「わかった」
「いってら~」
「おい。言葉使いに気をつけろ。お前は今捕まってるんだぞ」
「捕まってる? 誰が?」
魔力武装で剣を作り、男の腕を切り飛ばす。
「がああああああぁぁああ!」
「おい。大丈夫か」「お前!」
「早く止血しときなよ。僕は少し部屋の外に出るから」
「な……」
「じゃあね」
部屋を出るとセイデンがこちらに向かって歩いて来ていた。
「元気そうだね。セイデン」
「……何故……部屋から出ているのですか?」
「僕を部屋に閉じ込めておきたいならセイデン五人くらい置いといたら? それかブリューデンでも置いといたら? そういえばブリューデンは生きてる?」
「生きていますよ」
「そう。じゃあ会ってくる」
「会わせる訳にはいきません」
「そう。残念。じゃあ僕は外にいってくる」
「なりません」
「今度はここで始める? セイデン」
「……一人くらい付いて行かせますがよろしいですね」
「うーん……別に良いよ」
「ではランズ。付いて行きなさい」
「わかりました」
「そう言えばセイデン。僕が気絶してから何日くらい経った?」
「あの日を計算せず次の日から数えて三日です。」
「そう。じゃあね」
「……」
そうしてラクーンは堂々と屋敷を出る。
屋敷を出て深呼吸すると実感する。戦闘の傷は回復し、魔力もしっかりと回復している事と意識は無かったが三日も外に出ていなかったのだと。
「さて、何処に向かおうか。ランズ?」
「……俺は付いて行くだけだ。好きな所に行け。ただ荒事を起こすんじゃ無いぞ。セイデンさんが困るからな」
「それはその時次第かな~。……やっぱりドワーフ街に行こうか」
「そうか」
貴族街をゆっくりと歩き、ドワーフ街を目指す。
「そう言えばブリューデンの容態はどう?」
「……意識は戻っているが絶対安静だ」
「そう。後遺症は残ってる?」
「右目は治せないそうだ」
「そう。それだけか……次は殺してみせるさ」
「殺さないでほしいな……」
「まあ君の意思は関係無いんだけどね」
「お前……殴っていいか?」
「そんなに怒んないでよ。まあ殴っても良いけど、頭から槍が生える事になるよ」
「そんなに笑顔で言わないでほしいな。あと俺はずっと怒ってるからな。セイデンさんを殺しかけ、今は困らせているんだからな。任務じゃ無かったら誰がお前なんかと喋るか」
「その怒りを糧に訓練して強くなりなよ。そして僕を楽しませてくれよ。楽しみにしてるよ」
「絶対殺してやる」
「その調子だ。……さてドワーフ街に着いたな。そう言えばお金ある?」
「金貨一枚だけだぞ」
「流石」
ドワーフ街に入り色々な武器屋やアクセサリー屋、化粧品屋などに入る。
「化粧品屋なんて見てなんになる」
「何が役に立つか何て分からないもんだよ。けど今は要らないかな」
化粧品屋を出て大通りを進み出口近くに着いた時、何かゾクッとする感覚を覚える。
「出口に向かうぞ。ランズ」
「おい。アガルタから出るなよ」
「状況次第だ……」
「はあ……」
出口に向かって走る。ランズの事など一切気にせず、ただ先ほどの感覚に従い、一番楽しそうな方へと全力で向かう。
そこでラクーンは出会う。ラクーンがさらに強くなり、今後の価値観に影響をもたらす存在。
≪サーカス≫に。
ここまで読んで下さってありがとうございます。
面白いと思って頂けたら嬉しいです。




