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嗤う道化は殺されない  作者: からう
笑わぬ子供は憧れる
14/35

笑わぬ子供の変化の日・Ⅱ

『笑わぬ子供の変化の日』では交互にラクーン視点と屋敷側の話を書いていきます。多分。その為次はラクーンの話です。

 時は少し戻り、ラクーンが屋敷を出て行った後、セイデンの様子を見に行った者達。


「セイデンさん、大丈夫ですか」

「おい! 腹に穴が開いてるのに大丈夫な訳ないだろ。落ち着けよ。ランズ」

「そうだな。……落ち着け、俺」

「おい、どうする? 何をすれば良い?」

「クルト、お前はすぐに主様にこの事を伝えろ! 俺は脚を怪我しているし、お前の方が足が速いだろ。俺はその間に止血をする」

「わかった」


 クルトが走っていくのを確認もせずに、すぐに服を裂いて、裂いた服をセイデンの腹の穴に服を詰めて止血を行う。刺さった槍が細かったからか、臓器に傷があるようには見えない。


「セイデンさん! まだ死なないでくださいよ! 俺は……まだ……貴方に教えてもらいたい事があるのに……まだ……」


 声をかけながら、必死で止血を行う。しかしランズには回復魔法なんて使えないので、血を止めきる事は出来ない。



「セイデンさん……俺は……まだ…………」


 いくらクルトの足が速くても、回復魔法の使い手であるセレス様が来るまで何分掛かるか分からない。止血はしているが、一向にセイデンの血は止まらない。もう無理かと思った時、異常な事態が起こる。屋敷から何かが壊れるような音と、ドカンドカンと爆発に近い音が聞こえてくる。咄嗟に後ろを振り向くと、屋敷の壁が破壊され、赤い何かがものすごい勢いで飛び出して来た。


(なんだ! 襲撃か!? セイデンさんは俺が守らないと!)


 そう思い拳を構えようと立ち上がろうとした時にはもう、屋敷から飛び出てきた赤い何かは一瞬でセイデンの隣に移動していた。


(速すぎる! セイデンさんの隣に来て止まるまで見えなかった…………いや、そんな事を考えてる場合じゃない!)


「貴様何……」

「セイデン! すぐに血を止める。血の魔法<血の糸>」


 赤い何者かは血の魔法と言い、確かに血で糸を作ってみせた。今この屋敷で血の魔法を使えるのは、ランズにとって主であるブリューデンのみだ。つまり屋敷を壊して出て来たのは主のブリューデンだった。


「あ……主様!」

「お前は? ……ランズだったか?」

「は、はい」

「お前は屋敷に行ってセレスを運んで来い!」

「わ、わかりました」


 またまた時は少し戻り、ランズとクルトが別れる時……


「そうだな。……落ち着け、俺」

「おい、どうする? 何をすれば良い?」

「クルト、お前はすぐに主様にこの事を伝えろ! 俺は脚を怪我しているし、お前の方が足が速いだろ。俺は止血をする」

「わかった」


 そう指示を受けた俺は、ランズの方を見ずに屋敷に向かって全速力で走りだした。


(くそッ! ランズと別れた場所から屋敷までこんなに遠かったなんて! 急げ、急げ、急げ急げ急げ)


 屋敷の扉を壊す勢いで突っ込み、すぐに主様の部屋へ向かう。


「おい! そんなに急いで何処へ行く?」

「どうした!?」

「どうした! そんなに血相変えて!」


 同僚達に声をかけられるが、すべて無視して走り続ける。

 主様の部屋の前に着き、ノックもせずに部屋に入る。しかし部屋には誰もいない。


「くそっ! いない! なんで! どうすれば……」


『クルトは足が速いですから主様への伝令役を任される事もあるかもしれません。その時に主様がお部屋に居なかった時は、主様の机の裏にあるスイッチを、八回連続で押しなさい。八回連続で押せば主様がどこに居ても、すぐに何かあったと伝わるはずです』


(そうだ! 机の裏だ! 前にセイデンさんに教えてもらってた)


 思い出すとすぐに机に向かって走り、机の裏にあるスイッチを八回連続で押す。しかし、なんの反応も無い。


(なんでだ!? くそっ! 急いでるのに。もう一回だ!)


 もう一度八回連続で押すが反応が無い。その後も数回押すが反応が無い。


(くそっ! ダメだ、これ以上此処で時間を使う訳にはいかない。主様の指示は無い独断だけどセレス様の所へ向かおう)


 そう考え部屋を出ようとした時、突然部屋に声が響く。


「要件はなんだ」

「――!」


(誰だ!? いや、この声は主様の筈だ。漸く繋がったのか!?)


「セイデンさんが庭で重傷を負って倒れています!!」

「何……本当なのだな?」

「もちろん本当です」

「様態は?」

「お腹に穴が………」

「なんだと! セイデンが……」

「急いでください! ランズが止血していますが、時間はそんなにありま………」


 突如として下から何かが轟音と共に何かが近づいてくる。その音に驚き言葉を止める


(なんだ! 何なんだこの音は! どんどん近づいてくる……もうすぐ下に来ている。……赤いなに…………)


 困惑している間にも轟音は近くなってきて、ついに地面に穴が開き赤い何かが見えた瞬間、目の前が真っ暗になった。


 またまた時間は戻り、クルトがブリューデンの部屋に着く少し前……


 その日、ブリューデンは明日の準備をしていた。ラクーンは兄弟がおらず一人っ子である為、絶対に死なせる訳にはいかなかった。不安はあったが大丈夫だと自分に言い聞かせ、明日の準備を進めていく。


(明日の試練、しっかりと準備をしなければならない。ラクーンなら大丈夫な気もするが、絶対に死なせる訳にはいかないのだ。準備のし過ぎは無いだろう)


 明日の試練の時に大怪我をしても大丈夫な用、ポーションの類や動けなくなった時用の縄などを準備していた。

 そんな事をしていたブリューデンだったが突如連絡用のマジックアイテムのベルが鳴る。


(緊急時用の音じゃないな。だったら、こっちが一段落してからで良いだろう)


 そう考え準備に戻るがベルは鳴りやまない。


(なんだ? セイデンならこんなに鳴らさないだろうし、緊急時なら緊急時用を使う筈だ。じゃあセイデン以外か? しかしセイデン以外にベルの事を知ってる奴は居たか? セイデンが教えたか? まあ出れば分かるだろう)


 このマジックアイテムのベルは、あらかじめ設定されたスイッチが、設定された回数押されると鳴り出し、こちら側でベルを鳴らすと、スイッチがある場所と会話できる希少なマジックアイテムだ。


 困惑しながらもベルを鳴らして、スイッチが有る部屋と連絡を取る。


「要件はなんだ」

「――! セイデンさんが庭で重傷を負って倒れています!」

「何……本当なのだな?」

「もちろん本当です」

「様態は?」

「お腹に穴が………」

「なんだと! セイデン……」


(馬鹿な……セイデンがやられた? セイデンはアガルタでも三番目の強さの筈だ。俺とシデン以外に勝てる者など居ない筈だ。しかしシデンはそんな事しないだろ)


「急いでください! ランズが止血して……」


(セイデン……いったい誰が、誰が誰が誰が誰が誰が……急がなければ…セイデンを死なせる訳いは……いかない)


 すぐに血の魔法<血の筋肉>を使う。今まで溜めていた血も全て使い、全身を血の筋肉で覆う。


(道に沿って移動しては時間が掛かる。ならば天井を貫き一直線で向かうまで……待っていろセイデン)


 今までこれほどの怒りを覚えた事は無い。自身が絶対の信頼を置く部下、セイデンが瀕死になっていると聞き、他の事を考えられなくなる。

 全身を覆う血の筋肉のすべてを使って、天井を破壊する。


「うおおおおぉおぉおぉぉおぉおぉおぉ!!!」


 全力で跳躍し、全身全霊を込めたラッシュで天井を砕き、上方向への力が足りなくなると壁を蹴りながら上へ登っていく。


 数秒で上に着く。しかし庭に出るつもりが自分の部屋に出てしまった。その際何かを吹き飛ばした気がするが、気にしている場合ではない。


(急がなければ。セイデンは死んではいけない。ならば)


 ブリューデンは屋敷の壁を壊し、穴を開けながら庭へ向かう。


 庭を出て辺りを確認すると、庭の端の方に倒れているセイデンともう一人男がいる。


(居た! すぐに助ける)


 全力で走り、セイデンの隣に移動する。


「貴様何……」

「セイデン! すぐに血を止める。血の魔法<血の糸>」


(危ない……後少し遅れていたら死んでいた。ギリギリ間に合った)


「あ……主様!」

「お前は? ……ランズだったか?」

「は、はい」

「お前は屋敷に行ってセレスを運んで来い!」

「わ、わかりました」


 ブリューデンは血の魔法を使い止血は出来るが回復魔法は使えない。完璧な応急処置は出来るが、傷を治す事はできない。その為、ブリューデンの部下で回復魔法が使えるセレスを運ぶようにランズに言った。セレスは体が弱く足が遅い為、誰かが運んだ方が速いのだ。


(セイデン……危なかったな……いったい誰がこんな事を…………いや、今は考えても仕方ない。今はセイデンの様態が変化しないかしっかり見ておかなければ)


 数分後、ランズを含めて四人の男が、女を乗せた担架を走って運んできた。


「はぁ……ハぁ……はぁ……お待たせしました。セレス様をお連れしました」

「セレス、セイデンを治療しろ。俺はその間に何があったのか聞いておく」

「は、はい」

「任せたぞ」

「お、お任せください」


 セイデンの事はセレスに任せて、ランズに話を聞く。


「今回のこの事件、誰の仕業だ! 絶対にこの手で報いを受けさせてやる」

「…………」

「どうした? 早く言わないか!」

「そ、それが………」

「早く言え!」

「は、はい。実は今回の件は……ラクーン様が………」

「な…………に……ラクーンがやったと言うのか……」


 その言葉を聞いた瞬間、自分の判断ミスとラクーンへの怒りが溢れてくる。

 頭の中を最悪の事態への想像が支配する。自分の予想を超え、セイデンを倒す程の力をつけたラクーンが、アガルタの中で殺戮を行うのではないかと考えてしまう。その時自分の力で止めれるのか不安になってくる。

 あの時自身の感情を優先し、ラクーンに血の魔法を教えるべきでは無かったのではないかと、自分を責めたくなる。


「……はい」

「何故だ!」

「ら、ラクーン様が屋敷を出ようとしたのをセイデンさんが止め、口論になり、戦闘に発展しました」

「ラクーンはどこにいる……」

「わかりません」

「何故だ! セイデンがあれ程やられたのだ! ラクーンも無傷じゃ無いだろう! 何故捕まえなかった!」


 ランズが悪くない事は分かっている。分かってはいるが声を荒げてしまう。


「それが……セイデンさんのお腹に穴が開いた後、ラクーン様を捕まえようとしたのですが、ラクーン様がセイデンさんはまだ生きてると言っていたのと、ラクーン様は最終的に捕まえれるので、セイデンさんが生きている可能性を考えて、そちらを優先しました」

「そうか……わかった。もう少し詳しい情報が知りたい」

「わかりました。そのような戦闘だったのか、説明させていただきます。最初は五人で押さえようとしたのですが、手も足も出ず翻弄され、その結果セイデンさんが御一人で戦われるとの事で、意識のある者は全て下がりました。わたくしどももセイデンさんなら勝てるだろうと思っており、実際かなり追い詰めていました。しかしセイデンさんがラクーン様に触れようとした時、突如セイデンさんのお腹の中から槍が出てきました」

「なるほど……どうやら先ほどの予想も大きく超えて成長していたのだな。ラクーンめ……絶対に逃がさんぞ」


 すぐに屋敷を出ようとした時、後ろから声を掛けられる。


「お待ち下さい……」

「ちょ、ちょっとセイデンさん、まだ動いちゃダメですよ」


 お腹を押さえながらセイデンが話しかけてくる。

 

「セイデン! 傷は大丈夫か!?」

「せ、セイデンさん!」

「ご心配お掛けしました、主様」

「無事なら良かった。セレス、良くやった」

「あ、ありがとうございます」

「セレス様、ありがとうございます。ランズ、心配をかけましたね」

「い、いえ」

「セイデンさん、良かった、本当に良かった」

「……それで?待てとはどういうことだ?」

「その前に、この度はわたくしが居ながらラクーン様を外に出し、その上主様にまでご心配をお掛けして、申し訳ありませんでした」


 セイデンが地面に頭を着ける勢いで頭を下げる。


「それは良い。それよりも待てとはどういう事だ」

「ラクーン様と戦ってみてわかりました。ラクーン様は確実に対人経験があります」

「なに!」

「あの動きと作戦。確実にこの屋敷内での訓練で身に着いたものでも、本から得た知識でもありません。あれは誰かと戦闘を行い、誰かに戦闘を教わった事のある人間の動きです」

「では……ラクーンが屋敷を抜け出している理由は………誰かに戦闘を教わる為か」

「間違いないでしょう。誰をどの順番で倒すのか、格闘との戦い方、魔法を使うタイミング、すべて数回戦闘を……いえ、ラクーン様なら一回でも大丈夫でしょう。ともかく、一回以上対人戦闘をしていなければ出来ない事でした」

「では、追手は慎重に選ばなければな……」

「できれば数人のグループで探すのが良いかと」

「ランズに聞いた話では、数人を相手にしても戦えていたのだろう? ならば一人一人で探して、見つけてから合流して捕まえればいいだろう」

「いえ、ラクーン様はわたくしとの戦闘で魔力を使い尽くしています。ならば、見つけてから合流している間に魔力を回復されるより、見つけてすぐに捕まえた方が良いでしょう」

「しかしラクーンは満身創痍なのだろう?だったら一人でも捕まえられるのではないか?」

「ラクーン様なら満身創痍でも一人くらいならばどうとでも出来るでしょう。戦闘になった時、ラクーン様は即興で罠のような物を作っていましたから。その場での判断能力は高いとみて良いでしょう」

「なるほど、わかった。実際に戦った事のある者の意見の方が確実だろう。セイデン、ランズ」

「はい、わたくしは何をすれば?」「は、はい」

「疲れているだろうが働いてもらうぞ。屋敷の者達で追手を掛ける。人を集めろ! 後ランズに回復魔法を掛けてやれ、セレス」

「わ、わかりました」「承りました」「わかりました」



 それから十分程経ち、五十人程が集まる。今回集めたのは普通の警備兵と屋敷で戦闘を行える者達だ。王の護衛をしている者達が協力してくれれば楽なのだが、王の護衛の為にこちらに来てもらう訳にもいかない。普通の警備兵に戦力としての期待はあまり無いが、人数が多ければ発見も速いだろう。


「よく集まってくれた。今回集まってもらったのは、息子のラクーンを探してもらう為。ラクーンを捕まえた班には報酬、金貨二十枚を渡す」

「き、金貨二十枚! そんなにあったら今年一年遊んで暮らせるぞ」


 この世界で金貨二十枚はまあまあ大金である。

 この世界のお金はすべて硬貨であり、下から鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、晶貨、青晶貨、紅晶貨となっている。鉄貨は千枚で上の銅貨に、銅貨、銀貨、金貨、晶貨は百枚で上の硬貨になり、青晶貨は十枚で紅晶貨になる。

 金貨十五枚を使うと普通の一年、金貨十七枚で豪華な一年、金貨が二十枚あれば大豪遊できる。


 職業毎の大体の年収としては、屋台は金貨十三枚と銀貨五十枚、飲食店は金貨十七枚、警備兵は金貨二十枚、冒険者は金貨一枚~強い者で紅晶貨五枚くらいである。冒険者は成功すれば一年で一生遊んで暮らせるような金を手に入れれるが、実力が無ければ金貨一枚稼げるかどうか。運が悪ければ一回目で死ぬ事だってある。

 ちなみに冒険者の報酬としてはゴブリン一匹が大体金貨一枚である。今まで倒されたモンスターの中で一番高額だったのは、アヴァロンに出たアンデットである。このアンデットを封印した者に紅晶貨三十枚払われた時が、今までで一番高額の報酬である。


 色々な物の相場……食事は一日平均銀貨三枚と銅貨三十枚、高くて銀貨三十枚程。家具だと椅子は銀貨二十五枚、机は銀貨三十五枚と銅貨二十枚、家は小さくて金貨六十五枚、大きい家は晶貨十枚、ラクーンやブリューデンが住んでいる屋敷は庭含めて紅晶貨二枚になる。冒険者が使う武器だと、剣は鉄製一本金貨四枚程する。希少な魔法鉱石であるミスリルを使った剣は青晶貨三枚枚もする。アダマンタイトの剣は紅晶貨四枚である。



「絶対捕まえる! 金貨二十枚は俺の物だ!」「いや、俺のだ!」「誰がお前なんかにやるか! 俺の物だ!」「子供一人捕まえて金貨二十枚。簡単で非常に良い仕事だ」

「おい待て」

「あ? なんだよ!」

「ブリューデン様は『捕まえた班に』と言っていたぞ」

「その通りだ。今回は四、五人程度の班で行動してもらう」

「報酬は一人一人か?」

「いや、班に金貨二十枚だ。分け方は自由に決めろ」

「班はどうやって決める?」

「自由に組め。では十分後に捜索を開始する。後、班を決める時は静かに決めるように。以上」


 ブリューデンの話が終わるとその場に居る者達は班を決める為に行動を開始する。


「俺と組め、俺と組んだら報酬は山分けだ!」「俺の所は最後に捕まえた奴が全部持って行っていいぞ」「おい、お前ら俺と組め!」「いや、僕はいつも組んでる奴と組むよ」「こっちは一番活躍した奴が金貨十枚、それ以外の奴は残りの十枚を山分けだ」「こっちは………」


 そうして十分が経つ。


「十分経った。班は決まっているな。では捜索を開始せよ」


 捜索開始の合図が出ると一斉に屋敷の庭を出て、ラクーンの捜索に向かう。


ここまで読んで下さってありがとうございます。

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