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嗤う道化は殺されない  作者: からう
笑わぬ子供は憧れる
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笑わぬ子供の変化の日・Ⅰ

 モンスターを殺す試練が明日に決まった。昨日は魔力が尽きかけていたから、練習後すぐ眠ってしまった。その為作戦を今から考えなければならない。

 様々な事態を想定して作戦を立てていたら、あっという間に昼になってしまった。

 屋敷を出て、地上へ向かおうとしたらセイデンに呼び止められる。 


「ラクーン様、試練は明日行われるのでしょう? 今日は屋敷の外に出ずに、屋敷の中でゆっくりとお休みになられてはどうです?」

「屋敷に居ると明日の試練の事ばかり考えてしまうので、いつも通りの行動をして落ち着こうと思いまして」

「ふむ……なるほど。いつもはどこに向かわれているのですか? 他の者達がいつも撒かれて、どこにいるかわからず、心配しているのです」

「気分で決めているので、一概に何処とは言えないですね」

「では今日はどちらに?」

「ドワーフ達が居る区画に行こうかと思っています」

「それは……あまりオススメしませんね。あのような野蛮な酒飲み達のいる区画に行かれるのは」

「けどドワーフ達は武器を作っています。ドワーフ街にはたまに冒険者も来ます。血の魔法で武器を作れる僕はドワーフ街に行き、様々な武器を見る事でより強くなれると思いますが?」

「屋敷にある本で学べばよろしいのではありませんか?」

「屋敷にある本の知識と、ドワーフ達が実際に売っている武器では得られる知識に差があります。実際に実物を見る事で分かる事もあるでしょう?」

「あんな野蛮な者達が作った武器に学ぶべき所なんてあるのでしょうか?」

「野蛮であろうとなかろうと、実物を見れる点で本より優れていると思いますが? それと、ドワーフ達はアガルタに貢献しています。アガルタに貢献している以上、野蛮も酒飲みも僕たちが言うべきでは無いでしょう。特に野蛮は」

「それはどう言う意味でしょうか? もしそれが一族の使命について言っているのであれば、ラクーン様でも許されませんぞ」


 木の陰から五人の使用人が姿を現し、警戒の視線を向けてくる。使用人の位置は、真後ろに三人と右と左に各一人。横の二人は武器を持っていない。後ろの三人が武器を持っているかは確認できない。


(これは選択肢を間違えたかな? 戦闘になるかもな。けどそれはそれで楽しそうだ。複数人との実践は初めて。これは良い経験になる。じゃあこのまま戦闘になるように誘導していくか。罠を設置する時間は無いが、少しくらい時間を稼いで地面でも削っておくか。少しは役に立つだろ)


 弱めの魔貫通魔法を足裏から使用して、地面を削る。


「事実だろ?ドワーフは武器は作るが、戦闘はしない。けど僕や父上は実際に戦闘を行うんだ。どちらが野蛮かと言われれば、実際に戦闘を行う僕たちだと思いますが?」

「しかし主様やラクーン様にはアガルタを守るという、国からの使命が御座いましょう?」

「けれどドワーフ達も国にしっかりとした利益をもたらす、という使命も果たしているでしょう? このアガルタにやってきた冒険者に武器を売り、アガルタの拡張作業はドワーフが行っている。作物類もすべてドワーフに任せていますし、ドワーフが作った作物は徴収して、人間が育てた動物の肉はあげない。正直に言ってアガルタの事だけを考えるのであればドワーフをもっと優遇するべきだと思うのですがね」

「なるほど……ラクーン様はドワーフの方が正しいとお考えなのですね」

「別に正しいかどうかは知らないさ。けれどドワーフはもう少し優遇するべきだと思うけどね。国王含めて人間贔屓が過ぎると思うからね。国王も命令はするけど、十分な報酬を与えているとは思えないからね。なんたって貴族にドワーフも獣人もいないじゃないか。獣人は現状別としても、ドワーフの貴族が居ても良いと思える働きをしていると思うよ」

「どうやら貴方は亜人贔屓が過ぎるようだ。そのような人はもう一度勉強のし直しです」

「贔屓しているつもりは無いな」

「残念です。人の方が圧倒的に優れており、亜人など雑種だと理解できないとは」

「僕も残念ですよ。ただ一方向からの固まった考え方しかできない人だったとは」

「間違った方向へ向かっている貴方を屋敷から外へ出す事はできません」

「一方向からの偏った考えに『はい、わかりました』と言って、従う訳にはいきません」

「力ずくで正しい道に連れ戻しましょう」

「力ずくで、正面から、その道壊しましょう」


(地面は躓くくらいには削れたかな?まあこのくらいで問題ないだろう。さてセイデンから倒そうか、数を減らしてからセイデンと戦うか、どうしようか。奇襲だったらセイデン一択なんだけど、今回は正面戦闘だから、数を減らしてから戦おうかな)


「全員、掛かれ。取り押さえろ。血の魔法を使わせるな」


その声でセイデンを除く五人が接近してくる。すぐに後ろを向いて相手を確認する。


(相手は全員武器は無し。格闘か……なら魔法とリーチの長い武器だな。まずは後ろの三人の内一人くらい倒して、逃げ道を作っておく。)


「<ショット><ショット><ショット>」


 まずは足元を狙って動きを止める。一人は動きが止まり、二人には少し横に移動する事で回避される。


(まずは一人。腹を狙って撃つ)


「<スピードショット>」

「ぐっ」


 放った魔法は相手の鳩尾に入る。鳩尾に魔法をくらった使用人は蹲り、胃の中の物を少し吐く。


「威力は抑えておいた。動くなよ」

「そいつにだけ注意してて大丈夫か」


 一人倒してる隙に、残りの四人が接近してくる。


「もちろん問題ない。<スピードショット><スピードショット>」

「チッ」「くっ」


 左右の敵に向かって魔法を撃つ。相手が怯んだのを確認した瞬間、右側の敵に少し近づき、左の敵に背中を見せる。


「近づいてくれるとは。この距離は格闘の間合いだぞ」

「わかってるさ」

「背中ががら空きだ――うおっ」


 その声を聴いた瞬間、右側に回避する。


「二人して転んでろ」


 セイデンと話してる時に、足で削っておいた地面に躓いた左側の敵が、右側の敵にぶつかり、二人とも倒れる。


「君たち、戦闘経験無いでしょ。もっと足元を警戒した方がいいと思うよ。それは戦闘初心者が陥りやすい罠だからさ」

「ほう。そんなに貴方は戦闘経験があるのですか? いったいどこで戦ったのでしょうか?」

「――うおっ」

「わたくしをお忘れですか?」


 いつの間にか近づいていたセイデンに吹き飛ばされる。


「ぐっ……痛いな」

「思っていたよりも強かったので、少し強めに蹴らせていただきました。もちろん怪我をしないように注意しましたから、ご安心ください」

「なるほど。純粋な力では勝てないな」

「早めに諦めてくださると助かるのですが。主様のご子息を本気で相手にするのは辛いものがありますから」

「どうだかな。後、一応感謝はしますよ、僕を吹き飛ばしてくれて。おかげでようやく血の魔法が使える。血の魔法<血の槍>」

「なるほど。しかし武器を作ったとしても、数の有利は覆せませんよ」

「確かに数の有利はそっちに有るけど、僕の戦闘スタイルは魔法で相手の動きを止めて、その隙に相手の苦手な武器で攻撃する、ですから。囲まれている状況よりはマシですよ」

「ほほう、その戦闘スタイルとやらを見せてもらいましょうか」

「もちろんです。血の魔法<血の筋肉>」


(量は少なくて良い。量が多いと扱いきれない。筋肉の量が少なくても強化魔法と合わせれば十分だ)


「そんなに少ない量でよろしいので?」

「全くもって問題ない。<魔糸><固定>」


 槍と魔糸を固定で繋ぐ。これで槍が手から離れても、回収できるようになった


「では、遠慮なく押さえつけましょう」


 セイデンが向かってくる。それを追って、最初に魔法を当てた一人を除く四人も突撃してくる。


「<スピードショット>×8」


 スピードショットを八発連続で撃つ。


「確かに速いですが、一度見れば回避できます」


 八発の魔法を全て余裕をもって回避される。


「そうだろうな。それは時間稼ぎだからな。本命はこっちだ。……おらぁ!」

「がぁっ!……」


 血の筋肉と強化魔法を使った槍の投擲。スピードショットよりも速い速度で突き進み、四人の内一人の肩を貫く。


(あっ……やり過ぎた。困った。これは困ったな。まあ後で考えればいいか)


「なっ」「そんな」「まさか本気で攻撃してくるとは」

「怯むな! ラクーン様は武器を手放しました。血の魔法は連発できません。今のうちに抑えま……」


 血の槍と繋げておいた魔糸を引っ張り、血の槍を手元に戻す。


「武器を手放したから武器が無くなると思ったか?残念だったな、対策済みだ」

「何故! 血の魔法は手から離れたら血に戻るはず! それに何故手元に戻っているのです!?」

「それは教えられないな。後ずっとその場に居ていいのか?良い的だぞ。<スピードショット>×4」


 セイデン以外の四人を狙い、魔法を撃つ。


「全員回避!!」

「ぐふ!!」「くっ!」


 二人は回避し、一人は魔法が鳩尾に入って蹲り、一人は足に掠って動きが止まる。


(蹲ってるのは放置で良い。狙うのは足を削った奴だ)


「……ふっ!」

「させませんよ」


 投擲した槍はセイデンが蹴り上げた事で防がれてしまう。


「おっと……防がれたか」

「そんなに余裕を見せてよろしいので?」


 魔法を回避した二人が急速に距離を縮めてくる。


「ああ、問題ない。<魔力武装・サーベル>」


魔糸を使って手元に戻した槍を左手に持ち替え、右手にサーベルを作り出し、横薙ぎの一撃を放つ。


「危なっ!」「くっ!」


一人は後ろに大きく跳んだ事で回避したが、もう一人は腕を使って防ごうとして、右腕に刃が食い込む。切断には至らなかったが右腕は使えなくなっただろう。


「なんですかな?その剣は?」

「教える必要はないだろ?<ショット><スピードショット>」


セイデンにショットを撃ち、腕を負傷した相手にはスピードショットを撃つ。セイデンは簡単に躱したが、腕を負傷した相手には当たり、気絶する。


「その剣の事と言い他の事と言い、絶対に聞かねばなりませんな」

「ここまで一方的にやられてて、ここから勝てるのかい?」

「下がっていなさい。貴方たち。どうやらラクーン様は一対多が得意なご様子。わたくしは一対一が得意ですので、わたくしの方が有利でしょう。一切の手加減なく、お相手いたしましょう」

「それは恐ろしいな。けど、一対一ならそれはそれでやりようはいくらでもある」

「せれではそのやり方とやらを使われる前に押さえましょう」


(近接戦は不利。相手は格闘。だったら魔法で倒すまで。魔法で戦うならば武器はいらない)


「おや?武器を捨てていいのですかな?まさかわたくしに近接戦でも仕掛けますかな?」

「いやいやそんなまさか。<スピードショット>×8……魔法で戦うに決まってるでしょ」


 八発連続で魔法を撃つ。


「やはりそう来ましたか。近接戦で来てくれれば楽だったんですが。しかしそんな魔法には当たりませんぞ」


 それをいとも簡単に回避して見せるセイデン。


「じゃあ当たるまで撃ち続けよう<スピードショット>×7」

「持久戦ですかな?体力には自信がありますぞ」


 そのまま数分、距離を取りながら魔法を撃つが一向に当たらない。


(まずいな。魔力が尽きてきた。これはリスクを覚悟で近づいて攻撃するしかないかな。

だったら弱ったふりして、相手から近づいてもらおう)


「<スピードショット>×3……はぁ…ハぁ」

「どうやら体力も魔力も尽きてきている様子。このまま押さえさせてもらいましょう」

「ハぁ……はぁ…<ショット><ショット>」


 放ったショットは弱々しく、いとも簡単に躱されてしまう。


「ようやく追いつきましたぞ。中々苦労しました。しかしこれで終わりです」

「……ハぁ…はぁ……残念だ。もう少しだったのに」

「わたくしはまだまだ戦えましたので、どちらにせよ貴方は負けていましたよ。しかしどうやってそんなに強くなったのやら、これは色々と聞かねばなりません。試練は延期ですかな」

「聞いても……無駄だと…思うけどな」

「すぐに喋りたくなりますよ」

「それは…怖い……<ショット>」

「悪あがきはお止めください。どれだけ近づいても当たりませんよ。もし当たったとしても、その威力ではどうしようもありませんよ」


 そう言いながら近づいて来るセイデン。


(そうだ……そのまま来い。練習は出来ていないが、やってやる)


「<魔力武装・槍>」


 魔貫通魔法を使用しながら作られた槍がセイデンの腹を貫通し、生成される。


「がふ……。これは? いったい?」

「悪いが、最初から狙いはこれだ」

「セイデンさん」「セイデンさん!!」

「本当なら、ここまでのダメージを与えるつもりは無かったんだが、思っていたより強かったからな、こんな手段を使わせてもらった」

「これは……やられましたな。……どこから……騙されていたのやら。これは……完敗ですね……」

「それじゃあ僕は行かせてもらうよ」

「どうせ……止められま……がふッ! せんし…どうぞ」

「じゃあな」


(思ったより楽しくなかったな。もっと楽しいかと思ったけど、セイデン以外が弱すぎたな。けど相手に怪我させまくったし、これは屋敷には戻れないかな。どちらにしても屋敷はいずれ出る予定だったんだ、少し早まっただけだと考えよう。しかし思ったよりも時間が掛かったし、魔力も使ったな……地上まで出れるかな? まあ少し休憩したら行けるかな?)


 そんな事を考えながら屋敷を出ようと門へ歩いていると、脚に傷を負った男と無傷の男が道を塞ぐ。


「行かせませんよ」

「セイデンさんを殺した以上、絶対に屋敷から出す訳にはいきません」

「どうやらかなり消耗しているようなので、確実に捕まえますよ」

「殺したとは失礼な。まだ生きてますよ。今から駆け寄って処置すれば間に合うと思うよ」

「そんな言葉には騙されません。人は腹を貫かれたら死ぬんですよ」

「いまから止血して、すぐに回復魔法を使えば間に合うと思うけどな。回復魔法の使い手くらい居るだろ? 僕は知らないけど。後、僕とこうして話てる間にも、死は確実に近づいている訳だけど、どうする?」

「…………くそっ……セイデンさんの元にいくぞ」

「いいのか?」

「あぁ……どちらにしても、結局は捕まえれるんだ。だったらセイデンさんの所に行くぞ」

「僕としてもそれをオススメするよ」

「あんたは絶対に捕まえてやる。罰を楽しみにしておけ。行くぞ」

「まあ、頑張ってね」



 セイデンとの戦闘が終わってから数分後、ラクーンは未だに地上に出れていなかった。


(ダメだな……魔力が足りない。思ったよりもセイデンが強かったな……さて、どうしたものか。早く地上に行きたいんだけどな……魔力の回復を待つか)


 それから三十分程経った頃、貴族街が騒がしくなってくる。


(なんだ?貴族街がここまで騒がしくなるなんて珍しいな。原因は僕だろうな。追手が来たかな? 何処が出した追手かによって状況が変わるな。屋敷か、王の所か、普通の警備か。王の所が一番困るな。無理に地上に行こうとしても見つかりそうだし、このまま隠れてても見つかりそうだ。何か事件でも起こらないかな?そしたら楽なのに。もしくは少しは楽しめる奴か、殺しても良い奴が来てくれたら嬉しいな)


ここまで読んで下さってありがとうございます。

面白いと思って頂けたら嬉しいです。

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