笑わぬ子供は試練に向けて・Ⅶ
今日でロビンに狩りを教わり始めて一週間だ。今日はどんな事を教えてくれるのだろうか。昨日で狩りの話が終わってしまった為、多分だが魔法の話になるだろう。
そんな事を考えながらいつもの場所に向かう
「ロビン。来たぞ」
「待ってたぜ。さて今日はどんな話をしようか」
「魔法の話が良い。色々な魔法の知識があれば、魔法使いに対する対策が立てやすくなる」
「随分と狩人らしくなって来たな。わかった。魔法の話をしよう。そうだな……回復魔法と複合属性魔法の話でもするか」
「わかった」
いつも通りその辺に座り、話を聞く体勢に入る。ラクーンが座ったのを見るとロビンも座り、枝で地面に色々書きながら教えてくれる。
「まずは回復魔法の話だな。回復魔法は……」
回復魔法……この魔法は、他人の細胞を魔力で活性化させて傷を回復する魔法。この魔法を属性魔法に分類するかは学者の間で議論が続いている。この魔法の利点は、唯一他者の傷を癒す事が出来る魔法である所。非常に希少な魔法で、使い手が一人ギルドに居るだけで生存率がグンと上がるが、回復魔法の使い手が居ないギルドから狙われる事もある。欠点は、この魔法を使える様になると一切の攻撃魔法が使えなくなる所。この魔法を使える様になるには、強く誰かを死なせたくないという思いや、一切裏表の無い人格者くらいしか使えない。
「これは……僕は絶対に使えないな」
「こればっかりは無理だろうな。お前さんは戦闘後に「楽しかった」なんて感想がでるからな」
「普通に戦闘は楽しくないか?」
「それは人によるから何とも言えないな」
「そうか」
「さて次は複合属性魔法だな。これもまた希少な魔法だ。二種類の属性魔法を合わせる事で使える様になる。この魔法に関してはまだ未発見の魔法もあるから、今後新しい魔法が出来るかもしれないが、今分かってる魔法を教えていこう」
「わかった」
「一つ目は噴火魔法だ。この魔法は……」
噴火魔法……この魔法は火と地を合わせた魔法で、発動すると地面から大量の炎が吹き上がり、噴出した炎が触れた場所が超高温のドロッとした何かに変える魔法。利点は、火属性魔法よりも高い攻撃力と範囲。そして魔法の持続性。一度変わった地面は中々元に戻らない。欠点は範囲が広すぎる所と威力の制御が出来ない所。
「……強すぎないか?」
「使える奴は希少だが、とてつもなく強いぞ。複合属性魔法なんて全部こんなもんだ」
「こんなのが何個もあるのか……恐ろしいな」
「対策は魔法を使わせない事くらいだからな。さて次の魔法だ。次は……」
濃霧魔法……この魔法は火と水を合わせた魔法で、発動すると大量の蒸発した水が辺り一帯を覆う。利点は、相手の視覚、触覚を奪い、大量の水蒸気による熱と湿気で急激に体力を奪える所。欠点は味方にも効果がある所と、風魔法を使えれば対策出来る所。
「この魔法はまだ何とかなるな」
「確かにこちら側で出来る対策があるからな。まだ良い方だ。さて次は……」
泥土魔法……この魔法は地と水を合わせた魔法で、発動すると辺りをすべて泥に変え、その泥を操る魔法。利点は、泥でゴーレムなどを作り物理攻撃が可能な所と、地面の深くまで泥にする事で泥に入った者を生き埋めに出来る所。意図的に泥のゴーレムを操れる為、味方を傷つけずに使え、作られたゴーレムは泥の為攻撃が効かない。欠点は火属性魔法で泥を乾燥させられると何もできなくなる所。
「これは強いな。泥の中に入ったら助けれない」
「超優秀な火属性魔法の使い手が居れば何とかなるけど、そんな奴滅多に居ないからな」
「どちらにしても僕一人ではどうしようもないな」
「複合属性魔法を一人でどうにかするのは厳しいからな。さて次が最後だ。次は……」
夢幻魔法……この魔法は光と闇を合わせた魔法で、発動すると辺りを幻に変え、幻で相手の感覚を機能させない魔法。利点は、相手の心を折る事が出来る所と、対策が無い所。相手のトラウマを再現して見せたり、幻の自分を作りだして戦わせる事も出来る。幻の内容は魔法の発動者が決めれる為、どんな幻を見せる事が出来る。欠点は、攻撃力が皆無な所。
「欠点が無いに等しいな」
「攻撃、援護、防御のすべてに使える魔法だからな。ただ使用者は一人しかいない」
「一人か。少ないな。他の複合属性魔法は何人くらい使えるんだ?」
「どれも片手で数える事が出来るくらいだ。ちなみに夢幻魔法の使い手はサーカスの人間だ」
「サーカスの芸を見たら、夢幻魔法も見れるかな? 少し楽しみになってきた」
「そりゃ良かったな。さて後は何の話をしようか」
「そうだな……」
色々と考えるが、何も思いつかない。
「そういえば、お前さんは魔法操作は出来るのか?」
「魔法操作? なんだそれ」
「魔法を撃った後、魔法の軌道を変えたりする技だ」
「知らないな。魔法って撃った後、動かせるのか」
「三年以上前に発見された技術だ。今だと必須技術だぞ」
「動かせたのか……ずっと動かせないと思っていた」
「これはどこかで情報が止められてるな。あまりにも遅れすぎている」
「戦いに興味の無い人間が多いし、仕方なくないか?」
「無理だろ。それだけで止めるのは。噂ってのはそう簡単に止められない。その上でここまで遅れているのは、絶対にどこかで何十にも遮断しようとしているだろ」
「……そう考えると納得できるルールが二つくらいあるな」
「どんなルールだ」
「アガルタでの冒険者と亜人の制限だな。一つ目は冒険者の制限だな。アガルタでは冒険者はドワーフ街までしか入れない。特殊な許可があれば別だが。ここで一つ目の情報遮断をしているのだろう。次にドワーフの制限だな。ドワーフはドワーフ街から出る事が許されていない。これで遮断してるんだろう」
「それだな。かなり徹底してる」
「けど、それなら何でサーカスの情報は入ってくるんだ?」
「多分規制する情報を管理してるんだ。戦闘技術などの情報は遮断するが、普通の噂は流しておく。こうすれば情報を規制している事に気づかれにくい」
「確かに新しい噂は流れてたから、情報が古いとは思わなかったな」
「嘘を吐く時も、嘘だけじゃ無く真実とか実際にあった経験とかを混ぜるとバレにくいっていうしな。そんな感じだろ。さて、アガルタの情報が遅れている理由も分かったし、魔法を動かす方法を教えよう」
「頼む」
「まあ、俺は魔力量が少ないから魔法を動かすどころか魔法を撃てないんだが。言葉で教えられる事に限界はあるから、後は自分で考えて頑張ってくれ」
そう言うと枝で地面に文字を書きながら教えてくれる。
「魔法を動かすには高い魔力操作技術が必要だ。やり方は……」
魔法を動かす方法……この技は、魔法を放った後に魔力を放ち、魔力の軌道に魔法を乗せる事で軌道を変える技。強化魔法は体という器の中だから動かせているが、この技は魔力を外に放ちつつ魔力に動きを持たせなければならない。器の無い場所で魔力をある程度思い通りに動かせる様にならなくてはいけない。
「一つ良いか? 器の外に出したら動かせなくないか?」
「普通に外に出したらダメだな。説明が難しいが、この技は別に魔力を自由に動かす技じゃ無い。あらかじめ決めた軌道に沿って魔力を放つ技だ。まず魔法を撃って、どう動かしたいかをイメージして、それに沿って魔力を放って、放った魔力に乗っけて魔法を動かす技だ。その為には明確なイメージと、しっかりと相手に届ける事が出来る威力を持った魔力を撃ちだす技術と、軌道通りに動かす魔力操作技術が必要だ。ただ魔力を放つんじゃなく、魔力を絞って撃たなくてはいけない。そういう技術が必要な技だ」
「なるほど。魔力を外に出してから動かすのではなく、想像通りに魔力を放つ技な訳だ。これは練習しないと使えないな」
「そうだな。これはしっかり練習しないと使えないだろうな」
「今は時間がそんなに無いから出来ないけど、時間が出来たら練習してみるよ」
「それが良い。使える様になると戦闘の幅が出来るからな。さて、今日は少し早いが解散にしよう」
「わかった。じゃあ明日」
「おう」
こうしてロビンと別れ屋敷に戻る。
時は遡り、視点も変わってブリューデン視点
ラクーンに血の魔法を教えてから一週間が経った。そろそろ試練を行っても良いだろう。
だが一つ心配な事がある。それはラクーンが鳥を狩らなくなった事だ。普通であれば安心できる。だが何か心配だ。これが何かの前兆のような気がしてならない。鳥を狩るという行為が、ラクーンの何かしらの欲を満たしていたような気がする。その欲が発散されなくなった事で、いつ欲が爆発するか不安になってくる。爆発した時、矛先が鳥では無く人間に向いたらと怖くなる。しかし試練を行わない訳にもいかない。恐怖はあるが、恐怖1を頭で押さえこみ、ラクーンの実力だけを見て決めるのだと決断する。
この予感は次の日、最悪の形で身を持って体感する事になる。ラクーンに血の魔法を教えるのではなかったと思う程に……。
時は戻り、ラクーン視点
ロビンと別れて屋敷に帰ったラクーンは、地下室で魔法の練習をしていた。
現在ラクーンが練習しているのは魔貫通魔法である。ラクーンはこの魔法と魔力武装を合わせ、敵の体内に武器を出現させる事は出来ないかと考えていた。しかし中々上手くいかない。まずは壁に向かって魔貫通魔法を練習しているが、魔力を浸透させる事は出来る。しかし攻撃にならない。魔力を壁の中に浸透させる事は出来ても、そこからどう攻撃力を持たせるのかが分からない。
ラクーンは座り込み考える。悩む事数分。悩んでいても分からないという事が分かった。
座っていても考えても分からないなら、魔法を何度も使って何か思いつくのを待っている方が効率的だと気付いた。
立ち上がり、魔法を使おうとした所に父親が地下室に入ってくる。
「ラクーン、練習は順調か?」
「順調です」
「どの程度使える様になったか見せてくれるか」
「わかりました」
手を切り、血を出し、血に魔力を混ぜ、血の筋肉を作り出す。
「ずいぶんと早くなったな」
「練習しましたから」
「この速度で使えるなら大丈夫だろう。お前に……」
「何です?」
「お前に試練を与える。明後日だ。明後日試練を行う」
「分かりました」
「うむ。それだけだ。練習に戻っていいぞ」
「失礼します」
そう言って少し離れると父親は地下室を出て行った。その時一瞬だけ不安気な目をしていた。一瞬何が不安なのか考えたが、試練が心配なのだろうと考え、勝手に納得し、練習に戻る。
練習内容は変わらず魔貫通魔法である。壁に手を当て、壁の中に魔力を通す。しかし攻撃力はなく、壁に変化は無い。
(くそっ……全然威力を持たせられない。何でだ……)
何度も壁に魔力を撃つが、ただ魔力が無くなっていく一方だった。何度も魔力を撃ち続けた事で魔力が尽きかけた時、変化が訪れる。
壁が少しだけ崩れる。それは本当に少しの穴が開いただけで大した威力は無かったが初めての成功だった。魔力の残量が少なくなり、今日は終わりにしようとしていたラクーンの好奇心に火をつけた。
(何が違った……何故今成功した……何故こんな少量の魔力で傷をつける事ができた……違いは何だ……考えろ……)
成功したからには理由がある。何がトリガーとなって成功したのかを考える。
(まず関係ない要因は込める魔力の量だ。量が多ければいいならもう成功してる。けど魔力が少ないだけじゃダメだ。普通魔法の威力は魔力を込める量が多ければ多いほど上がっていく。なのに今回成功した理由は何だ……)
本当に少しだけの魔力が放たれた。それは魔法を撃つ事も出来ない程の少量で、それだけでは何も出来ない程少ない魔力で何故か穴が開いた壁。何かヒントにならないかと思い、壁をよく見ると一つ違和感を感じる。
(穴が……細長い……。放たれた魔力量的にこんなに深いのはおかしい。けど魔力が放たれたにしては穴が細すぎる。何でこんなに細いんだ? 何故こんなに深いんだ? 何で? 魔力は普通に……!)
その時、線と線が繋がる。
(分かった! 今まで僕はただ魔力を放っていた。けど今回は魔力が少なすぎて無意識の内に集めて放っていた! 今までは放った魔力が広がって威力が出ていなかった。けど今回は魔力が一点に集まってから放たれたんだ。一点に集中していたから勢いよく放たれて、放たれた後広がらずしっかりと撃てたんだ。予想は出来た。後は試すだけだ)
残り少ない魔力をかき集め、手の平の一点に集中させて、撃つ!
撃たれた魔力は壁の中に入り、壁が少し崩れる。崩れた部分を除くと、壁の中は空洞になっていた。
(成功した……。やっと……やっと使えた!!)
「うおおおおおおぉぉぉぉおおぉ!!!」
漸く意図して使えた喜びで、無意識にガッツポーズをしながら雄叫びをあげていた。
強化魔法を使える様になった時も苦戦したが、あの時はロビンがヒントをくれた。だからこそ初めて一人で苦難を乗り越えた喜びと達成感。それが魔力が尽きかけて、いつ倒れてもおかしく無い状態でも意識をしっかりと持てた理由だろう。
本当ならもっと練習したかった。しかし残りの魔力が少ない事を自覚しているラクーンは、どんどん重くなってくる体を動かし、自分の寝室に戻り、ベッドの上に倒れると一瞬で眠りに落ちる。
こうして大変だった一週間を乗り越えたラクーンだったが、ラクーンの性格を大きく変える日は、もう明日に迫っていた。
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