笑わぬ子供は試練に向けて・Ⅵ
ロビンに狩りを教わり始めて、六日が経った。後一日で一週間になる。
(さて、今日の授業はなんだろうな?基本の狩りと解体は教えてもらった)
そんな事を考えながら、いつもの場所に向かう。
「ロビン、来たぞ」
「来たか」
短く挨拶をしたら、その辺に座る。
「今日は何をするんだ?」
「今日は、狩人のルールやギルドに所属する時とかの話をしていく。その後は魔法の話だな」
「わかった」
「まずは狩人のルールとかだが、殆ど無い。基本的に一人でやるからルールなんて無いようなもんだ。ただ、面倒事に巻き込まれない為に気を付ける事はある。横取りしない事だ。当たり前だがな。自分が仕掛けた罠じゃ無い罠に掛かった獲物は狩るな。他の狩人や冒険者が襲われてても、手は出すな。面倒事に巻き込まれるぞ。冷たいと思うかもしれないが、どっちの獲物かで揉めるぞ。正直これくらいしかない。後はその地域で何かあるくらいだ」
「一つしかないのかよ。まあ横取りしても楽しくなさそうだから、しないけど」
「……。ギルドに所属する場合は、ギルド独自のルールがある事が多い。けど何処もほぼ必ずあるルールってのがある。一つ目は仲間を大事にしろって事だ。ギルドでは仲間は非常に大事だ。強力なモンスターと戦う時、一人でも欠ければ連携が崩れて全滅する事がよくある。だからミスをしても責めないし、守ってやらなければいけない。皆でカバーしあって戦う。だからどのギルドでも、仲間を裏切ったり、のけ者にしたりって事を絶対にしたらいけない。これはどんなギルドでもあるルールだ。命を懸けて戦う仲間を裏切るのは絶対ダメだ。二つ目は仲間の責任だ。ギルドの多くは全滅を何よりも避けようとする。冒険者ってのは危険な仕事だからいつ死んでもおかしくない。そういう時に今後一番期待できる者を逃がす事がよくある。その時に自分の大切な物を生かす者に託す事が多い。最後に自分の証を生きる者に託し、自分は命を懸けて時間を稼ぐ。一人でも生き残れば形見を家族に残せるかもしれないし、危険なモンスターの情報を伝える事が出来る。そういう時が来たら素直に受け入れろよ。最後の願いくらい叶えてやれ」
「わかった」
「ギルドとかのルールは大体こんなもんだ。さて時間もまだあるし魔法の話でもするか」
「魔法の話よりも聞きたい事がある」
「なんだ?」
「ロビン、僕はアガルタの中だと多分強い方だ。けど外だとどの位の強さなんだ?」
「それは俺では測りきれない。今後の出会いでも変わるし、今後どの位成長出来るかも分からないし、才能の壁もある。ただ現状の実力は戦ってみれば分かる」
「じゃあ戦ってみてくれ」
「良いぜ。ただ俺の戦闘力には期待するなよ。俺は弱いからな」
「前、僕に勝ってるだろ」
「あれは罠があったからだ。罠が無かったら勝てないさ。さて話ていても力は測れないし、さっそく戦おう」
「わかった」
そう言って立ち上がり<魔力武装・サーベル>を発動し、構える。
「サーベルか。珍しいな。普通は騎兵が使う物なんだが」
「これが僕の求めている武器の性能なんだ。片手で使えて、斬る事も出来るし突く事も出来る」
「なるほど。しっかり自分の求める武器を使うのは大事だし、その魔法の利点も生かしてる」
ロビンは弓を構えて、距離を取る。
「距離は開けても良いよな」
「問題ない」
「じゃあこの葉を投げて、地面に落ちたら動きだそう」
「わかった」
「じゃあ行くぞ」
そう言って葉を投げる。
葉が地面に落ちるとロビンは後ろに距離を取りながら弓を撃ち、ラクーンは血の魔法で針を作りながら接近を試みる。
「それがお前さんの一族が使う魔法か。面白いな」
そう言いながらロビンは何度も矢を撃ってくる。ラクーンはロビンの撃つ矢を躱しながら近づこうとするが、矢を回避しながらでは近づけない。
「<スピードショット><スピードショット>」
ラクーンは魔法を撃ち、ロビンに矢を撃たせにくくしながら近づこうとするが、距離は縮まらない。
(やっぱり当たらない。練習はしてないけど使うしかない)
「どうした? 動きを止めたら狙いたい放題だぞ?」
(自分の中にある魔力を感じろ……)
「……少し待ってやる。戦わなくちゃ実力は評価出来ないからな」
(いつも感覚でやっていた魔力を体の外に出す時とは違う、体の中にある魔力を体の中で動かせ)
いつもは魔力など感じず、ただ外に出し、魔法にしていたが、今回は意識的に魔力を体内で動かさなくてはいけない。
(魔力ってどこにあるんだ? いや体の中にはあるはずだ。探せ。体の中にあるいつも使っている魔力を)
そうして三分程魔力を探し続ける。
(どこだ。どこにある。どれが魔力だ)
さらに探す事三分。ようやく一つ、魔力の感覚を掴めるかもしれない方法を思いつく。
(そうだ! この状態で<探知>を使えば何か分かるかもしれない。これなら魔力を放ち続けるから、魔力が何処にあるのか見つけれるかも)
探知を発動し、魔力を外に放出する事で体のどこから魔力が出ているのかを探る。
魔力の出所を探し始めるとすぐに答えが分かる。心臓の隣、そこから魔力が出ている。これで体内にある魔力の感覚は分かったが、魔力はそこ以外の場所には無い。
(心臓の隣から魔力を出そうとすると、魔力が体の外に出てしまう。これじゃ魔力の流れを作れない)
「強化魔法を使おうとしてるんだろ? じゃあ魔力を水だと考えろ。水を動かし、流れを作るにはどうしたら良い?」
(魔力を水と考える)
「この広い世界に数滴の水を落としても、水は動かせないし流れは出来ないだろ? じゃあどうすれば動かせる? 流れを作れる?」
(必要な物は……器だ!器があれば流れを作れる。なるほど器に入れる水の量がいっぱいだと、水は動かない。だから魔力の量が多いと発動しにくいんだ。魔力は水、体は器。水を溜めたものの蓋をあけ、器に水を入れ、蓋を閉る感覚。掴んだ)
心臓の隣にある魔力を溜めておく所から、魔力を流し、体の中に溜める。
(分かる。魔力が体の中に溜まって行く。これで戦える)
「漸く掴んだか」
「お待たせ。漸く掴んだ」
「後はその魔力を動かし、流れを作るだけだ」
「わかった」
「それじゃ再開だ」
ロビンはそう言うと矢を撃ってくる。
(腕を振るのと同じ方向に魔力を動かす)
剣を振る動きに合わせて魔力も動く。
(分かる。威力が上がってる。これならロビンに追いつける)
手に集まっていた魔力を肘に動かす。魔力が動いた勢いで体を捻じり、矢を躱す。
ロビンに向かって走り始め、地面を蹴る足にも魔力を流す。地面を蹴る時は魔力を足先に集中させ、脚を上げる時は膝に魔力を動かす。一歩一歩の歩幅が大きくなりつつも、脚の回転はより速くなる。
ロビンは木が密集している所に入る。それを追ってラクーンも入る。木が邪魔で思うように走れないが、木を蹴って進む事で解決する。
(すごい……。いつも以上の動きだ。今までは出来なかった動きが出来る)
「凄いな。もうそこまで動けるのか。普通初めて使ったら体に思考が追いつかなくなるんだがな」
「そうなのか。けど今、僕はすごく楽しいぞ。今まで出来なかった動きが出来るんだからな」
「それはよかったな」
それから三十秒程ロビンを追うと、漸く剣の射程に入れる事が出来る。
「漸く近接戦だ。近接戦なら負けない」
「確かにこれは分が悪いな。けど不利でも手傷を負わせて逃げるのが狩人だ」
近接戦になる、というタイミングで木の密集地帯から少し開けた場所に移る。
「ここなら思う存分剣を振れる。行くぞ。ロビン」
「チッ! けど少しは耐えて見せるさ」
ロビンはそう言うと弓を手放し、短剣を構える。
ラクーンは木を蹴って移動していた為、宙に浮いていたが魔力を動かし、すぐに地面に着地する。地面に着地したラクーンはすぐに走り出し、ロビンに近づきサーベルを振り始める。ロビンはサーベルを躱したり、短剣でいなしたりしていく。
「このまま押し切る」
「まだまだ、この位じゃやられないぞ」
「じゃあもっと手数を増やそう」
そう言って血で作った針を捨て、新しく短剣を作り、攻撃していく。
「これでどう?」
「まだまだ問題ない」
「じゃあもっと手数を増やそう」
そう言って今度は蹴りを混ぜて攻撃していく。腕を振った勢いを利用して蹴り、短剣でも攻撃、蹴り、サーベルでの攻撃、蹴り、蹴りと不規則な連続攻撃でロビンを攻める。
「これでどう?」
「……ぐっ!」
「漸く当たった」
蹴りがロビンの胴体に入り、吹き飛ばす。吹き飛ばされたロビンに追撃を仕掛ける為に追いかけるラクーン。ロビンは何とか受け身を取り、体勢を立て直そうとするがラクーンが追撃で蹴りを放ち、また吹き飛ばされる。今度は受け身を取れず、地面に転がるロビン。転がったロビンを追いかけ、ロビンが止まると首にサーベルと突きつけるラクーン。
「負けだ」
サーベルと短剣を捨て、座り込むラクーン。
「楽しかった……。久しぶりに全力で動いたな」
「ふぅ……。お前さん、戦ってる時、少しだけ性格変わるな」
「そうか?」
「ま、自覚は無いだろうよ。それじゃ評価していくか」
「頼む」
「最大を5点として評価していくぞ。近接戦は3.5点、魔法は3.5点、体力は3.5点、走力は3点、回避技術は2.5点、発想は4点、今後成長する余地は4点って所だな。総評は特化した特徴は無いな」
「それは……イマイチな感じだな」
「けど自分の得意を押し付ける戦いは出来ないが、相手の苦手を突く戦いは出来る」
「相手の苦手を突く戦い?」
「戦いってのは基本得意の押し付けだ。自分の強みで勝負をする。当然の事だ。お前さんは特化した特徴は無いが、何でも出来るっていう特徴がある。どんな相手でも一つ位苦手な戦いがあるはずだ。剣を使うのは得意だが魔法の対処が苦手だったり、魔法は使えるが近接戦は苦手だったり、そういう苦手を徹底的に攻める戦い方が出来る。だから悪くない才能だ。特化はしていないが、すべてを平均以上に出来るっていう才能だ。仲間がいると真価を発揮する良い才能だ。ただ難しい才能でもある。才能を生かす為には大量の知識と経験が必要だ。普通剣の才能があるなら剣の練習を一番にする。けどお前さんは全て練習しないといけない。普通よりも大変だが、仲間と組んだ時に変わりの居ない人間になれる。そうなる為に知識と経験を積んでいけ」
「わかった。けど一人で戦うのはそこまでなのか?」
「一人で出来ても、一度に出来る事は限られてる。けど仲間がいれば、仲間が欠けた時にその欠けた部分を埋められる。お前さんより一つ一つの才能は上だがアヴァロンで今一番強い奴も同じ万能タイプだ。ただオール5点以上だがな」
「そうか。うん、磨けば強そうだ。ありがと」
「良いさ。……さて、今日は解散にしよう。結構遅くなっちまった」
空を見ると暗くなり初めていた。
「そうだな。今日はありがとう」
「じゃあな」
「また明日」
こうしてロビンと別れ、屋敷に戻る。
屋敷に戻り、地下室で血の魔法の練習をしていると父親が来た。
「ラクーンよ、魔法の練度はどうだ?」
「順調です」
そう言いながら、血で針を作り、投げる。
「そうか。その速度で発動できるなら、もう血の強化魔法も使えるだろう。血の強化魔法の使い方を教えてやろう」
「わかりました」
「血の強化魔法は疑似筋肉を作る魔法だ。柔軟性を持たせた血を細く、糸の様に分け、体の周りを覆うんだ。体の一部だけに筋肉を作る事も出来るぞ。作る筋肉の硬さしだいで威力も変わる。血の強化魔法を腕に使ったと考えて説明するぞ。筋肉を硬くすれば腕を伸ばした時の威力は上がるが、腕を引く時に力がいる。逆に柔らかくすれば威力は落ちるが、連続して攻撃できるぞ。だから、どの程度の硬さが良いのかはわからない。ラクーンが自分で最適な硬さを見つけなければいけない」
「わかりました」
手の平を切り、血を出す。
(結構な量の血が必要そうだ)
流れ出ている血に魔力を混ぜながら、ある程度の大きさの血の塊を作り、細い糸の様にし腕を覆っていく。疑似筋肉の硬さは、かなり硬めになっている。
(これは……なかなかキツイな……ずっと腕を伸ばして無理やり伸ばされてる感じだ。指を曲げる事にもかなり力をつかう)
「おお……凄いな。さすがだな、一回で使えるようになるとは。どうだ?使ってみた感想は?キツイだろ?」
「……はい……これは…キツイです」
「そうだろうな。まあ、慣れれば問題なくなる。その状態で壁にパンチしてみろ」
「はい」
壁の前に立ち、拳を構える。
「気をつけろよ、しっかり踏ん張っておかないと、腕に引っ張られて飛ぶし、威力が落ちるぞ」
その言葉を聞き、しっかり踏ん張り、狙いを定めて撃つ。
「……はっ!!…………うお……」
拳を放った瞬間、腕に引っ張られて飛んでしまう。そのせいで狙いが外れて空気を殴ってしまう。それに驚いて変な声も出ていた。
(これは……制御できないな……剣とか持ってたらどうにかなるかな?これも研究しないといけないな……。後、骨が痛い。使い辛すぎる。普通の強化魔法の方が絶対強い。慣れるまで時間がかかりそうだ。それにちょっとクラクラする。うまく立てない)
「ははは、派手にぶっ飛んだな。まあこれでも飲んで落ち着け」
そう言って赤い液体の入った瓶を渡してくる。
「これは?」
「秘伝の造血ポーションだ。飲みすぎると体に異常が出るから一日一本までだが、即効性がある。これの作り方は今度教えてやる。早く飲め、結構な量の血を使ったからな、貧血気味になってるんだろ」
渡された造血ポーションを飲むと、クラクラとした感じが良くなった。
「今日はこのくらいで休むと良い」
「わかりました」
こうして六日目が終わる。
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