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空先カナタの異世界宇宙探検記  作者: 木山京


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1-5.せん滅CAS 派手に行くべ!

 重要なのは手段だ。目的ではない。いいや、この場合はすでに目的が決まっていた。魔王の討伐とひいては地球への帰還。カナタとノーマッドに共通する願いだ。

 問題はどうやって魔王を滅ぼすか。


『控えめに言って、接近はおすすめ出来ません』


 アルファは淡々と語る。


『目標周辺の地表に高濃度の腐食性有毒ガスを確認。硫化水素と思われます。生身のカナタは当然、あなたの防御システムでも長時間の活動は困難ですよ、ノーマッド』

「まさに魔界だな」


 感慨深げにノーマッドは言った。カナタもまた専門用語こそわからずとも、情報生命体の告げた警告は理解できる。

 だからこそ、いざ目の当たりにして感じるのは王たちの疑念だ。

 彼らは正気なのか? 毒ガスに満ちた死の土地へ踏み込んで世界を救う。字面は英雄的なれども正攻法が見当たらない。それとも魔法を極めたら、眼下の瘴気さえ退けることが出来るのか。

 いずれにしてもカナタひとりでは辿り着けなかっただろう。


「ど、どうします?」


 カナタの問いかけに、ノーマッドはすぐ答えなかった。彼はあごに手をやって黙考し、ただ地上を睨んでいた。鋭い眼差しは最適解を探っている。


「ノーマッドさん……?」

「ああ、いや少し気になってな。アルファ、エリア内に生命体の痕跡は?」

『皆無です。少なくとも、この星の生物が存在できる環境ではありません』

「だよな。じゃあ、魔王とやらは本当に実在するのか?」


 ノーマッドの指摘は的を射ている。命が生きてゆけない土地。であれば魔王もまた存在できないのではないか。この一帯は何らかの異常気象が滞留しているだけで、その説明がつかない事象に人が魔王というシルエットを重ねただけでないか、と。

 しかし、


『生命反応はありませんが、多数の動体を検知。いずれも、およそ2メートルから3メートル程度。動作および歩行のパターンは人間に酷似していますね』


 つまり何かがいるのは事実なのだ。生命の枠を外れた存在がひしめいている。魔王が事象の別名であるという線はなくなった。


「そっか、もしかして……」

「どうした?」


 ふと思い至ったようなカナタへ、ノーマッドが肩越しに振り向く。


「こっちに来た時、言われたんです。魔王は死者を統べる、とかなんとか。それって魔法か何かの力で死んだ人を蘇らせてるのかと思ってたんですけど、そうじゃなくて。魔王自体も魂だけの存在なのかも。一緒にするみたいでなんだけど……アルファさんみたいな」

「なるほど、情報生命体の一種か」

『あり得る話です。私たちは人間と違う定義の生命ですから。有毒ガスは関係ありません。もっと言えば私にとって電子機器がよりどころに適していただけで、別の無機物や有機物、つまり死体や甲冑などに入り込む種も、これまでに存在しています』


 記録にないからといって存在しないわけではない。実際、ノーマッドたちは魔法を知らなかったが、今ここに魔法を使えるカナタという少女がいる。


「そいつは妙なオカルトパワーと相性が良く、空間だの次元だのを歪めて仲間を増やし、挙句この天変地異みたいな環境を引き起こしてる、と。しっくり来る気はするな」

「た、倒せるんですか? そういう存在って……」


 仮定がまとまったところでカナタはおずおずと訊いた。応じるのはアルファ。


『私ほどになると、撃滅はほぼ不可能です。我々は実体がない代わりに、正しく自己を観測できてさえいれば常に存在し得ますから』

「え、えっとぉ……?」


 説明の内容がどうというより言い回しに頭を抱えるカナタであった。語尾など上擦ってしまう。


「どこにいて形がなんであれ、自分は自分だって思ってれば死なないんだと」

「ああ、そういう!」


 ノーマッドの助け舟でなんとか腑に落ちた。


『座標周辺の反応はいずれも人ないし動物的な造形をしており、動作も器の外観をなぞっています。実体が持つ固定概念に囚われているのですから、私に言わせれば乳飲み子ですね。肉体が粉砕されでもしたら瞬く間に意味消失して霧散するでしょう』

「意味? が、消失……ですね! なるほどぉ! ふ、深いなぁ!」

「無理しなくていいぞ」


 精一杯の背伸びを呆気なく一蹴され、少女は両手で顔を隠した。耳まで赤い。慣れない話題に首を突っ込むのはやめよう、と心に違う。


「ともかく一撃で粉砕すればいいわけだ。……いつまでそうしてんだよ」

「ほっといてください、うぅ……どうやるんです?」


 少し持ち直して尋ねるカナタに対し、ノーマッドの方はすでに方針を決したらしかった。


「ミグラテールの武装じゃ無理だ。――アルファ」


 と、端的に応じてから曰く強靭な精神力を備える仲間に告げる。


「こちらからの間接照準で軌道爆撃を頼む。ピンポイントで一気に決めたい。キネティック・ロッド・システムを使うぞ」

『僻地の惑星で、未許可の使用。私は責任を取りませんよ』

「バレなきゃ犯罪じゃないんだよ。やってくれ。こっちは観測ポイントに動く」

『了解。ウェポン・システム起動』


 アルファとやり取りする傍らで、ミグラテールは再び緩やかに動き出した。魔王のいる遺跡群を離れていくらか上昇。充分な距離を取ると機首を転進、向き直って再度の滞空に移る。


「な、なに……!? 大丈夫なんですか!?」

「まあまあ」


 どうもただ事ではなさそうな雰囲気に狼狽したところで、軽い調子のノーマッドになだめられる。

 その瞬間、少女は直感した。あ、これ絶対やばい……と。

 大人がこういう言い方をする時は、大抵こちらの予想を悪い意味で突き抜けてくる時だ。わざとらしい子供扱いで流し、一切合切をとんでもない方法で決着させてくる声だった。

 証拠にアルファが物々しい単語を発し続ける。


『砲撃座標を受信、ロックしました。アダマンロッド装填。チャンバー内、閉鎖完了。装薬コンテナの接続および電磁誘導を開始。重力アンカー展開、反動制御クリア。スタンバイ』

「撃て」

『3、2、1……ファイア』


 どこか遠くの、空よりさらに向こう側で。宇宙飛行士の意を受け取った情報生命体により、ある兵器の発射システムが点火された。

 それは奇しくもカナタと同時期の地球文明においても考案されたものの、実現不可能、あるいは実用化のコストに見合わないとして一蹴された技術である。


 むろん、全くの同一ではない。

 アルファが展開した兵装は、言ってしまえば地球で考案されたシステムをさらに発展させた代物。火薬によって初速を得た後、電磁誘導の力で加速。一直線に地表へと衝突し粉砕せしめる。

 この星の知的生命体が目にすれば、さながら神の所業に映っただろう。当の地球人であるカナタにさえ、一瞬ながらこの世の終わりを彷彿とさせたのだから。


「なっ、あ……っ!?」


 黒雲がうがたれる。

 天空世界より降り注いだ一個の火球。流れ星というには巨大で、彗星と見間違うには鋭い。絶句する少女を他所にその絶望的な物体は魔王のいる遺跡群へと瞬時に到達。爆炎と呼ぶのすら馬鹿馬鹿しく思える人知を超えた衝撃と業火でもって、一帯を凄惨な破壊エネルギーへと飲み込んだ。


『発射完了。目標エリアへの着弾を確認』


 太陽でも落ちてきたのではないか、と。一面を朱色に染めたキノコ雲を前に、平然としたアルファの報告は場違いに聞こえる。

 いや、アルファだけではない。


「直撃だな」

『いいえ。予想より100メートルほどズレています。発射システム自体の老朽化に加え、惑星環境のデータ不足による誤差ですね。重力、自転速度などの詳細は概算でしかなかったので』

「それでも効果範囲だろ」

『当然です。しかし私としては、より完璧な結果を求めていました』

「上を見たらキリがないぞ。なあ、カナタ。……カナタ?」


 オレンジに燃える惑星の一部を背景に他愛もない様子でやりとりしていたノーマッドは、やっと呆然とした少女に気付いた。果たして異常なのはどちらだろう。


「おーい? どうした、平気か?」

「……か」

「か?」

「核ミサイル……ッ!」


 言葉を失った口でどうにか絞り出した単語は、カナタの精一杯だった。


「ば、ばか! そんなもん使うか!」

「だってあれ! あれ……ッ!」

「核じゃない、質量兵器だ! 棒、というか柱だ! デカい柱!」

「柱落としてあんな爆発するわけないでしょお!?」


 今にも掴みかかりそうな勢いで詰め寄る。ある意味で、カナタの指摘は正しかったかもしれない。地球で考案された同種の兵器は、まさに発射体が柱であることも計画中止の後押ししたのだから。


「いやだからあれはだな、なんというか……ア、アルファ!」

『……はぁ~』


 説明を諦めたらしい。無責任にも小難しい役を全て押しつけるノーマッドに、情報生命体は盛大なため息を挟んでから続けた。


『カナタ、落ち着いてください。いま使用したのはキネティック・ロッド・システム、核ではありません』

「キネ……キ!? 木の、キ……!?」

『落ち着いて。キネティック、ロッド、システム。柱状運動エネルギー弾複合発射機です』

「余計わかんないよっ!」


 至極真っ当な意見だった。一言ずつ区切られようが、別の言葉を使われようが、そもそも理解が追いついていないのだからどうしようもない。


『私の操舵する母艦に搭載された兵器のひとつです。簡単に説明すると、アダマンチウム合金という素材で出来た巨大な柱を、火薬と電磁力を用いて衛星軌道から撃ち出します。前者で初速を得たあと、後者で加速させるわけです。最大出力で亜光速にも到達する発射体は、着弾の衝撃で蒸発。周辺地域を核兵器に匹敵するダメージで破壊しますが、むろん核ではないので汚染もありません』

「つ、つまり?」

『少々手の込んだ砲撃です。数時間以内に収まりますよ。元は害獣駆除用ですし』

「がい……害獣? ……ネズミ?」


 想像を絶する破壊兵器が、急にスケールの小さいものだと言われた気がする。聞き間違いかともカナタは考えた。だがそうでもないようだ。


「災害指定種ってのが居てな。たとえば小惑星帯に住むデカいミミズだとか、惑星に寄生した特殊な菌類だとか。そういうのを駆除する用に使われてんだ。遠距離から一撃で、って考えだよ」

「それを……使った、と。……魔王に?」

「見ようによっちゃ同じようなもんだろ?」


 果たしてそうだろうか。ミミズやカビの仲間と同列に並べていいのだろうか。魔王というのは伝説の聖剣だとか究極の魔法だとか、そういうもので倒す相手ではなかっただろうか。

 と、カナタはここまで思いましたが口に出せない。聖剣も究極魔法も手元にないし、倒したことに変わりはないのだから。それでも腑に落ちない思いから、物言いたげに頬をひくつかせるばかり。


「とりあえず片付いたな。アルファ、動体反応は?」

『今は無理です。着弾の影響でスキャン出来ません。休んでいたらどうです? 見張っていますし、必要とあらばこちらで第二射を撃ち込むまでです』

「それもそうだな。……お?」


 変化が訪れる。ミグラテールの頭上に広がっていた分厚い雲の層が、見てわかるほど薄らぎ少しずつ晴れ間を覗かせてゆく。


「効果ありってことか?」

『どうでしょう。魔王と天候との因果関係が不明ですから。または元から魔王とは関係なく、軌道爆撃の影響で気象条件に変化が訪れた可能性も』

「いずれにせよ様子見か」

『そうなります』


 一旦、ノーマッドはカナタを振り向く。


「というわけだ。どうする?」

「どっ……すみません、いま頭の中いっぱいいっぱいで……」


 この一時間余りでいろいろなことが起こりすぎた。

 まずゴブリンに殺されかけ、宇宙飛行士に救われ。ハンバーガーをご馳走されたあと、宇宙船へと乗り込んで情報生命体に会い。山脈を飛び越え魔王の本拠地にたどり着いたら、目の前で害獣用の超兵器が撃ち込まれ……。

 正直なところ、カナタにしてみれば脳みその処理能力を完全に超えている。


「そう難しく考えるな。つまりだ。魔王はひとまず倒した。あれで足りなきゃ、もう一発ぶち込む。ここまではいいか?」

「はあ」

「で、お前は例のろくでなしの王に選ばれた勇者なわけだから、魔王を倒した報告をする。それが完了したら、めでたく地球への帰還だな?」

「まあ」

「じゃあ一旦は森まで戻って、明日になったら国王とやらの城だか宮殿だかに乗り込むか? 砲撃した一帯をスキャンするにも時間がいるし、ひと息入れて損はないだろ」


 ひとつずつ、丁寧にかいつまんでノーマッドは尋ねた。選択肢が少ないのだから彼自身が決定してもよさそうなところだが、律儀にもカナタの意思を尊重している。


「えっと、私はそれでいいんですけど……ノーマッドさんは? 明日、どうします?」

「ついてっていいなら一緒に行くぞ。おれも帰還が目的な以上、報告には同席しときたいし。この星の文化にも興味があるからな」


 よかったぁ、と。カナタは言葉にこそしなかったが胸を撫でおろした。彼が一緒に来てくれるなら心強い。

 同郷だけど違う国、違う時代の人間で、おまけに突拍子もない行動をアルファと揃って起こす節はあるにせよ、人柄に対して疑念はない。この世界で初めて出来た信頼できる相手だ。


「じゃあ、そうしましょ。……あっ、それと」

「なんだ?」


 危うく言い忘れるところだった。意識してから告げるのも、それはそれで気恥ずかしくてカナタはおずおずと頬を染めながら口にしたが。


「ありがとうございます、ノーマッドさん。もちろん、アルファさんも。おかげで私……二人に会えて、本当に助かったし嬉しかったし……ありがとう」


 一拍を置いて、二人が笑った。むろんアルファは表情などないが、届く声音の気配でそう感じる。


「いいさ。なあ?」

『ええ。乙女を助けるのは淑女のたしなみです』


 なんてことはない。恩を着せるためにやったのではないし、出来る範囲で手を貸したまでだ、と。

 ノーマッドとアルファは揃って微笑みかける。心地良い気安さ。だからカナタもまた、いつか彼らの助けになれたらいいと思いつつ、柔らかな表情でそっとはにかんだ。

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