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空先カナタの異世界宇宙探検記  作者: 木山京


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1-3.うちゅうの渡り鳥だよ

「その、なんだ……またずいぶんと災難だったんだな」

「あ、あはは……まあ、ですね」


 二人になった道行きで。カナタは先導するノーマッドを追いつつ、事のあらましを話して聞かせた。何の前触れもない召喚に帰還の手立て、王宮の連中や魔王の存在などなど。

 そうした一連の出来事に対し、ノーマッドのどうにか選んだ言葉が前述のもの。引き気味の口調が背中越しにもわかる。


「でも大したもんさ。おれが十五の頃なんて遊んでばっかだった」

「私だってそうですよ、先週までは。っていうか、さっき助けてもらわなかったら死んでましたし」

「中々戦えてたじゃないか。あの、火の銃弾みたいな」

「ああ、あれは……って、見てたんですか!?」


 ギリギリで間に合ったわけではないのか。てっきり慌てて駆けつけてくれたのかと思っていたが。


「ま、待て待て、見物してたんじゃないぞ? 未開の惑星で、しかも未知の文明だ。気軽に接触するわけにもいかんだろう?」

「……やっぱ見てたんじゃないですか」


 じぃーっと睨むカナタ。もっと早く助けてくれればいいのに。せめて骨が折れる前。


「それはまあ、そうなんだが……一応、あれだ。いつでも撃てるように射撃ポジションは取ってたし、実際にこうして助けたわけだから、なぁ? 別に薄情とかそういうわけじゃなくてだな?」

「冗談ですよ、ふふっ」


 思った以上にあらふたするノーマッドの様子へ、思わず笑みがこぼれる。


「お。なんだ、ちゃんと笑うじゃないか」

「え?」

「難しい顔ばっかしてたからよ。事情が事情だから、無理もないか」


 言われてみればそうだった、とカナタは独りごちた。こうして肩の力を抜き自然と笑うのは、この世界に来てから初めてのこと。

 常に気を張っていた。なにもわからない異文化の土地に放り出され、信用できる人もいない。生活どころか命の保証までが自己責任。王への意地や、気を抜いたら膝から崩れ落ちそうになる恐怖に耐え続けていた。


 カナタはずっと戦っていたのだ。この数日間、このデタラメな世界と。


「で? さっきのは結局なんだ? 炎、飛ばしてたやつは」

「あ、魔法みたいです」

「魔法だぁ?」


 振り向いたノーマッドの前で、空に指鉄砲を構えてみせる。


「こう、力が流れてくのを感じたら、指先に意識を向けて。あとはそのまま、どういう力が発射されるかをイメージしたら……ファイヤーショット!」


 蒼穹めがけ炎が飛び出した。


「すごいな」


 と、ノーマッドが口笛を吹く。


「魔法ってのは杖のイメージあったが……」

「だいたいはそうみたいですよ? 強力なの使ったり、同じ魔法でも、お手本で見たのは違いましたし。イメージ元っていうのかな」


 一拍置き、頭をひねりながらカナタは続けた。


「具体的な想像の出来る方が、威力とか射程とか上がるみたいなんですよね。それで私は鉄砲とかのつもりで使ってみたんですけど……この世界、銃がないらしくて。だから他の人たちだと弓矢や投石のイメージで撃つのが基本だとか」


 淡々と告げる。指鉄砲の形もそのためだ。イメージの具体性はあればあるほどいい。


「って、そうは言っても私、別に銃撃ったことないんですけどね、あはは……。映画じゃよく見るし、お祭りの射的はやったことあるから、それくらいの感覚なんですけど」


 照れ笑いする少女を、ノーマッドはしげしげと見つめていた。


「ど、どうしました?」

「いや……カナタ、お前、実はとんでもないやつなんじゃないか? さっきの話じゃ、ここの偉いさんは酷評してたそうだが。来て四日の人間がそんな簡単に習得して、おまけにアレンジ効かせられるもんか?」


 ノーマッドの指摘は正しい。絶句していたのも、むべなるかな。

 魔法の習熟に関して、カナタの成長速度は異常だ。この世界に馴染んでもいない内に、基礎程度とはいえ自分のものにしている。むろん本来の、地球にいた頃の彼女には不可能だっただろう。


「あー……それ、スキルって言うやつのせいかも。召喚された人は、ここに来る時に特殊能力が発芽するとかなんとか」

「そりゃまた親切設計だな。日本と行き来できりゃ、なおいいが」

「ですよねぇ。……私のは術理複製、テックコピーとか言うみたいで。目で見て理解した技術はなんでも身につけられるとか」

「おいおい反則だろ! 見ただけで?」

「見て理解できれば、ですからっ!」


 確かに一瞥しただけでは完璧な能力に聞こえる。いや正しく使えたらその通りなのだろう。訓練期間を経ずして一級品の戦士になれたり、技さえ見ればどんな魔法を使いこなせるような。

 そんな全能の能力に聞こえた、が。


「基礎が出来てる人なら、いいかもなんですけど……魔法は、多少覚えましたよ? このおかげで。でも剣とか体術とか、そういうのは全くダメで。その動きをするとき筋肉がどう動いて、どういう風に力を乗せるのか……とか。そうした全部を理解しないと身につかなかったり。魔法だって、初級以外の術は発動しませんし……」

「大器晩成、って言っちまえば聞こえはいいが……なるほど。便利なのか不便なのか、よくわからん力なわけだ」

「そういうことです」


 弱々しくカナタは笑う。玄人向けの特殊能力。元から武術のたしなみがあれば別だろうが、右も左もわからない少女では宝の持ち腐れだ。


「ノーマッドさんは、どういう経緯で?」

「さん付けしなくていいぞ」


 気安い調子で言われる。

 すると、


「え、いや無理です。初対面のおじさん呼び捨てとか、そんな陽キャなムーブ」

「お? おお、そういうもん……なの?」

「当然でしょ」


 きっぱり言い放つ。

 無表情でズバズバまくし立てられ、ノーマッドの方が仰け反った。空先カナタ、嫌なものは嫌だと真顔で物申せる女だ。


「わからんな、女は。いや年頃か? ……まあいいか」


 ぶつさく自問自答してから、彼は再び歩き出して言う。


「NASAの仕事でな。月面調査クルーのメンバーとして月に行ったんだが、トラブルが起きた」

「トラブル?」

「ああ。こんな状況だから言っちまうと……月のクレーターにはな、宇宙人の遺跡があるんだよ」

「……からかってます?」


 当然抱くであろう感想を、カナタはそのままぶつけた。応じるのは思いのほか真剣な声。


「大真面目だ。なんで冗談だと思う?」

「や、だってエイリアンなんているわけ……」

「そうかもな。じゃ、おれたちが今いる場所はなんだ?」

「……」


 押し黙るほかない。ここには宇宙人どころか魔物がいる。カナタ自身、先ほど殺されかけたところ。魔法や怪物がいる世界があるなら、地球の月にエイリアンの遺跡があってもおかしくあるまい。


「まあ、本当に宇宙人が作ったのかはわからんさ。アポロ計画ってわかるか?」

「あれでしょう? 昔、月に行ったっていう。人類には大きな一歩だ、って」


 初めて月面を歩いた男の残した言葉。カナタもこれくらいは知っている。


「昔か。まあ、そうかもな」

「……? 違うんです?」


 変に引っかかる物言いだ。


「いや、たぶんそうだな。偉大なる宇宙の先人たち、アポロ11号。その時点でアメリカもソ連も、月遺跡の存在は確認してたのさ。で、11号のクルーが遺跡の位置を把握。そこからコツコツと探索計画を進めて、おれたち20号クルーはロシアとの合同で極秘に打ち上げられた。初めての直接探索ってことでな。1976年のことだった」

「急に陰謀論っぽいんですけど……」

「そう言うなよぉ。実際、体験したおれも与太話に聞こえるんだ。……ま、ともかくだ」


 一拍置き、ノーマッドは続けた。


「その遺跡の中で、妙な……装置なのか生き物なのか、わからんものに出くわした。クルーの一人は、そいつを見るなり『神はいた』なんて呟いてたな。そしたら、装置が急に動き出してよ。気付いた時には宇宙のどっかを漂流してた。ありゃ怖かったな」


 遠くなつかしむような、未だに身震いするような、静かな声。


「怖いって、その装置が……?」

「いやぁ、宇宙がだ。無重力の真空、自分の位置もわからない。ひと呼吸する度、スーツの酸素が無くなるのを感じた。ひたすら寒くてな。呼びかけても、誰の声も聞こえないんだ。このまま窒息死するくらいなら、いっそヘルメットを取って死んだ方が楽じゃないか、とか。あれこれ考えた」


 束の間、カナタは言葉を失う。

 事実だとしたら……いや、事実なのだろう。ノーマッドの物語る話は、彼自身の声色によって強烈な生々しさと孤独感をカナタに抱かせた。

 想像を絶する体験だ。宇宙の闇にひとりぼっち。じりじりと迫る死神から逃れる術もない。常人なら死より早く発狂していてもおかしくなかった。


「そんな状況で、どうやって……?」

「助けられたんだ。偶然、通りがかった宇宙船にな。今度こそ本物のエイリアンだぞ。で、そいつの話によれば地球なんて星は知らないんだと。……知ってるか? 銀河ってのはな、おれのいた頃でも数千億あると言われてた」

「数千、億……」


 文字通りの天文学的数字である。


「それだけの数があるなら、おれたちよりずっと進んだ宇宙文明だって、ここみたいにファンタジーしてる奇妙な星があってもおかしくないだろ? で、それからずっと、おれは地球を探してる」

「ずっと……って、何年くらい?」

「そうさなぁ。アポロに乗ったのが32。で、今は42のはずだ。だいたい10年くらいか?」


 年齢を含め、ずいぶん曖昧な物言いをする。

 そこでカナタは気付いた。


「待って。さっき月に行ったのは何年って……」

「ん? 1976年」

「それから10年間?」

「ああ、だいたいはな」

「……私、先週まで2025年の日本にいたんですけど」


 どうやっても計算が合わない。カナタがいた時代と、ノーマッドがいた時代。あまりにズレている。本来なら目の前の男は、老人になっていて然るべきだ。

 だがむしろ落ち着いた口調でノーマッドは応じる。


「言っただろ、だいたい、だ。おおよそだよ。おれはこれまでいくつも星を渡ったし、その中で重力の異常にも襲われた。たとえば極端に重力のデカい星にいると、そこでの一秒は地球の一日だったりする」

「あ、そういう映画あった」

「なら話は早い。要するに、宇宙じゃ時間の流れも一定じゃないのさ。なんでもありだ」


 先ほどアポロ11号を昔と評したカナタに、どこか物言いたげだったのはこのためか。

 突然、カナタは足下がフラつく錯覚に襲われた。なんとも壮大なスケールの話を、異世界に来て数日で聞かされている。これで眩暈を覚えない方がどうかしてるというものだ。


「ついてけないかも……頭痛くなってきた」

「よぉーくわかるぜ、その気持ち。ただまあ、人間なんにでも慣れちまうもんさ。真剣に考えないで、なんとなく受け止めてりゃいいんだよ」

「そーゆー適当な言い方して。ノーマッドさん、能天気って言われません?」


 唇を尖らせた少女の抗議を、宇宙飛行士は快活に笑い飛ばした。


「真剣になっても息が詰まる。息苦しいのは苦手なんでな。バカでいると良いこともあるぞ」

「たとえば?」

「話し込んでる内に到着してる」


 視界がひらけた。さながら森の中に広がる空白地帯。見通しのいい草原が二人の前に現れる。


「……? 何もないんですけど」


 ノーマッドは船に案内する、と言っていた。彼の口ぶりからして宇宙船なのだろう。

 しかし辺り一面、広がるのは穏やかな青草ばかり。吹き抜ける風が気持ちよかった。


「まあ見てろ」


 と、男は言ってスーツの左腕を操作した。そこだけタッチパネルのデバイスが付いている。電子音が鳴らしつつ、数秒。

 それは何の脈絡もなく起きた。


「わっ……!」


 空間が歪む。巨大な物体が、ぐにゃりと歪んだ虚空よりやってきた。いや、初めからそれは存在していたのだ。


「いい船だろ?」


 風景と完全に同化してしまうステルス機能。いわゆる光学迷彩を備えた、一機の宇宙船。

 カナタはいつか見た航空ショーを思い出した。主翼がありコックピットがあり、と。文明のレベルや発祥の地に限らず、空を目指す飛行機械はおのずと近しい姿を得るのか。

 だが、そんな故郷で見たどの飛行機よりも、この機体は……。


「キレイ……」


 ぽつりとカナタは呟く。

 先鋭的なフォルムは、頭上から見たなら一個の鋭い矢じりのようだったのがわかるだろう。全体の色彩はノーマッドの宇宙服と同じ白。外装によくよく使い込まれた気配が滲むものの、日差しをはじく輝きは決して褪せない。


 いやむしろ、そうした荒々しい生傷たちこそが過剰な神秘性を削ぎ、この宇宙を巡る船は決して空想の産物ではなくて、今ここに間違いなく存在しているのだという実感を与えていた。

 ノーマッドが言う。


「ミグラテールだ。お前の国の言葉だと、渡り鳥だったかな。元はある宇宙国家の制式戦闘機なんだが、いろいろあって融通してもらった。数えきれない星を旅した戦友だよ」


 まだ見惚れているカナタの反応が、きっと嬉しかったのだろう。どこか誇らしげな物言いで、実際にこの男にとって長く連れ添った愛機は自慢の友人だった。親友の価値をありのまま賞賛している少女の眼差しは、ノーマッドの胸を熱くさせたはず。


「来いよ。バーガーは好きか?」

「ええまあ……え。なんの肉?」


 一転、カナタはどこか警戒気味になった。宇宙を旅する男が用意するハンバーガー。原材料が牛とは思えないのだ。

 この世界での食事もそうだった。街にいる間は当然なにかしらを買って食べたわけなのだが、どれも地球とは似て非なる食材ばかり。特に水の味が違った。水質か、魔力でも含んでいるというのか、軽い腹痛に悩まされたカナタである。

 もっとも、これは杞憂であったらしい。


「鶏肉だよ。牛や豚は結構変わるもんだが、どういうわけか鶏はどこの宇宙でも鶏みたいだ」


 冗談めかして肩を竦めるノーマッドに、招待された側は自然と頬が緩む。

 彼は戦闘機の側面へと近づき、小さなコンソールを押し込む。すると外装パネルの一部が開いた。


「収納スペースですか? そんなとこに」

「こいつは長距離偵察機も兼ねてる。キャビンとまではいかないが、単独でも数日飛べるようにいろいろ積めるんだ。――ほら」


 ボトルとランチボックスを受け取った。前者はプラスチックに似た透明な容器に、鮮やかな水色をした液体が詰まっている。もちろん未開封。

 ボックスはと言うと、


「あ、ありがとう……ジェットスター・ドライブイン? ビッグバン以外は年中無休……」

「読めるのか?」


 なんとなしに表面の宣伝を読み上げたカナタに、驚いた眼差しが注がれる。


「や、読めるっていうか、ある程度の文字とか言葉とか勝手に翻訳される、っていうのか」

「そういえばおれたちも話せてるか。てっきりこっちの翻訳装置が動いてるもんだと思ってたが」


 というからには、どうやらスーツにそうしたテクノロジーも搭載しているのだ。星々を巡るのなら言語の違いは避けられないし、当然といえば当然である。

 ノーマッドは続ける。開け方に苦戦しているカナタのボックスを、片手間に開いてやりながら。


「そいつも、例の特殊能力か? 術理複製っていう」

「あ、どうも。……違うんじゃないかな? 王様たちも似たようなこと言ってたし。言葉は翻訳されるとかなんとか」


 最初に召喚された時だ。王はぶつくさ不満を並べていた。


「何もかも手探りか。言っても仕方ない、食うか」

「……ん、ですね。いただきます。あ、美味しい」


 地球のハンバーガーとほとんど変わらない。むしろこちらの方が上だろう。

 バンズは硬すぎずレタス風の野菜がシャキシャキと鳴る。鶏肉はこんがり焼けてるし、チリソースに似たピリ辛のタレが合わさって、まさしく絶品だ。

 食事の力はすさまじい。カナタのまだ楽観的になれない気持ちが、少しだけ上を向ける。

 のどかな草原に吹き抜けるそよ風。レジャーシートがあればまるでピクニックのようだ。軽やかに鳴いて空を行く鳥の見たことのない四枚の翼で、ここが異世界であることを思い出すものの。


「不思議なもんだよな」


 何の気なしにノーマッドが言う。


「星も文明も見た目も違うのに、小麦と野菜と肉があれば人間はハンバーガーを作っちまう」

「宇宙人って、やっぱりいるんですか?」

「ああ、いろいろだ。おれたちみたいなのも、爬虫類や両生類、動物みたいなのまで。中には幽霊みたいなやつもいるよ。情報生命体って言ってな」

「幽霊……?」


 ドリンクを飲みつつカナタは訊いた。ソーダに似た微炭酸。ほんのり甘く、それでいて口の中には残らない。濃厚なハンバーガーを胃に流し込んでくれる。


「実体がないんだ。おれたちとは概念が違う生き物なんだろうな。……ところで、だ」


 まずひと呼吸を置く。


「カナタ、お前これからどうする?」


 キリよく少女が食べ終わる頃合いを見計らうと、宇宙飛行士は言った。


「どう、っていうと?」

「魔王だったか? そいつを倒せば日本に帰れるんだろう?」

「そういう話ではありますけど、ね」


 ゴブリン相手ですら死にかけるのだ。旅を続けたとして魔王討伐は何年先だろう。

 だが、それでも……。


「やるだけやってみるつもりです。いつになるかわからないけど。家族も友達も、モフゴロウにだってまた会いたいから」

「そうだよな。そりゃ……待て、なに? モフ……なんて?」

「あ、うちの猫。モフモフで、寝るとゴロゴロ鳴くので」

「ああ、猫……猫ね」


 しんみりしかけた空気が緩む。気の抜けたモフゴロウの姿が浮かぶようだ。

 ノーマッドは咳払いをひとつ挟み、


「そういうことなら一緒に来るか?」

「え?」

「魔王だ。一緒に倒すか?」

「いいん、ですか?」


 カナタにしてみれば願ったり叶ったりだ。単独行は気が気じゃないし、ノーマッドの実力は折り紙つき。すでに命を救われてもいる。本心を言えば、ずっと助けを求めたかった。

 とはいえ、それはあまりに虫のいい話だ。先ほど会ったばかりの命の恩人へ、同郷のよしみで魔王討伐に協力してほしい、などと。そこまで言ってしまうのは気が引ける。

 取り巻く世界が変わっても元の性分は同じまま。基本的には引っ込み思案の少女である。

 そんなカナタへ、ノーマッドは笑った。


「実を言えばな、なんとでも言ってついて行こうと思ってた。地球に帰れる手段があるなら、おれもすがりたいんだ。おれがいた頃より、だいぶ様変わりしちまってるようだが。故郷は故郷なんだ」


 十年間、ひたすら地球を探し続けてきた男。帰郷の念を、どちらが上だと比べられるはずもないが、カナタと等しくあの青い惑星を目指しているのは変わらない。


「……よろしくお願いします、ノーマッドさん。無事に帰れたら、次は私がご馳走しますね」

「期待してるぜ。じゃ、さっさと済ませるか。どこだか知らんが、だいたい夕暮れ前には行って帰って来れるだろ」

「ですね、夕暮れ前には……夕暮れ前ぇ?」


 間抜けな声が出る。

 近くの村さえ数日を要する距離なのだ。まして目的地は魔王の居城。いや城かはわからないが、遥か遠方の魔境であるのは間違いない。それを近所を散歩する感覚で行って帰れるものなのか?

 と、


「おい、忘れたのか? お前といるのは誰で、そいつは何に乗ってると思う?」

「……あっ」


 反射的にカナタは視線を投げた。

 二人の前に鎮座する宇宙船、ミグラテール。星の海でさえ羽ばたく白い巨鳥は、首肯するかのように日差しを受けてきらめいた。

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