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世界女王は、彼にだけ勝てない  作者: てへろっぱ


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9/42

第九話 敗北は、武器になる

三人で、互いの負け方を使った対策案を出してください。


NoNameがそう言った翌日。


星野ミカは、ノートの前で固まっていた。


自分の負け方を見つめるだけでもきつかった。


月城ユイの負け方を見た時も、黒瀬レナの負け方を見た時も、胸の奥に刺さるものがあった。


でも、それを使う。


敗北を、武器として使う。


その発想は、ミカにはまだ少し難しかった。


負け方は直すものだと思っていた。


撃ち急ぐなら、撃ち急がないようにする。

判断が遅いなら、早くする。

勝った瞬間に相手を見なくなるなら、見るようにする。


弱点は潰すもの。


穴は塞ぐもの。


負けた理由は殺すもの。


三年前、NoNameにそう教わった。


負けた理由を、言い訳できない形まで分解してください。


だからミカは、ずっと分解してきた。


けれどNoNameは、次の段階を求めている。


分解した負け方を、今度は武器にしろと言っている。


ミカはノートに三人の弱点を書き出した。


星野ミカ。

撃って勝つ形に寄せすぎる。

正しい判断を探して止まる。

勝った瞬間、相手の次を見なくなる。


月城ユイ。

綺麗な盤面を作りすぎる。

指揮に依存を生みやすい。

自分で処理を抱え込みすぎる。


黒瀬レナ。

待たれると壊しに行く。

失敗や成功を次で返そうとする。

相手を読む前に、自分を見ていない。


並べて見ると、全員違った。


違うのに、どこか似ている。


全員、自分の強さを信じすぎている。


NoNameの言葉が戻ってくる。


ミカはペンを持ったまま、唸った。


これを、どう使うの。


部屋の端で資料を整理していた七瀬さんが、こちらを見た。


また難しい顔してる。


師匠の宿題です。


世界女王になった翌々日に宿題出されるの、なかなかだね。


ミカはノートを見せた。


負け方を武器にしろって言われました。


七瀬さんは、数秒だけ黙った。


それ、ゲームの話?


ゲームの話です。


本当に?


ミカは返事に困った。


ゲームの話だ。


でも、たぶんそれだけではない。


負け方を知るというのは、自分がどこで意地を張るかを知ることだ。

どこで怖がるか。

どこで勝ちたがるか。

どこで自分を守ろうとするか。


それを使うというのは、自分の弱さまで含めて戦うということなのかもしれない。


ミカは小さく息を吐いた。


たぶん、ゲームの話だけじゃないです。


七瀬さんは少し笑った。


そっか。じゃあ大事な宿題だね。


二十一時。


ディスコードに四人が揃った。


Hoshino_Mika

Tsukishiro_Yui

Kurose_Rena

NoName


最初に発言したのは、月城ユイだった。


本日の課題は、互いの負け方を使うことですね。


レナ。


言い方が重い。


ミカ。


でも、たぶんその通りです。


NoName。


はい。


レナ。


はいじゃない。もう少し説明して。


NoName。


負け方は、その人が強さに頼る場所です。

そこを消すだけでは、強さも弱くなる場合があります。


ユイ。


弱点を消すのではなく、強みと弱点が同じ根から出ていると理解した上で、意図的に使う。


NoName。


そうです。


レナ。


つまり、私は待たれると焦るけど、その焦りも使えってこと?


NoName。


はい。


レナ。


どうやって。


NoName。


三人で考えてください。


レナ。


出た。


ミカは少し笑った。


最近、この流れにも慣れてきた。


NoNameは簡単に答えをくれない。


ただ、考える方向だけを置く。


そこから先は、自分たちで探せと言う。


ユイが資料を共有した。


画面には三人の負け方をまとめた表が表示されている。


項目はきれいに分類されていた。


強み。

表面上の弱点。

根本にある欲求。

相手に利用される場面。

武器化の可能性。


レナがすぐに反応する。


ユイ、何これ。仕事?


ユイ。


整理表です。


ミカ。


すごい。もう資料になってる。


レナ。


盤面の女王、準備がえぐい。


ユイ。


必要だと思ったので。


NoName。


良いです。


ユイの返信が一瞬遅れた。


ありがとうございます。


ミカは画面の前で少しだけ笑った。


ユイは落ち着いているように見えるけれど、NoNameに褒められるとほんの少しだけ反応が遅れる。


それが最近わかってきた。


レナもたぶん気づいている。


でも、言わない。


今言うとユイが困るし、NoNameがまた必要なのでとか言い出す。


ユイが説明を始めた。


まず、ミカさんです。

ミカさんは撃って勝つ形に寄せる傾向があります。

これは弱点ですが、同時に相手から見れば強烈な圧です。


ミカは背筋を伸ばした。


自分の名前が出ると、やはり緊張する。


ユイ。


武器化するなら、撃ち勝ちたい自分を隠すのではなく、相手に見せて利用する。

相手に、ミカさんは最後に撃ちに来ると思わせる。

その上で、撃たない勝ち筋を選ぶ。


ミカは目を見開いた。


撃ちたい自分を見せて、撃たない。


それは、自分にとってかなり難しい。


でも、強そうだった。


レナ。


いいじゃん。

撃つぞ撃つぞって圧かけて、相手が撃ち合い準備したら別の勝ち方するってことでしょ。


ユイ。


はい。


NoName。


良いです。


ミカはノートに書いた。


撃つ圧を見せて、撃たない勝ち筋を選ぶ。


NoName。


ただし、星野ミカさんの場合、本当に撃ちたくなるので注意が必要です。


ミカ。


そこまで言わなくても。


レナ。


いや、撃ちたくなりそう。


ユイ。


なりそうです。


ミカは唇を尖らせた。


否定できないのが悔しい。


次にユイは、自分の項目を映した。


私の場合です。

私は綺麗な盤面を作る傾向があります。

弱点としては、崩れた時の再構築が遅れること。

ただし、相手から見れば、私が綺麗な盤面を好むこと自体が予測材料になります。


ミカ。


それを逆に使うんですか?


ユイ。


はい。

あえて綺麗な盤面を見せて、相手に崩したくなる場所を作ります。

そして、その崩しを拾う形を裏に置く。


レナ。


罠じゃん。


ユイ。


罠です。


レナ。


ユイ、真顔で罠って言いそう。


ユイ。


言っています。


ミカは笑った。


ユイの怖さが少し見えた。


盤面の女王は、ただ綺麗なだけではない。


綺麗さを餌にできるようになったら、たぶん相当怖い。


NoName。


良いです。

ただし、月城ユイさんの場合、罠まで綺麗に作りすぎる可能性があります。


ユイ。


それは、読まれるということですね。


NoName。


はい。


レナ。


罠も汚くしないといけないのか。


NoName。


必要です。


ユイはノートに書いているらしかった。


少し沈黙してから、こう返した。


意図的に不完全な罠を作る練習が必要ですね。


NoName。


はい。


最後にレナの項目が表示された。


レナさんは、待たれると自分から壊しに行く傾向があります。

これは弱点ですが、逆に言えば、相手から見るとレナさんは場面を動かしてくれる存在です。


レナ。


嫌な言い方。


ユイ。


すみません。


レナ。


いや、合ってるからいい。


ユイ。


武器化するなら、壊しに行きたくなる自分を相手に見せる。

相手がそれを待つなら、壊すふりをして、壊さない。

または、壊しに行ったように見せて、別の場所を崩す。


ミカ。


フェイントみたいな感じですか?


レナ。


私が焦れて突っ込むと思わせて、相手がそれを待った瞬間に止まる。

で、相手が待ち損ねたところを殴る。


NoName。


良いです。


レナは少しだけ黙った。


ミカにはわかった。


レナも嬉しかったのだ。


けれど素直に言いたくないのだ。


レナ。


でもそれ、かなり我慢いる。


NoName。


はい。


レナ。


嫌だな。


NoName。


伸びます。


レナ。


その言い方ずるい。


三人の整理が終わったところで、NoNameが新しいルームコードを貼った。


ミカは画面を見た。


これは?


NoName。


合同検証用のゲームです。


レナ。


何のゲーム?


NoName。


古いタクティカルチームアリーナです。

射撃、配置、近距離戦、リソース管理がすべて入っています。


ユイ。


三人の要素を同時に使えるということですね。


NoName。


はい。


ミカは少し緊張した。


タクティカルチームアリーナ。


名前は知っている。


五対五を基本にした古い対戦ゲームで、射撃、スキル、拠点制圧、近距離戦、リソース管理が混ざっている。


FPS/TPSの要素もある。

MMO的な役割管理もある。

戦略ゲームのような資源配分もある。

格闘ゲームに近い近距離の読み合いもある。


つまり、三人の得意分野が少しずつ重なる場所だった。


レナ。


三人で組むの?


NoName。


はい。


ミカ。


相手は?


NoName。


私とBOT四体です。


チャットが止まった。


レナ。


舐めてる?


NoName。


いいえ。


ユイ。


BOTの設定は?


NoName。


高難度。

ただし、単体性能は三人より低いです。


ミカ。


師匠が指揮するんですか?


NoName。


はい。


レナ。


つまり、NoName一人と手下四体を三人で倒せってこと?


NoName。


そうです。


レナ。


やる。


即答だった。


ミカも、胸が熱くなった。


やるしかない。


ユイ。


目的は勝利ですか、それとも検証ですか。


NoName。


両方です。

ただし、勝つために三人の負け方を使ってください。


ミカはルームに入った。


マップは廃棄された研究都市。


中央に制圧ポイント。

左右に資源端末。

地下に短距離ルート。

高所に狙撃通路。

狭い屋内には近距離戦が発生しやすい。


ミカは射撃担当。


ユイは支援兼指揮担当。


レナは近距離突破担当。


三人の役割は自然に決まった。


NoNameからメッセージが来る。


制限を付けます。


レナ。


は?


NoName。


星野ミカさんは、最初の交戦で最後の一発を撃たないでください。


ミカ。


え。


NoName。


月城ユイさんは、最初の三分間、直接指示を三回までにしてください。


ユイ。


三回。


NoName。


黒瀬レナさんは、最初の接敵で先に攻撃しないでください。


レナ。


はあ?


三人が同時に固まった。


それぞれ、一番嫌なところを縛られた。


ミカは撃ちたい場面で撃つなと言われた。


ユイは指示したい場面で指示を制限された。


レナは先に殴りたい場面で殴るなと言われた。


NoName。


自分の強みを一度、相手に見せてから使わない練習です。


レナ。


性格悪い。


NoName。


必要なので。


ミカは深呼吸した。


やるしかない。


試合開始。


三。


二。


一。


開始。


ミカは高所へ向かった。


視界を取る。


敵BOT二体が中央へ出る。


その後方に、NoNameの影が見えた。


ミカは照準を合わせる。


撃てる。


当てられる。


一体目を削る。


二体目も止める。


NoNameのBOTが前に出る。


最後の一発を撃てば落とせる。


指が引き金にかかる。


でも、撃てない。


最初の交戦で最後の一発を撃たない。


ミカは歯を食いしばった。


撃ちたい。


ものすごく撃ちたい。


でも、撃たない。


代わりに、わざと照準を置いたまま待つ。


相手BOTはミカが撃つと思って遮蔽物へ逃げる。


その逃げた先に、レナがいた。


レナは先に攻撃できない。


だから、待っている。


敵BOTがレナの目の前に飛び出した瞬間。


レナはまだ攻撃しない。


敵が一歩、踏み込みすぎる。


その瞬間、レナが動いた。


先に攻撃したのは敵。


だから制限には触れない。


レナの近距離攻撃が決まる。


敵BOTが落ちた。


レナ。


今の気持ち悪い!


ミカ。


でも入りました!


ユイ。


良い連携です。

ミカさんが撃たない圧で移動させ、レナさんが待ったことで拾えました。


NoNameからは何も来ない。


たぶん見ている。


ミカは少しだけ手応えを感じた。


撃つ圧を見せて、撃たない勝ち筋。


これだ。


でも、次は崩された。


NoNameはすぐに配置を変えた。


BOTの一体をわざと中央に残し、二体を左右へ散らす。


ユイが指示を出そうとして止まる。


三分間、直接指示は三回まで。


今、言うべきか。


まだ待つべきか。


ユイが迷った一瞬、中央のミカが挟まれかけた。


ミカ。


右、来てます!


レナ。


私行く!


ユイはまだ指示を出さない。


代わりに、自分のキャラを動かした。


支援スキルを右通路に置く。


言葉ではなく、盤面で示す。


ミカはそのスキルの位置を見て、右の危険を理解する。


レナも同じく、右ではなく中央へ戻る。


ユイは直接指示を使わなかった。


でも、二人が動いた。


ユイ。


なるほど。


ミカ。


今の、指示じゃなくてもわかりました。


レナ。


目印みたいだった。


NoNameから短くメッセージが来る。


良いです。


三人の空気が少し変わった。


できる。


今まで別々の場所で戦っていた三人が、一つの盤面で噛み合い始めている。


だが、NoNameは甘くなかった。


三分を過ぎた直後、BOTの動きが変わった。


NoNameが前に出てきた。


ミカの射線を切る。

ユイの支援スキルを踏ませない。

レナが飛び込みたくなる隙を見せる。


露骨な隙。


レナが反応する。


行く。


その瞬間、NoNameが一歩下がった。


罠だ。


レナも気づいた。


でも、体が前に出かけている。


待たれると壊しに行く。


その癖が出る。


レナは歯を食いしばった。


止まった。


本当に、寸前で止まった。


NoNameのBOT二体が、レナを挟む位置へ出てくる。


もし突っ込んでいたら、落とされていた。


レナ。


あっぶな。


ミカは高所から射線を通した。


NoName本体ではなく、BOTの足元を撃つ。


倒すための弾ではない。


動かすための弾。


BOTが一歩下がる。


その先に、ユイが置いた支援スキルが発動する。


移動速度低下。


レナが笑った。


今度は私の番。


レナが踏み込む。


さっきとは違う。


焦れて壊しに行くのではない。


相手が動かざるを得ない場所へ追い込んでから、壊す。


近距離攻撃が決まる。


二体目のBOTが落ちた。


ユイ。


良いです。


ミカ。


すごい!


NoName。


良いです。


レナ。


三人から良いです言われた。


ミカ。


嬉しいですか?


レナ。


別に。


ユイ。


嬉しそうです。


レナ。


うるさい。


試合は中盤へ入った。


NoName側は残りBOT二体とNoName本体。


三人側は全員生存。


ただしリソースは減っている。


ユイは盤面を見た。


中央を取れば勝ちに近づく。


しかし、中央は綺麗すぎる。


通路も見えている。

高所も押さえられる。

支援スキルも置ける。


あまりにも、ユイが組みたくなる盤面だった。


NoNameは、きっとそこを見ている。


ユイは少し考えた。


それから、あえて中央を取る形を作った。


ミカ。


中央行きますか?


ユイ。


行くように見せます。


レナ。


罠?


ユイ。


罠です。

ただし、少し汚くします。


ミカは少し笑った。


ユイが汚い罠と言うのは、なんだか新鮮だった。


ユイは中央に支援を置いた。


でも、完璧には置かない。


逃げ道を一つ余らせる。


敵から見れば、そこが穴に見える。


NoNameなら突く。


いや、NoNameは突かないかもしれない。


でも、BOTは突く。


NoNameがどう使うかを見る。


予想通り、BOTが穴へ向かった。


NoName本体は動かない。


見ている。


ミカは撃ちたくなる。


穴に入ったBOTを落とせる。


でも、撃たない。


レナも飛び込みたくなる。


でも、まだ待つ。


ユイは穴の奥に、二つ目の支援を置いていた。


一つ目は見せ餌。


二つ目が本命。


BOTが踏む。


動きが止まる。


その瞬間、ミカが撃つ。


今度は最後の一発まで撃った。


BOTが落ちる。


残りはNoName本体とBOT一体。


レナ。


いける!


その言葉と同時に、NoNameが動いた。


速くはない。


派手でもない。


でも、嫌な動きだった。


ミカの射線から消え、ユイの支援範囲を避け、レナが追いたくなる角度へ逃げる。


三人全員の癖を、同時に撫でていくような動き。


ミカは撃ちたい。


ユイは指示したい。


レナは追いたい。


全員が、一瞬だけ自分の強みに戻りかけた。


その瞬間。


ミカは言った。


撃ちません。


ユイが続けた。


指示しません。

盤面で示します。


レナが笑った。


追わない。

来させる。


三人は、止まった。


いや、止まったように見せた。


ミカは照準だけを置いた。


ユイは逃げ道を塞がず、誘導だけした。


レナは追わずに、NoNameが来たくない場所へ立った。


NoName本体が一瞬、止まった。


本当に一瞬。


けれど三人には見えた。


初めて、NoNameが迷った。


ミカの心臓が跳ねる。


今。


ミカは撃たなかった。


ユイが置いた支援スキルが発動する。


NoNameの退路が、少しだけ狭まる。


レナが前に出る。


でも攻撃しない。


NoNameが下がる。


下がった先に、ミカの射線。


今度こそ、撃つ。


弾が通った。


NoName本体の体力が大きく削れる。


倒し切れない。


だが、明らかに通った。


ミカ。


入った!


レナ。


いける!


ユイ。


まだです。最後のBOTが残っています。


その瞬間、最後のBOTがユイの後方へ回っていた。


NoNameは本体を囮にしていた。


三人がNoNameに意識を向けた瞬間、BOTでユイを落としに来た。


ユイは反応が遅れた。


自分で支援を置き、自分で誘導し、自分で盤面を作っていた。


だから、後方の処理が遅れた。


自分で処理を抱え込みすぎる。


また出た。


ユイは歯を食いしばった。


ミカが叫ぶように打つ。


ユイさん、伏せて!


レナ。


私が行く!


ユイは、初めて自分で処理するのをやめた。


回避だけする。


支援は置かない。


指示も最小。


任せます。


短い一文。


それだけだった。


ミカがBOTの足を止める。


レナが横から突っ込む。


ユイは退路だけを作る。


三人で、処理した。


最後のBOTが落ちる。


残るはNoName本体。


体力は削れている。


だが、まだ動ける。


NoNameは中央へ退いた。


制圧ポイントまで、あと少し。


時間は残りわずか。


ユイ。


中央を取れば勝ちです。


ミカ。


でも師匠がいます。


レナ。


倒して取る。


NoNameは中央で待っていた。


何もしない。


レナが苦笑する。


また待ってる。


ミカは照準を置く。


撃ちたい。


でも、NoNameは撃たせる位置にいない。


ユイは支援を置きたい。


でも、綺麗に置けば読まれる。


レナは壊しに行きたい。


でも、待たれている。


三人は、一瞬だけ沈黙した。


そして、ミカが言った。


私、撃ちたいです。


レナ。


私、殴りたい。


ユイ。


私は、綺麗に取りたいです。


三人は、自分の欲を口にした。


隠さなかった。


消さなかった。


その上で、使う。


ミカ。


だから、撃つふりをします。


レナ。


殴るふりをする。


ユイ。


綺麗に取るふりをします。


三人が同時に動いた。


ミカは射線を作る。


NoNameが撃ち合いを警戒する。


レナは前に出る。


NoNameが近距離を警戒する。


ユイは中央に支援を置く。


NoNameが制圧を警戒する。


三つの圧が重なる。


どれも本命に見える。


どれも本命ではない。


本命は、三人の誰でもなかった。


ミカの射線でNoNameを左へ押す。


レナの圧で右を塞ぐ。


ユイの支援で中央を薄く空ける。


NoNameが選べる場所は一つ。


その場所に、ミカが最初に撃たずに残しておいた投げ物が落ちた。


爆発。


NoName本体が止まる。


レナが踏み込む。


ユイの支援が重なる。


ミカが最後の一発を撃つ。


今度は、撃って勝つ形だった。


けれど、撃つだけの勝ちではなかった。


レナが待った。


ユイが崩れた盤面を受けた。


ミカが撃たない圧を使った。


三人の負け方が、一本の勝ち筋になった。


画面に表示が出る。


勝利。


ミカは椅子から立ち上がりそうになった。


勝った。


勝った?


本当に?


相手はNoNameとBOT四体。


完全な一対一ではない。


条件付きの検証。


それでも。


NoNameを含む相手に、勝った。


ディスコードが数秒、静かになった。


レナが最初に打った。


勝った?


ユイ。


勝ちました。


ミカ。


勝ちましたよね?


NoNameからの返事は、少し遅れた。


はい。

良い勝利です。


ミカは息を止めた。


良い勝利。


NoNameにそう言われた。


胸の奥が一気に熱くなる。


レナ。


もう一回。


NoName。


今日はしません。


レナ。


なんで!


NoName。


今やると、成功体験を次の負け筋にします。


三人が同時に黙った。


刺さりすぎた。


ミカ。


それは……そうかもしれません。


ユイ。


今続けると、再現しようとして崩れる可能性が高いですね。


レナ。


くっそ、正しい。


NoName。


今日の目的は達成です。


ミカは画面を見つめた。


目的は達成。


三人の負け方を使う。


それが、少しだけできた。


NoNameは続ける。


今日の勝ちで重要なのは、私を倒したことではありません。


レナ。


そこ重要でしょ。


NoName。


重要ですが、一番ではありません。


ユイ。


では、一番は何ですか。


NoName。


三人が、自分の欲を隠さずに使ったことです。


ミカはノートに書いた。


自分の欲を隠さずに使う。


NoName。


星野ミカさんは撃ちたい自分を使いました。

月城ユイさんは綺麗に取りたい自分を使いました。

黒瀬レナさんは殴りたい自分を使いました。


NoName。


消すのではなく、使う。

今日は、それができています。


ミカは画面が少し滲むような気がした。


たぶん疲れているだけだ。


そう思うことにした。


レナ。


じゃあ、NoNameの負け試合見せて。


NoName。


まだです。


レナ。


勝ったじゃん!


NoName。


今日は、私を少し困らせただけです。


ミカはその文を見つめた。


少し困らせた。


NoNameを。


それだけで十分だった。


少なくとも、今日のミカには。


ユイ。


少し困らせた、という評価はかなり高いと受け取っていいのでしょうか。


NoName。


はい。


レナ。


やったじゃん。


ミカ。


やりましたね。


ユイ。


やりました。


三人の文字が並ぶ。


それが、なんだかとても嬉しかった。


NoName。


次回は、今日の勝利ログを見ます。


ミカ。


勝った試合の中にある負け、ですか?


NoName。


はい。


三人は黙った。


でも今度は、前ほど怖くなかった。


勝った試合の中にも負けはある。


それはもう知っている。


そして、その負けは武器になる。


それも今日、少しだけ知った。


レナ。


いいよ。見よう。


ユイ。


はい。必要です。


ミカ。


お願いします。


NoName。


では、今日は解散です。

全員、休んでください。


レナ。


珍しく素直に休む。


ユイ。


私も、今日は整理が必要です。


ミカ。


私もです。


NoName。


良いです。


四人の会話はそこで終わった。


ユイが退出する。


レナが退出する。


NoNameがオフラインになる。


ミカは最後まで画面を見ていた。


部屋は静かだった。


七瀬さんが後ろから声をかける。


勝ったの?


ミカはゆっくり振り返った。


はい。

たぶん、初めてちゃんと。


七瀬さんは少し驚いた顔をして、それから笑った。


おめでとう。


ありがとうございます。


でもミカは、トロフィーをもらった時とは違う嬉しさを感じていた。


世界大会の優勝は、頂点に立つ嬉しさだった。


今日の勝利は、前に進めた嬉しさだった。


小さい。


たぶん、世界から見れば小さい勝利だ。


でもミカにとっては、世界大会の一撃とは別の意味で大きかった。


星野ミカ。

月城ユイ。

黒瀬レナ。


三人の世界女王は、それぞれ違う負け方を持っていた。


その負け方は、ずっと弱点だった。


けれど今日、初めてそれは武器になった。


撃ちたい自分。

整えたい自分。

壊したい自分。


その全部を、隠さず、殺さず、使う。


それができた時、NoNameはほんの少しだけ止まった。


ほんの少しだけ、困った。


それだけで、三人はまだ強くなれると思えた。


翌朝。


ネットには、新しい噂が流れ始めていた。


星野ミカ、月城ユイ、黒瀬レナが同じサーバーにいたらしい。

三人の世界女王が合同練習か。

NoNameも同席していた可能性。

新チーム結成か。

世界女王たちの師匠、ついに表に出るか。


もちろん、真実を知る者はいない。


彼女たちが昨夜、どんな小さな勝利を得たのか。


NoNameが、ほんの少しだけ困ったことも。


誰も知らない。


けれど、ゲーム界の空気は確実に変わり始めていた。


三人の女王が同じ場所に集まった。


その中心には、名もなき男がいる。


それだけで、世界は勝手に物語を作り始める。


そして、その物語はやがて、NoName自身を表舞台へ引きずり出そうとしていく。


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