表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界女王は、彼にだけ勝てない  作者: てへろっぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/44

第十話 小さな勝利は、次の敗北を連れてくる

勝った。


その事実は、思った以上に星野ミカの心を浮かせていた。


相手はNoName一人ではない。

NoNameと高難度BOT四体。

条件付きの合同検証。

競技大会でも公式戦でもない。


それでも、勝ちは勝ちだった。


少なくとも、ミカにとってはそうだった。


NoNameを含む相手に、三人で勝った。


それは初めての感覚だった。


世界大会で優勝した時とは違う。


世界大会の勝利は、自分が積み上げてきたものが証明された喜びだった。


昨日の勝利は、NoNameへほんの少しだけ届いたかもしれないという喜びだった。


だからこそ、危ない。


ミカはベッドの上でノートを開いたまま、同じ行を何度も見ていた。


撃ちたい自分を使う。

撃つ圧を見せて、撃たない勝ち筋を選ぶ。

自分の欲を隠さずに使う。


昨日、確かにできた。


撃ちたい自分を消さなかった。

撃ちたい圧を利用した。

レナの待つ力と、ユイの崩れた盤面への対応が重なって、NoNameを少し困らせた。


勝った。


その言葉が、何度も胸の奥で跳ねる。


ミカは枕を抱えながら、ぼそっと言った。


もう一回やりたい。


部屋の隅で資料を確認していた七瀬さんが、顔を上げた。


昨日の検証のこと?


はい。


勝ったんだっけ?


勝ちました。


嬉しそうだね。


ミカは枕に顔を埋めた。


嬉しいです。


七瀬さんは少しだけ笑った。


じゃあ今日は褒めてもらえるといいね。


ミカは動きを止めた。


褒めてもらえる。


そう言われた瞬間、胸の中に小さな期待が生まれた。


昨日の勝利ログを見る。


NoNameは言った。


勝った試合の中にある負けを見る。


つまり、今日も刺される。


それはわかっている。


でも、昨日は勝った。


NoNameも、良い勝利ですと言った。


なら、少しは褒められるかもしれない。


そう思ってしまった。


思ってしまった時点で、ミカは嫌な予感がした。


これはたぶん、次の負け筋だ。


夜、二十一時。


ディスコードに四人が揃った。


Hoshino_Mika

Tsukishiro_Yui

Kurose_Rena

NoName


最初に書き込んだのは黒瀬レナだった。


昨日の勝ちログ見るんでしょ。


ユイ。


はい。

昨日の試合は、三人の課題を実戦に落とし込めた良い素材だと思います。


ミカ。


緊張します。


レナ。


勝ったのに?


ミカ。


勝ったからです。


レナ。


わかる。


NoName。


では、始めます。


ミカは画面共有を開いた。


昨日のタクティカルチームアリーナ。


三人対NoNameとBOT四体。


前半から順番に再生する。


最初の交戦。


ミカが敵BOTに照準を合わせる。


撃てば落とせる場面。


けれど、NoNameの制限で最後の一発を撃たない。


敵BOTはミカが撃つと思って逃げ、レナの目の前に出る。


レナは先に攻撃しないという制限の中で待ち、敵が踏み込みすぎた瞬間に落とす。


ユイがすぐに打った。


ここはかなり良かったと思います。

ミカさんの撃つ圧、レナさんの待ち、両方が噛み合っています。


レナ。


ここ気持ちよかった。


ミカ。


私もです。


NoName。


ここで止めてください。


早い。


あまりにも早い。


ミカは映像を止めた。


NoName。


良い場面です。


ミカは少しだけ安心した。


NoName。


ただし、再現しようとすると負けます。


ミカは固まった。


レナ。


早速来た。


ユイ。


成功体験の固定化ですね。


NoName。


はい。


ミカは画面を見る。


確かに、この場面は綺麗だった。


ミカが撃たない。

レナが待つ。

ユイが見ている。

相手が動く。

レナが落とす。


成功している。


だからこそ、次も同じようにやりたくなる。


撃たない圧を使えばいい。

レナが待てばいい。

相手が踏み込みすぎるのを拾えばいい。


でも、それはもう見られている。


ミカ。


昨日の成功が、もう読まれるってことですか。


NoName。


はい。

相手は次に、撃たない圧を利用してきます。


レナ。


撃たないってバレたら、逆に詰めてくる?


NoName。


場合によります。

星野ミカさんが撃たないとわかれば、相手は撃たせるために動くか、撃たないことを前提に別の場所を壊します。


ユイ。


成功した形を固定すると、その形自体が相手の盤面になりますね。


NoName。


そうです。


ミカはノートに書いた。


成功した形を固定しない。


昨日、成功体験を次の負け筋にするなと言われた。


それが今、具体的に見えている。


レナ。


じゃあ、どうすればいいの。


NoName。


同じ形を再現するのではなく、相手に同じ形を警戒させるだけにしてください。


ミカ。


警戒させるだけ。


NoName。


はい。

成功した形は、もう一度使うためではなく、相手の意識を縛るために使います。


ユイ。


実際に使うかどうかではなく、存在する選択肢として相手に持たせ続ける。


NoName。


はい。


レナ。


昨日の勝ち方を見せ札にするってこと?


NoName。


近いです。


ミカはその言葉に少し震えた。


見せ札。


勝ち方を、再現するのではなく、相手に覚えさせる。


そして、覚えた相手の意識を縛る。


勝利そのものを武器にするのではなく、勝利の記憶を武器にする。


また一段、難しくなった。


映像を再開する。


中盤。


NoNameが配置を変え、ユイが直接指示を制限される場面。


ユイは言葉で指示せず、支援スキルの位置で二人を動かす。


ミカとレナはそれを読み取り、中央の崩壊を防ぐ。


ユイ。


ここは、私にとってかなり重要な場面でした。

指示ではなく、盤面で伝える感覚が少し掴めました。


ミカ。


あの支援スキル、すごくわかりやすかったです。


レナ。


目印として使いやすかった。


NoName。


止めてください。


ユイが映像を止める。


NoName。


ここも良い場面です。

ただし、月城ユイさんが意図的にわかりやすくしすぎています。


ユイ。


わかりやすくしすぎている。


NoName。


はい。

二人に伝えるための配置としては良いです。

ですが、相手から見ても意図が見えます。


ユイは少し黙った。


ミカには、その沈黙の意味がわかった気がした。


ユイは人に伝えるのが上手い。


だからこそ、味方には優しい配置を作れる。


だが、味方にわかりやすいものは、敵にも見える。


ユイ。


味方への伝達と、相手への隠蔽の両立が課題ですね。


NoName。


はい。


レナ。


でも、わかりにくくしすぎたら私わかんないよ。


ユイ。


そこが難しいです。

レナさんには伝わり、相手には確信させない形が必要です。


レナ。


私には伝わるけど敵にはわからないって、贅沢じゃない?


NoName。


それが強い盤面です。


ユイはノートに書いているようだった。


ミカも書いた。


味方には伝わり、敵には確信させない。


NoName。


次回から、月城ユイさんは支援スキルを情報として使う時、二段階に分けてください。

一つ目は味方への共有。

二つ目は相手への誤認。


ユイ。


共有と誤認。


NoName。


はい。


ミカは感心した。


自分なら、支援スキルは支援スキルとしてしか見ない。


だがNoNameは、それを情報の配置として見ている。


ユイはそれを受け取り、盤面に組み直す。


やはり、この二人は考える層が似ている。


ミカは少しだけ胸がざわついた。


羨ましい。


そう思った。


自分は感覚と反応で戦う。


ユイは構造で戦う。


NoNameの言葉を、ユイはすぐに理屈へ落とせる。


その速さが羨ましかった。


だが、その感情を見つけた瞬間、ミカはノートに小さく書いた。


羨ましいも情報。


NoNameが前に言った。


感情でまとめないでください。


なら、羨ましさも使う。


ユイと同じように考えられないなら、自分は自分の形で受け取るしかない。


映像は進む。


レナがNoNameの罠に踏み込みかけ、寸前で止まる場面。


NoNameが露骨な隙を見せ、レナが壊しに行きかける。


しかし止まった。


その隙にミカとユイが合わせ、BOTを落とす。


レナ。


ここは褒めていいでしょ。


NoName。


良いです。


レナ。


やった。


NoName。


ただし。


レナ。


知ってた。


NoName。


黒瀬レナさんは、止まれたことに満足しています。


レナは黙った。


NoName。


止まるのは目的ではありません。

止まった後に、相手へ何を選ばせるかが必要です。


ユイ。


レナさんはこの場面、踏み込まなかったことで罠を避けています。

ただ、その後の主導権はミカさんと私側に移っていますね。


ミカ。


レナさん自身が、止まった後に相手を動かすところまでは行ってない?


NoName。


はい。


レナはしばらく何も打たなかった。


珍しい。


ミカは少し心配になる。


レナさん?


レナ。


わかってる。

今、自分で見てもそう思った。


ミカはその返事に少し驚いた。


レナは感情的に見える。


でも、自分で納得した時の受け入れは速い。


NoName。


黒瀬レナさんは、前回より止まれています。

次は、止まった後に相手を待たせないことです。


レナ。


止まるけど、止まらせない?


NoName。


はい。


レナ。


意味わかるけど腹立つ。


ユイ。


相手から見て、レナさんが止まったことで安心できない状態を作る、ということですね。


NoName。


はい。


レナはノートを開いているのか、少し返事が遅れた。


わかった。

止まった後の圧を作る。


NoName。


良いです。


ミカは画面の前で少し笑った。


三人とも、昨日より明らかに変わっている。


刺されても、前より早く受け取っている。


痛い。


悔しい。


でも、そのまま次の言葉にできる。


それは、強くなっている証拠なのかもしれない。


映像は終盤へ入った。


NoName本体を三人で追い込み、投げ物と支援と近距離圧を重ねる場面。


昨日の勝利の核心。


三人がそれぞれの欲を口にした。


私、撃ちたいです。


私は、綺麗に取りたいです。


私、殴りたい。


そこから三つの圧を重ね、NoNameの選択肢を削り、最後にミカが撃った。


勝利。


映像を見返しても、ミカの胸は熱くなる。


NoNameが止まった。


ほんの一瞬だけど、迷った。


それを三人で掴んだ。


レナも画面の前で少し黙っていた。


ユイもたぶん同じだ。


ここは、昨日の三人にとって特別な場面だった。


NoName。


ここで止めてください。


勝利の直前。


NoNameの動きが止まった場面。


ミカは映像を止めた。


NoName。


ここは、私が一番対応を誤った場面です。


チャットが止まった。


ミカは画面を凝視した。


NoNameが、自分のミスを言った。


レナもすぐに反応する。


今、誤ったって言った?


ユイ。


言いましたね。


ミカ。


師匠にも、対応ミスがあるんですね。


NoName。


あります。


レナ。


よし、そこ詳しく。


NoName。


三人の圧が同時に成立したため、最も危険度が高い選択肢を一つに絞れませんでした。


ユイ。


ミカさんの射線、レナさんの近距離圧、私の制圧支援。

三つが同時に本命に見えたということですか。


NoName。


はい。


ミカ。


それで、迷ったんですか?


NoName。


はい。


ミカは息を止めた。


NoNameが迷った。


それを本人の口から聞くと、昨日の勝利が急に現実味を増した。


ただの偶然ではなかった。


ちゃんと届いていた。


三人で、NoNameを迷わせた。


NoName。


ただし、次は迷いません。


三人の空気が一気に落ち着いた。


レナ。


言うと思った。


NoName。


昨日の形は見ました。

次に同じ形が来るなら、対応できます。


ミカは頷いた。


そうだ。


NoNameはもう見た。


だから、昨日の勝利は次には通じない。


でも、ミカはそれを前ほど怖いと思わなかった。


昨日の形が通じないなら、昨日の形を見せ札にすればいい。


今言われたばかりだ。


ミカ。


じゃあ、次は昨日の形を見せて別の形にします。


NoName。


良いです。


ユイ。


三つの圧を同時に成立させた上で、四つ目の勝ち筋を隠す必要がありますね。


レナ。


四つ目?


ユイ。


昨日はミカさん、私、レナさんの三つでした。

次は、その三つを見せて、別の勝ち筋を作る。


レナ。


なるほど。

じゃあ、四つ目は誰が作るの。


一瞬、全員が黙った。


三人しかいない。


四つ目。


それは、自分たち以外の何か。


マップ。

時間。

リソース。

相手の記憶。

ルール。


ユイがゆっくり打った。


四つ目は、相手に作らせるのではないでしょうか。


NoName。


良いです。


ユイ。


三つの圧で相手を迷わせる。

その迷いによって、相手が選んだ行動そのものを四つ目の勝ち筋にする。


ミカは少しずつ理解した。


昨日は三人でNoNameを追い込んだ。


次は、追い込まれたNoNameが選んだ行動自体を使う。


相手の選択を、こちらの勝ち筋にする。


レナ。


それ、NoNameがよくやってるやつじゃん。


NoName。


はい。


レナ。


腹立つけど、やる。


NoName。


良いです。


ミカはノートに書いた。


四つ目は、相手に作らせる。


その瞬間、胸の奥がぞくっとした。


また少し、NoNameの見ている場所に近づいた気がした。


検証はさらに続いた。


昨日の勝利ログは、勝った試合なのに課題だらけだった。


ミカは撃たないことに成功したが、撃たないことへ意識が寄りすぎていた。


ユイは指示を減らせたが、代わりに盤面で伝える意図が見えすぎていた。


レナは待てたが、待った後の主導権をまだ作れていなかった。


そして三人は、勝った瞬間に少し浮いていた。


NoName。


勝利後、三人とも次の再現を考えています。


ミカ。


嬉しかったので。


レナ。


勝ったらもう一回やりたくなるでしょ。


ユイ。


再現性を確認したくなりました。


NoName。


それぞれ違う理由で、同じ危険に向かっています。


ミカ。


同じ危険。


NoName。


星野ミカさんは、もう一度撃ちたい。

月城ユイさんは、もう一度組みたい。

黒瀬レナさんは、もう一度壊したい。


NoName。


つまり、全員が昨日の勝ち方に戻ろうとしています。


三人は黙った。


本当にそうだった。


勝てたから、もう一度やりたい。


もう一度できると証明したい。


昨日の勝利が偶然ではないと確認したい。


その欲が、次の負け筋になる。


NoName。


勝った直後ほど、次は違う形を考えてください。

再現したくなったら、それはもう相手も待っています。


ユイ。


勝利の再現ではなく、勝利の更新。


NoName。


はい。


ミカはノートに書いた。


勝利は再現しない。更新する。


レナ。


今日のまとめ、重すぎない?


ミカ。


でも、かなり大事な気がします。


ユイ。


大事です。非常に。


NoName。


では、今日の課題をまとめます。


三人がそれぞれノートを構える。


NoName。


一つ。

成功した形は、再現するのではなく、相手の意識を縛るために使うこと。


二つ。

味方には伝わり、相手には確信させない情報を置くこと。


三つ。

勝った直後ほど、同じ勝ち方に戻らないこと。


四つ。

三人の圧で相手を迷わせ、その迷いによる選択を四つ目の勝ち筋にすること。


ミカは一つずつ書いた。


重い。


難しい。


でも、昨日よりもっと先が見えている。


NoName。


以上です。

今日はここまで。


レナ。


今日はもう一戦なし?


NoName。


ありません。


レナ。


ですよね。


ユイ。


むしろ、今日は実戦しない方が良さそうです。

情報量が多い。


ミカ。


私も、頭がいっぱいです。


NoName。


良い状態です。


ミカ。


難しくて、面白くて、腹が立つ時は伸びる、ですか?


NoName。


はい。


レナ。


それ便利だな。


NoName。


便利です。


ユイ。


また冗談ですね。


NoName。


少し。


ミカは笑った。


この少しの冗談が、前よりわかるようになってきた。


NoNameは変わったわけではない。


たぶん、こちらが少しだけ見えるようになったのだ。


NoNameが最後に打った。


明日は休みにします。


レナ。


は?


ミカ。


休み?


ユイ。


必要な休息ということですか。


NoName。


はい。

三日続けて強い検証をしています。

ここで詰めると、理解ではなく執着になります。


ミカは画面を見た。


執着。


その言葉は、少しだけ胸に刺さった。


NoNameに勝ちたい。


NoNameに認められたい。


NoNameの負け試合を見たい。


その気持ちは、もうただの練習意欲だけではない。


三人とも、それに気づき始めている。


NoName。


休んでください。

整理してください。

自分の競技に戻してください。


ユイ。


承知しました。


ミカ。


わかりました。


レナ。


休むの嫌だけど、まあわかった。


NoName。


良いです。


そこで会話は終わるはずだった。


だが、ディスコードに新しい通知が来た。


ミカのものではない。


ユイでもない。


レナでもない。


NoNameが、少しだけ沈黙した。


それから、珍しく一文を打った。


面倒な連絡が来ました。


レナが即座に反応する。


何。


ユイ。


取材関係ですか?


ミカ。


ネットの件ですか?


NoName。


大会運営からです。


三人の空気が変わった。


大会運営。


NoNameに?


ミカは指が止まった。


NoName。


星野ミカさんの発言以降、私に関する問い合わせが増えているようです。

それに関連して、非公式ではありますが、エキシビション企画への参加打診が来ました。


レナ。


出ろ。


即答だった。


ユイ。


内容は?


NoName。


複数ジャンル合同の特別企画。

トッププレイヤーによる混合チーム戦。

詳細未定。

私にも参加してほしいとのことです。


ミカの心臓が跳ねた。


NoNameが表に出る。


大会に。


配信に。


観客の前に。


今まで一度も表に出なかった男が。


ミカ。


師匠、出るんですか。


NoName。


出ません。


レナ。


早い!


ユイ。


理由を聞いても?


NoName。


出る理由がありません。


レナ。


あるでしょ。私たちと戦える。


NoName。


今も戦えます。


レナ。


世界が見る。


NoName。


必要ありません。


ミカは画面を見つめた。


NoNameらしい。


名声に興味がない。


観客にも、称賛にも、記録にも興味がない。


でも、ミカは思ってしまった。


見てほしい。


NoNameがどれだけ強いのか。


世界に。


自分たちが追いかけている相手が、どれだけ遠いのか。


知ってほしい。


そして同時に、知られたくないとも思った。


NoNameが表に出れば、自分だけの師匠ではなくなる。


いや、最初から自分だけの師匠ではない。


ユイも、レナもいる。


それでも、もっと大勢に見つかる。


それは嫌だ。


でも、見てほしい。


自分勝手な感情が、胸の中で絡まる。


ユイ。


NoNameさんが出ない場合、私たちにも影響がありますね。


NoName。


はい。


ユイ。


おそらく、三人に参加依頼が来ます。


NoName。


来ると思います。


レナ。


出ればいいじゃん。三人で。


ミカ。


三人で……。


レナ。


で、NoNameを引っ張り出す。


NoName。


出ません。


レナ。


まだ何も決めてないのに拒否するな。


ユイ。


ただ、世間の流れは無視できなくなっています。

NoNameさんの存在が噂の中心になった以上、私たちが何も発信しないと、憶測だけが膨らみます。


ミカは頷いた。


昨日から、ネットはさらに加熱している。


星野ミカ、月城ユイ、黒瀬レナが同じサーバーにいたらしい。

NoNameが三人を指導している。

新チーム結成。

裏コーチ説。

AI説。

複数人説。

企業案件説。


真実から遠いものもあれば、近いものもある。


放っておけば、NoNameだけでなく、三人の競技活動にも影響が出る。


NoName。


三人が出るかどうかは、三人で決めてください。


レナ。


あんたは?


NoName。


出ません。


レナ。


頑固。


NoName。


よく言われます。


ミカは少し考えた。


エキシビション。


複数ジャンル合同。


トッププレイヤーによる混合チーム戦。


もし三人が出るなら。


FPS/TPSの星野ミカ。

MMOと戦略ゲームの月城ユイ。

格闘ゲームの黒瀬レナ。


三人の世界女王が、同じチームとして表に立つことになる。


それは、想像するだけで大きな話題になる。


そして、NoNameを知る三人が同じ場所に立てば、世界はさらにNoNameを探す。


NoNameは出ないと言う。


でも。


ミカは打った。


師匠。


NoName。


はい。


ミカ。


もし私たちが出たら、見ますか。


返事は少し遅れた。


見ます。


ミカの胸が跳ねた。


ミカ。


検証してくれますか。


NoName。


必要なら。


レナ。


必要。絶対必要。


ユイ。


出場するなら、事前準備と事後検証は必要ですね。


NoName。


では、三人が出るなら見ます。


レナ。


よし、出よう。


ミカ。


早いです。


ユイ。


ただ、条件確認は必要です。

ルール、拘束時間、各所属との調整、配信範囲、NoNameさんへの言及制限。


レナ。


ユイがいてよかった。


ミカ。


本当に。


NoName。


良い判断です。


ユイ。


ありがとうございます。


ミカは、画面の四つの名前を見た。


ほんの数日前まで、三人は別々の場所にいた。


それぞれのジャンルで世界を取って、それぞれNoNameに負けていた。


今は同じチャットで、同じ企画への参加を考えている。


世界が勝手に作り始めた物語。


それは少し怖い。


でも、逃げたくはない。


ミカはゆっくり打った。


私は、出たいです。


少し間を置いて、ユイ。


条件次第ですが、前向きに検討します。


すぐにレナ。


出る。

で、勝つ。


三人の返事が並んだ。


NoNameは、しばらく何も打たなかった。


そして最後に、短く返した。


わかりました。

では、準備しましょう。


ミカはその一文を見て、思った。


NoNameは出ない。


それでも、もう無関係ではいられない。


三人の女王が表に立てば、その影には必ずNoNameがいる。


世界は、その影を追う。


そしていつか、名もなき男を光の下へ引きずり出そうとする。


NoNameはそれを望んでいない。


でも、物語はもう動き始めていた。


小さな勝利は、次の敗北を連れてくる。


そして時には。


次の舞台までも、連れてくる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ