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世界女王は、彼にだけ勝てない  作者: てへろっぱ


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第八十三話 今日は、何も教えない

 対戦が決まったのは、誘いを送った翌日のことだった。


 ORIGINATOR、QUEEN、VOIDの三人とも予定の調整が早く、候補日は意外なほど簡単にまとまった。


 問題になったのは、その後だった。


「公開しないんですか?」


 大会施設の練習ルームで、レナが残念そうに声を上げた。


 ユイが手元の申請画面を閉じる。


「NoNameさんが希望していません」


「絶対見る人多いのに」


「多いでしょうね」


 世界ランキング一位のQUEEN。


 大会創設者であり、参考評価では世界二位となったORIGINATOR。


 参考世界三位のNoName。


 そしてCROWNEDの新しい四人目として注目されたVOID。


 その四人が組み、世界大会優勝直後のCrownlessと戦う。


 公開すれば、大会本戦に近い視聴者数が集まっても不思議ではない。


 だからこそ、レナには少しもったいなく感じられた。


「師匠、本当に非公開でいいの?」


「はい」


 NoNameは迷わず答えた。


「今回は、見せたいわけではありませんので」


「戦いたいだけ?」


「はい」


 その一言に、レナは少しだけ黙った。


 これまでのNoNameなら、外部へ公開する価値があるか、誰かの学びになるか、選手への影響はどうかといったことを考えたかもしれない。


 今回は違う。


 自分が戦いたい。


 だから戦う。


 それだけだ。


「じゃあいいや」


 レナはあっさり引いた。


 ユイが少し意外そうに見る。


「説得しないんですね」


「師匠がやりたいって言って始めたんでしょ? なら師匠が決めればいいじゃん」


「成長しましたね」


 NoNameが言う。


「師匠」


「はい」


「今それ言うと、やっぱ公開にするよ」


「困ります」


「なら言わない」


 ミカが小さく笑った。


 ECHOは別のところが気になっていたらしく、NoNameへ尋ねる。


「観戦者もなし?」


「完全に、という意味でしょうか」


「はい」


 NoNameは少し考えた。


「CROWNEDの三人は、VOIDさんから見てもらいたいと言われています」


「TRACE、GRID、RUSH」


「はい。QUEENさんはMONARCHの三人を呼ぶそうです」


「ORIGINATORは?」


「昔のチームのお二人が来るそうです」


「FIRSTとSECONDだけ?」


 レナが聞く。


「THIRDさんは都合が合わないそうです」


「じゃ、関係者だけって感じか」


「その予定です」


 大会でもイベントでもない。


 ランキング戦でもない。


 大きな賞品が出るわけでもなければ、勝ったところで公式順位が動くわけでもない。


 ただ八人が、戦いたいから戦う。


 その事実に気づくと、レナの表情が少し楽しそうなものへ変わった。


「なんか、こういうの久しぶりかも」


「何がですか」


 ミカが聞く。


「勝っても何も貰えない試合」


 ユイも少し考える。


「確かに。大会へ参加してからは、ほとんどすべてに順位か進出条件がありました」


「だからさ」


 レナはNoNameを見る。


「負けたら普通に悔しいだけだね」


 NoNameも頷いた。


「はい」


「師匠も?」


「かなり」


 レナが笑う。


「やっぱ今日の師匠、面白い」


          ◇


 対戦用の部屋へ入ると、すでに三人は揃っていた。


 最初に声をかけてきたのはQUEENだった。


「遅い」


「開始十五分前ですが」


 ミカが時計を確認する。


「私は三十分前に来た」


「それはQUEENさんが早いだけです」


「ミカと戦えるから」


「今日は私だけではありません」


「知ってる。だから余計に楽しみ」


 QUEENはそう答えたあと、NoNameを見る。


「誘ってくれてありがとう」


「こちらこそ、受けていただいてありがとうございます」


「硬いなあ」


「そうでしょうか」


「もっと『勝つぞ』とかないの?」


 NoNameが少し考える。


「勝ちます」


 QUEENが一瞬止まり、そのあと楽しそうに笑った。


「うん。そっちの方がいい」


 少し離れたところでは、VOIDがECHOの前に立っていた。


「また会いました」


「はい」


「今回は同じ側ではありません」


「前回も敵でした」


「そうでした」


「忘れていましたか」


「少し」


 ECHOはVOIDをじっと見る。


「ZEROに向いているかもしれません」


「嫌です」


 即答だった。


「私はCROWNEDです」


「受け取ります」


「ECHOも」


「はい」


「Crownlessですよね」


「当然です」


 二人とも表情は大きく変わらない。


 しかし、そのやり取りを横で聞いていたRUSHが笑いを堪えている。


「お前ら、めちゃくちゃ仲良くなってない?」


「なっていません」


 二人の返事まで重なった。


「そこがもう仲いいんだって」


 GRIDが呆れたように言う。


 TRACEは別のところを見ていた。


「それより、あの四人どうやって戦うんだ?」


 視線の先。


 NoName。


 ORIGINATOR。


 QUEEN。


 VOID。


 共通点がない。


 QUEENは世界最高峰の個人技を持ち、MONARCHでは誰とでも役割を交換できる。


 ORIGINATORは、その瞬間の自分を選び直す。


 VOIDは、つい最近まで「自分を消したい」と言っていた選手だ。


 そしてNoNameは、人を見ることで盤面そのものを変えてしまう。


「普通ならまとまらない」


 GRIDが言う。


「練習した?」


 RUSHがVOIDへ聞く。


「していません」


「一回も?」


「今日、初めて四人で入ります」


「それでCrownlessとやるの?」


「はい」


「怖くない?」


 VOIDは少し考える。


「楽しみです」


 以前なら、そこに自分が必要かどうかを先に考えたかもしれない。


 今は違う。


 自分がやりたい。


 だからいる。


 ECHOはその返事を聞いて、ほんの少し笑った。


          ◇


「マップはどうしますか」


 ユイが確認した。


 今回は公式戦ではないため、設定できる範囲は広い。


「師匠が決めて」


 レナが言う。


「私がですか」


「誘ったの師匠だし」


 NoNameは選択画面を見る。


 特殊地形。


 時間変化。


 資源増加。


 視界制限。


 様々なルールが並んでいる。


 以前なら、相手の弱点や確認したい内容に合わせて選んだだろう。


 今回は。


《STANDARD FIELD》


 最も基本的なマップを選択した。


 中央制圧地点が一つ。


 左右の資源拠点。


 固定地形。


 特殊効果なし。


「普通ですね」


 ユイが言う。


「はい」


「理由を聞いても?」


「余計なものがない方が、勝負しやすいと思いました」


 レナがまた嬉しそうに笑った。


「今日ずっと勝つことしか考えてない」


「いけませんか」


「逆。いい」


 チーム名の入力欄が表示される。


 CROWNLESS側はそのままでいい。


 問題はNoName側だった。


「名前いるよ」


 QUEENが言う。


「TEAM NONAME?」


 レナが即座に提案する。


「嫌です」


 NoNameも即答した。


「なんで!」


「私のチームではありません」


 ORIGINATORが笑う。


「じゃあ、お前が誘った四人」


「長いです」


 QUEEN。


「WIN」


「雑です」


 VOIDが手を上げる。


「NONEは?」


 NoName。


「以前使っています」


「では、NO ANSWER」


 ORIGINATORが少し止まる。


「それ、結構好き」


 QUEENも。


「いいんじゃない?」


 NoNameだけが少し考えた。


 答えがない。


 それぞれが違う。


 そして、今日の勝ち方もまだ決まっていない。


「では」


 入力。


《NO ANSWER》


 レナが表示を見て笑う。


「なんか強そう」


「名前だけで判断しないでください」


「師匠側だと何でも強そうに見えるんだって」


「今日は敵です」


「知ってる」


 レナが武器を構える真似をする。


「だから倒す」


 NoNameも笑った。


「はい。こちらも」


          ◇


 開始地点。


 Crownlessの四人は、久しぶりにNoNameを完全な敵として見ていた。


 以前のエキシビションとは違う。


 あの時のNoNameは、彼女たちを見ていた。


 何を選べるようになったのか。


 何を手放したのか。


 どこまで自分たちで戦えるのか。


 結果として本気で勝ちに来たとしても、その根底には観察者としてのNoNameがいた。


 今日。


 違う。


「一応、確認します」


 ユイが三人へ言う。


「NoNameさんが最初に何をすると思いますか」


 レナ。


「見る」


 ミカ。


「最初は動かない可能性が高いです」


 ECHOも。


「味方三人の現在の選択傾向を確認する」


「私もそう思います」


 ユイは頷いた。


 エキシビションでもそうだった。


 最初の一分以上、ほとんど何もしなかった。


 相手と味方を見る。


 それから最小限の介入で盤面を変える。


「ただ」


 ミカが言う。


「今日は、同じでしょうか」


 ユイが見る。


「どういう意味ですか」


「NoNameさん自身が、勝ちたいと言いました」


「はい」


「それでも最初に観察を優先するのか」


 三人が少し黙る。


 ECHOが答えた。


「わかりません」


「私もです」


 ユイも認める。


「以前のNoNameさんを基準にはできます。でも、今日のNoNameさんを決めつけることはできません」


 レナが笑う。


「じゃあ、師匠本人見ればいいじゃん」


「はい」


「来たら殴る」


「黒瀬さんらしいですね」


「今の褒めてる?」


「かなり」


 反対側。


 NO ANSWER。


 QUEENが三人を見る。


「作戦は?」


 ORIGINATOR。


「ない」


 VOID。


「ありません」


 NoName。


「まだありません」


 QUEENが笑った。


「全員ひどい」


「QUEENさんは?」


 NoNameが聞く。


「ミカと戦いたい」


「作戦ではありませんね」


「そっちもでしょ」


「はい」


 ORIGINATORがNoNameを見る。


「お前、指示しないの?」


「必要ならします」


「俺たちを見てから?」


 その質問に。


 NoNameは少し考えた。


「いいえ」


 ORIGINATORの眉が上がる。


「違うのか」


「今日は」


 NoNameはCrownlessを見る。


「先に、やりたいことがあります」


 QUEENも興味を向ける。


「何?」


 NoNameは答えなかった。


 ただ。


 少し笑った。


 カウントダウンが始まる。


 五。


 Crownless。


 ミカが左。


 ユイが中央。


 レナが前。


 ECHOが右。


 いつでも変えられる。


 それでも、自分たちが積み上げてきた自然な初動。


 四。


 NO ANSWER。


 QUEENはミカを見る。


 ORIGINATORは全体。


 VOIDはECHO。


 NoNameは。


 レナを見た。


 三。


 レナが気づく。


「……私?」


 二。


 NoNameが構える。


 一。


 START.


 レナは前へ出た。


 NoNameも。


 同時に。


 前へ出た。


「え?」


 レナの方が驚いた。


 観戦席のVANTAが思わず立ち上がる。


 GRIDも。


 ミカも一瞬だけNoNameを見る。


 ユイの予測が外れる。


「最初から?」


 NoNameは観察のために止まらなかった。


 レナへ向かって一直線に走る。


「黒瀬さん」


「何!」


「今日は」


 距離が一気に縮まる。


「あなたと最初に戦いたかったです」


 レナの表情が変わった。


「なんで?」


「前へ出ると思ったので」


「やっぱ読んでるじゃん!」


「はい」


 NoNameが笑う。


「でも、それだけではありません」


 一撃。


 レナが受ける。


 NoName。


 さらに前。


 いつものように、レナの進路を狭めるためではない。


 下がらせるためでもない。


 真正面から。


 取りに来る。


「私が」


 NoNameが言う。


「やりたかったので」


 レナが数秒。


 本当に。


 動きを忘れかけた。


「師匠が?」


「はい」


「私と?」


「はい」


 次の瞬間。


 レナが笑った。


 大きく。


「じゃあ来て!」


 正面からぶつかる。


 NoNameの体力が削れる。


 レナも削られる。


 技術だけなら、レナの方が近距離では上だ。


 NoNameも知っている。


 だから以前なら、まともには付き合わなかった。


 レナが突っ込みたくなる道を作り、その先で別の選択を迫った。


 今日は違う。


 不利でも。


 真正面から続ける。


「師匠!」


「はい」


「そこ、私の方が強いよ!」


「知っています」


「じゃあ何で!」


「勝てるか試したいので」


「いいね!」


 レナの攻撃が入る。


 NoNameの体力が半分近くまで落ちる。


 それでも引かない。


 観戦席。


 BRICKが呟く。


「……あいつ、こんな戦い方したか?」


 VANTAが首を横へ振る。


「見たことない」


 ORIGINATORだけが笑っていた。


「やっとか」


          ◇


 その頃。


 ミカの前には、当然のようにQUEENがいた。


「そっち見てる場合?」


 QUEENが撃つ。


 ミカが回避する。


「見ていません」


「嘘。NoNameがレナと殴り合い始めた瞬間見た」


「一瞬です」


「嫉妬?」


「違います」


「早いなあ」


 ミカが撃ち返す。


 一発。


 QUEEN回避。


 二発目。


 命中。


「今日はあなたに集中します」


「嬉しい」


「誤解しないでください」


「しないよ」


 QUEENは笑う。


「私もミカに勝ちたいだけだから」


 二人。


 再び。


 撃ち合う。


 右ではECHOとVOID。


「NoNameが違います」


 VOIDが言う。


「はい」


「気になりますか」


「かなり」


「私もです」


「でも」


 ECHOは構える。


「今はあなたです」


 VOIDも。


「はい」


 以前なら、VOIDはNoNameを見たかもしれない。


 自分と似た存在。


 何を選ぶか。


 どう動くか。


 今は。


「ECHOに勝ちたいです」


「私もです」


 二人が動く。


          ◇


 中央。


 ユイだけが。


 相手を失っていた。


 ORIGINATORが来ない。


 どこにいる。


 すぐ見つかった。


 NoNameとレナ。


 その二人を。


 見ている。


「戦わないんですか」


 ユイが聞く。


「今は見たい」


「NoNameさんを?」


「うん」


「では、中央を取ります」


「どうぞ」


 ユイは中央へ入る。


 一秒。


 二秒。


 ORIGINATOR。


 来ない。


 三秒。


「本当にいいんですか」


「いい」


「勝ちたいのでは」


「勝ちたいよ」


「なら」


「でも今は、あいつを見たい」


 ORIGINATORはNoNameから目を離さない。


「昔、あいつは自分がやりたい戦いをほとんどしなかった」


 ユイが少しだけ表情を変える。


「全部、勝つために必要なこと?」


「そう。正確には、自分が勝つためじゃない」


 四秒。


「チームを勝たせるため」


 五秒。


「だから、自分が何をしたいかなんて、あいつ自身も考えてなかった」


 ユイもNoNameを見る。


 レナと。


 真正面。


 戦っている。


 合理的ではない。


 レナが得意とする距離。


 勝率を上げるなら。


 避けるべき。


 でも。


 NoNameは。


 楽しそうだった。


「今日は」


 ORIGINATORが笑う。


「ようやく、自分で遊んでる」


 六秒。


 ユイは中央にいる。


 得点が近い。


 それでも。


 自分も。


 少しだけ。


 NoNameを見たくなった。


 七秒。


 しかし。


 試合。


 ユイは視線を戻す。


「なら、見ていてください」


「いいの?」


「はい」


 八秒。


「その間に取ります」


 ORIGINATORが吹き出した。


「お前たち、本当に遠慮ないな」


「Crownlessですので」


 九秒。


 あと一秒。


 そこで。


 NoNameの声。


「ORIGINATORさん」


 ORIGINATORが見る。


「何?」


「中央」


「いる?」


 以前なら。


 NoNameが決めた。


 来るべきだと。


 今は。


「来てほしいです」


 ORIGINATORが一瞬。


 止まる。


 それから。


「了解」


 走る。


 十秒直前。


 ORIGINATORが中央へ滑り込み。


 競合。


 保持停止。


 ユイ。


 笑う。


「今のは、指示ではありませんね」


「はい」


 NoNameはレナと戦いながら答える。


「お願いしました」


「珍しいですね」


「そうでしょうか」


「かなり」


 ORIGINATORも中央で笑っていた。


「昔のお前なら『中央へ』で終わってた」


「そうだったと思います」


「今は?」


「私が来てほしかったので」


「そっか」


 ORIGINATORがユイへ構える。


「じゃあ俺も、今は中央取りたい」


「どうぞ」


 ユイも構えた。


          ◇


 試合開始一分十二秒。


 まだスコアはゼロ対ゼロ。


 それなのに。


 Crownlessの四人は。


 すでに。


 少し。


 戸惑っていた。


 強いからではない。


 NO ANSWERの連携が完成しているからでもない。


 むしろ。


 連携は荒い。


 QUEENはミカを追いすぎている。


 VOIDもECHOに集中している。


 ORIGINATORは途中まで試合を見ていなかった。


 そしてNoNameは、自分から不利な近距離戦へ入っている。


 普通に考えれば。


 穴だらけ。


 なのに。


 読みにくい。


「ユイ!」


 レナが通信を開く。


「はい」


「師匠、変!」


「知っています」


 NoName。


「聞こえています」


「敵なんだからいいでしょ!」


「それもそうですね」


「納得するの!?」


 レナの一撃。


 NoNameが下がる。


 今なら追える。


 レナは追う。


 NoNameも。


 逃げない。


 また。


 ぶつかる。


 そして。


 レナが。


 ようやく。


 気づいた。


「……あ」


「何でしょう」


「今日の師匠」


 一撃。


 NoName。


 回避。


「私たちを成長させようとしてない」


 NoNameの動きが、一瞬だけ止まる。


 レナ。


 そこへ。


 入る。


 攻撃。


 命中。


 NoName。


 体力。


 残り一割。


「教えようともしてない」


「はい」


「何か気づかせようとも?」


「していません」


「私が間違ってても?」


「今日は」


 NoNameが笑う。


「敵ですので」


 レナの胸の奥が。


 妙に。


 熱くなる。


「じゃあ」


 武器。


 構える。


「遠慮しない!」


「お願いします」


 レナの最後の攻撃。


 NoName。


 真正面。


 受ける。


 PLAYER DOWN.


 NONAME.


 最初の撃破。


 レナ。


 勝利。


「……倒した」


 しばらく。


 動けない。


 これまで。


 何度。


 挑んだ。


 一対一で。


 勝てなかった。


 師匠。


 NoName。


 絶対に。


 届かない。


 そう思った時期もある。


 もちろん。


 今の一戦で。


 すべてが逆転したわけではない。


 NoNameが得意ではない距離へ自分から入った。


 最適な戦い方もしなかった。


 条件を見れば。


 レナ有利。


 でも。


 NoNameは。


 本気で。


 勝ちたいと言った。


 そのNoNameを。


 倒した。


「師匠!」


 リスポーン待ちのNoNameへ。


「はい」


「悔しい?」


 数秒。


 NoNameが答える。


「かなり」


 レナの顔に。


 笑み。


 広がる。


「私、めっちゃ嬉しい!」


「それは困ります」


「もっと悔しがって!」


「努力します」


「それ努力するもの!?」


 観戦席。


 笑い。


 起きる。


 しかし。


 Crownless側で。


 一人。


 ユイだけは。


 すぐ。


 表情を戻した。


「レナ」


「何?」


「喜ぶのは後です」


「うん?」


 ユイは中央を見る。


 ORIGINATOR。


 一人。


 保持。


 一秒。


 二秒。


 さらに。


 左。


 QUEEN。


 ミカとの戦いを。


 突然。


 捨てた。


「QUEENさん?」


 ミカ。


 追う。


 QUEEN。


 中央へ。


 三秒。


 右。


 VOID。


 ECHOから離れる。


「行くんですか」


「はい」


「理由は」


「NoNameが倒されたので」


 ECHOの目が細くなる。


「助けるため?」


「違います」


 VOID。


 走る。


「今、四人で取り返したいです」


 四秒。


 QUEEN。


 中央。


 ORIGINATOR。


 二人。


 五秒。


 VOID。


 到着。


 三人。


 NoName。


 復帰まで。


 あと三秒。


「レナ!」


 ユイ。


「行く!」


 レナ。


 中央へ。


 ミカ。


 追う。


 ECHO。


 追う。


 六秒。


 Crownless。


 三人。


 NO ANSWER。


 三人。


 中央。


 衝突。


 七秒。


 そして。


 NoName。


 復帰。


 開始地点。


 止まらない。


 走る。


 以前なら。


 まず見た。


 盤面を。


 味方を。


 相手を。


 今日は。


「行きます」


 自分から。


 中央へ。


 八秒。


 レナがそれを見て笑う。


「師匠、来た!」


「はい」


「今度は逃げない?」


「逃げる必要があれば逃げます」


「そこは普通なんだ!」


 九秒。


 四人目。


 NoName。


 中央へ。


 十秒直前。


 八人。


 競合。


 得点。


 入らない。


 全員が。


 集まった。


 Crownless。


 対。


 NO ANSWER。


 初めて。


 四対四。


 同じ場所。


 NoNameは三人を見る。


 ORIGINATOR。


 QUEEN。


 VOID。


「皆さん」


 三人。


 見る。


「私は」


 一呼吸。


「ここを取りたいです」


 QUEEN。


 笑う。


「私も」


 VOID。


「はい。私もです」


 ORIGINATOR。


 一瞬。


 昔のNoNameを。


 思い出した。


 以前なら。


《中央を取ります》


 だった。


 今は。


《取りたい》。


「俺も」


 ORIGINATORが答える。


 四人。


 初めて。


 同じものを。


 選ぶ。


 ユイも三人を見る。


「こちらは?」


 ミカ。


「止めたいです」


 ECHO。


「私も」


 レナ。


「絶対取らせたくない!」


 ユイ。


 笑う。


「では、私もです」


 八人。


 同じ中央。


 四人は。


 取りたい。


 四人は。


 取らせたくない。


 誰かを育てるためではない。


 誰かへ答えを渡すためでもない。


 勝つために。


 ただ。


 自分たちが。


 そうしたいから。


 ぶつかる。


 そして。


 中央の混戦の中で。


 ミカが。


 初めて。


 気づいた。


 NoNameが。


 こちらを見ていない。


 いや。


 見てはいる。


 でも。


 読もうとしていない。


 少なくとも。


 いつものように。


 自分たちの次を。


 先に決めようとはしていない。


「NoNameさん」


「はい」


 攻撃をかわしながら。


 返事。


「今日は、本当に」


 一発。


 NoName。


 回避。


「何も教えないんですね」


 NoNameは。


 一瞬だけ。


 ミカを見る。


 そして。


 笑った。


「はい」


 次の瞬間。


 自分から。


 ミカへ撃つ。


「今日は」


 もう一発。


「勝ちたいので」


 ミカも。


 笑った。


「では」


 照準。


 NoName。


「負けません」


 試合開始一分四十七秒。


 スコア。


 まだ。


 ゼロ対ゼロ。


 それでも。


 Crownlessの四人には。


 もう。


 わかっていた。


 今日。


 相手にいるのは。


 師匠ではない。


 観察者でも。


 答えを置く人でもない。


 自分たちと。


 同じように。


 勝ちたいと願って。


 自分で。


 ここへ来た。


 一人の。


 対戦相手だった。


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