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世界女王は、彼にだけ勝てない  作者: てへろっぱ


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第七十九話 帰る場所は、勝った時だけそこにあるわけじゃない

 残り五十二秒。


 スコアは六対五。


 Crownlessが一点だけリードしている。


 中央でユイとORIGINATORが向き合い、その左右ではミカとFIRST、レナとSECOND、ECHOとTHIRDがそれぞれ対峙していた。


 形だけを見れば、四つの一対一だ。


 けれど、八人の誰一人としてそうは考えていない。


 ミカはFIRSTへ照準を合わせながら、左にいるSECONDの位置まで視界へ入れている。レナは目の前の相手へ踏み込みながら、ECHOがどこまで下がったかを把握していた。ECHOもTHIRDだけを見ず、中央でユイがORIGINATORに押されていないかを確認している。


 そしてユイは、三人すべてを見ていた。


 誰かを信じているからといって、見なくていいわけではない。


 任せることと、無関心になることは違う。


「行くよ」


 ORIGINATORが言った。


「どこへですか」


「まだ決めてない」


「では、決まった時に見ます」


「いいね」


 ORIGINATORが右へ踏み出す。


 ユイも合わせる。


 フェイント。


 すぐ左へ。


 ユイは追わない。


 その一瞬を使い、ORIGINATORは中央へ入った。


 保持開始。


 一秒。


 同時にFIRSTがミカへ突っ込む。


「今度も近距離!」


「本当に好きですね」


「今はね!」


「では」


 ミカは一歩だけ下がろうとして、やめた。


 代わりに横へ。


 FIRSTを中央から遠ざける方向へ誘う。


 二秒。


 SECONDはレナと正面からぶつかっていた。


「中央行きたい?」


 レナが聞く。


「今は行きたい!」


「じゃあ行かせない!」


 レナは倒そうとせず、進路だけを塞いだ。


 三秒。


 右ではTHIRDが突然ECHOから離れた。


「中央へ行きますか」


「うん!」


 ECHOは追う。


 ただし、完全には追わない。


 THIRDが途中で目的を変える可能性まで見ている。


 四秒。


 ORIGINATORが中央を保持したまま声を上げた。


「FIRST、来られる?」


 FIRSTはミカと撃ち合いながら答える。


「今は無理!」


「了解。SECOND」


「レナが邪魔!」


「THIRD」


「行く!」


「了解」


 命令ではない。


 確認して、返事を受け、その返事をそのまま使っている。


 ZEROは初めて「四人で勝ちたい」と選んだ。


 その願いがあるからこそ、互いを見て、声をかけ、必要なら助けを求める。


 五秒。


 THIRDが中央へ近づく。


 ECHOも追う。


「ユイ」


「見えています」


「入ります」


「お願いします」


 ECHOが中央へ入ろうとした瞬間、ORIGINATORが彼女へ向きを変えた。


 ユイを押さえるより、今はECHOを止めたい。


 それだけの選択。


 しかし、その結果。


 ユイが空く。


「ありがとうございます」


「何が?」


「私を見なくなったので」


 ユイが中央へ踏み込む。


 競合。


 保持カウント停止。


 ORIGINATORが振り返る。


 その瞬間、THIRDがECHOをすり抜けた。


「行く!」


 ECHOも反応する。


「行かせません」


 二人が中央手前でぶつかる。


 残り四十二秒。


 スコアはまだ六対五。


 ミカとFIRST。


 レナとSECOND。


 ECHOとTHIRD。


 ユイとORIGINATOR。


 また元の組み合わせへ戻ったように見える。


 けれど、その時だった。


「SECOND!」


 FIRSTが突然叫ぶ。


「何!」


「ミカ、少しだけ離せる!」


「じゃあ中央!」


「行って!」


 SECONDがレナとの交戦を捨てる。


 レナは追う。


 そこへFIRSTがミカから離れ、レナの横へ射撃を入れた。


「うわっ!」


 レナが回避させられる。


 SECONDが空く。


「レナ!」


 ミカが声を上げる。


「見えてる!」


「追えますか」


「追う!」


 レナがSECONDへ再び走る。


 だが、半秒遅い。


 SECONDが中央へ入った。


 ZERO二人。


 ORIGINATOR。


 SECOND。


 対してCrownlessはユイ一人。


「増えましたね」


 ユイが静かに言う。


「うん」


 ORIGINATORが笑う。


「今、二人で取りたい」


「では」


 ユイも少し笑った。


「私は一人で止めたいです」


 正面から受ける。


 SECONDが前へ。


 ORIGINATORが横。


 二方向。


 ユイは片方しか完全には止められない。


 被弾。


 体力が一気に四割まで落ちる。


「ユイ!」


 レナがようやく近づく。


「まだ大丈夫です」


「本当?」


「今は」


「じゃあ信じる!」


 レナは中央へ入らなかった。


 代わりにFIRSTを止めた。


 中央へ三人目を行かせない。


 ユイがそれを見て、ほんの少しだけ笑う。


 昔なら「来てください」と指示していただろう。


 今は、レナ自身が選んだことを使う。


 ORIGINATORが再び保持へ入る。


 一秒。


 二秒。


 ユイがSECONDを押し出す。


 三秒。


 ORIGINATORがユイを攻撃。


 被弾。


 体力二割。


 四秒。


「ユイ」


 今度はECHOの声だった。


「助けは必要ですか」


 ユイは一瞬だけ盤面を見る。


 ECHOの前にはTHIRD。


 彼女を中央へ呼べば、THIRDも一緒に来る可能性が高い。


 なら。


「まだいりません」


「受け取ります」


 五秒。


 ORIGINATORが笑う。


「頼まないんだ」


「必要なら頼みます」


「昔は全部自分でやった?」


「はい」


「今は?」


「今も、自分でやりたい時はやります」


 ユイは攻撃をかわし、ORIGINATORを中央の外へ押す。


「頼れるからといって、毎回頼る必要もありません」


 保持停止。


 ORIGINATORが目を細めた。


「それもいいな」


 だが、SECONDが再び入った。


 今度はユイの体力が足りない。


 真正面から止めれば、倒される。


「レナ」


 ユイが呼ぶ。


「今度は?」


「欲しいです」


「了解!」


 レナは即座にFIRSTを捨て、中央へ飛び込んだ。


 FIRSTも追う。


 中央へ四人。


 さらにTHIRDがECHOを見て笑う。


「私も行く」


「では私も行きます」


 右から二人。


 ミカもFIRSTの後ろを追う。


 結局。


 八人全員が中央へ集まった。


 残り二十九秒。


 中央。


 完全な混戦。


 誰が誰を相手にするかなど、もう意味がない。


 FIRSTがレナへ撃つ。


 ミカがFIRSTを止める。


 SECONDがミカへ入る。


 ユイがSECONDの進路をずらす。


 THIRDがユイを狙う。


 ECHOがその間へ入る。


 ORIGINATORはECHOを押す。


 レナがORIGINATORへぶつかる。


 八人の選択が次々に絡み、ほどけ、また別の形でつながっていく。


 ZEROは強かった。


 四人で勝ちたいと選んだ今、その強さはこれまでより明確だった。


 誰かが止められれば別の誰かが動く。


 誰かが助けを求めれば、行きたい者が応じる。


 そして、必要がなくなればすぐに離れる。


 固定された連携ではない。


 その場で生まれ続ける連携。


「中央、取る!」


 FIRSTが叫ぶ。


「取ろう!」


 SECOND。


「私も!」


 THIRD。


 ORIGINATORも。


「うん」


 四人。


 中央へ。


 Crownlessも止める。


 残り二十二秒。


 ZERO保持。


 一秒。


 二秒。


 ユイが中央へ入る。


 ORIGINATORが押し出す。


 三秒。


 レナが入る。


 SECONDが受ける。


 四秒。


 ミカが射線を通す。


 FIRSTが遮る。


 五秒。


 ECHOがTHIRDを押す。


 THIRDは下がらない。


 六秒。


 Crownless。


 誰も中央へ完全には入れない。


 七秒。


 残り十五秒。


 ユイが声を上げた。


「一度、捨てます!」


 レナが驚く。


「中央を!?」


「はい!」


 それでも誰も理由を聞かなかった。


 ユイがそう言ったから従うのではない。


 三人も盤面を見る。


 中央へZERO四人。


 全員。


 だから。


 外が空いている。


 ミカが先に気づいた。


「左資源」


 ECHOも。


「右もです」


 レナが中央を見る。


「でも、ここ取られる!」


「取られます」


 ユイは迷わない。


「それでも行きますか?」


 命令ではない。


 問い。


 三人が自分で選ぶ。


 ミカ。


「左へ行きます」


 ECHO。


「右へ」


 レナは一瞬だけ中央を見る。


 ZERO四人。


 そして笑った。


「私は残る!」


「わかりました」


 ユイも中央へ残る。


 二人。


 対。


 ZERO四人。


 ミカとECHOは左右へ散った。


 ZERO保持。


 八秒。


 九秒。


 レナが無理に入る。


 ORIGINATORが止める。


「取るよ!」


「取らせる!」


「え?」


 レナが笑う。


「でも、次はこっちも取る!」


 十秒。


 CENTRAL HOLD.


 ZERO.


 SIX.


 六対六。


 同点。


 残り十二秒。


 得点と同時にマップが白く光りかける。


 だが。


 決勝の最終局面では、残り十五秒未満の得点時のみリセットが発生しない。


 大会ルール。


 ユイは知っていた。


 ZEROも当然知っている。


 だからこそ。


 ORIGINATORの表情が変わった。


「左右!」


 FIRSTが左を見る。


 ミカ。


 すでに資源へ触れている。


 一秒。


 SECONDが右を見る。


 ECHOも。


 一秒。


「分かれる!」


 ORIGINATORが叫ぶ。


 今度は明確な指示。


 FIRSTがミカへ。


 SECONDがECHOへ。


 THIRDはどちらへ行くか迷い、左を選ぶ。


 ORIGINATORも右へ向かおうとする。


 その前に。


 レナが立つ。


「行かせない!」


「二人が取るよ!」


「知ってる!」


「なら、どっちか助けないと」


「助けるよ!」


 レナがORIGINATORへ踏み込む。


「ここで!」


 ユイもTHIRDへ向かう。


 助けに行く。


 でも、資源へではない。


 取りに行った二人が取れるように。


 自分たちは。


 追う相手を止める。


 左。


 ミカ。


 三秒。


 FIRSTが近づく。


 ユイ。


 THIRDを止める。


 四秒。


 FIRSTが射程へ。


 ミカは資源から手を離さない。


 五秒。


 FIRSTが撃つ。


 ミカ被弾。


 体力六割。


 それでも離さない。


「ミカ!」


 ユイ。


「大丈夫です!」


 六秒。


 右。


 ECHO。


 SECONDが迫る。


 ORIGINATORはレナに止められている。


 七秒。


 SECONDがECHOへ攻撃。


 被弾。


 ECHO体力五割。


「離れない?」


 SECONDが聞く。


「今は取りたいです」


「そっか!」


 八秒。


 残り四秒。


 左。


 FIRST。


 ミカ。


 もう一発。


 ミカ。


 体力三割。


 九秒。


 右。


 SECOND。


 ECHOへ。


 ECHO体力二割。


 九秒。


 両方。


 あと一秒。


 ORIGINATORがレナを押し返した。


「間に合う!」


 右へ。


 レナ。


 転倒。


 それでも叫ぶ。


「ECHO!」


「見えています!」


 ユイもTHIRDを完全には止められない。


 左へ。


 THIRD。


 FIRST。


 二人。


 ミカへ。


 残り二秒。


 ミカは二人を見る。


 逃げない。


 ECHOも。


 ORIGINATORとSECOND。


 二人。


 来る。


 逃げない。


 二人とも。


 資源へ手を置いたまま。


 そして。


 互い。


 遠い。


 見えない。


 それでも。


 知っている。


 片方が失敗しても。


 もう片方が取るかもしれない。


 両方失敗するかもしれない。


 それでも。


 戻れる。


 残り一秒。


 FIRSTの攻撃。


 ミカへ。


 ORIGINATORの攻撃。


 ECHOへ。


 同時。


 命中。


 PLAYER DOWN.


 MIKA.


 PLAYER DOWN.


 ECHO.


 会場が息を呑む。


 その直前。


 ほんのわずかに。


 先に。


 右側の表示が。


 更新された。


 RESOURCE SECURED.


 CROWNLESS.


 SEVEN.


 TIME.


 一瞬。


 すべての音が消えたように感じた。


 巨大スクリーン。


 CROWNLESS.


 SEVEN.


 ZERO.


 SIX.


 WINNER.


 CROWNLESS.


 数秒遅れて。


 会場が揺れるほどの歓声が爆発した。


          ◇


 レナは倒れたまま巨大スクリーンを見上げていた。


「……勝った?」


 ユイも息を切らしながら表示を確認する。


「はい」


「本当に?」


「七対六です」


「勝った!」


 レナが立ち上がる。


「勝ったああ!」


 ミカとECHOも復帰表示から戻ってくる。


 ECHOは最初にスコアを確認した。


「右資源、取得できていました」


「ECHO!」


 レナが駆け寄る。


「最後取った!」


「はい」


「すごい!」


「ありがとうございます」


「ミカも惜しかった!」


 ミカは少し苦笑した。


「私は取る直前で倒されました」


「でも二人来させた!」


 ユイも頷く。


「ミカさんへFIRSTとTHIRDの二人が向かったから、右へORIGINATORさんが到着するのが遅れました。十分です」


 ミカは一瞬だけ黙った。


 昔なら。


 最後まで取れなかった自分を悔やんだかもしれない。


「では」


 少し笑う。


「役に立てたようでよかったです」


 ECHOがすぐに言う。


「役に立てなくても、ミカはミカです」


 ミカが目を瞬く。


 レナが笑う。


「でも今回はめっちゃ役立った!」


「黒瀬さん」


「何」


「少し余韻を」


「勝ったんだからいいじゃん!」


 ユイまで笑った。


 四人。


 決勝の中央。


 笑っている。


 ZEROの四人は少し離れた場所に立っていた。


 FIRSTが最初に息を吐く。


「負けた」


 SECONDがスコアを見る。


「一点」


 THIRDはECHOを見て笑った。


「最後、取ったね」


「はい」


「次は止める」


「次があれば」


「あるでしょ」


 ECHOは少し考える。


「私も、あるといいと思います」


 ORIGINATORは何も言わず、Crownlessの四人を見ていた。


 負けた。


 決勝で。


 昔の仲間と再び集まり。


 自分たちなりの今を全部出して。


 それでも負けた。


 けれど。


 FIRSTも、SECONDも、THIRDも。


 誰一人として。


 離れていかない。


「帰る?」


 FIRSTがORIGINATORへ聞いた。


「一緒に?」


「当たり前でしょ」


 SECONDが笑う。


「反省会、試合後にするって言ったし」


 THIRDも。


「いっぱいあるよ」


 ORIGINATORが三人を見る。


 そして。


 笑った。


「そうだったな」


 昔とは。


 違う。


 負けても。


 四人。


 残る。


          ◇


 握手を終えたCrownlessの四人は、観戦席へ戻った。


 NoNameは立って待っている。


 いつもと同じ。


 レナが最初に走る。


「師匠!」


「はい」


「ただいま!」


 勝ったから。


 言える。


 それだけではない。


 負けても言うつもりだった。


 だから。


 今の「ただいま」は。


 以前より少し。


 違う。


 NoNameも。


 いつものように。


「おかえりなさい」


 答える。


 ユイも。


「ただいま戻りました」


「おかえりなさい」


 ミカも。


「ただいま」


「おかえりなさい」


 最後。


 ECHO。


 少しだけ。


 NoNameの前で止まる。


「勝ちました」


「はい」


「でも」


 一呼吸。


「負けても、同じことを言うつもりでした」


 NoNameはしばらくECHOを見る。


 そして、ほんの少しだけ笑った。


「はい」


 ECHOも。


「ただいま」


「おかえりなさい」


 そのやり取りを。


 ORIGINATORが。


 少し離れた場所から見ていた。


 ゆっくり。


 近づく。


 レナがすぐ気づいた。


「来た」


「警戒しなくてもいいよ」


「一応」


「弟子入りしない」


「ならいい」


 ORIGINATORは苦笑してから、NoNameを見る。


 二人。


 長い時間を隔てて。


 初めて。


 同じ場所に。


 直接立つ。


「久しぶり」


「お久しぶりです」


「まだそれなんだ」


「変でしょうか」


「変わってないところもあるな」


「そうかもしれません」


 ORIGINATORはCrownlessの四人を見る。


「いいチームだ」


 レナがすぐに口を開きかける。


 けれど。


 今回は。


 止まった。


 それを決めるのは。


 ORIGINATORではない。


 NoNameでもない。


 四人でも。


 たぶん。


 一言だけでは。


 決められない。


 それでも。


 NoNameは。


 自分で。


 答えた。


「はい」


 ORIGINATORを見る。


「私が帰る場所です」


 ミカの表情が止まる。


 ユイは静かに目を伏せる。


 ECHOも瞬きを忘れたようにNoNameを見た。


 レナだけが数秒遅れて顔を赤くする。


「師匠、それ急に言うのずるくない?」


「何がでしょう」


「わかんないけどずるい!」


 ORIGINATORが声を上げて笑った。


「本当に変わったな、お前」


 NoNameは困ったように笑う。


「皆さんにも、よく言われます」


「そりゃ言われる」


 しばらく笑ったあと、ORIGINATORは少しだけ真面目な顔になった。


「昔のこと」


「はい」


「今さら謝らなくていい」


 NoNameは黙る。


「俺たちも、お前一人だけを悪者にして終わった。あの時、自分で選ぶことをやめてたのは俺たちも同じだった」


「それでも」


「知ってる」


 ORIGINATORは遮った。


「お前が間違えたことは消えない。俺たちが間違えたことも消えない」


 NoNameの目が少し細くなる。


「でも」


 ORIGINATORは後ろを見る。


 FIRST。


 SECOND。


 THIRD。


 三人。


 待っている。


「失敗した俺たちまで、昔に置いてくる必要はなかった」


 第七十六話で。


 ZEROから。


 Crownlessが。


 見つけたもの。


 今度は。


 ORIGINATOR自身が。


 言う。


「お前もそうだろ」


 NoNameはCrownlessを見る。


 ミカ。


 ユイ。


 レナ。


 ECHO。


 失敗した自分を。


 知らないわけではない。


 それでも。


 ここにいる。


「はい」


 NoNameは頷いた。


「そう思います」


 ORIGINATORも頷く。


「じゃあ、またな」


「はい」


 少しだけ迷って。


 NoNameから。


 続ける。


「また」


 ORIGINATORの足が止まる。


 振り返る。


 そして。


 笑う。


「ああ」


 それだけで。


 十分だった。


          ◇


 巨大スクリーンでは、決勝結果が改めて表示されていた。


《FINAL RESULT》


《CROWNLESS 7-6 ZERO》


《CHAMPION CROWNLESS》


 世界ランキング一位MONARCHを破り、最後には大会創設者のZEROまで倒した。


 配信視聴者数は三百万人を超え、コメント欄はもはや流れを追えないほど速い。


 けれどCrownlessの四人は、しばらくその数字を見ていなかった。


 レナがNoNameの横で笑っている。


 ユイは試合記録を開きながらも、ときどき会話へ加わる。


 ミカは少し離れたところでQUEENから届いた再戦希望のメッセージを見つけ、困ったように笑っている。


 ECHOはZEROの三人と連絡先を交換していた。


 誰も。


 王座を見ていない。


 優勝したのに。


 優勝だけを。


 見ていない。


 NoNameは四人を見ながら、少しだけ笑う。


「どうしたの、師匠」


 レナが気づく。


「いえ」


「またそれ」


「少し、思いまして」


「何を?」


 NoNameは巨大スクリーンの《CHAMPION》ではなく。


 その下にいる。


 四人を。


 見る。


「皆さんらしいと思いました」


 レナが首を傾げる。


「優勝が?」


「いいえ」


 NoNameは答えた。


「優勝したあとに、優勝以外のことをしているところです」


 四人。


 一瞬。


 黙る。


 そして。


 レナが最初に笑った。


「だって終わったじゃん」


「はい」


「じゃあ次でしょ」


 ユイも頷く。


「次に何をするかは、まだ決めていませんが」


 ミカも。


「今決める必要はありません」


 ECHOも。


「ただ」


 四人。


 NoNameを見る。


 ECHOが代表するように言った。


「帰る場所は、あります」


 NoNameは。


 今度。


 迷わなかった。


「はい」


 世界女王たちは。


 世界一を倒した。


 大会にも勝った。


 それでも。


 彼女たちが最後に手に入れたものは。


 王座でも。


 称号でも。


 誰かより上に立ったという証明でもなかった。


 勝っても。


 負けても。


 失敗しても。


 何かを選べなくても。


 もう一度。


 戻ってこられる場所。


 そしてそこには。


 かつて誰よりも帰ることが苦手だった一人も。


 当たり前のように。


 一緒に立っていた。


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