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世界女王は、彼にだけ勝てない  作者: てへろっぱ


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77/98

第七十七話 積み重ねたものは、答えではなく信頼だった

 残り七分。


 スコアはCrownlessが三対一でリードしている。


 左資源へ手を伸ばしたORIGINATORに、レナが真正面から飛び込んだ。


「だったら、最後まで見て!」


「そのつもりだよ」


 ORIGINATORは資源取得を中断し、レナの攻撃を受ける。


 先ほどまでなら、レナはそのまま勢いで押し切ろうとしたかもしれない。相手が退けば追い、反撃されればさらに前へ出る。それも彼女自身の選択であり、今では決して悪い癖ではない。


 けれど今回は、一撃を入れた直後に足を止めた。


 ORIGINATORが少しだけ目を細める。


「来ない?」


「今は行かない」


「さっきまで追ってたのに」


「うん。でも、今はここでいい」


 レナは資源拠点とORIGINATORの中間に立った。


 倒すことより、取らせないことを選ぶ。


 以前の自分なら退屈だと思った選択だ。それでも今は、自分で選んだなら十分に面白い。


「なるほど」


 ORIGINATORが笑う。


「何?」


「NoNameが教えた?」


「違う」


 レナは迷わなかった。


「師匠に止まれって言われたことはある。でも、今止まったのは私」


「いい答えだ」


「答えじゃないって話してたでしょ」


「そうだった」


「忘れた?」


「次に持ち越さなかった」


「便利すぎ!」


 レナが思わず笑った。


 その一瞬をORIGINATORは使わない。


 本当にただ笑っている。


 けれど、だからといって隙ではない。


 レナが再び踏み込もうとした瞬間、ORIGINATORは資源とは逆方向へ走った。


「そっち!?」


「今は中央を見たい」


「じゃあ私も!」


 レナは追いかけようとして、途中で止まった。


 追う必要があるか。


 左資源は空いた。


 なら。


「やっぱ取る!」


 ORIGINATORの背中を追わず、レナはそのまま資源へ触れた。


 一秒、二秒。


 ORIGINATORは振り返らない。


 レナも気にしない。


 相手が何をしたいかは相手が決める。


 自分が何をしたいかは、自分で決める。


 それだけならZEROと似ている。


 けれど、Crownlessにはもう一つある。


「ユイ、左取る!」


 レナが通信を開く。


「見えています。そのままお願いします」


「了解!」


 自分で決める。


 そして、共有する。


 それを聞いたユイが、中央へ戻ってきたORIGINATORの進路を少しだけ変えた。


 指示したわけではない。


 レナが左を取るなら、そこへORIGINATORを戻させたくない。


 だから自分で動いた。


 ORIGINATORはユイを見てから、小さく笑った。


「そこは持ち越すんだ」


「何をですか」


「仲間が今何をしているか」


「当然です」


 ユイは前へ出る。


「私たちは、毎回初対面になるつもりはありません」


          ◇


 中央近くでは、SECONDとミカが向き合っていた。


 FIRSTはリスポーン後、すぐには戻ってきていない。先ほどミカとの近距離戦で相打ちになったばかりだが、復帰後に同じ場所へ来る保証などない。


 SECONDは中央へ入るでもなく、ミカを攻めるでもなく、少し離れた場所でこちらを見ていた。


「何を待っていますか」


 ミカが尋ねる。


「まだ決めてない」


「そうですか」


「そっちは?」


「決めています」


 SECONDが少し驚く。


「何するの?」


「中央を守ります」


「ずっと?」


「今は」


 ミカが少し笑うと、SECONDも笑った。


「その言い方、もう普通になってきたね」


「便利ですから」


「ZEROに近づいた?」


「いいえ」


 即答だった。


「どう違う?」


 ミカはすぐには答えず、左を見た。


 レナが資源を取り続けている。


 右ではECHOとTHIRDがまだ交戦している。ユイは中央外周でORIGINATORを抑えている。


「私は、あの三人が何をしやすいか知っています」


「それを使う?」


「はい。必要なら」


「でも、それって過去で相手を決めるのと同じじゃない?」


「違います」


 ミカはSECONDへ銃口を向ける。


「黒瀬さんが前へ出るのが好きなことも、月城さんが考えすぎることも、ECHOさんが役割を探していたことも知っています。でも、その人が次に何をするかまで決めたつもりにはなりません」


 引き金へ指を置く。


「知っていることと、決めつけることは別です」


 SECONDの表情から、ほんの少し笑みが消えた。


「それ、強いね」


「ありがとうございます」


「じゃあ試す」


 SECONDが中央へ走った。


 ミカは撃つ。


 一発目。


 SECONDは避ける。


 二発目。


 今度は避けずに被弾しながら中央へ。


 ミカは三発目を撃とうとして、止めた。


 SECONDが次に何をするかはわからない。


 でも、自分は知っている。


 今、中央を取られるとレナの左資源取得と競合し、得点差を広げにくくなる。


 だから。


「ECHOさん」


「はい」


「十秒だけ、中央を見てもらえますか」


 以前なら、ミカは「中央へ来てください」と言ったかもしれない。


 今は違う。


 お願いする。


 ECHOの選択肢を残す。


「受け取ります」


 ECHOはTHIRDから距離を取った。


 THIRDが追おうとする。


 しかし途中で止まる。


「中央行くんだ」


「はい」


「じゃあ私はどうしよう」


「ご自由に」


「そうする」


 THIRDはECHOを追わず、右資源へ向かった。


 盤面がまた分かれる。


 それでもCrownlessは崩れない。


 ECHOが中央へ入ると、SECONDは二対一になる前に離脱した。


「取らないんですか」


 ECHOが尋ねる。


「今は無理そうだから」


「先ほどなら続けたかもしれません」


「そうだね」


「覚えているんですね」


「もちろん」


 SECONDが笑う。


「忘れるって、記憶消してるわけじゃないから」


「理解しています」


 ECHOは少しだけ頷いた。


 その答えを、自分たちもようやく別の形で理解し始めている。


          ◇


 左資源の取得が完了した。


 RESOURCE SECURED.


 CROWNLESS.


 FOUR.


 四対一。


 会場の歓声がさらに大きくなる。


 レナは得点表示を見上げて拳を握った。


「三点差!」


「まだ半分あります」


 ユイが返す。


「でも三点差は三点差!」


「それは先ほども聞きました」


「大事だから!」


 レナが笑いながら中央へ戻ろうとした、その時だった。


 右側から短い通知音が響く。


 THIRDが一人で資源を取っていた。


 RESOURCE SECURED.


 ZERO.


 TWO.


 四対二。


「早っ!」


 レナが振り返る。


 ECHOは中央にいる。


 THIRDを止める人はいなかった。


「ごめんなさい」


 ECHOが言う。


 ユイがすぐに返した。


「謝る必要はありません。中央を任せたのはこちらです」


「でも、私が右を離れました」


「はい。その結果、中央を守れました」


 ミカも言う。


「こちらは左を取っています。交換としては悪くありません」


 ECHOは少しだけ黙った。


 以前なら。


 自分が空けた場所から失点した。


 その事実だけで、自分の役割選択が間違っていたと思ったかもしれない。


 今は違う。


「では」


 一呼吸。


「次も必要なら離れます」


 レナが笑う。


「それでいい!」


 THIRDも遠くから聞いていたらしく、右資源を離れながら笑った。


「やっぱり似てるけど、違うね」


 ECHOが見る。


「どこがですか」


「昔の私は、失敗した場所に戻って埋めた」


「今は?」


「埋めたい時だけ戻る」


「私は」


 ECHOも少し考えた。


「誰かが任せてくれるなら、戻らないこともできます」


「そこだね」


 THIRDが頷く。


「あなたは、一人で自分を選んでるんじゃない」


 ECHOの目がわずかに動く。


「どういう意味ですか」


「周りがいる」


 それだけ言って、THIRDは別方向へ走った。


 ECHOはすぐには追わなかった。


 言葉を考える。


 自分で選べるようになった。


 それは確かだ。


 けれど。


 自分一人で強くなったわけではない。


 ミカがいる。


 ユイがいる。


 レナがいる。


 NoNameがいる。


 選択に失敗しても、それだけで自分が消えないと知っている。


 だから選べる。


「……そうですね」


 小さく呟き、ECHOは中央を離れた。


「どこ行くの?」


 レナが訊く。


「THIRDです」


「追う?」


「話の続きをしたいです」


「試合中!」


「知っています」


「最近みんなそれ言う!」


 ECHOは少しだけ笑い、そのまま右へ走った。


          ◇


 残り五分四十八秒。


 Crownless、四。


 ZERO、二。


 数字の上ではCrownlessが優勢だった。


 だがユイは、ZEROの動きが少しずつ変わっていることに気づいていた。


 変化そのものは珍しくない。


 彼らは毎回変わる。


 ただ、今は違う。


 FIRSTが復帰してからSECONDの近くへいる。


 THIRDはECHOと戦いながらも、時々ORIGINATORを見る。


 ORIGINATORも、他の三人を以前より頻繁に見ている。


「集まり始めています」


 ユイが言う。


 ミカも気づいた。


「意図的でしょうか」


「わかりません」


「聞けば?」


 レナが気軽に言う。


 ユイが少し止まる。


「本人たちに?」


「うん。ずっと喋ってるじゃん」


「敵ですよ」


「知ってるよ」


 レナは本気だった。


 ユイは一瞬だけ考えてから、ORIGINATORへ声をかけた。


「一つ、聞いてもいいですか」


「いいよ」


「今、四人で近づこうとしていますか」


 ORIGINATORは周囲を見る。


 FIRST。


 SECOND。


 THIRD。


 そして自分。


「……言われてみれば、そうだな」


「決めていなかった?」


「決めてない」


 FIRSTも会話へ入る。


「私はSECONDとやりたいことがある」


「何?」


 SECONDが尋ねる。


「まだ決めてないけど、一緒にやりたい」


「じゃあ行く」


 THIRDも中央へ少し寄る。


「私も、今ちょっとみんなの近くがいい」


 ORIGINATORが笑う。


「俺も」


 ユイの背中に、わずかな緊張が走った。


 四人が同じことを選んだ。


 以前のCROWNED戦でも見た。


 しかしZEROは違う。


 彼らは「四人で一点を取ろう」と共有したわけではない。


 ただ、それぞれが今、他の三人の近くにいたいと選んだ。


 その結果として。


 四人が集まる。


「来ます」


 ユイが三人へ伝える。


 レナが中央へ寄る。


「四人?」


「はい。ただし、目的はまだわかりません」


「じゃあ、こっちは?」


 ミカが答えた。


「無理に合わせる必要はありません」


 ECHOもTHIRDから離れながら頷く。


「私は中央右を見ます」


 レナ。


「私、前」


 ミカ。


「左から見ます」


 最後にユイ。


「私は中央に残ります」


 四人とも違う。


 でも。


 誰がどこへいるか、全員が知っている。


 ZEROの四人が中央近くへ入る。


 FIRSTが最初にレナへ向かった。


「また近距離やる!」


「来い!」


 SECONDはミカを見ていた。


「今度は私?」


「今は」


「どうぞ」


 THIRDはECHO。


「続き」


「はい」


 ORIGINATORだけはユイへ来ない。


 三人の間を歩くように位置を変えている。


「何をしますか」


 ユイが訊く。


「まだ決めてない」


 いつもの答え。


 でも。


 今度は。


「誰かが困ったら助けるかも」


 ユイの目が細くなる。


「役割ですか」


「違う。今、助けたい気分」


「全員を?」


「たぶん」


 ユイは理解した。


 REGALIAとは違う。


 支援が好きだからでもない。


 昔のNoNameのように、全員を最適化するためでもない。


 ただ今。


 ORIGINATORが。


 昔の仲間を助けたいと思っている。


「それは」


 ユイは少しだけ笑った。


「昔なら、NoNameさんがしていたことですか」


 ORIGINATORの足が一瞬止まる。


「……そうだね」


「では、あなたは」


「違うよ」


 先にORIGINATORが答えた。


「同じことをしても、同じじゃない」


「理由が違うから?」


「それもある。でも」


 ORIGINATORはFIRSTを見る。


 FIRSTはレナに押されている。


 助けられる。


 それでもすぐには行かない。


「昔のあいつは、助けるかどうかまで自分で決めてた」


「あなたは?」


「聞く」


 ORIGINATORが声を上げる。


「FIRST、いる?」


 FIRSTはレナと殴り合いながら叫んだ。


「いらない!」


「了解」


 ORIGINATORは行かなかった。


 ユイの表情が変わる。


 次。


「SECONDは?」


「今いい!」


「THIRD」


「ECHOと話してる!」


「了解」


 三人とも。


 助けを求めない。


 ORIGINATORは笑った。


「暇になった」


 ユイも思わず笑った。


「では、私と戦いますか」


「そうしよう」


 二人が中央で構える。


 その瞬間。


 左でレナがFIRSTを押し切った。


 FIRSTが大きく後退する。


「うわ、やばい!」


 今度。


 ORIGINATORが見る。


「いる?」


 FIRST。


 一瞬。


 迷う。


「……いる!」


「了解!」


 ORIGINATORがユイとの戦いを捨てた。


 FIRSTへ。


 援護。


 ユイは追える。


 しかし追わない。


「レナ」


「何!」


「一人増えます」


「見えてる!」


「助けは?」


 レナ。


 笑う。


「ちょっと欲しい!」


 ユイも。


 即答。


「行きます」


 同じ。


 ZEROと。


 同じように見える。


 でも。


 違う。


 助ける側が勝手に決めない。


 助けられる側も、意地を張って拒まない。


 必要なら。


 言う。


 欲しいなら。


 頼る。


 ユイがレナの横へ入る。


 二対二。


 FIRST。


 ORIGINATOR。


 対。


 レナ。


 ユイ。


 四人。


 中央左。


 激突。


 ミカはそれを見る。


 助けへ。


 行かない。


 SECOND。


 目の前。


「行かなくていいの?」


「二人がいます」


「信用してる?」


「はい」


「失敗したら?」


 ミカは少し笑った。


「その時は、戻ってきます」


 SECONDが一瞬だけ目を細める。


「いいね、それ」


「ありがとうございます」


 二人も戦い始める。


 右。


 ECHO。


 THIRD。


 THIRDが今度は先に訊いた。


「助け行かない?」


「行きません」


「どうして」


「ユイとレナがいます」


「信用?」


「それもあります」


「他は?」


 ECHOは少し考えた。


「私が、あなたと続けたいからです」


 THIRDが笑う。


「そっちの方が好き」


「何がですか」


「信用してるから残る、だけじゃなくて、自分も残りたいって言うところ」


「最近覚えました」


「NoNameに?」


「いいえ」


 ECHOは少しだけ誇らしそうに答えた。


「私が決めました」


 二人が武器を構える。


          ◇


 中央左の二対二は、長く続かなかった。


 FIRSTの体力が少ない。


 ORIGINATORはそれを守ろうとする。


 ユイがORIGINATORの進路を塞ぎ、レナがFIRSTへ入る。


 一撃。


 FIRSTが回避。


 二撃目。


 ORIGINATORが割り込む。


 レナの攻撃を受ける。


「庇うんだ!」


「今はね!」


「じゃあ!」


 レナが標的を変える。


 ORIGINATORへ。


 ユイはFIRSTへ。


 ZERO側も即座に入れ替わる。


 だが、そこで違いが出た。


 ユイはレナが何を得意とするか知っている。


 レナも、ユイがどの距離なら最も相手の選択肢を削れるか知っている。


 何度も一緒に戦ってきた。


 成功だけではない。


 失敗も見てきた。


 だから。


「レナ、右へ一歩」


「うん!」


 今度は命令ではない。


 レナ自身も、同じものが見えていた。


 右へずれる。


 その一歩でORIGINATORの退路が狭くなる。


 ユイがFIRSTを追う。


 FIRSTは左へ逃げたい。


 しかしそこにはレナがいる。


 ZEROの二人も対応する。


 ORIGINATORが前へ出る。


 FIRSTが後ろへ。


 でも。


 ほんの一瞬。


 相談が必要だった。


「入れ替わる?」


 FIRSTが訊く。


「そうしよう」


 その半秒。


 Crownlessにはいらなかった。


 ユイがすでに下がり、レナが前へ出ている。


 積み上げてきた時間。


 その差。


 レナの一撃がFIRSTへ入った。


 PLAYER DOWN.


 FIRST.


 同時にユイもORIGINATORの攻撃を受ける。


 体力を大きく削られた。


 それでも。


 交換としては十分。


「取る!」


 レナが中央へ走る。


「お願いします」


 ユイはORIGINATORを止める。


 中央。


 レナ。


 保持。


 一秒。


 二秒。


 ORIGINATOR。


 ユイを抜こうとする。


 三秒。


 ユイ。


 耐える。


 四秒。


 SECOND。


 ミカとの戦いから中央を見る。


「行く」


 ミカ。


「どうぞ」


 追う。


 五秒。


 THIRDも見る。


 ECHO。


「行きますか」


「今は行く!」


「では、私も」


 六秒。


 左右からZERO。


 二人。


 Crownlessも。


 ミカ。


 ECHO。


 追う。


 七秒。


 レナ。


 中央。


「あと三!」


 八秒。


 SECOND。


 近い。


 ミカ。


 射撃。


 進路。


 ずらす。


 九秒。


 THIRD。


 入る。


 ECHO。


 体当たり。


 止める。


 十秒。


 CENTRAL HOLD.


 CROWNLESS.


 FIVE.


 五対二。


 大歓声とともに、マップが白く初期化された。


 レナが再開地点で両手を上げる。


「取った!」


「はい」


 ユイは息を整えながらスコアを見る。


 三点差。


 残り四分十二秒。


 大きい。


 だが。


 彼女が見ていたのは得点だけではなかった。


 今の一点。


 ZEROは途中から四人が同じ場所を見た。


 Crownlessも同じだった。


 違いは。


 ZEROが弱かったわけではない。


 むしろ、個々の選択だけならほとんど差がなかった。


 最後に半秒だけ。


 Crownlessの方が早かった。


 言葉がなくても、レナが前へ出ることを知っていた。


 ユイが下がることをレナも知っていた。


 過去に縛られたのではない。


 過去を使った。


「見えました」


 ユイが言う。


 ミカも頷いた。


「はい」


 ECHO。


「私もです」


 レナだけ首を傾げる。


「何が?」


 ユイは少し笑った。


「私たちが、ZEROにならなくていい理由です」


「今の?」


「はい」


 ZERO側では、FIRSTが再開地点でORIGINATORに話していた。


「今、遅れたね」


「うん」


「私が聞いたから?」


「俺も答えようとしたから」


「次、聞かない?」


 ORIGINATORは少し考える。


「わからない」


 FIRSTも笑う。


「だよね」


 反省を次のルールにしない。


 それでも。


 今の失点は覚えている。


 ZEROらしい。


 ユイはその姿を見てから、三人へ言った。


「彼らは毎回、自分を選び直せます。そこでは私たちより強いかもしれません」


 レナが頷く。


「うん」


「でも、私たちは毎回全部を選び直す必要がありません。任せられるところは、もう知っています」


 ミカが続ける。


「レナさんが前へ出た時、必ず暴走するとは思わない」


「昔は?」


「かなり」


「ひどい」


 ECHOも言う。


「ユイが指示を出しても、私を役割へ固定するためだとは思いません」


 ユイは少し目を伏せてから頷いた。


「ありがとうございます」


 レナもECHOを見る。


「ECHOが変なことしても、ちゃんと理由あるって思える」


「変なこと、とは」


「急に止まったり」


「疲れるので」


「それ!」


 ミカが笑う。


 そして三人の視線が、自分へ向く。


「私は?」


 レナが先に答えた。


「撃たなくても焦らない」


 ユイ。


「撃っても止めません」


 ECHO。


「どちらもミカです」


 ミカは一瞬言葉を失ったあと、小さく笑った。


「はい」


 過去を持っているからこそ。


 今の選択を、少しだけ早く信じられる。


 積み重ねたものは、次の答えではなかった。


 この人なら、自分で選べる。


 失敗しても戻ってくる。


 必要なら助けを求める。


 それを知っていることだった。


 ZEROは毎回、ゼロから選べる。


 Crownlessは。


 ゼロまで戻らなくても。


 自由に選べる。


 その違いが。


 初めて。


 得点になった。


          ◇


 残り四分十二秒。


 スコアは五対二。


 次の開始を待ちながら、ORIGINATORはCrownlessの四人を長く見ていた。


「NoName」


 突然。


 観戦席へ。


 呼ぶ。


 会場がわずかにざわめいた。


 NoNameは返事をしない。


 試合中だからだ。


 ORIGINATORも、返事を期待していないらしい。


「昔のお前なら」


 そのまま続ける。


「今の一点を見て、たぶん『連携速度〇・何秒』とか考えた」


 観客席のNoNameが、ほんの少しだけ困った顔をした。


 レナが笑いそうになる。


「師匠、絶対やってた」


 ユイも否定できない。


 ORIGINATORは笑った。


「でも、違うだろ」


 NoNameは少し考えたあと。


 短く答えた。


「はい」


 ORIGINATORの笑みが深くなる。


「何に見えた?」


 今度は、Crownlessの四人までNoNameを見る。


 NoNameは盤面を見た。


 数字。


 位置。


 効率。


 それらを見れば、説明はいくらでもできる。


 でも。


 今。


 彼に一番見えているものは。


 別だった。


「皆さんが」


 一度。


 言葉を選ぶ。


「お互いを、待たなくてもよくなったように見えました」


 レナの表情が変わる。


 ミカも。


 ユイも。


 ECHOも。


 ORIGINATORはしばらくNoNameを見た。


 そして。


「……そうか」


 静かに笑った。


「やっと、人を見るようになったな」


 昔。


『人を見ているつもりで、まだ答えを探している』


 そう言った人が。


 今。


 初めて。


 違う言葉を。


 返した。


 NoNameは何も言わなかった。


 けれど。


 少しだけ。


 笑った。


 レナはそれを見てから、すぐ前へ向き直る。


「師匠の昔話、終わった?」


 ORIGINATORが笑う。


「まだかも」


「じゃ、試合終わってから!」


「そうしよう」


「今は!」


 レナが構える。


「私たちが勝つ!」


 ZEROの四人も構えた。


 五対二。


 残り四分。


 数字の上ではCrownlessが大きく前にいる。


 それでもORIGINATORの顔に焦りはなかった。


 FIRSTも、SECONDも、THIRDも同じだ。


 次に何をするか。


 まだ。


 誰も決めていない。


 だからこそユイは、もう怖がらなかった。


 ZEROが答えを持っていないなら。


 こちらも答えを当てる必要はない。


 ただし。


 自分たちには。


 今まで一緒に選んできた時間がある。


 それを。


 使えばいい。


 開始音が鳴る。


 次の一点へ向かって、八人が再び走り出した。


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