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世界女王は、彼にだけ勝てない  作者: てへろっぱ


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第七十三話 世界一に勝つ時、世界一を倒す必要はない



 残り二十五秒。


 七対七。


 QUEENが後方へ下がり、代わりにREGALIAが最前線へ出る。


 ほんの数秒前まで、REGALIAは三人を支える側だった。


 その彼女が、今度は誰よりも前へ出た。


「私、前衛なんてほとんどやらないんだけど!」


 REGALIA自身が笑っている。


 レナも目を丸くした。


「じゃあ何で来たの!?」


「今、行きたくなったから!」


「それ好き!」


 REGALIAが中央へ踏み込む。


 一。


 レナが止めに入る。


 だが、その瞬間。


 後方のQUEENから一発。


 レナの進路へ撃ち込まれた。


「っ!」


 回避を強制される。


 二。


 横からTHRONE。


 ECHOが迎える。


 さらにSCEPTERはユイを中央から遠ざけるように前へ出た。


 三。


「綺麗です」


 ユイが呟く。


 役割を交換しただけではない。


 QUEENは支援役になったのではなかった。今、後ろから全体を見る方が面白いと思ったから下がった。


 REGALIAも前衛になったのではない。今まで助けていた三人が、自分を助ける側になった時にどうなるのかを試したくなった。


 その二人の選択を、THRONEとSCEPTERが何の違和感もなく受け入れている。


 四。


「止めますか」


 ECHOが聞く。


「はい」


 ユイは答えた。


 けれど、誰をとは言わなかった。


「好きに止めてください」


 レナが笑った。


「了解!」


 五。


 レナはREGALIAへ行かなかった。


 突然、方向を変える。


「え?」


 REGALIAの横を抜けた。


 その先。


 QUEEN。


「そっち!?」


 後方へ下がった世界一へ、レナが一直線に突っ込む。


 QUEENも少し驚いた。


「ミカじゃないんだ」


「今日は私!」


「いいね!」


 QUEENが射撃を切り替え、レナを迎える。


 その瞬間、REGALIAへの圧力が消えた。


 中央。


 六。


 REGALIAが保持を続ける。


 それを見たECHOがTHRONEとの交戦を捨てた。


「ECHO?」


「今は中央です」


 REGALIAへ。


 THRONEは追おうとして、一歩だけ遅れる。


 ECHOとREGALIAが中央で衝突した。


 七。


「近距離、得意じゃないって聞いたけど!」


「はい」


「私も!」


「では」


 ECHOが真正面から押す。


「同じです」


「こんなところで同類!?」


 八。


 残り十七秒。


 ユイはSCEPTERに進路を塞がれていた。


「中央行く?」


「行きたいです」


「じゃあ通さない」


「そうでしょうね」


 ユイは止まった。


 SCEPTERも止まる。


「諦めた?」


「いいえ」


 ユイが少しだけ笑う。


「あなたが私を止めているなら、それで十分です」


「……?」


 九。


 SCEPTERが気づく。


 ユイは中央へ行こうとしていない。


 最初から。


 自分をここへ留めている。


「私を使った?」


「結果的には」


 十。


 しかし。


 CENTRAL HOLDは出ない。


 ECHOが中央へ入ったことで、競合状態になっている。


 七対七のまま。


 残り十三秒。


 ミカだけが。


 まだ誰とも戦っていなかった。


 最初から。


 一発も撃っていない。


 QUEENはレナを受けている。


 THRONEはECHOを追うか迷っている。


 SCEPTERはユイ。


 REGALIAは中央。


 ミカ。


 空いている。


「ミカ!」


 QUEENが気づいた。


 レナを押し返しながら、後方からミカを見る。


「行くの?」


 ミカは中央を見る。


 REGALIA。


 ECHO。


 そこへ行けば、二対一にできる。


 勝利に近い。


 けれど。


 左外周。


 資源拠点。


 誰もいない。


 取得まで。


 十秒。


 残り。


 十二秒。


 間に合う。


「ミカ!」


 今度はレナ。


「どっちでもいい!」


 ユイも言った。


「選んでください!」


 ECHOは中央でREGALIAと押し合ったまま、何も求めない。


 三人とも。


 ミカへ。


 中央へ来いとは言わない。


 QUEENを倒せとも言わない。


 自分で。


 選べる。


 ミカは一瞬だけQUEENを見る。


 世界一。


 二年前、自分を倒した相手。


 もう一度戦っても負けた相手。


 今。


 レナがQUEENを引き受けている。


 自分が行けば。


 二対一。


 QUEENを倒せるかもしれない。


 ずっと欲しかった。


 勝利。


 でも。


 ミカはQUEENへ向かわなかった。


 中央にも。


 行かなかった。


 左へ。


 走る。


 QUEENが目を見開いた。


「そっち!?」


「はい!」


 残り十秒。


 ミカが資源拠点へ触る。


 一。


 QUEEN。


 レナ。


 押し返す。


「REGALIA!」


「無理! ECHOいる!」


「THRONE!」


 THRONEが左を見る。


 ミカ。


 資源。


 二。


 行けば。


 間に合うかもしれない。


 だが中央。


 REGALIA。


 一人にすれば。


 ECHOに押し切られる。


 三。


 THRONE。


 迷う。


 たった。


 一秒。


 その一秒で。


 ECHOが前へ出る。


「今です」


 REGALIAを中央から押し出す。


「わっ!」


 中央。


 空く。


 ECHO。


 一人。


 保持。


 一。


 残り七秒。


 MONARCH。


 二つ。


 危機。


 中央。


 ECHO。


 左。


 ミカ。


 どちら。


 止める。


 世界一の四人でも。


 同時には。


 できない。


「中央!」


 QUEENが叫んだ。


 THRONEが即座にECHOへ。


 SCEPTERもユイを捨てて中央へ向かう。


 REGALIAも戻る。


 三人。


 ECHOへ。


 残り六秒。


 中央保持。


 二。


 ECHOが被弾。


 体力。


 二割。


 三。


「ECHO!」


 ミカが呼ぶ。


「持ちます!」


 四。


 THRONE。


 中央へ。


 競合。


 カウント停止。


 中央では。


 取れない。


 でも。


 それでいい。


 MONARCHの三人。


 中央。


 QUEENだけ。


 レナ。


 足止め。


 左。


 ミカ。


 一人。


 資源。


 取得。


 五。


 六。


 七。


 残り三秒。


 QUEENがとうとうレナを抜いた。


「ミカ!」


 世界一が走る。


 速い。


 左へ。


 残り二秒。


 八。


 QUEEN。


 射程。


 入る。


 ミカ。


 動かない。


 九。


 QUEENが構える。


 一発。


 撃つ。


 ミカも。


 撃てる。


 QUEENへ。


 撃てば。


 相打ちに。


 できるかもしれない。


 でも。


 ミカは撃たなかった。


 資源装置から。


 手を離さない。


 弾丸。


 命中。


 ミカ。


 体力。


 一割。


 十。


 RESOURCE SECURED.


 CROWNLESS.


 EIGHT.


 同時。


 TIME.


 音が。


 止まる。


 巨大スクリーン。


 更新。


 MONARCH.


 SEVEN.


 CROWNLESS.


 EIGHT.


 WINNER.


 CROWNLESS.


 一秒。


 誰も。


 動かなかった。


 次の瞬間。


 会場が。


 爆発した。


「――勝った!」


 レナの声が、歓声の中でも聞こえた。


 ECHOは中央でTHRONEたちに囲まれたまま、スコアを見上げている。


「八対七」


 ユイがゆっくり息を吐く。


「はい」


 ミカは左資源の前で、まだ動けなかった。


 目の前にはQUEEN。


 二人。


 距離。


 近い。


 QUEENはミカを倒せなかった。


 ミカもQUEENを倒していない。


 最後まで。


 二人の決着は。


 つかなかった。


 それでも。


 Crownlessは。


 MONARCHに勝った。


 世界一へ。


 勝った。


「……撃たなかったね」


 QUEENが先に言った。


「はい」


「私を倒せたかもしれないのに」


「資源を取れなくなるかもしれませんでした」


「うん」


「なので」


 ミカは少しだけ笑った。


「撃ちませんでした」


 QUEENも笑う。


「二年前なら?」


「あなたを撃ちました」


「絶対?」


「絶対です」


「そっか」


 QUEENはスコアを見る。


 七対八。


 自分たちの敗北。


 それから、またミカへ戻る。


「じゃあ」


 一拍。


「私が勝った相手は、もういないんだ」


 ミカの目が少し開いた。


 QUEENは穏やかに続ける。


「二年前のミカには、私は勝った。非公式の時も勝った。でも」


 レナ。


 ユイ。


 ECHO。


 三人がミカのところへ戻ってくる。


「今のあなたとは、今日が初めてだった」


 ミカは三人を見る。


 そして。


「はい」


 頷いた。


「今日が初めてです」


「負けたなあ」


 QUEENは困ったように笑う。


 その言葉。


 かつて。


 ミカが。


 一番。


 聞きたかったもの。


 世界女王の座を奪った相手から。


 いつか。


 聞かせたかった。


 なのに。


 今。


 聞いても。


 思っていたほど。


 胸は。


 晴れなかった。


 代わりに。


 別のものが。


 あった。


「QUEENさん」


「何?」


「また、戦いたいです」


 QUEENの笑みが深くなる。


「一対一?」


 ミカは少し考えた。


 以前なら。


 即答。


 だった。


「それも」


「それも?」


「MONARCHとも」


 QUEENが一瞬、目を丸くする。


「欲張りになったね」


「そうかもしれません」


「いいと思う」


 握手。


 今度。


 世界女王だった者と。


 世界女王である者。


 ではない。


 星野ミカと。


 QUEEN。


 二人。


 ただの。


 対戦相手として。


          ◇


 中央。


 REGALIAがECHOへ手を差し出した。


「負けたー」


「はい」


「最後、中央取れなかった」


「はい」


「でも、ミカを止めたらこっち取られてたよね」


「おそらく」


「じゃ、仕方ないか」


 ECHOは差し出された手を取る。


「悔しくないのですか」


「悔しいよ」


「そう見えません」


「悔しいのと楽しいの、両方あるから」


 REGALIAは笑った。


「両方あっていいでしょ」


 ECHO。


 少し。


 止まる。


「はい」


 今なら。


 わかる。


「いいと思います」


 少し離れたところでは、SCEPTERとレナがまた話していた。


「最後、私のこと完全に捨てたよね」


 SCEPTERが言う。


「うん」


「世界十二位だよ?」


「まだ言ってる」


「ちょっと傷つく」


「でも次戦ったら、また殴る」


「それならいい」


「いいんだ」


「うん」


 二人。


 笑う。


 THRONEはユイへ近づく。


「最後、中央じゃなかったね」


「はい」


「ミカが自分で選んだ?」


「はい」


「指示した?」


「いいえ」


「怖くなかった?」


 ユイは一瞬だけ考えた。


「少し」


「少し?」


「以前の私なら、中央へ行くよう指示したと思います」


「じゃあ今は?」


「ミカさんが選んだなら、それを使います」


「外したら?」


「次を考えます」


 THRONEが笑った。


「本当に変わったね」


「そうでしょうか」


「うん」


 ユイも。


 今度は。


 否定しなかった。


「そうかもしれません」


          ◇


 観戦席。


 NoName。


 立っている。


 四人が。


 戻ってくる。


 レナ。


 最初。


 もう。


 走っている。


「師匠!」


「はい」


「勝った!」


「見ていました」


「世界一に!」


「はい」


「勝った!」


「二回目ですね」


「何回でも言う!」


 NoNameが少し笑う。


「おめでとうございます」


 レナ。


 一瞬。


 止まる。


 それから。


「うん!」


 後ろ。


 ユイ。


「ただいま戻りました」


「おかえりなさい」


 ECHO。


「ただいま」


「おかえりなさい」


 最後。


 ミカ。


 少しだけ。


 離れた位置で。


 止まる。


 NoName。


 見る。


「星野ミカさん」


「はい」


「おかえりなさい」


 ミカ。


 その言葉に。


 少し。


 笑う。


「ただいま戻りました」


 三人。


 見る。


 レナ。


 すぐ。


「師匠」


「はい」


「ミカだけ先に言った」


「何をですか」


「おかえり」


「皆さんにも言いました」


「でもミカには先」


 ミカ。


「黒瀬レナさん」


「何」


「勝った直後です」


「だから?」


「静かにしてください」


「嫌」


 ECHO。


「通常運転です」


 ユイ。


「安心しました」


 NoName。


「何にでしょう」


 四人。


 答えない。


 そのやり取りを。


 少し離れた場所から。


 QUEENが見ていた。


 隣。


 REGALIA。


「行かないの?」


「どこに?」


「NoName」


 QUEENは一瞬考え。


 首を横へ振る。


「今日はいいかな」


「師匠欲しくない?」


「面白そうだけど」


 Crownlessの四人を見る。


「私たちは、私たちでここまで来たから」


 THRONEが横から言う。


「でも話してみたい」


「それは私も」


 SCEPTER。


「一試合見てほしい」


 QUEEN。


「それはわかる」


 四人。


 一歩。


 NoName側へ。


 その瞬間。


 レナ。


 気づく。


「来た」


 ミカ。


 振り返る。


 ユイ。


 姿勢。


 変わる。


 ECHO。


 NoNameの横。


 一歩。


 寄る。


 QUEEN。


 止まる。


「……何、この圧」


 REGALIA。


「世界一相手より怖い」


 NoNameだけ。


 首。


 傾げる。


「どうしましたか」


 四人。


 同時。


「何でもありません」


 QUEEN。


 吹き出す。


「やっぱり面白いチーム」


          ◇


 その直後。


 大会公式。


 準決勝結果。


 更新。


《CROWNLESS 8-7 MONARCH》


 世界ランキング一位。


 撃破。


 配信視聴者数。


 百七十八万。


 同時。


 大会トレンド。


 一位。


《CROWNLESS》


 二位。


《星野ミカ》


 三位。


《NoName》


 四位。


《QUEEN》


 コメント。


『Crownless世界一倒したぞ』


『最後ミカQUEEN撃たなかったの鳥肌』


『一対一に勝つよりチームで勝つ方選んだ』


『これ昔のミカ知ってるとヤバい』


『女王対決決着してないのも最高』


『NoName何教えたんだよ』


『決勝誰だ』


 そして。


 大会側の巨大スクリーン。


 最後。


 一枠。


 更新。


 FINAL.


 CROWNLESS.


 VS.


 ――。


 四人。


 見る。


 NoNameも。


 見る。


 対戦相手。


 表示。


《ZERO》


 レナ。


「ZERO?」


 ユイ。


 端末。


 開く。


「聞いたことがありません」


 ECHO。


「戦績」


 一秒。


「ありません」


 ミカ。


「決勝まで、どうやって」


 ユイが確認する。


 そして。


 止まる。


「……違います」


「何が?」


 レナ。


 ユイは画面を拡大した。


 決勝進出。


 ZERO。


 大会開始時から。


 対戦履歴。


 一試合も。


 ない。


 不戦勝。


 でもない。


 招待枠。


 でもない。


 登録。


 そのものが。


 準決勝終了後。


 たった。


 三十秒前。


 NoName。


 初めて。


 表情。


 変わる。


「それは」


 四人。


 見る。


 NoName。


 画面。


 見たまま。


 珍しく。


 すぐには。


 言葉が。


 出ない。


 そして。


 決勝対戦相手。


 《ZERO》の。


 選手一覧。


 一人目。


 二人目。


 三人目。


 四人目。


 すべて。


 表示。


 なし。


 ただ。


 一番下。


 代表者欄。


 一つだけ。


 名前。


 あった。


《ORIGINATOR》


 NoName。


 小さく。


 呟く。


「……知っています」


 レナ。


 笑み。


 消える。


 ユイ。


 目。


 細める。


 ミカ。


 NoNameを見る。


 ECHO。


 一歩。


 近づく。


 NoNameが。


 世界一のチームを見ても。


 知らない新選手を見ても。


 楽しそうに。


 わからない。


 と言っていた。


 そのNoNameが。


 初めて。


 決勝の相手を見て。


 はっきり。


 知っていると。


 言った。


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