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世界女王は、彼にだけ勝てない  作者: てへろっぱ


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第六十九話 同じものを選んでも、同じ動きをする必要はない



 残り一分。


 スコアは七対四。Crownlessが三点を先行している。


 そして今、CROWNEDの四人全員が中央制圧地点を選んだ。


 TRACEも、GRIDも、RUSHも、VOIDも。


 誰かに合わせた結果ではない。空いた役割を埋めたわけでもない。四人が話し合い、自分たちで「中央を取りたい」と決めた。


 それを見たユイは、思わず笑っていた。


「四人とも来ます」


「見えてる」


 レナも楽しそうに拳を握る。


「真正面?」


「おそらく。でも、同じ場所を選んだからといって、同じ入り方をするとは限りません」


 ミカが左側の高所を確認しながら頷いた。


「TRACEさんは射線を作るでしょうね」


「GRIDは全体を見る」


 ECHOも中央の周囲を見回す。


「RUSHは入る。VOIDは……まだわかりません」


「それでいいです」


 ユイは短く答えると、三人へ視線を巡らせた。


「こちらも中央を取ります。ただし、四人で固まる必要はありません」


 レナが一瞬だけ首を傾げる。


「四人で止めるんじゃないの?」


「四人で止めます。でも、同じことをする必要はないでしょう?」


 その言葉に、三人の表情が変わった。


 CROWNEDは今、四人で一つを選んだ。


 だからといって、Crownlessまで四人で一つの役割になればいいわけではない。


「好きに、でいいですか」


 ECHOが尋ねる。


「はい。ただし、勝つために」


「受け取ります」


 残り五十四秒。


 先に中央へ入ったのはRUSHだった。


「行く!」


 迷いのない突入。正面から受ければレナが最適だ。


 けれど、レナは動かなかった。


 代わりにECHOが中央へ踏み込む。


 RUSHの目がわずかに開いた。


「ECHO?」


「今日は私です」


「近距離できるの?」


「得意ではありません」


「じゃあ何で!」


「今、私がやりたいので」


 RUSHの一撃を受けながら、ECHOが一歩だけ前へ出る。


 体力は削られる。


 それでも倒す必要はない。


 RUSHを中央の入口に一秒だけ留めればいい。


 その横をTRACEが通ろうとした瞬間、ミカの弾丸が足元へ突き刺さった。


「そっちは通しません」


 TRACEは笑いながら横へ跳ぶ。


「やっぱりミカか」


「今日は撃ちます」


「今日は?」


「はい。今は撃ちたいので」


 TRACEの口元がさらに上がった。


「いいね」


 二人の射撃が始まる。


 中央へ直接入らず、その外側で互いの進路を削り合う。


 一方、GRIDは二人のやり取りを見ながら環境装置へ向かった。


 中央へ四人で入る。


 そう決めた。


 だが、中央を取りやすくするために地形を変えることまで否定したわけではない。


 ユイもそれを読んでいた。


「GRIDさん」


「来ると思った」


「私もです」


 二人が同時に環境装置へ触れる。


 片方が起動すれば中央の壁が上がり、もう片方が起動すれば逆に遮蔽物が消える。


 どちらを選ぶか。


 互いに相手の手を見る。


「以前なら、あなたは私が何を選ぶか待ちました」


 ユイが言う。


「そっちも」


「はい。でも今日は先に決めます」


 ユイが左側の入力へ手を伸ばす。


 GRIDも即座に反応した。


「なら、私は右」


 同時入力。


 装置が警告音を鳴らす。


 競合。


 どちらも完全には起動しない。


 中央の地形が中途半端な状態で止まった。


「失敗しましたね」


 GRIDが言う。


「いいえ」


 ユイは笑った。


「これで十分です」


 中途半端に上がった壁が、中央を二つに割る。


 その片側へRUSHとECHO。


 もう片側へ――VOIDが入った。


 レナはまだ外にいる。


 VOIDが中央へ足を踏み入れ、初めて周囲を見た。


「一人」


 小さく呟く。


 中央を取るなら、そのまま保持すればいい。


 一、二。


 だが、レナが来ない。


 VOIDが顔を上げた。


 レナは少し離れた場所で止まっている。


「来ないんですか」


「行かない」


「中央を取られます」


「そうだね」


 三。


「止めないんですか」


「止めたいよ」


「では」


「でも、今はあんたがどうするか見たい」


 VOIDが黙る。


 四。


 自分が中央にいる。


 それだけで得点は伸びる。


 正しい。


 勝つためなら、このまま立っていればいい。


 でも。


 向こう側ではTRACEがミカと撃ち合っている。GRIDはユイと装置を取り合い、RUSHはECHOと押し合っている。


 自分だけが、中央に立っている。


 五。


 VOIDが一歩、外へ出た。


 カウントが止まる。


 レナの眉が上がった。


「出るんだ」


「はい」


「何で?」


「四人で一点取りたいと言いました」


 VOIDはTRACEたちを見る。


「私一人で取っても、今は違うと思いました」


 レナは数秒だけ黙ったあと、笑った。


「それ、めっちゃ面倒」


「今日、何度も言われています」


「でも嫌いじゃない」


「ありがとうございます」


「褒めてる」


「はい」


 その瞬間、VOIDがレナへ向かって走った。


「え」


「今は、あなたを中央へ連れていきたいです」


「は?」


「四人で取りたいので」


 VOIDが真正面から攻撃する。


 レナはかわしながら笑った。


「無理やり!?」


「来てください」


「敵にお願いすんな!」


 それでもレナは中央へ近づく。


 VOIDが押しているからではない。


 自分も、そこで戦いたくなった。


「ユイ!」


「見えています」


「私、中央行く!」


「どうぞ」


「止めないの?」


「黒瀬さんが行きたいのでしょう?」


「うん!」


「なら、行ってください」


 レナが加速する。


 中央。


 VOIDと並ぶ。


 今度は敵同士。


 真正面からぶつかる。


 同じ頃、ECHOとRUSHも中央の反対側で互いに押し込んでいた。


「RUSHさん」


「何!」


「中央、取りたいですか」


「取りたい!」


「私もです」


「じゃあどいて!」


「嫌です」


「素直!」


 ECHOが笑う。


 RUSHも笑う。


 どちらも、自分が取るために相手を押す。


 それだけだった。


 残り三十六秒。


 スコア七対四。


 時間はCROWNEDに厳しい。


 TRACEが撃ちながら叫ぶ。


「GRID!」


「わかってる!」


 GRIDは環境装置を捨てた。


 ユイも追わない。


 GRIDが中央へ。


 TRACEもミカから離れて中央へ。


 ミカは追える。


 でも、撃たない。


「ミカさん?」


 ユイが尋ねる。


「中央へ行きます」


「はい」


 ミカも走る。


 ユイも。


 八人が中央へ近づいていく。


 今度は誰かに集められたのではない。


 全員が、自分でそこを選んだ。


 残り二十八秒。


 中央。


 TRACE。


 GRID。


 RUSH。


 VOID。


 四人。


 CROWNED。


 対面。


 ミカ。


 ユイ。


 レナ。


 ECHO。


 四人。


 Crownless。


 一瞬だけ、八人が止まる。


 誰が先に動く。


 ユイは決めようとして――やめた。


「誰が行きますか」


「私」


 レナ。


「私も」


 ECHO。


「撃ちます」


 ミカ。


「では、私は見ます」


 ユイ。


 役割。


 ばらばら。


 CROWNED側も同じだった。


「俺、左」


 TRACE。


「中央を見る」


 GRID。


「突っ込む!」


 RUSH。


「私は……」


 VOIDが一瞬考える。


 そして。


「三人を、見ます」


 GRIDが振り向く。


「私たち?」


「はい」


「何するの」


「必要なら行きます」


 TRACEが笑った。


「それ、役割じゃん」


 VOIDも少し笑う。


「そうかもしれません」


「いいの?」


 VOIDは三人を見た。


「今、自分で選びました」


 残り二十秒。


 八人。


 動く。


 レナとRUSHが正面から衝突。


 ミカとTRACEが左右の射線を奪い合う。


 ECHOはGRIDへ行くと見せて、中央の制圧地点へ滑り込む。


 ユイは誰とも戦わず、全員の位置を見る。


 CROWNED。


 VOIDだけが少し後ろ。


 一、二。


 中央。


 ECHO。


 保持。


 GRIDが気づく。


「ECHO!」


 向かう。


 ECHOが退かない。


 三。


 GRIDの一撃。


 ECHO被弾。


 四。


 VOIDも行ける。


 でも、動かない。


 TRACEがミカに押されている。


 RUSHもレナに押されている。


 どこへ行く。


 五。


 VOIDが選ぶ。


「TRACE!」


「何!」


「下がって!」


 TRACEが即座に下がる。


 ミカの射線が空く。


 VOIDがその間へ入る。


 自分がミカを引き受ける。


「私ですか」


 ミカが構える。


「はい」


「なぜ」


「TRACEに、中央へ行ってほしいです」


 TRACEが中央へ走る。


 六。


 七。


 GRIDとECHO。


 押し合い。


 八。


 TRACE到着。


 二対一。


 ECHO。


 体力。


 残り二割。


 九。


 レナ。


 RUSHを押し切れない。


 ユイ。


 動かない。


 十。


 CENTRAL HOLD.


 CROWNLESS.


 EIGHT.


 八対四。


 残り十一秒。


 四点差。


 ほぼ。


 決まった。


 それでもCROWNEDは止まらない。


「もう一回!」


 RUSHが叫ぶ。


「取る!」


 TRACE。


「中央!」


 GRID。


 そしてVOID。


「はい!」


 四人。


 中央へ。


 勝てないかもしれない。


 時間も足りない。


 でも。


 四人で一点を取ると決めた。


 だから最後まで行く。


 Crownlessも。


 止める。


 残り七秒。


 六。


 五。


 TRACEがミカを抜く。


 GRIDがECHOを押し出す。


 RUSHがレナと相打ち。


 PLAYER DOWN.


 RUSH.


 PLAYER DOWN.


 RENA.


 四。


 VOIDが中央へ。


 TRACE。


 GRID。


 VOID。


 三人。


 一。


 二。


 残り二秒。


 ユイが中央へ入る。


 保持。


 停止。


 一秒。


 TIME.


 試合終了。


 八対四。


 WINNER.


 CROWNLESS.


 会場が大きく沸いた。


 勝者表示を見たレナは、リスポーン画面のまま拳を上げる。


「勝った!」


「はい」


 ミカが息を吐く。


 ECHOも中央で座り込むように停止した。


「勝ちました」


 ユイだけは、勝敗表示を確認したあとCROWNEDを見る。


 四人とも、負けた。


 でも。


 誰も下を向いていない。


 RUSHが最初に笑った。


「あと二秒!」


 TRACEも笑う。


「足りなかったな」


 GRIDがVOIDを見る。


「でも、最後、四人だった」


 VOIDはしばらく何も言わなかった。


 それから小さく頷く。


「はい」


 負けた。


 四点差。


 結果だけなら完敗に近い。


 それでも。


 VOIDにとっては、試合前とはまったく違う。


「私」


 三人が見る。


「次も、出たいです」


 TRACEが笑う。


「それ、誰かに必要だから?」


 VOIDは首を振った。


「私が出たいです」


 RUSHが満足そうに頷いた。


「じゃあ決まり」


 GRID。


「まだ枠とかあるけど」


「後で考える!」


「雑」


 四人が笑う。


 その向こうで、Crownlessも中央に集まっていた。


 ECHOがVOIDを見る。


 目が合う。


 VOIDが少しだけ頭を下げた。


 ECHOも返す。


「ECHO」


 レナが横から覗き込む。


「何」


「嬉しそう」


「そうでしょうか」


「そう」


 ミカも頷く。


「少し」


 ユイまで。


「かなり」


「三対一」


 ECHOが小さく息を吐く。


 それでも否定しなかった。


「少し、嬉しいです」


 三人が一瞬黙る。


 レナが先に笑った。


「素直になった」


「あなたに言われたくありません」


「なんで!」


          ◇


 試合後。


 八人が中央で握手を交わす。


 TRACEとミカ。


 GRIDとユイ。


 RUSHとレナ。


 そして。


 VOIDとECHO。


「負けました」


 VOIDが言う。


「はい」


「でも、楽しかったです」


 ECHOはほんの少し目を見開いた。


「そうですか」


「はい」


「では、よかったと思います」


 VOIDが笑う。


「それ、NoNameみたいですね」


「違います」


 即答だった。


 後ろでレナが吹き出す。


「そこは絶対否定するんだ」


「私は私です」


 その言葉に、VOIDが一度だけ止まった。


 そして、ゆっくり頷く。


「はい」


「あなたも、あなたでいいと思います」


「……はい」


 握手を終える。


 観戦席。


 NoNameが立っている。


 八人が戻ってくるのを待つ。


 最初にレナが駆け寄った。


「師匠!」


「はい」


「勝った!」


「見ていました」


「どうだった?」


 NoNameは少し考えた。


「四人とも、違いました」


 レナが首を傾げる。


「それ褒めてる?」


「はい」


 ミカも近づく。


「どこがですか」


「同じ中央を選んでも、四人とも同じことをしなかったところです」


 ユイが目を細める。


「CROWNEDも」


「はい」


 ECHOも聞く。


「VOIDも」


「はい」


 NoNameはCROWNEDの四人を見る。


「四人目の場所を作らなくても、四人になっていました」


 VOIDが少しだけ息を止める。


 NoNameはそれ以上、何も言わない。


 分析も。


 評価も。


 改善点も。


 ただ、見えたものを返した。


 VOIDはしばらく俯いたあと、顔を上げる。


「NoNameさん」


「はい」


「一つ、聞いてもいいですか」


 Crownlessの四人が、一斉に反応した。


 レナ。


「何」


 ミカ。


「内容によります」


 ユイ。


「弟子入りなら」


 ECHO。


「断られます」


 VOID。


「違います」


 四人。


 少し安心。


 NoName。


 それを見る。


「皆さん、わかりやすいですね」


 四人。


「別に」


 また揃った。


 VOIDは少し困ったように笑ってから、NoNameへ向き直る。


「自分が何をしたいか、わからない時は」


「はい」


「どうすればいいですか」


 NoNameはすぐには答えなかった。


 少し考える。


 それから。


「わからないままで、いてもいいと思います」


 VOIDが目を開く。


「でも」


「見つかった時に、自分で選べれば」


 NoNameはCrownlessの四人を見る。


「それで十分だと思います」


 VOIDも四人を見る。


 ECHOと目が合う。


 自分は。


 何も選ばず。


 消えたかった。


 でも。


 何も選べなかった時間にも、自分はいた。


 そして。


 撃ちたいと思った。


 勝ちたいと思った。


 三人の中へ入りたいと思った。


 次も出たいと思った。


 全部。


 自分だった。


「ありがとうございます」


「いえ」


 VOIDがCROWNEDの三人へ戻る。


 レナはその背中を見送ってからNoNameを見る。


「師匠」


「はい」


「弟子」


「募集していません」


「言う前に!」


 ミカが小さく笑う。


 ユイも。


 ECHOも。


 試合は終わった。


 Crownlessの勝利。


 CROWNEDの敗北。


 でも。


 この日。


 八人が手に入れたものは、勝敗より少し大きかった。


 同じものを欲しがってもいい。


 違うやり方で取りに行ってもいい。


 誰かと一緒にいるために、自分を同じ形へ削る必要はない。


 四人とも違うからこそ。


 四人で。


 同じ場所に立てる。


 そして大会公式の対戦表には、次の更新が表示されていた。


 Crownless。


 上位ラウンド進出。


 次戦――準決勝。


 対戦相手。


《MONARCH》


 現在、世界チームランキング一位。


 ユイが画面を見て、わずかに息を止める。


 ミカの表情から笑みが消える。


 レナだけが、すぐに口元を上げた。


「世界一?」


 ECHOも表示を見つめる。


「はい」


 NoNameは静かに四人を見る。


「強いですね」


 レナが振り返った。


「師匠」


「はい」


「楽しそう」


 今度。


 NoNameは否定しなかった。


「はい」


 世界一のチーム。


 そして。


 その中央に表示された選手名を見た瞬間。


 ミカだけが、珍しく声を失っていた。


《QUEEN》


 かつて。


 星野ミカから。


 世界女王の座を。


 奪った選手だった。


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