第四話 格闘女王は、読む前に読まれていた
感想感謝です。
黒瀬レナは、待つのが嫌いだった。
試合開始のカウントも嫌い。
マッチング待機も嫌い。
対戦相手が長考する時間も嫌い。
負けた相手が言い訳を並べる時間は、もっと嫌い。
勝つなら勝つ。
負けるなら負ける。
悔しいならもう一回やる。
それでいい。
だから彼女は、配信画面の前で堂々と叫んでいた。
NoName!
三本先取って言ったよな!?
逃げんなよ!
今すぐ部屋立てろ!
コメント欄は爆速で流れていた。
レナさん落ち着いて
完全に喧嘩腰で草
NoName呼び出し配信始まった
星野ミカの師匠に喧嘩売ってる
いやレナも昔負けてるんだよな
格ゲー女王がここまで言う相手って何者だよ
NoName出てくるの?
出てきたら祭りだぞ
レナはコメントを横目で見ながら、鼻で笑った。
別に喧嘩じゃない。
再戦要求。
コメント欄がまた荒れる。
それを喧嘩って言うんだよ
再戦要求の圧が強い
世界女王怖い
格ゲー勢の日常
レナはコントローラーを指先で回した。
黒瀬レナ。
格闘ゲーム界の女王。
十七歳で国内の大型大会を取り、十八歳で海外強豪を倒し、十九歳で世界大会を制した。
間合い管理、反応速度、読み合い、勝負勘。
一対一の対戦に必要なものを、彼女はすべて高い水準で持っていた。
彼女の試合は、派手だった。
前に出る。
下がらない。
相手に考える時間を与えない。
小さな癖を見つけたら、そこを何度でも突く。
相手が嫌がった瞬間、さらに踏み込む。
だからレナの試合は、観客に人気があった。
強い。
速い。
わかりやすい。
そして、勝ち方が怖い。
一度流れを掴んだ黒瀬レナは、相手を画面端に追い込み、逃げ道を潰し、最後は心ごと折る。
そんなプレイヤーだった。
だが、彼女にも一人だけ例外がいた。
NoName。
名前のない男。
大会に出ない。
配信しない。
顔も声も知らない。
どこの誰かもわからない。
なのに、レナはその男に勝てていない。
一度も。
配信画面の端で、ディスコードの通知が光った。
NoNameからだった。
部屋を立てました。
レナの目が光る。
来た。
コメント欄が爆発した。
きたああああ
NoName来た
本物?
画面映せる?
対戦見せて
祭りだ
レナさん顔怖い
レナは配信画面に視線を戻した。
対戦は見せない。
私が負けたら腹立つから。
コメント欄が加速する。
勝つ前提じゃないの草
自覚あるの草
見せろおおお
非公開対戦か
ガチじゃん
レナは配信を一時停止画面に切り替えた。
画面には、少しだけ雑な手書き文字で表示される。
再戦中。
戻らなかったら負けてる。
コメント欄が笑いと悲鳴で埋まった。
レナは配信マイクをミュートし、対戦部屋に入った。
そこには、見慣れた名前があった。
NoName。
装飾なし。
称号なし。
プロフィール空白。
格闘ゲームの世界では、称号や段位を飾るプレイヤーが多い。
大会実績。
ランク。
使用キャラ。
推しチーム。
勝率。
そういうものを見せたがる人間は多い。
でもNoNameは、何も見せない。
ただそこにいる。
それが余計に腹立たしかった。
レナはチャットを打った。
久しぶり。
返事はすぐだった。
お久しぶりです。
相変わらず固いね。
そうですか。
そういうとこ。
レナはコントローラーを握り直した。
手のひらが少し熱い。
自分でもわかる。
緊張している。
世界大会決勝でも、ここまで手は熱くならなかった。
相手は画面の向こうにいるだけの、顔も知らない男。
なのに、心臓が速い。
レナは舌打ちした。
腹立つ。
どうしましたか。
なんでもない。始めるよ。
はい。
試合開始。
三。
二。
一。
ファイト。
レナは開幕、前に出た。
相手の反応を見るためではない。
潰すため。
最初から圧をかける。
距離を詰める。
相手に選ばせる。
下がるか。
暴れるか。
ガードするか。
飛ぶか。
開幕の数秒で、相手の性格は出る。
強い相手ほど、そこに癖が出る。
だからレナは、まず踏み込む。
NoNameは下がらなかった。
動かなかった。
ただ、ほんのわずかに立ち位置をずらした。
それだけだった。
レナの初撃が空振る。
距離を間違えたわけではない。
相手が避けたわけでもない。
技の届くギリギリ外に、最初から置かれていた。
レナは即座に次を重ねる。
小技。
中段。
投げの匂わせ。
下段。
NoNameは全部に派手な反応をしない。
大きく避けない。
無理に割り込まない。
強い反撃も見せない。
ただ、必要な分だけ受けて、必要な分だけずらす。
レナは眉をひそめた。
気持ち悪い。
一ラウンド目。
レナは攻め続けた。
画面端まで追い込んだ。
一度は崩した。
体力もリードした。
普通なら勝てる流れだった。
だが、最後の十秒で逆転された。
派手なコンボではない。
レナが次に攻めるための一歩。
その一歩にだけ、NoNameは小さな反撃を置いていた。
その反撃から、状況が入れ替わる。
レナの攻めが止まる。
止まった瞬間、NoNameが初めて前に出た。
そこからは早かった。
一手。
二手。
三手。
レナは守った。
守れた。
だが、守った場所が全部悪かった。
上を守れば下を通される。
投げを抜ければ打撃を重ねられる。
暴れれば潰される。
待てば投げられる。
違う。
これは読み負けではない。
そう思った瞬間、一ラウンド目を落とした。
レナは唇を噛んだ。
チャットは打たない。
次。
二ラウンド目。
レナは開幕を変えた。
前に出ない。
半歩待つ。
NoNameがどう動くかを見る。
相手の癖を取る。
それが格闘ゲームの基本だ。
だが、待った瞬間、NoNameは前に出た。
さっきと逆。
レナが様子を見ると決めたタイミングで、踏み込んでくる。
レナは迎撃しようとした。
しかし技が遅い。
いや、技が遅いのではない。
出すと決めるまでが遅れた。
NoNameの動きが読めなかったわけではない。
読もうとした瞬間には、もう状況が進んでいた。
レナは対応する。
下がる。
置く。
割り込む。
投げる。
飛ぶ。
全部、噛み合わない。
NoNameが特別速いわけではない。
反応速度で負けているとも思わない。
でも、噛み合わない。
レナが選ぶ前に、NoNameが場面を変えている。
レナは二ラウンド目も落とした。
一戦目、敗北。
画面の文字が腹立たしい。
NoNameからチャットが来る。
次です。
レナは歯を見せて笑った。
言われなくても。
二戦目。
レナはさらに荒く行った。
綺麗に読もうとするから外される。
なら、読ませない。
自分でも少し汚いと思う攻めを混ぜる。
強気の暴れ。
無理な前ステップ。
危ない投げ。
いつものレナなら選ばないような、雑に見える択。
NoNameは一瞬だけ対応を遅らせた。
レナはそれを見逃さなかった。
入った。
コンボ。
画面端。
起き攻め。
ここはレナの領域だ。
相手を起き上がらせない。
相手が嫌がる選択を重ねる。
相手の守り方から、心の揺れを拾う。
レナは笑った。
やれる。
そう思った。
その瞬間、NoNameは何もしなかった。
何もしない。
起き上がって、ただ待った。
レナの重ねが、ほんの少しだけ空回った。
タイミングがずれる。
レナは次を押す。
NoNameは受ける。
まだ待つ。
その待ち方が、レナを苛立たせた。
何かしろ。
そう思った。
思った時点で、レナの手が一つ早くなった。
NoNameがそこを取った。
逆転。
二戦目も負けた。
レナはコントローラーを握る手に力を入れた。
チャット欄に文字を打つ。
今の、読んでた?
返事は短い。
はい。
何を?
あなたが待たれるのを嫌うことです。
レナは固まった。
画面を睨む。
格闘ゲームは読み合いだ。
相手の行動を読む。
相手の癖を読む。
相手の恐怖を読む。
レナはそれが得意だった。
得意なはずだった。
だがNoNameは、技を読んでいない。
レナの性格を読んでいる。
もっと言えば、レナが読み合いをしたがること自体を読んでいる。
レナはチャットを打つ。
性格悪いね。
返事。
よく言われます。
誰に。
あなたに。
レナは思わず笑った。
腹が立つ。
でも、少しだけ楽しい。
三戦目。
レナは静かになった。
叫ばない。
荒れない。
手元を落ち着かせる。
相手を読む前に、自分を読む。
自分が何を嫌がるか。
何をしたがるか。
何を選びたいか。
どこで熱くなるか。
NoNameは、そこを突いてくる。
なら、まず自分の癖を殺す。
試合が始まる。
レナは前に出る。
ただし、出たいから出るのではない。
出る理由を作ってから出る。
下がる。
ただし、怖いから下がるのではない。
下がった先で相手を止めるために下がる。
攻める。
守る。
待つ。
暴れる。
一つずつ、感情ではなく理由を乗せる。
NoNameの動きが、少しだけ変わった。
それにレナは気づいた。
今までより、相手が慎重になった。
たぶん、これで合っている。
レナは初めて一ラウンド取った。
画面に勝利表示が出る。
レナは笑った。
見たか。
チャットが来る。
今のは良かったです。
レナは一瞬、返事に詰まった。
褒められた。
NoNameに。
それだけで、少しだけ胸が熱くなった。
すぐに次の文が来た。
ですが、褒められたことに反応したので次は負けます。
レナは叫んだ。
うるさい!
マイクはミュートしている。
配信には届いていない。
それが少しだけ救いだった。
次のラウンド。
本当に負けた。
レナは椅子の背にもたれた。
信じられない。
本当に、気持ち悪い。
三本先取。
結果は、NoNameの勝ち。
三対零。
ただし、三戦目に一ラウンドだけ取った。
それだけだった。
レナはしばらく画面を見ていた。
負けた。
また負けた。
でも、前より少しだけ見えた。
NoNameからチャットが来る。
前より良くなっています。
レナは唇を尖らせた。
一ラウンドしか取れてないんだけど。
前は、自分が読んでいると思い込んでいました。
今回は、自分が読まれていることを少し見ていました。
それは褒めてる?
褒めています。
レナは鼻で笑った。
あんた、褒め方が下手。
よく言われます。
誰に。
黒瀬レナさんに。
また私か。
はい。
レナは少しだけ笑った。
悔しいのに、笑ってしまった。
NoNameと戦うと、いつもそうだ。
腹が立つ。
悔しい。
プライドが削れる。
今すぐもう一回やりたくなる。
でも、それだけでは終わらない。
負けた後、自分の中にまだ知らない隙間が見える。
そこを埋めれば、もっと強くなれる気がする。
だから、また挑んでしまう。
レナはチャットを打った。
もう一回。
返事はすぐだった。
配信に戻ってください。
嫌だ。
視聴者が待っています。
待たせとけばいい。
あなたは待つのが嫌いなのに、人を待たせるのはいいんですか。
レナは固まった。
この男。
本当に、こういうところが嫌いだ。
レナは乱暴にコントローラーを置いた。
わかったよ。戻る。
はい。
でも、次は絶対やるから。
はい。
絶対だから。
はい。
返事が全部同じなのも腹が立つ。
レナは配信画面を戻した。
コメント欄は地獄のように流れていた。
戻った
生きてた
負けた顔してる
レナさん顔赤い
何対何?
NoName強かった?
泣いた?
怒ってる?
一ラウンド取れた?
レナはマイクを戻し、椅子に座り直した。
負けた。
コメント欄が爆発した。
正直で草
NoNameやば
何本取った?
見たかった
NoName本物か
レナでも無理なの?
レナは腕を組んだ。
三本先取で、三対零。
コメント欄がさらに騒ぐ。
完敗じゃん
えぐ
NoName何者だよ
格ゲーでもいけるのか
星野ミカの師匠やばすぎ
月城ユイともやったらしいぞ
レナはそのコメントを拾った。
月城ユイ?
少しだけ眉を動かす。
盤面の女王。
名前は知っている。
直接話したことはない。
だが、ゲーム界隈で世界級のプレイヤーを追っていれば、その名前は嫌でも耳に入る。
MMOレイドと戦略ゲームの二冠級。
感情を表に出さない知性派。
大人数を動かすのが異常に上手い女。
レナとは正反対のタイプだった。
コメント欄が続く。
ユイさんもNoNameに負けたらしい
星野ミカ、月城ユイ、黒瀬レナ
女王三人ともNoName被害者
NoName被害者の会
世界女王たちは彼にだけ勝てない
レナはその一文を見て、黙った。
世界女王たちは、彼にだけ勝てない。
嫌な言葉だった。
でも、妙にしっくり来た。
自分だけじゃない。
星野ミカも。
月城ユイも。
そして自分も。
別々のジャンルで頂点に立った女たちが、同じ男に負けている。
その事実は、腹立たしいのに少しだけ面白かった。
レナはコメント欄に向かって言った。
被害者って言うな。
私はまだ負けっぱなしで終わる気ないから。
コメント欄が沸く。
かっけえ
レナさんらしい
再戦宣言
女王たち集まってほしい
三人でNoName倒そう
それ見たい
合同練習しろ
レナは鼻で笑った。
三人で倒す?
一瞬、想像した。
FPS/TPSの星野ミカ。
MMOと戦略ゲームの月城ユイ。
格闘ゲームの黒瀬レナ。
三人が同じ場所で、同じ男を囲む。
普通なら、そんなことをしても意味がない。
ジャンルが違いすぎる。
でもNoNameは、その全部で彼女たちを負かしている。
だったら、話す意味はあるかもしれない。
自分が見えなかったNoNameを、ミカは別の角度から見ている。
ユイはさらに別の角度から見ている。
それを聞けば、次はもっと戦えるかもしれない。
レナは配信画面の外で、ディスコードを開いた。
NoNameにメッセージを送る。
星野ミカと月城ユイ、話せる?
返事は少し遅れた。
必要ですか。
レナは即答した。
必要。
あんたを倒すために。
さらに少し間があった。
NoNameから返事。
本人たちが望むなら。
レナは笑った。
そういうとこ。
何がですか。
自分中心の話なのに、他人の意思確認するところ。
必要なので。
レナは少しだけ黙った。
NoNameは冷たい。
言葉は短い。
褒め方も下手。
相手の痛いところを平気で突く。
でも、無理やり引っ張ることはしない。
勝手に決めることもしない。
相手が伸びるために必要なら厳しいことを言う。
でも、相手が選ぶ部分には踏み込まない。
それが余計に、忘れられない。
レナはチャットを打った。
じゃあ、私から誘う。
はい。
NoName。
はい。
次は勝つから。
返事はすぐだった。
楽しみにしています。
レナは一瞬、固まった。
その一文は、いつもの淡々とした返事と少し違って見えた。
楽しみにしています。
本当にそう思っているのか。
ただの定型文なのか。
顔も声も知らないからわからない。
でも、少しだけ胸が跳ねた。
レナは慌ててディスコードを閉じた。
配信画面に戻る。
コメント欄では、まだNoNameの話題が流れている。
レナさん顔赤くない?
負けて熱くなってる
NoNameに何言われた?
もしかして褒められた?
照れてる?
レナは机を叩いた。
照れてない!
コメント欄がさらに盛り上がった。
照れてる
完全に照れてる
レナさんかわいい
NoName許せねえ
格ゲー女王を照れさせる男
レナは画面を睨んだ。
違う。
これは怒り。
闘争心。
再戦欲。
絶対に照れじゃない。
自分に言い聞かせるようにそう思った。
けれど、NoNameの一文が頭から離れなかった。
楽しみにしています。
黒瀬レナは負けるのが嫌いだ。
待つのも嫌いだ。
でも、次にNoNameと戦う時間を待つことだけは、少しだけ嫌ではなかった。
配信を終えた後。
レナは一人、暗くなったモニターの前に座っていた。
部屋には、コントローラーの置かれる音だけが残っている。
彼女は負けた試合の録画を再生した。
一戦目。
二戦目。
三戦目。
自分の攻め。
NoNameの間合い。
技の振り方。
待ち方。
何もしない時間。
見れば見るほど、腹が立つ。
でも、見れば見るほどわかる。
彼はレナの行動だけを読んでいたわけではない。
レナの感情を読んでいた。
前に出たい。
待たれたくない。
褒められたい。
負けを認めたくない。
読み勝ちたい。
自分の勝負勘を信じたい。
その全部が、画面の中に出ていた。
レナは小さく呟いた。
私、わかりやすすぎ。
悔しかった。
でも、そこで終わるつもりはない。
レナはメモを開いた。
普段、細かい反省文を書くタイプではない。
感覚で戦い、感覚で直す。
それが自分の強みだと思ってきた。
でも、NoNameに勝つには、それだけでは足りない。
彼は、感覚そのものを読んでくる。
なら、その感覚を自分で言葉にするしかない。
レナは一行目に書いた。
私は、待たれると焦る。
書いた瞬間、胸がざらついた。
認めたくない弱点。
だが、書く。
二行目。
褒められると一瞬だけ浮く。
三行目。
相手が何もしないと、自分から壊しに行きたくなる。
四行目。
読み合いに勝ちたい気持ちが強すぎる。
そこまで書いて、レナは顔をしかめた。
ひどい。
自分で書いていて、ひどい。
でも、これが自分だ。
NoNameは、ここを見ていた。
レナはペンを回した。
そして、最後にもう一行足した。
次は、読まれる前に自分で読む。
その時、ディスコードに通知が来た。
送信者は、星野ミカだった。
はじめまして。
星野ミカです。
NoNameさんから、黒瀬レナさんも話すかもしれないと聞きました。
レナは画面を見て、口元を上げた。
世界女王様から来た。
いや、自分も世界女王だ。
少し考えて、返信する。
黒瀬レナ。
NoNameに負けた人?
すぐに返事が来た。
それはそちらもでは?
レナは笑った。
いいじゃん。
気が強い。
嫌いじゃない。
さらに通知。
月城ユイが会話に参加しました。
月城ユイです。
お二人とも、初めまして。
レナは画面を見つめた。
揃った。
FPS/TPSの世界女王、星野ミカ。
MMOと戦略ゲームの女王、月城ユイ。
格闘ゲームの女王、黒瀬レナ。
三人とも、NoNameに負けた女。
三人とも、NoNameに勝ちたい女。
そして三人とも、世界の頂点に立った女王。
レナはチャットを打った。
で、二人とも。
あいつ、どうやって倒す?
ミカから即答。
私が聞きたいです。
ユイから少し遅れて返事。
まず、倒すという表現の定義から整理した方がいいと思います。
レナは画面の前で笑った。
タイプが違いすぎる。
でも、面白い。
その数秒後。
NoNameが会話に参加しました。
三人とも、まず休んでください。
レナは即座に打った。
無理。
ミカも続いた。
無理です。
ユイも少し間を置いて打った。
……少し難しいです。
NoNameからの返事は短かった。
全員、負け方が悪化します。
三人は、ほぼ同時に黙った。
その沈黙が、なんだか悔しくて、なんだかおかしかった。
レナは椅子にもたれ、笑った。
世界女王が三人揃って、顔も知らない男に寝ろと言われて黙っている。
ひどい状況だ。
でも、不思議と悪くなかった。
NoNameにだけ勝てない。
その事実は、屈辱だった。
けれど今、その屈辱は三人を同じ場所に集めている。
レナは最後に一文送った。
明日、三人で話す。
逃げるなよ、NoName。
NoNameの返事。
逃げません。
ミカ。
師匠、約束です。
ユイ。
では、明日。議題を整理しておきます。
レナは笑った。
議題とか言ってる。
ミカから返事。
ユイさん、真面目ですね。
ユイ。
必要ですので。
NoName。
では、解散で。
レナは画面を見つめた。
解散。
その言葉に、三人ともすぐには反応しなかった。
たぶん、誰も閉じたくなかった。
まだ話したい。
まだ聞きたい。
まだ悔しい。
まだ勝ちたい。
でも、NoNameの言う通り、今日はもう判断が濁っている。
レナは渋々チャットを閉じた。
明日。
星野ミカ。
月城ユイ。
黒瀬レナ。
三人の女王が、初めて同じ場で言葉を交わす。
目的は一つ。
NoNameを倒すこと。
いや、正確には違う。
NoNameに勝てる自分になること。
黒瀬レナはコントローラーを机に置き、深く息を吐いた。
負けたまま眠るのは嫌いだ。
でも今日は、少しだけ眠れそうな気がした。
次に目を覚ました時、きっと面倒で、悔しくて、最高に面白い一日が始まる。
その中心には、相変わらず顔も声も知らない男がいる。
NoName。
格闘女王は、まだ彼に勝てない。
けれど、負け方はもう見え始めていた。




