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世界女王は、彼にだけ勝てない  作者: てへろっぱ


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3/41

第三話 盤面の女王は、盤面の外で負けた

月城ユイは、負けるのが嫌いだった。


ただし、叫ぶほどではない。


机を叩くほどでもない。


泣くほどでもない。


彼女は負けた時、まず記録を残す。


試合時間。

相手の初手。

自分の判断。

味方の配置。

資源の推移。

崩壊した地点。

負けが確定した瞬間。


感情は後でいい。


悔しさも、怒りも、屈辱も、全部あとでいい。


先にやるべきことは、負けた原因を逃がさないこと。


それが月城ユイというプレイヤーだった。


MMOレイド攻略と戦略ゲーム。


まったく違うジャンルに見えて、ユイにとっては同じだった。


見るものが多い。

考える時間が長い。

自分一人の腕だけでは勝てない。

仲間の動き、敵の行動、資源の残量、数十秒後の崩壊点。


それらをまとめて盤面と呼ぶなら、ユイは盤面を見るのが誰よりも得意だった。


十二人レイドなら、誰が三秒後にミスをするかが見える。

二十人規模の攻略なら、誰の負担が五分後に爆発するかがわかる。

戦略ゲームなら、相手が攻めたい場所よりも、攻めたいと思い込まされている場所が見える。


だから人は、彼女をこう呼んだ。


盤面の女王。


ユイはその呼び名を、嫌いではなかった。


正確だと思っていた。


少なくとも、二年前までは。


ディスコードの画面には、NoNameからの返信が表示されていた。


話すだけなら。


短い。


相変わらず短い。


ユイはその一文を、数秒ほど眺めた。


お久しぶりです。


そう送った自分の文面を見返す。


丁寧すぎたかもしれない。

けれど、馴れ馴れしく送れる相手ではない。

少なくともユイにとって、NoNameは気軽に呼べる相手ではなかった。


彼は、ユイの盤面を壊した人間だ。


壊した上で、作り直す視点を置いていった人間だ。


ユイはキーボードに指を置いた。


星野ミカさんの件、見ました。

あなたの名前がかなり広がっています。

放置して大丈夫ですか。


送信。


すぐに既読がついた。


返事は少し遅れた。


困る人がいるなら対応します。


ユイは、思わず小さく笑った。


困る人がいるなら。


自分が困るかどうかではない。

NoNameはいつもそうだった。


自分の名が広がっていることには興味がない。

騒がれることにも興味がない。

ただ、それによって誰かの練習環境や競技生活が乱れるなら、対応する。


そういう男だった。


困っている人は、すでにいます。


誰ですか。


星野ミカさんのマネージャーです。


それはそうでしょうね。


ユイは画面の前で瞬きをした。


わかっているなら、なぜあのタイミングでルームコードを送ったんですか。


必要だったので。


何がですか。


彼女は、勝った直後の自分を過信しやすい。

その日のうちに負けた方がいい。


ユイは返事を打つ手を止めた。


ひどい言い方だと思った。


けれど、間違ってはいないとも思った。


星野ミカの試合を見ればわかる。


彼女は勝利の熱を力に変えるタイプだ。

賞賛を浴びるほど前に出られる。

期待されるほど撃ち勝てる。

大舞台で強い。


それは才能だ。


だが同時に、危うさでもある。


勝った直後の自分が、一番正しいと思ってしまう瞬間がある。


それをNoNameは見逃さない。


ユイはゆっくり息を吐いた。


あなたは本当に変わりませんね。


返事は短かった。


変える理由がありません。


ユイは画面から視線を外した。


机の上には、開きっぱなしの戦略ゲームのリプレイがある。


二年前の対戦ログ。


相手、NoName。


今でも、時々見返している。


悔しいからではない。


いや、悔しくないと言えば嘘になる。


でも、それだけではない。


あの試合には、今の自分を作ったものが詰まっている。


ユイはリプレイを再生した。


二年前。


当時の月城ユイは、すでに有名だった。


MMOでは世界最速攻略チームの参謀兼リーダー。

戦略ゲームでは国内大会を連覇。

冷静な判断と配置の美しさで、解説者からも高く評価されていた。


盤面が綺麗。


それが、当時のユイへの評価だった。


ユイ自身も、自分の強みはそこだと思っていた。


無駄のない配置。

崩れにくい資源配分。

相手の攻め筋を塞ぐ防衛線。

味方のミスが起きても破綻しない予備ルート。


勝つためには、盤面を整えればいい。


そう信じていた。


NoNameと対戦したのは、非公式の招待マッチだった。


相手の名前を見た時、ユイは少しだけ眉を上げた。


NoName。


どこかで見たことのある名前だった。


FPS界隈で、妙に強い野良がいる。

格闘ゲーム界隈で、誰かが人間じゃないと言っていた。

MMOの古いログにも、似た名前があった。


ただ、当時のユイは深く気にしなかった。


強い相手なら歓迎。


それだけだった。


試合が始まった。


序盤、ユイは完璧に見えた。


資源の取り方は安定。

偵察も通した。

相手の初手も見た。

拠点の展開も遅れていない。

防衛線も綺麗に作れた。


NoNameの動きは、不思議だった。


速いわけではない。


荒いわけでもない。


大胆でもない。


むしろ、地味だった。


派手な奇襲もない。

奇抜な構成でもない。

ユイを驚かせるような手もない。


なのに、五分を過ぎた頃から違和感が生まれた。


ユイが取りたい資源地点に、相手の圧がある。


守るほどではない。

けれど、無視すると少し痛い。


ユイが攻めたい場所に、相手の守りがある。


硬すぎるわけではない。

けれど、突破すると少し損をする。


ユイが待ちたい時間に、相手が仕掛けてくる。


危険な攻めではない。

けれど、受けると次の展開がわずかに遅れる。


小さな違和感。


小さな遅れ。


小さな損。


ユイはそれを一つずつ処理した。


処理できた。


だから、問題ないと思った。


十手先までは見えている。


相手の本命も読めている。


こちらの勝ち筋も残っている。


そう判断した。


だが、十五分を過ぎた時、ユイは気づいた。


自分が選んできた手は、すべて正しかった。


正しい手を選び続けていた。


なのに、盤面が悪くなっていた。


資源は足りている。

部隊も残っている。

拠点も落ちていない。


それなのに、どこにも勝ち筋がない。


ユイは手を止めなかった。


手を止めれば負ける。


だから、最善を探した。


守る。

引く。

攻める。

切り替える。

捨てる。

拾う。


どれも間に合わない。


どれも少し遅い。


その時、ユイは初めて理解した。


NoNameは、ユイの手を読んでいたのではない。


ユイが正しいと思う盤面に、少しずつ誘導していた。


ユイが選ぶべき最善手を、あらかじめ用意していた。


ユイが間違えたから負けたのではない。


間違えないように動いたから、負けた。


その感覚は、恐ろしかった。


二十分。


ユイは投了した。


画面には敗北の表示が出た。


その瞬間、悔しさより先に、静かな感動が来た。


美しい。


そう思ってしまった。


自分が完璧だと思っていた盤面が、相手の手のひらの上で組まれていた。


自分が支配していると思っていた戦場は、最初から支配されていた。


ディスコードに通知が来た。


NoNameからだった。


あなたは盤面を見ています。


ユイはすぐに返した。


それでは足りませんか。


返事は短かった。


盤面を作る側を見ていません。


ユイは、その文を何度も読んだ。


盤面を作る側。


敵の配置を見る。

味方の動きを見る。

資源の流れを見る。

ルールを見る。


それだけでは足りない。


なぜ、その盤面になったのか。


誰が、誰に、その盤面を選ばせたのか。


自分が最善だと思った手は、本当に自分が選んだものなのか。


それとも、選ばされたものなのか。


ユイはその日から、世界の見え方が変わった。


レイド攻略でも同じだった。


それまでは、ギミックを見て、処理方法を考え、最適な配置を組んでいた。


しかし、それだけでは足りない。


なぜプレイヤーはそこでミスをするのか。

なぜその役割は疲れるのか。

なぜその配置だと安心してしまうのか。

なぜ練習中はできるのに、本番では崩れるのか。


盤面は、ゲーム内だけにあるわけではない。


人の中にもある。


プレイヤーの焦り。

慢心。

恐怖。

遠慮。

責任感。

疲労。

信頼。


その全部が盤面を作る。


ユイはそれに気づいた。


だから強くなった。


MMOレイドで、ユイのチームは世界最速攻略を取った。


戦略ゲームでも国際大会を制した。


人は言った。


月城ユイの盤面管理は異常だ。


ユイはそれを聞くたびに、少しだけ思う。


違う。


私はまだ、盤面を見ているだけ。


あの人は、その前を見ている。


リプレイが終わった。


ユイは現在のディスコード画面に戻る。


NoNameからの最後のメッセージは、まだ表示されている。


変える理由がありません。


ユイは少し考えて、送った。


星野ミカさん、伸びますか。


伸びます。


即答だった。


どこがですか。


負けた直後に、悔しさより先に確認を求めるようになりました。


ユイはその返事を見て、少しだけ目を細めた。


NoNameは、星野ミカをよく見ている。


それは当然だ。


師匠なのだから。


でも、胸の奥に小さな違和感が生まれた。


羨ましい。


そう思った自分に、ユイは驚いた。


感情を表に出すのは苦手だ。

勝負に私情を持ち込むのも好きではない。

誰かに構ってほしいと思うタイプでもない。


それなのに。


NoNameがミカの成長を当然のように語ることに、少しだけ引っかかった。


ユイは自分の感情を分類した。


嫉妬。


近い。


対抗心。


それもある。


不満。


少し違う。


置いていかれたくない。


それが、一番近かった。


ユイはキーボードを打った。


私も、まだ伸びますか。


送信してから、自分で驚いた。


何を聞いているのだろう。


こんなことを聞くつもりではなかった。


既読がつく。


少し間があった。


NoNameから返事が来る。


伸びます。


ユイは息を止めた。


その後に、もう一文。


あなたは、綺麗に勝ちすぎます。


ユイは画面を見つめた。


綺麗に勝ちすぎる。


それは褒め言葉ではない。


NoNameの言葉では、たぶん欠点だ。


どういう意味ですか。


あなたは崩れない盤面を作るのが上手い。

だから、崩れても勝てる盤面を作るのが遅い。


ユイは、その文をゆっくり読んだ。


崩れない盤面。


崩れても勝てる盤面。


似ているようで、まったく違う。


ユイの中で、古いリプレイの映像が重なった。


自分は完璧な配置を目指す。


味方の負担を減らす。

ミスを潰す。

リスクを削る。

綺麗な勝ち筋を作る。


けれど現実の勝負は、いつも綺麗に進まない。


味方はミスをする。

敵は汚く崩してくる。

想定外は起きる。

練習通りにはならない。


その時、自分は修正できる。


修正はできる。


でも、NoNameはたぶんそれを遅いと言っている。


最初から崩れることを前提に組め。


ミスが起きない盤面ではなく、ミスが起きても勝ちが残る盤面を作れ。


ユイは椅子の背もたれに体を預けた。


たった数文で、また弱点を突かれた。


本当に嫌な人だ。


そう思ったのに、口元が少しだけ緩んだ。


ありがとうございます。


そう送ると、すぐに返事が来た。


まだ感謝する段階ではありません。


ユイは目を細めた。


では、どういう段階ですか。


検証です。


その下に、ルームコードが送られてきた。


戦略ゲーム。


二年前、ユイが負けたものと同じシリーズの最新作。


ユイは画面を見たまま、しばらく動かなかった。


今ですか。


今です。


私は寝起きです。


条件が悪い方がいいです。


ユイは、思わず笑ってしまった。


本当に嫌な人だ。


でも、断る理由がなかった。


むしろ、断りたくなかった。


ユイは髪を後ろで結び、眼鏡を掛け直した。


眠気は残っている。

頭も完全には回っていない。

時間も悪い。

準備もしていない。


条件は悪い。


だからこそ、NoNameは今やると言った。


崩れた状態で、どう勝ち筋を残すか。


その検証。


ユイはルームに入った。


NoNameが待っていた。


初期アイコン。

プロフィール空白。

余計な文字は何もない。


二年前から変わらない。


ユイはチャットを打った。


よろしくお願いします。


返事は短かった。


よろしくお願いします。


試合が始まった。


ユイは序盤、いつも通りに組もうとした。


資源を確保。

偵察。

拠点展開。

防衛線構築。

相手の初手を見る。


だが、今回はすぐに崩された。


NoNameは序盤から乱雑だった。


二年前のような静かな誘導ではない。


嫌な場所に、嫌なタイミングで、嫌な圧を置いてくる。


綺麗ではない。


むしろ汚い。


ユイの配置が整う前に、小さな穴を開ける。

穴を塞ぐと、別の場所を突く。

そこを守ると、守ったこと自体が次の負担になる。


ユイは眉を寄せた。


これは、わざとだ。


NoNameは強引に勝ちに来ているのではない。


ユイが綺麗に組む余裕を奪っている。


完成形を作らせない。


完成前の歪んだ盤面で、勝ちを残せるか試している。


五分。


ユイの防衛線は歪んだ。


七分。


資源の流れが乱れた。


九分。


予定していた攻勢タイミングが消えた。


それでも、ユイは負けなかった。


完璧な盤面は作れない。


なら、完璧ではない盤面で勝つしかない。


守り切るのをやめる。


一部を捨てる。


資源の効率を落としてでも、相手の進路を歪める。


味方ユニットの損失を前提に、次の戦線を作る。


綺麗ではない。


見栄えも悪い。


でも、勝ち筋は細く残る。


ユイはその細い線を掴んだ。


十一分。


NoNameの進軍がわずかに止まった。


初めてだった。


ユイはその一瞬を見逃さなかった。


反撃。


小さな部隊を通す。


本命ではない。

勝負を決める一手でもない。

ただ、相手のテンポを一拍だけずらすための手。


NoNameが反応する。


その瞬間、ユイは別の場所を捨てた。


守れる場所を、あえて捨てる。


もったいない。


普通ならそう判断する。


でも、守ることで次の形が固まりすぎる。


捨てた方が、盤面が濁る。


濁れば、NoNameの正確さを一瞬だけ鈍らせられる。


十三分。


ユイは負けた。


だが、二年前とは違った。


画面に敗北が表示される。


ユイはしばらく黙っていた。


悔しい。


けれど、それだけではない。


今回は、負けた理由が見えた。


途中で勝ち筋も見えた。


細かった。


消えかけていた。


でも、確かにあった。


ディスコードに通知が来る。


NoNameからだった。


悪くありません。


ユイは目を見開いた。


NoNameからの評価としては、かなり高い。


本当ですか。


前より負け方が汚くなりました。


ユイは一瞬、褒められているのか判断できなかった。


それは褒めていますか。


褒めています。


ユイは、画面の前で小さく笑った。


そうですか。


綺麗に負けるより、汚く残る方が強いです。


ユイはその言葉を、胸の奥にしまった。


綺麗に負けるより、汚く残る方が強い。


盤面の女王と呼ばれた自分には、必要な言葉だった。


もう一戦お願いします。


ユイはそう送っていた。


NoNameの返事は早かった。


休憩してください。


ユイは眉をひそめる。


まだできます。


眠気で判断が鈍っています。

今続けると、負け方の質が落ちます。


ユイは反論しようとした。


でも、その通りだった。


悔しさで続ける試合は、検証ではなくなる。


それは、自分がよくチームメンバーに言っていることでもあった。


ユイは手を止めた。


わかりました。


では、ログを見直してください。


はい。


あと、星野ミカさんには連絡しておきます。


なぜですか。


彼女は今、自分だけがあなたに一番近いと思っています。

違うと知った方が伸びます。


ユイは、思わず画面を見つめた。


この人は、本当に容赦がない。


ミカの感情も、ユイの感情も、たぶんわかっている。

その上で、伸びる方を選ぶ。


優しいとは言いにくい。


でも、不誠実ではない。


ユイは少し考えてから返した。


星野ミカさんと話すことになりますか。


なると思います。


黒瀬レナさんも?


すでに連絡が来ています。


ユイは、軽く目を閉じた。


FPS/TPSの世界女王、星野ミカ。

格闘ゲームの女王、黒瀬レナ。

そして、MMOと戦略ゲームの月城ユイ。


別々の場所でNoNameに負けた三人が、同じ場所に集まりつつある。


おそらく、それはただの偶然では済まない。


ユイは最後に一文送った。


あなたは、どうしたいんですか。


NoNameの返信は、少し遅れた。


強い人が、もっと強くなればいいと思っています。


それだけですか。


それだけです。


ユイは画面を見つめた。


それだけ。


本当に、それだけなのだろうか。


名声が欲しいわけではない。

チームを作りたいわけでもない。

誰かを支配したいわけでもない。

世界を驚かせたいわけでもない。


ただ、強い人がもっと強くなるのを見たい。


そのために、負け方を突きつける。


優しくはない。


でも、まっすぐだ。


ユイは静かに息を吐いた。


わかりました。

ログを見直します。


はい。


会話はそこで終わった。


ユイはディスコードを閉じず、リプレイを開いた。


十三分で負けた試合。


寝起き。

準備不足。

乱雑な崩し。

汚い盤面。

細い勝ち筋。


見直すべきところはいくらでもある。


ユイはノートを開いた。


最初の一行に、こう書いた。


綺麗に負けるより、汚く残る方が強い。


その文字を見て、少しだけ笑った。


盤面の女王。


そう呼ばれていた自分は、まだ盤面の作り方を知らない。


だから、まだ強くなれる。


そして同じ頃。


星野ミカのスマホに、NoNameからメッセージが届いていた。


月城ユイさんと、一戦しました。


ミカは寝不足の目で、その文を見た。


次の瞬間、ホテルの部屋に声が響いた。


え?


七瀬さんがベッドから飛び起きる。


今度は何!?


ミカはスマホを握りしめた。


師匠が、ユイさんと対戦してます。


七瀬さんは数秒固まった。


それ、絶対に面倒なやつだよね?


ミカは答えなかった。


胸の中に、変な熱があった。


悔しい。


気になる。


会ってみたい。


負けたくない。


そして、知りたい。


NoNameにとって、自分は何番目なのか。


ミカはすぐに返信した。


私もユイさんと話したいです。


NoNameからの返事は短かった。


そのうち。


ミカは唇を尖らせた。


そのうちって何ですか。


返事は来なかった。


代わりに、別の通知が来た。


黒瀬レナが配信中です。


ミカは嫌な予感と好奇心に負けて、配信を開いた。


画面の向こうで、黒瀬レナが叫んでいた。


NoName!

三本先取って言ったよな!?

逃げんなよ!

今すぐ部屋立てろ!


ミカは無言で画面を見た。


それから、ぽつりと言った。


……濃い人だ。


七瀬さんが頭を抱えた。


お願いだから、今日はもう何もしないで。


だが世界は、もう動き始めていた。


星野ミカ。

月城ユイ。

黒瀬レナ。


三人の世界女王。


そして、その中心にいる名もなき男。


NoName。


彼にだけ勝てない女王たちは、まだ互いの顔も知らない。


けれど、同じ相手に負けたという事実だけが、彼女たちを少しずつ近づけていた。

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