第二十五話 戻らないことも、戻るための選択
右入口から、Crownlessの反撃が始まった。
中央制圧率はRogueチームが優勢。
資源端末も一つ先行されている。
撃破数だけはCrownlessが上。
だが、盤面全体を見れば少し不利だった。
普通なら、まず中央を取り返す。
失った場所を奪い返し、形を元へ戻す。
Rogueも、それを待っている。
中央にはすでに二人。
左右の射線にも、戻ってくるCrownlessを狩る配置。
中央後方にあった最初の戻り場所は、完全に潰されている。
Rogueの全体チャット。
Rogue。
帰る場所は中央だろ?
ほら、取り返しに来いよ。
ミカの胸が熱くなった。
取り返したい。
中央を奪われた。
戻る場所を壊された。
逃げたと言われた。
撃って、取り返して、違うと証明したい。
ミカ。
撃ちたい。
ユイ。
私は整えたいです。
レナ。
殴りたい。
三つの危険ワード。
だが、今度はすぐに変換しなかった。
ユイが一拍置く。
ユイ。
全員、保留。
レナ。
全部?
ユイ。
はい。
中央を取り返したい気持ちごと、保留します。
ミカはマップを見た。
中央はRogueチームが取っている。
守りも固い。
だが、その分、左右の資源端末が薄い。
特に次に有効化される右資源。
そこは、今Crownlessがいる右入口から近い。
ユイ。
次の資源を取ります。
ミカ。
中央は?
ユイ。
捨てたままです。
レナ。
いいね。
ミカも、少し遅れて理解した。
Rogueは、Crownlessが中央へ戻ると思っている。
失った戻り場所を取り返すと思っている。
なら、帰らない。
元の場所へ戻らない。
別の場所から、別の勝ち筋を作る。
ユイ。
ミカさん、左ではなく右奥へ射線を通せますか。
ミカは地形を見る。
直接は難しい。
だが、破壊された遮蔽物の隙間から、細い線が一本だけ通る。
ミカ。
狭いですが、通せます。
ユイ。
当てなくて大丈夫です。
資源端末へ近づく相手を止めてください。
ミカ。
了解。
ユイ。
レナさん、右入口から資源へ。
ただし、最初は触らないでください。
レナ。
触れるけど触らない。
ユイ。
はい。
取ると思わせます。
レナ。
了解。
環境変化の終了まで、残り五秒。
右資源端末の有効化まで、残り七秒。
Crownlessが動く。
ミカは右奥へ細い射線を置いた。
Rogue本人ではない。
中央でもない。
次の資源へ向かう道。
レナは右入口から資源端末へ走る。
速い。
だが、端末の手前で止まる。
Rogueチームの一人が反応した。
レナが資源を取る。
そう読んで、中央から一人が右へ動く。
ミカの射線に入る。
撃てる。
ミカは撃たなかった。
まだ。
相手はさらに一歩進む。
ユイの支援範囲へ入る。
ユイ。
今です。
ミカが撃つ。
一発。
当てる。
相手が止まる。
だが落ちない。
レナも殴らない。
二人が攻撃したように見せ、相手を右側へ引きつける。
Rogueチームから、さらにもう一人が右へ寄る。
Rogue本人は中央に残った。
ユイはそれを見て、短く言った。
ユイ。
レナさん、戻ってください。
レナ。
資源取らないの?
ユイ。
取るのは私です。
レナは一瞬だけ驚いた。
だが、すぐに下がる。
レナ。
戻る。
ミカ。
おかえりなさい。
レナ。
ただいま。
レナが右入口へ戻る。
代わりにユイが、中央後方から右資源へ入った。
支援役。
盤面を作るユイが、自分で端末へ触れる。
Rogueチームは一瞬、反応が遅れた。
ユイは中央に残る。
支援位置を作る。
そう思っていたから。
実況の声が上がる。
月城選手が自ら資源端末へ! これは意外な動きです!
解説。
Crownless、役割を固定していませんね。黒瀬選手を囮にして、月城選手が取得へ入っています。
Rogueが全体チャットを打つ。
Rogue。
ユイが前に出るんだ。
後ろが空いてるよ。
ユイの手が一瞬だけ止まる。
戻り場所を作る役が前に出た。
後ろは空いている。
その通りだ。
Crownlessには今、明確な戻り場所がない。
ミカも気づいた。
レナも気づいている。
それでも、ユイは端末から離れなかった。
ユイ。
戻り場所は、まだ作りません。
レナ。
了解。
ミカ。
了解。
ユイ。
今は、三人とも戻りません。
戻らない。
その言葉に、ミカの胸が少し震えた。
戻る場所はもうある。
そう言ってきた。
でも今は、どこにもない。
いや。
場所としては、ない。
それでも三人は繋がっている。
ミカが右奥を見ている。
レナが右入口を守っている。
ユイが資源を取っている。
三人の役割が噛み合っている。
それ自体が、戻る場所なのかもしれない。
資源取得率が上がる。
三十パーセント。
四十。
五十。
Rogueチームの二人がユイへ向かう。
ミカは撃つ。
一人を止める。
レナが前へ出る。
もう一人を急がせる。
Rogue本人は中央から動かない。
中央を守れば、制圧率で勝てる。
そう判断している。
ユイ。
取得続行。
レナ。
持たせる。
ミカ。
見ています。
七十パーセント。
八十。
Rogueチームの一人が、ミカの射線を抜けた。
ユイへ近づく。
ミカは撃つ。
外れた。
わずかに。
本番の緊張。
細い射線。
相手の急な切り返し。
弾は遮蔽物に当たった。
ミカの胸が冷える。
外した。
ユイが狙われる。
戻り場所を作る人が。
今は前に出ているユイが。
Rogueの全体チャット。
Rogue。
ミカ。
また撃てなかったね。
手が固まる。
また。
前の訓練で外した時と同じ言葉。
戻る場所はある。
でも、また外すなら戻らない方がいい。
あの時の煽りが蘇る。
Rogue。
君が戻ると、また二人を壊すんじゃない?
ミカの視界が狭くなった。
撃たなければ。
今度こそ当てなければ。
自分のミスを取り返さなければ。
ミカ。
もう一度見ます。
戻り言葉。
だが、ユイはすぐに言った。
ユイ。
保留。
ミカの指が止まる。
ユイ。
ミカさん、まだ撃たなくて大丈夫です。
レナ。
私が行く。
ミカは見て。
レナが前へ出た。
ユイへ向かう相手へ突っ込む。
Rogueは、それを待っていた。
レナがミカのミスを取り返しに来る。
そう読んで、カウンターを置く。
だが、レナは相手を殴らなかった。
その手前で止まる。
レナ。
殴りたい。
ミカは、はっとした。
レナは今、自分の危険ワードをわざと出した。
Rogueに見せるために。
レナが殴る。
そう思わせるために。
レナ。
保留。
レナは自分で言った。
殴らない。
相手のカウンターが空振る。
その空振りで、ユイへの道が塞がる。
ミカはようやく視界を戻した。
撃たなくていい。
当てなくていい。
まず見る。
ユイへ向かう相手ではなく。
その相手の後ろ。
Rogueチームの支援位置。
ミカはそこへ射線を置いた。
撃たない。
支援役が動けなくなる。
ユイへの攻撃が薄くなる。
資源取得率。
九十パーセント。
九十五。
ユイ。
取得します。
百。
資源端末、Crownless獲得。
会場が沸いた。
実況。
Crownless、右資源を獲得! 中央を捨てたまま、資源で返しました!
解説。
星野選手は最後に撃たず、支援位置だけを止めました。黒瀬選手も攻撃を保留。月城選手が取り切りましたね。
ミカは息を吐いた。
外した。
でも、取り返さなかった。
外した自分を証明するために撃たなかった。
別の役割へ戻った。
見る役割へ。
ミカ。
見ました。
ユイ。
おかえりなさい。
レナ。
おかえり。
ミカの胸が熱くなる。
元の高所には戻っていない。
最初の射線にも戻っていない。
それでも、おかえりと言われた。
戻るとは、場所のことではない。
自分の役割へ戻ること。
二人と繋がること。
それでいい。
Rogueの表情から、笑みが少しだけ薄くなった。
だが、彼はすぐに次へ動く。
中央制圧率はまだRogue側が上。
一つ資源を取られた程度では、形勢は逆転していない。
むしろRogueは、Crownlessがどこまで戻れるかを確認していた。
全体チャット。
Rogue。
いいね。
じゃあ今度は、ユイが戻れない形にしよう。
ミカの背筋が冷える。
狙いがユイへ移る。
Rogue本人が中央を離れた。
初めて大きく前に出る。
目的は資源端末ではない。
ユイ。
前に出ているユイを孤立させるため。
Rogueチームの二人が左右から回る。
ユイの後方を切る。
レナの戻り道を塞ぐ。
ミカの射線には、Rogue本人が入る。
完璧な分断。
Rogue。
ユイ。
君が前に出たから、二人の帰る場所が消えた。
ユイの手が止まった。
Rogue。
今度は君が戻る番だ。
でも、どこへ?
ミカはユイを見る。
ゲーム内ではキャラクターしか見えない。
それでも、ユイが揺れたのがわかった。
自分が前に出た。
戻る場所を作らなかった。
二人の帰る場所を消した。
Rogueの言葉は、ユイの一番深いところへ刺さっている。
ユイ。
戻ります。
短い。
だが、戻る場所がない。
最初の中央後方はRogueに取られている。
右入口も、敵に見られている。
左高所はミカが使っている。
ユイが帰る場所がない。
レナ。
ユイ、こっち。
ユイ。
どこですか。
レナは一瞬黙った。
場所を示そうとして、止まる。
どこにも安全な場所がない。
ミカも探す。
中央。
右。
左。
地下。
全部見られている。
Rogueは、そこまで作った。
戻る場所を作れない盤面。
ユイの声が少し硬くなる。
ユイ。
私が下がると、二人が狩られます。
ミカ。
ユイさん。
ユイ。
私がここに残った方が、二人は動けます。
その言葉に、ミカの胸が冷えた。
戻らない方が、二人のため。
Rogueが狙っていた言葉。
自分が戻らない方が、チームが安定する。
戻る資格がない。
ユイがそこへ近づいている。
レナが強く言った。
レナ。
違う。
ユイ。
ですが。
レナ。
戻る場所がないなら、作る。
ユイ。
今からでは遅いです。
レナ。
じゃあ、ユイが作らなくていい。
ユイが黙る。
レナ。
いつもユイが作るから、ユイがいないとないって思う。
でも今日は、私が作る。
ミカは驚いた。
レナが戻る場所を作る。
前へ出るレナ。
壊すレナ。
相手を急がせるレナ。
そのレナが、戻る場所を作ると言った。
レナ。
右地下。
私が空ける。
ミカ、上から見て。
ミカ。
了解。
ユイ。
ですが、右地下は敵が。
レナ。
だから空ける。
レナが動いた。
右地下入口へ突っ込む。
今度は本当に攻撃する。
Rogueチームの一人が迎撃に入る。
レナは一撃受ける。
体力が大きく削られる。
それでも止まらない。
ユイ。
レナさん、下がってください。
レナ。
保留。
レナは、自分の復帰を保留した。
ユイの戻り場所を作るために。
相手を殴る。
押し返す。
倒し切れない。
でも、一歩。
もう一歩。
右地下入口に、小さな空間ができる。
ミカは左高所から右地下へ射線を通そうとする。
直接は無理。
だが、上の遮蔽物を壊せば、細い視界が開く。
ミカは撃つ。
一発。
遮蔽物が崩れる。
右地下の入口が見える。
ミカ。
見えました。
ユイさん、右地下へ。
ユイ。
戻ります。
ユイが走る。
Rogue本人が追う。
速い。
ユイの背後へ迫る。
Rogueの全体チャット。
Rogue。
戻るの?
君が戻ったら、レナが落ちるよ。
ユイの動きが、一瞬だけ遅くなる。
レナは低体力。
ユイが戻れば、レナは残される。
ユイはまた、自分が戻らない方がいいと思いかけた。
ミカ。
ユイさん、保留しません。
戻ってください。
レナ。
戻れ。
私はあとで戻る。
ユイ。
レナさんが。
レナ。
おかえりって言うから。
先に戻れ。
ユイは右地下へ入った。
レナが作った小さな空間。
ミカの射線が見ている。
ユイが支援を置く。
未完成。
狭い。
でも、戻る場所。
ユイ。
戻りました。
ミカ。
おかえりなさい。
レナ。
おかえり。
ユイが戻った。
その瞬間、支援範囲がレナへ伸びる。
レナの体力がわずかに回復する。
Rogue本人が右地下へ入ろうとする。
ユイが支援で止める。
ミカの射線が上から通る。
レナが振り返る。
三人が繋がる。
レナ。
私も戻る。
ユイ。
戻り場所、あります。
ミカ。
見ています。
レナが一歩下がる。
Rogueが追う。
だが、ユイの支援。
ミカの射線。
二つが重なる。
Rogueは踏み込めない。
レナが右地下へ戻る。
ユイ。
おかえりなさい。
ミカ。
おかえりなさい。
レナ。
ただいま。
三人が揃った。
狭い右地下。
中央もない。
高所も捨てた。
資源も一つ取っただけ。
盤面としては、まだ苦しい。
でも、三人はいる。
戻る場所は、ユイだけが作るものではなかった。
レナが空けた。
ミカが見た。
ユイが支援を置いた。
三人で作った。
Rogueは入口の外で止まった。
少しだけ笑う。
全体チャット。
Rogue。
なるほど。
戻る場所も、役割も、入れ替えるんだ。
ユイは答えない。
ミカも。
レナも。
答えは盤面で返す。
環境変化まで、残り二十秒。
次は、資源端末が左右同時に有効化される。
中央制圧率ではRogue優勢。
だが、Crownlessはすでに一つ資源を取っている。
次の左右を連続で取れば、戦術ポイントで逆転できる。
Rogueもそれをわかっている。
ユイ。
次、左右資源。
中央は最後まで捨てます。
ミカ。
了解。
レナ。
了解。
ユイ。
二手に分かれます。
ミカさん、左資源。
レナさん、右資源。
私は中央から支援を分けます。
レナ。
ユイ、一人で中央?
ユイ。
はい。
ミカ。
危険です。
ユイ。
危険ですが、必要です。
一瞬、三人が止まる。
Rogueが、そこを狙っている。
ユイを中央に残す。
戻り場所を作る人を一人にする。
それは危ない。
でも、左右同時取得には必要な形だ。
ユイは続けた。
ユイ。
私が中央に残るのは、二人の戻り場所になるためではありません。
ミカ。
では?
ユイ。
二人が戻らなくていい時間を作るためです。
ミカの胸が熱くなる。
戻らなくていい時間。
ミカが左で。
レナが右で。
それぞれ資源を取る。
その間、ユイが中央で時間を稼ぐ。
二人は、ユイの元へ戻らない。
戻らないことを選ぶ。
レナ。
ユイ、何秒持つ?
ユイ。
十五秒。
レナ。
足りる。
ミカ。
私も取れます。
ユイ。
では、行ってください。
三人は分かれた。
ミカは左。
レナは右。
ユイは中央。
Rogueチームも動く。
Rogue本人は中央。
一人は左。
一人は右。
一対一が三つ。
Rogueが望んでいた形にも見える。
三人を分ける。
誰が一番強いか。
誰が一番いらないか。
個人の勝負へ戻す。
だがCrownlessは、一人で戦っているわけではない。
ユイの支援が左右へ薄く伸びる。
ミカの射線が中央の一部を見ている。
レナの圧が右から中央の敵を急がせる。
離れていても繋がっている。
左資源。
ミカの前に敵が一人。
撃ち合いなら、ミカが有利。
だが、相手は撃ち合わない。
資源端末の周囲を回り、時間を稼ぐ。
Rogueの全体チャット。
Rogue。
ミカ。
一人なら撃てるよね?
ミカの胸が熱くなる。
一人なら。
それは、Crownlessでは撃てないと言っている。
証明したい。
ミカ。
撃ちたい。
ユイの声が中央から来る。
ユイ。
担当ずらせません。
今はミカさん自身で変換してください。
ミカ。
射線で動かします。
撃たない。
相手を倒すより、資源端末から動かす。
ミカは端末の外側へ射線を置く。
相手が内側へ寄る。
さらに別の角度へ射線を置く。
相手の動ける場所が狭くなる。
撃たない。
相手が焦る。
端末の取得範囲から一歩外れる。
ミカはその瞬間に端末へ触れた。
取得開始。
相手が慌てて戻る。
そこで初めて撃つ。
一発。
当てる。
相手が下がる。
取得率、上昇。
右資源。
レナの前にも敵が一人。
相手はレナを待っている。
近づけばカウンター。
Rogueのチャット。
Rogue。
レナ。
一人なら、待つ必要ないだろ?
レナ。
殴りたい。
ユイ。
レナさんも、自分で変換してください。
レナ。
相手を急がせる。
レナは前へ出る。
だが攻撃しない。
資源端末にも触れない。
相手の間合いの外で止まる。
相手は待つ。
レナも待つ。
数秒。
中央ではユイがRogue本人と向き合っている。
時間がない。
レナは、それでも待った。
相手が先に焦れた。
資源端末を守るため、一歩前へ出る。
レナはその一歩を取った。
攻撃。
相手が下がる。
レナは端末へ触れる。
取得開始。
中央。
ユイはRogue本人と一対一。
戦闘力では不利。
Rogueは強い。
近距離も。
射撃も。
盤面も。
さらに、ユイが二人へ支援を送っていることも見抜いている。
Rogue。
ユイ。
二人を支えながら、僕を止められる?
ユイは答えない。
支援を左右へ送る。
自分の防御は薄い。
Rogueが攻撃する。
ユイは避ける。
一撃受ける。
体力が減る。
Rogue。
君が落ちたら、二人は戻れない。
ユイの手が揺れる。
その通り。
自分が落ちれば、中央支援が消える。
左右の二人は孤立する。
戻り場所もない。
だが。
ユイは、昨日までと違うことに気づいた。
自分が落ちても。
二人は戻る場所を作れる。
レナが作った。
ミカが見た。
自分だけではない。
Crownlessの戻る場所は、もう自分だけの役割ではない。
ユイ。
整えたいです。
誰も返さない。
ミカも、レナも、それぞれ戦っている。
自分で変換しなければならない。
ユイ。
今は、整えません。
ユイは支援を置かなかった。
自分を守る支援も。
中央を維持する支援も。
すべて左右へ送る。
ミカとレナの取得率が上がる。
Rogueがユイへ迫る。
ユイは一歩下がる。
もう一歩。
体力が少ない。
Rogueの攻撃が来る。
避け切れない。
ユイは、自分の戻り言葉を出した。
ユイ。
戻ります。
だが、戻る場所はない。
それでも言った。
ミカが左から返す。
ミカ。
保留。
ユイさん、まだ戻らないでください。
レナが右から言う。
レナ。
あと三秒。
待って。
ユイ。
了解。
戻るのを保留します。
Rogueの攻撃が当たる。
ユイの体力が残りわずかになる。
実況が叫ぶ。
月城選手、危ない! Rogue選手が完全に捉えています!
解説。
しかし月城選手は支援を自分へ戻しません! 左右の取得を優先しています!
左資源、九十パーセント。
右資源、八十八。
ユイは逃げる。
Rogueが追う。
中央の端。
これ以上下がれば、落下判定のある危険地帯。
Rogueが笑う。
Rogue。
戻る場所、ないね。
ユイの背後に道はない。
前にはRogue。
左右の二人は遠い。
戻れない。
だが、ユイは静かに言った。
ユイ。
ありません。
Rogueの動きが一瞬だけ止まる。
ユイ。
今は、必要ありません。
左資源、百パーセント。
ミカ。
取得しました。
右資源、百パーセント。
レナ。
取った!
戦術ポイントが最大へ到達する。
勝利条件成立。
画面に大きく表示された。
WINNER
CROWNLESS
一瞬、会場が静まり返る。
次の瞬間。
歓声が爆発した。
実況の声が響く。
決まった! Crownless、左右資源を連続確保! 中央制圧を完全に捨て、戦術ポイントで第一試合を取りました!
解説も興奮している。
最後、月城選手は戻る場所を持っていませんでした。ですが戻らない時間を作り、左右の二人へ勝ち筋を渡しました!
ミカは画面を見つめた。
勝った。
第一試合。
Crownlessが取った。
でも、すぐには喜ばない。
ユイが。
画面の中で、Rogueに追い詰められていたユイがいる。
試合は終わった。
もう攻撃は来ない。
ミカはディスコードへ打った。
ミカ。
ユイさん。
レナ。
ユイ。
少し遅れて、返事が来た。
ユイ。
戻りました。
ミカの胸が熱くなる。
ミカ。
おかえりなさい。
レナ。
おかえり。
ユイ。
ただいま。
その瞬間。
ミカはようやく息を吐いた。
第一試合、勝利。
Crownless。
一本先取。
会場の大型スクリーンに、三人の姿が映る。
ミカは少し笑っている。
ユイは深く息を吐いている。
レナは拳を握っている。
Rogueも映る。
彼は負けた。
だが、笑っていた。
悔しそうではある。
けれど、それ以上に楽しそうだった。
全体チャット。
Rogue。
いいね。
戻る場所がないなら、戻らない。
少し間。
Rogue。
でも次は、それを選んだこと自体を後悔させる。
ミカの胸が少し冷える。
まだ終わっていない。
第一試合を取っただけ。
Rogueは、今の勝ち方も次の材料にする。
中央を捨てた。
ユイを一人残した。
戻らない選択をした。
次は、そこを刺してくる。
試合終了後。
ディスコードにNoNameから、初めてメッセージが来た。
NoName。
良い勝利です。
三人は、その一文を見た。
いつもなら、ここで次の負け筋を考える。
浮かれない。
再現しない。
それも必要だ。
だが、今回はNoNameがもう一文続けた。
NoName。
今だけは、喜んでください。
ミカは目を見開いた。
レナの返事も止まる。
ユイも、すぐには返さなかった。
NoNameが喜んでいいと言った。
勝利を分解する前に。
次の負け筋を見る前に。
今だけは。
ミカの胸が一気に熱くなった。
ミカ。
はい!
レナ。
よっしゃあ!
ユイ。
はい。
嬉しいです。
三人は喜んだ。
会場の歓声の中で。
観客の前で。
NoNameの見ている画面の中で。
第一試合。
Crownlessの勝利。
冠なしの三人は、戻る場所を壊されても勝った。
戻れない時は。
戻らないことを選んだ。
そして、離れたまま三人で勝ち筋を作った。
戻る場所は、固定された地点ではない。
戻ることを強制する言葉でもない。
離れていても。
一人で残っていても。
互いの勝ち筋を信じられること。
それもまた、Crownlessの戻る場所だった。
だが、Rogueはもう次を見ている。
第一試合でCrownlessが見せたもの。
役割の交換。
戻りの保留。
戻らない選択。
一人を残して、二人が勝ち筋を取る形。
そのすべてを。
第二試合で壊すために。




