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世界女王は、彼にだけ勝てない  作者: てへろっぱ


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19/41

第十九話 誰が欠けても、戻る場所がある

QUEENS' CROSS BATTLEの本番まで、残り五日。


公式事前番組の日が来た。


星野ミカは、控室の椅子に座りながら、両手を膝の上で握っていた。


世界大会の決勝前とは違う緊張がある。


大会なら、相手を倒せばいい。


画面の中で勝てばいい。


けれど今日は、画面の外で戦わなければならない。


言葉。


表情。


沈黙。


どこまで答えて、どこで止めるか。


Rogueが仕掛けてきた煽りを、どう処理するか。


七瀬さんは、横で進行表を確認している。


ミカ、確認ね。


はい。


NoNameさんについて聞かれたら?


個人情報は知りません。相手に迷惑をかけたくありません。競技者として尊敬しています。


Crownlessの中で誰が一番重要か聞かれたら?


必要、不要ではなく、役割で答えます。


誰かが欠けたらどうするか聞かれたら?


戻る場所を作ります。


七瀬さんは頷いた。


うん。完璧。

ただし、完璧に答えようとしすぎない。


ミカは苦笑した。


それも課題ですか?


課題だね。

ミカは真面目に答えようとすると、少し固くなるから。


ミカは少しだけ肩の力を抜いた。


七瀬さんの言葉も、最近はノートに書きたくなる。


いや、今日はさすがにやめておく。


その時、ディスコードに通知が来た。


Crownlessのグループ。


ユイ。


控室に入りました。

進行表を確認済みです。

Rogue選手の質問が想定より多く差し込まれる可能性があります。


レナ。


私も入った。

メイクさんに、怒っても顔に出さないでくださいって言われた。

無理かも。


ミカ。


私も控室です。

緊張してます。


NoName。


緊張は正常です。

そのまま使ってください。


レナ。


ノーは見てるの?


NoName。


配信は見ます。


ユイ。


何かあれば、終了後に検証ですね。


NoName。


はい。

ただし番組中は、三人で処理してください。


ミカはその一文を見て、深く息を吸った。


番組中は、三人で処理する。


NoNameは画面の向こうにいる。


でも、表に立つのは三人だ。


ミカ、ユイ、レナ。


Crownless。


冠なし。


肩書きではなく、名前で並ぶためのチーム。


番組開始の時間が近づく。


ミカは立ち上がった。


控室を出ると、廊下の向こうからレナが歩いてきた。


黒いジャケットに、ラフなパンツ。


配信の時より少しだけ整えているが、歩き方はいつも通り強い。


ミカを見ると、軽く手を上げる。


ミカ。


レナさん。


緊張してる顔。


はい。


私も。


レナさんも?


してる。

ムカつくこと言われるのわかってるから。


レナはそう言って笑った。


けれど、その笑いは荒くない。


少しだけ、照れ隠しに近かった。


少し遅れて、ユイが来た。


白いブラウスに、落ち着いた色のジャケット。


姿勢が綺麗で、控室前の廊下ですら、どこか会議室の空気を持っている。


お待たせしました。


ユイさん。


ミカさん。レナさん。

本日はよろしくお願いします。


レナが肩をすくめる。


固い。


ユイは少し考えた。


よろしく。

で、いいでしょうか。


レナが笑った。


いい。


ミカも笑った。


三人は、短く頷き合った。


そこにNoNameはいない。


けれど、昨日までの練習はある。


誰かが黙ったら拾う。


ユイが整理しすぎたら止める。


レナが短文になったら注意する。


ミカが固まったら声をかける。


三人は、互いの危険サインを知っている。


それだけで、ステージへ向かう足が少し軽くなった。


事前番組の会場は、想像よりも大きかった。


中央に丸いテーブル。


左右に出場チーム用の席。


背後の大型スクリーンには、QUEENS' CROSS BATTLEのロゴ。


観客は入っていない。


だが、配信カメラが何台も並んでいる。


その先に、何十万、何百万の目がある。


ミカは一瞬、世界大会決勝の舞台を思い出した。


でも、ここは違う。


撃てない。


隠れられない。


言葉で動く場だ。


司会者が明るく進行を始めた。


本日は、QUEENS' CROSS BATTLE事前番組にお集まりいただきありがとうございます。各ジャンルのトッププレイヤーが集う、今回限りの特別ルール。まずは注目チーム、Crownlessの皆さんです。


カメラが三人を映す。


星野ミカ。


月城ユイ。


黒瀬レナ。


三人はそれぞれ軽く頭を下げた。


コメント欄が流れているのが、会場横のモニターに映る。


Crownless来た

三人揃ってるのやばい

ミカかわいい

ユイさん綺麗

レナさん表情強い

NoName見てる?

ノーネーム出せ

Rogueと直接対決してほしい


ミカはコメント欄を見すぎないようにした。


見た後どうするかを決める。


今は、見ない。


司会者が質問を投げた。


まず、Crownlessというチーム名について伺いたいです。女王と呼ばれる三人が、冠なしという名前を選んだ理由は?


ミカは少しだけレナを見た。


この名前を出したのはレナだ。


レナもそれをわかっていたのか、マイクを取った。


女王とか呼ばれるのは、まあありがたいですけど。

でも、チームで戦う時にそれを持ち込むと邪魔になると思ったので。


レナは少しだけ言葉を探す。


私たちは、それぞれ違う場所で勝ってきました。

でもここでは、ミカ、ユイ、レナとして並びます。

だから冠なし。

そんな感じです。


司会者が頷く。


なるほど。肩書きではなく、名前で戦うと。


ユイが続いた。


はい。

肩書きは、外から見た時にわかりやすいものです。

ですが、試合中に必要なのは、誰がどの役割を担い、どこで支え合うかです。

Crownlessは、そのための名前です。


ミカもマイクを持つ。


私も、世界女王という言葉に守られすぎないようにしたいと思っています。

ここでは、三人で勝つために戦います。


言えた。


ミカは少しだけ胸を撫で下ろした。


普通なら、ここで終わる。


だが、司会者は次のカードをめくった。


少し踏み込んだ質問です。Rogue選手が動画で、Crownlessの中で一番いらないのは誰だ、という話題を出していました。これについて、どう受け止めていますか?


来た。


ミカの指が、膝の上で少し動いた。


胸がざわつく。


自分がいらないと言われるのも嫌。


二人がいらないと言われるのも嫌。


誰もいらないと言いたい。


でも、それだけではRogueの問いに乗る。


ミカが答える前に、ユイがマイクを取った。


必要、不要という問いには乗りません。


静かな声だった。


だが、強かった。


チームにおいて重要なのは、誰が必要かを証明することではなく、誰かが一瞬崩れた時にどう戻すかだと考えています。


司会者が少し驚いたように瞬きする。


戻す、ですか?


ユイは頷く。


はい。

誰かがミスをする。

誰かが遅れる。

誰かが止まる。

そういうことは必ず起きます。

その時、残りの二人が代わりを務めるのではなく、戻れる場所を作る。

私たちは、その形を練習しています。


ミカの胸が温かくなった。


ユイが、昨日の答えを表で言ってくれた。


レナがマイクを取る。


誰がいらないかって聞かれたら、答えは簡単です。

いらないやつはいない。


レナはそこで少しだけ笑う。


でも、言葉でそう言うだけなら誰でもできるので。

本番で誰かが崩れたら、戻す。

戻ったら、また三人で殴る。

それだけです。


殴る。


司会者が少し笑った。


レナらしい表現ですね。


レナは肩をすくめる。


私なので。


ミカは最後にマイクを持った。


私は、撃てなかった時が一番怖いです。

自分の役割を果たせなかったら、二人に迷惑をかけると思うので。


言ってから、少しだけ胸が痛んだ。


でも、続ける。


でも、もし私が一瞬止まっても、二人が戻る場所を作ってくれると知っています。

だから、私は戻れます。

逆に、二人が止まった時は、私が戻る場所を作りたいです。


会場が少し静かになった。


コメント欄の流れが変わる。


戻る場所っていいな

必要不要じゃないのか

Crownlessちゃんとチームだ

Rogueの問いに乗らなかった

ミカの答え好き

レナのまた三人で殴る草

ユイさんの回答強い


ミカはコメントを見ないようにしながら、それでも少しだけ嬉しくなった。


届いた気がした。


少なくとも、Rogueの土俵だけでは終わらなかった。


その時、別席にいたRogueがマイクを持った。


番組は、複数チーム合同の質疑形式だった。


当然、Rogueもいる。


画面越しではなく、同じ配信上にいる。


Rogueは笑っていた。


素晴らしい答えだ。


彼の声が流れる。


本当に美しい。

戻る場所。

誰もいらなくない。

チームとして理想的な言葉だ。


レナの表情が少しだけ鋭くなる。


ミカは自分の膝に置いた手を握った。


Rogueは続ける。


でも、聞きたい。

本番で戻れなかったら?


空気が少し変わった。


Rogueは、まっすぐCrownlessを見ている。


ミカが止まり、ユイが支えられず、レナが待てず。

戻る場所を作る前に、誰かが落ちたら?


その時も、同じことを言える?


誰もいらなくないと?


ミカは、心臓が強く鳴るのを感じた。


嫌な質問だ。


でも、想定内だ。


NoNameが言っていた。


Rogueは、きれいな答えを置かせた後、それが崩れた場合を突く。


ユイがマイクを取った。


言えます。


即答だった。


珍しく、ユイにしては早かった。


戻れなかった場合、それは設計の失敗です。

誰かの価値が下がるわけではありません。


Rogueの目が細くなる。


ユイは続ける。


私たちは、失敗しないチームを目指していません。

失敗した時、誰かを不要にしないチームを目指しています。


ミカは、ユイを見た。


強い。


今のユイは、昨日までの練習をちゃんと表に持ってきている。


レナが続けた。


あと、誰かが落ちたら普通に悔しいです。

ムカつくし、取り返したい。

でも、そいつがいらないって話にはならない。


Rogue。


感情的だね。


レナ。


感情ありますから。


コメント欄が沸いた。


レナいいぞ

感情ありますからw

Rogueに返した

強い

ユイの回答やばい

Crownlessいいな


Rogueはまだ笑っている。


最後に、星野ミカ。


彼はミカを見た。


君はどう思う?

世界大会を自分の手で決めた君が、誰かのミスで負けるかもしれない。

その時、本当に許せるのかな?


嫌な質問だった。


ミカの胸が、熱くなる。


許せるか。


そんなこと、簡単に言えない。


負けたら悔しい。


誰かのミスで負けたら、たぶん苦しい。


自分が撃てば勝てたのに、と思うかもしれない。


でも。


ミカはマイクを握り直した。


許す、という言い方は少し違うと思います。


Rogueの笑みが少し止まる。


ミカは続けた。


私もミスをします。

撃てない時も、判断が遅れる時もあります。

その時、二人が私を許すかどうかではなく、戻れる場所を作ってくれる。

だから私も、二人に同じことをしたいです。


ミカは少しだけ息を吸った。


負けたら悔しいです。

たぶん、すごく。

でも、その悔しさを誰かをいらない理由にはしません。

次に戻すために使います。


自分で言いながら、胸の中が熱くなった。


それは、綺麗事かもしれない。


本番で本当にできるかは、わからない。


でも、今のミカが本気で思っていることだった。


Rogueは、数秒だけ黙った。


そして笑った。


いい答えだ。

本番で見せてもらうよ。


会話はそこで終わった。


司会者が慌てるように次の話題へ移る。


だが、空気は変わっていた。


Rogueは刺した。


Crownlessは揺れた。


それでも、崩れなかった。


番組が終わった後、ミカは控室に戻る前に、廊下でユイとレナと合流した。


三人とも、少し疲れた顔をしていた。


最初に言ったのはレナだった。


腹立った。


ミカ。


はい。


ユイ。


かなり。


三人は顔を見合わせる。


そして、少しだけ笑った。


腹立った。


でも、戻れた。


レナがミカの肩を軽く叩く。


最後の答え、よかった。


ミカは少し照れた。


ありがとうございます。

ユイさんの答えもすごく強かったです。


ユイ。


ありがとうございます。

レナさんの、感情ありますから、も良かったです。


レナ。


そこ褒めるとこ?


ミカ。


かなりよかったです。


ユイ。


はい。レナさんらしくて。


レナは少しだけ目を逸らした。


……ならいい。


ミカは笑った。


レナの照れ方も、もうわかる。


ディスコードに通知が来た。


NoName。


お疲れさまでした。

良い対応でした。


三人は、ほぼ同時に画面を見た。


レナ。


ノー、見てた?


NoName。


見ていました。


ユイ。


検証は後ほどでしょうか。


NoName。


今日は軽くでいいです。

番組後なので、強い検証はしません。


ミカ。


本当に軽くですか?


NoName。


はい。


レナ。


信用三割。


ユイ。


私は四割に上げます。


NoName。


ありがとうございます。


レナ。


ちょっと嬉しそう。


NoName。


気のせいです。


ミカは、スマホを見ながら小さく笑った。


NoNameは画面の向こうにいた。


表には出なかった。


でも、見ていた。


そして、良い対応でしたと言ってくれた。


嬉しい。


けれど、今はその嬉しさもノートに書ける。


嬉しい。

次の負け筋にしない。


控室に戻ると、七瀬さんが待っていた。


よかったよ。


ミカは少し照れた。


ありがとうございます。


最後の答え、ちゃんとミカの言葉だった。


それが一番嬉しかった。


ミカは胸の奥が少し温かくなるのを感じた。


NoNameの言葉ではない。


ユイの整理でもない。


レナの勢いでもない。


自分の言葉。


その事実が、静かに背中を押してくれた。


その夜。


番組の切り抜きはすぐに拡散された。


Rogueの問い。


Crownlessの答え。


戻る場所。

失敗した時、誰かを不要にしない。

悔しさを、次に戻すために使う。


コメント欄は割れた。


綺麗事だ。

本番で崩れるだろ。

いや、Crownless強い。

Rogueに乗らなかったのすごい。

ミカの答え刺さった。

ユイが冷静すぎる。

レナの感情ありますから好き。

NoName見てたのかな。

絶対見てる。


Rogueも、その切り抜きを見ていた。


彼は配信部屋で、椅子に深く座り、画面を眺めている。


少しだけ、笑みが薄かった。


Crownlessは、思ったより早く答えを持ってきた。


必要、不要の問いに乗らなかった。


戻る場所。


いい答えだ。


きれいで、強い。


だからこそ、壊したくなる。


Rogueは新しいメモを開いた。


次の攻撃点。


戻る場所を作る前に、戻りたいと思えなくする。


彼は低く笑った。


誰かがミスした時、戻る場所を作る。


なら。


ミスした本人に、戻る資格がないと思わせればいい。


ミカに、撃てなかった自分を恥じさせる。


ユイに、判断を誤った自分を許せなくさせる。


レナに、待てなかった自分を嫌わせる。


戻る場所があっても、本人が戻らなければ意味がない。


Rogueはメモを保存した。


本番で使う。


動画にはしない。


これは、試合中に直接刺す。


Crownlessは、誰かが欠けても戻るチームらしい。


なら、戻る意志を折ればいい。


Rogueは画面の中の三人を見た。


星野ミカ。


月城ユイ。


黒瀬レナ。


そして、その背後にいるはずのNoName。


出てこないなら、それでいい。


君が大事にしているものを、目の前で揺らす。


そうすれば、君は本当に黙っていられるのか。


Rogueは、誰にも聞こえない声で呟いた。


本番が楽しみだ。


同じ頃。


NoNameは、番組の録画を見返していた。


三人の答えは悪くなかった。


いや、良かった。


Rogueの問いに乗らず、必要、不要ではなく復帰の話へ変えた。


星野ミカは、自分の言葉で答えた。


月城ユイは、設計の問題として処理した。


黒瀬レナは、感情を隠さずに置いた。


良い対応だった。


だが、NoNameは動画を止めた。


Rogueの最後の目。


まだ終わっていない。


むしろ、次が本命だ。


NoNameはメモ帳を開く。


Rogue次手予測。


必要、不要が不発。

次は復帰そのものを狙う可能性。

戻る場所ではなく、戻る意思を折る。


三人別対策。


星野ミカ。

撃てなかった自分を恥じる可能性。


月城ユイ。

判断ミスを設計ミスとして抱え込む可能性。


黒瀬レナ。

待てなかった自分への怒りが自己否定に変わる可能性。


NoNameはそこで手を止めた。


戻る場所を作るだけでは足りない。


戻っていいと、本人が思える必要がある。


次の訓練は決まった。


失敗後の復帰。


ミスした自分を、どう戻すか。


NoNameはCrownlessのファイルを開く。


以前保存した一文がある。


戻る場所は、勝ち筋になる。


その下に、新しい一文を足した。


戻る意思を守ること。


保存。


NoNameは画面を閉じた。


本番まで、残り四日。


Crownlessは、戻る場所を作ることを覚えた。


だがRogueは次に、戻る心そのものを折りに来る。


なら、その前に。


三人に教えなければならない。


失敗した自分でも、戻っていいということを。


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