第十四話 師匠の言葉は、誰よりも深く刺さる
星野ミカは、ディスコードを開く前から緊張していた。
世界大会決勝の前でも、ここまで胃が重くなったことはない。
相手はRogueではない。
NoNameだ。
今日の訓練で、NoNameはRogue役をする。
ただし、昨日の疑似Rogueとは違う。
疑似Rogueは過去発言をもとにした訓練用の文字列だった。
嫌な言葉は言ってくる。
腹も立つ。
刺さりもする。
けれど、どこかで割り切れた。
相手は偽物だ。
訓練用だ。
そう思えた。
でも今日は違う。
NoName本人が言う。
ミカの弱さを知っている人が。
ミカがどう負けて、どう悔しがって、どう強くなってきたかを見てきた人が。
その人が、意図的に一番嫌な場所へ言葉を置く。
ミカはノートを開いた。
最後のページには、昨日書いた一文がある。
師匠の言葉でも、私を見失わない。
何度読んでも、少し怖い。
見失わない。
本当にできるだろうか。
NoNameに、もし言われたら。
あなたは、私がいなければ世界女王になれませんでした。
そう言われたら。
ミカは、冷静でいられるだろうか。
七瀬さんが、そっとコーヒーを置いた。
大丈夫?
ミカは素直に首を横に振った。
大丈夫じゃないです。
だよね。
七瀬さんは苦笑した。
今日の訓練、そんなにきついの?
師匠に、わざと嫌なことを言われます。
それはまた……。
七瀬さんは言葉を探して、それから少し真面目な顔になった。
本当に無理そうなら、止めなよ。
はい。
訓練でも、言葉って残るからね。
ミカは頷いた。
それはわかっている。
だからこそ、三人で決めた。
誰かが本当に沈みそうになったら止める。
キレるのはいい。
悔しがるのもいい。
でも、壊れるのは違う。
NoNameはたぶん、そこも見てくる。
必要なところまで刺す。
でも必要以上には刺さない。
そう信じたい。
信じたいと思うこと自体が、もう怖かった。
二十一時。
ディスコードに三人が揃った。
Hoshino_Mika
Tsukishiro_Yui
Kurose_Rena
NoNameはまだ来ていない。
先に打ったのはレナだった。
二人とも大丈夫?
ミカは少し驚いた。
レナが最初にそれを聞くとは思わなかった。
ミカ。
正直、緊張してます。
ユイ。
私もです。
今日はかなり負荷が高いと思います。
レナ。
だよね。
私も嫌。
ミカは、画面の前で少しだけ笑った。
レナが嫌だと正直に言うと、逆に少し安心する。
ユイ。
昨日決めた通り、誰かが本当に危なそうなら止めましょう。
レナ。
うん。
キレるのはセーフ。
黙り込んだら危ない。
ミカ。
私、黙るかもしれません。
レナ。
じゃあミカが黙ったら止める。
ユイ。
私も、言葉が長くなりすぎたら止めてください。
整理しようとして感情を隠す可能性があります。
レナ。
わかった。
私は?
ミカ。
レナさんは、怒り方が変わったら?
ユイ。
そうですね。
いつもの怒りではなく、短い言葉だけになったら危ないかもしれません。
レナ。
なるほど。
じゃあ私が短文になったら止めて。
三人は、それぞれの危険サインを共有した。
ミカは黙る。
ユイは整理しすぎる。
レナは短文になる。
それだけでも、少し呼吸が楽になった。
自分を見てくれる人がいる。
それは、強い。
その時、NoNameが参加した。
NoName。
遅れました。
レナ。
遅刻?
NoName。
二分前です。
レナ。
ならセーフ。
ユイ。
本日はよろしくお願いします。
ミカ。
よろしくお願いします。
NoName。
先に確認します。
今日の訓練は、強度が高いです。
途中で止める判断は、三人の誰がしても構いません。
ミカは少しだけ目を見開いた。
NoNameが最初にそれを言った。
NoName。
目的は傷つけることではありません。
Rogue選手の言葉に対し、三人が互いを拾うための訓練です。
続行不能と判断した場合は、即中断します。
ユイ。
承知しました。
レナ。
わかった。
ミカ。
はい。
NoName。
では、始めます。
訓練ルームが開かれた。
マップは前回と同じ複合型。
ただし、今回は敵BOTの性能が少し上がっている。
そして相手チームの中心には、NoName本人が入る。
NoNameがRogue役。
つまり、試合内でNoNameが動きながら、三人を言葉で揺らしてくる。
ミカは深呼吸した。
試合開始。
三。
二。
一。
開始。
序盤は、静かだった。
それが逆に怖かった。
NoNameはすぐには煽ってこない。
BOTを動かしながら、三人の配置を見る。
ミカは高所へ。
ユイは中央後方。
レナは地下入口。
いつもの形。
だが、NoNameはミカの射線をすぐに切った。
射線を通したくなる場所へBOTを出し、ミカが撃ちたくなるタイミングで引かせる。
誘われている。
ミカは撃たない。
NoNameが最初の言葉を投げた。
星野ミカさん。
文字を見ただけで、ミカの指が少し硬くなる。
NoName。
あなたは、自分で勝ったと言いたいだけです。
ミカの胸が、ぐっと熱くなった。
来た。
思ったより早い。
NoName。
私がいなければ勝てなかったと思われるのが嫌だから、撃って証明したい。
でも、その時点でRogue選手の言葉を中心に動いています。
ミカは固まった。
痛い。
Rogueに言われるより、ずっと痛い。
なぜなら、それはNoNameの言葉だから。
そして、自分でも思い当たるから。
自分で勝ったと言いたい。
NoNameがいなくても、自分は強いと言いたい。
それは本当にある。
ミカはキーボードに指を置いたまま、動けなかった。
宣言。
しなければ。
でも、言葉が出ない。
黙りかけた瞬間、レナが打った。
ミカ、黙った。止める?
ユイ。
ミカさん、今の初動だけでいいです。文章にしなくて大丈夫です。
NoName。
中断可能です。
ミカは息を吸った。
違う。
止めなくていい。
痛い。
でも、まだ見える。
ミカは短く打った。
撃ちたい。
証明したい。
ユイが即座に返す。
受け取りました。
ミカさんは撃つ圧だけ出してください。
本命は私が作ります。
レナさん、右地下から上がらず待機。
レナ。
了解。
ミカ、撃つ顔だけしな。
ミカは少し笑いそうになった。
撃つ顔だけ。
変な言い方。
でも、わかる。
ミカは高所からNoNameへ照準を置いた。
撃てる。
撃ちたい。
NoNameを撃ちたい。
その気持ちは、本物だ。
だから、見せる。
照準を外さない。
NoNameはそれを見て、BOTを一体ミカの射線へ出した。
ミカが証明したいなら撃つはず。
そういう餌。
ミカは撃たなかった。
撃ちたい自分を、撃たないまま置いた。
その間に、ユイが中央の制圧位置をずらした。
NoNameのBOTがミカの射線を塞いだことで、中央の支援線が一瞬だけ薄くなる。
ユイはそこを拾う。
レナは右地下で待っている。
NoName本体が中央を取り返しに動いた瞬間、レナが横から上がった。
レナは攻撃しない。
ただ、NoNameの逃げ道に立つ。
ミカはその瞬間だけ撃った。
NoName本体ではない。
NoNameが使おうとしたBOTの足元。
BOTが止まる。
ユイの支援が重なる。
中央を取った。
小さな勝ち。
NoName。
良いです。
ミカは息を吐いた。
刺さった。
でも、拾ってもらえた。
ミカ。
ありがとうございます。
レナ。
ナイス。
ユイ。
良かったです。
NoNameは何も追加しなかった。
次はユイだった。
NoNameはBOTを大きく左右へ散らした。
ユイが指示を出したくなる配置。
視界が足りない。
中央が薄い。
左端の資源が危ない。
ユイが迷った瞬間、NoNameが打った。
月城ユイさん。
ユイの返事はない。
NoName。
あなたは、味方のためと言いながら、味方が自分なしで動くのが怖いだけです。
ミカは息を呑んだ。
それは。
かなり深い。
NoName。
指揮が途切れても動ける盤面を作ると言いながら、本当は自分の指示が必要であることを確認したい。
味方が自分を必要とする盤面を、綺麗に作っている。
ユイの動きが止まった。
ミカには、わかった。
これは刺さった。
かなり。
ユイから長い文章が来るかと思った。
自分の感情を整理し、分析し、説明しようとする文章。
でも、来ない。
ユイは短く打った。
痛いです。
レナ。
止める?
ユイ。
まだ大丈夫です。
ただ、少し待ってください。
NoName。
待ちます。
試合内では、BOTが動いている。
だがNoName本体は一歩下がった。
攻めを止めた。
NoNameは訓練を中断していないが、ユイに数秒の余白を置いた。
ミカはそのことに少し驚いた。
NoNameは、ちゃんと見ている。
刺すけれど、潰さない。
ユイが続けた。
指示を出したいです。
必要とされたい気持ちもあります。
ただし、今必要なのは、私の指示ではなく、二人が自分で動くための目印です。
ミカ。
わかりました。
私、自分で左を見ます。
レナ。
私は右押さえる。
ユイ、中央だけ見て。
ユイ。
ありがとうございます。
中央に支援を置きます。
でも、それは命令ではなく、戻る場所です。
ユイの支援スキルが中央に置かれた。
今までより少し広い。
完璧ではない。
でも、帰れる場所だった。
ミカは左を見て、敵BOTを牽制する。
レナは右を押さえ、地下からの侵入を止める。
ユイは中央で待つ。
指示は少ない。
でも、バラバラではない。
ミカが危なくなれば中央へ戻れる。
レナが押されれば中央の支援範囲に引ける。
ユイは二人を動かすのではなく、二人が戻れる場所を作っていた。
NoNameが動いた。
中央を崩しに来る。
だが、ミカとレナは指示を待たずに戻った。
ユイの場所へ。
三人が重なる。
NoNameの攻めを受け止めた。
ユイ。
受けられました。
ミカ。
はい。
レナ。
今の盤面、わかりやすかった。
NoName。
良いです。
必要とされたい気持ちを、戻れる場所として使えています。
ユイはしばらく返事をしなかった。
でも、危ない沈黙ではなかった。
やがて短く打った。
ありがとうございます。
次はレナだった。
NoNameはわざとレナの目の前で止まった。
近すぎず。
遠すぎず。
レナが一番嫌がる距離。
手を出せそうで、届かない。
待てと言われると、壊しに行きたくなる距離。
レナ。
もう嫌な位置。
NoName。
黒瀬レナさん。
レナ。
来い。
NoName。
あなたは、勝ちたいのではなく、私に見てほしいだけです。
チャットが止まった。
ミカの背筋が冷えた。
昨日、レナが自分で言った一番嫌な言葉。
それを、NoName本人が言った。
Rogueではなく、NoNameが。
レナのキャラが、一歩前に出た。
すぐにわかった。
刺さった。
レナ。
……それは。
文字が止まる。
短文。
危険サイン。
ミカがすぐに打った。
レナさん、止めますか?
ユイ。
一度止めても大丈夫です。
NoName。
中断可能です。
レナはしばらく何も打たなかった。
ミカは息を止めて待った。
やがて、レナが打った。
止めない。
短い。
でも、続きが来た。
ムカつく。
めちゃくちゃムカつく。
でも、見てほしいのは多分ある。
だから余計ムカつく。
ミカは胸がぎゅっとなった。
レナが、そこまで正直に言うとは思わなかった。
レナ。
勝ちたい。
でも、勝ったところを見てほしいのもある。
それを馬鹿にされたみたいで、殴りたい。
NoName。
良いです。
レナ。
良いって言うな。
今は腹立つ。
NoName。
はい。
ユイ。
レナさん、その怒りをこちらで拾います。
前に出るふりだけお願いします。
攻撃はしないでください。
ミカ。
私はレナさんが殴りに行きたくなる場所へ射線置きます。
そこを餌にします。
レナ。
わかった。
殴りたい顔だけする。
ミカは少しだけ笑った。
さっきの自分の言葉が返ってきた。
撃つ顔だけ。
今度は、殴りたい顔だけ。
レナのキャラが前に出る。
怒っている。
それは隠せない。
NoNameも見ている。
NoNameはレナが踏み込むと思って、カウンター位置へ下がる。
だが、レナは踏み込まない。
その場で止まる。
しかし、ただ止まるのではない。
レナは、攻撃範囲ギリギリの外で待った。
NoNameがさらに下がれば、中央を失う。
前に出れば、レナの間合い。
横へ逃げれば、ミカの射線。
下がるしかない場所へ、ユイが支援を置く。
NoName本体が一瞬、止まった。
そこをミカが撃つ。
今度は当てる。
NoNameの体力が削れる。
レナは叫ぶように打った。
入った!
ユイ。
入りました。
ミカ。
ナイスです!
NoName。
良いです。
レナ。
嬉しいけどまだムカつく!
NoName。
それでいいです。
レナ。
それでいいのかよ!
三人の空気が少しだけ緩んだ。
けれど、訓練は終わっていない。
NoNameは、さらに強度を上げた。
今度は三人まとめて刺してきた。
NoName。
三人とも、私に勝ちたいと言いながら、私を中心にしすぎています。
ミカの指が止まった。
ユイも、レナも、きっと止まった。
NoName。
星野ミカさんは、私に勝てば自分の強さを証明できると思っている。
月城ユイさんは、私に認められれば自分の盤面が正しいと思える。
黒瀬レナさんは、私に勝ったところを私に見てほしいと思っている。
NoName。
その時点で、三人の勝ち筋は私の中にあります。
Rogue選手は、そこを突きます。
重い。
あまりにも重い言葉だった。
ミカは何も打てなかった。
ユイも沈黙した。
レナも、珍しく反応しない。
その通りだった。
NoNameに勝ちたい。
それは目標だ。
でも、いつの間にかNoNameが中心になっている。
NoNameに勝てば。
NoNameに認められれば。
NoNameに見てもらえれば。
その気持ちが、三人を強くしてきたのは確かだ。
でも、それだけになると危ない。
Rogueは、そこを突いてくる。
NoNameは言葉を続けなかった。
待っている。
三人が自分で見るのを。
ミカはゆっくり打った。
自分の強さを、師匠に証明したくなってます。
ユイ。
私も、NoNameさんの評価を基準にしすぎている部分があります。
レナ。
私は、勝って見せたい。
見てほしい。
でも、それだけじゃ駄目なのもわかる。
ミカはその三つの言葉を見て、少しだけ呼吸が戻った。
自分だけではない。
三人とも同じだ。
違う形で、NoNameを中心にしている。
だから、三人で外せる。
ユイが打った。
では、今この試合で、NoNameさんを中心から外しましょう。
レナ。
どうやって。
ユイ。
勝つ対象としてではなく、盤面の一部として扱います。
ミカ。
師匠を、ただの敵駒として見る?
ユイ。
はい。
少なくとも、この試合中は。
レナ。
それ、いいね。
NoNameを倒したいじゃなくて、NoNameがいる盤面を取る。
ミカは頷いた。
自分の中で、何かが少し変わった。
NoNameに勝ちたい。
その気持ちは消えない。
消さなくていい。
でも今は、NoNameを特別な相手として見すぎない。
撃つべき場所にいる敵。
盤面を動かす要素。
レナが圧をかける対象。
三人が勝つために処理する一部。
ミカは照準を置いた。
NoName本体ではなく、その周囲を見る。
BOTの位置。
中央の制圧率。
ユイの支援範囲。
レナの間合い。
残り時間。
NoNameを中心にしない。
勝ちを中心にする。
ユイの支援が中央を少しずらす。
レナがNoNameを見ずに、NoNameの逃げたい場所へ立つ。
ミカはNoNameを撃たない。
NoNameが使いたいBOTを撃つ。
NoName本体が一瞬、孤立した。
三人は飛びつかなかった。
NoNameを倒したい欲を、置いた。
代わりに中央を取った。
制圧率が上がる。
NoNameは中央を奪い返すために動かざるを得なくなる。
その瞬間、レナが笑った。
来た。
今度は、NoNameが来た。
三人が追ったのではない。
NoNameに来させた。
レナが受ける。
ユイが支える。
ミカが撃つ。
NoNameの体力が削れる。
だが倒し切らない。
倒し切る必要はない。
中央を取れば勝ち。
三人はNoNameを見すぎなかった。
そして、勝った。
画面に勝利表示が出る。
ミカはしばらく動けなかった。
NoNameに勝った。
でも、NoNameを倒したわけではない。
NoNameを中心から外したことで勝った。
それは、不思議な勝利だった。
NoNameからメッセージが来る。
良い勝利です。
ミカは、今度こそすぐに喜ばなかった。
ノートを開く。
良い勝利。
次の負け筋。
そう書いてから、少しだけ笑った。
レナ。
最後、あんた倒してないのに勝った。
NoName。
はい。
レナ。
なんか腹立つけど、これ大事な気がする。
ユイ。
NoNameさんを中心にしないこと。
非常に重要です。
ミカ。
師匠に勝ちたい気持ちは消えないです。
でも、それだけを中心にしない。
NoName。
良いです。
少し沈黙。
NoNameが続けた。
今日のまとめです。
一つ。
私の言葉でも、Rogue選手の言葉でも、動かされた自分を先に見ること。
二つ。
誰かが沈黙、過剰整理、短文化した場合は、即座に拾うこと。
三つ。
怒り、証明欲、承認欲求は消さずに使うこと。
四つ。
私に勝つことを、勝利条件の中心に置きすぎないこと。
五つ。
特別な相手も、試合中は盤面の一部として扱うこと。
三人は、それぞれ書き込んだ。
ミカは四つ目で手が止まった。
私に勝つことを、勝利条件の中心に置きすぎない。
難しい。
でも、今日少しだけできた。
NoNameを倒さずに勝った。
それは、NoNameに近づくために必要な一歩だった。
レナ。
今日、かなり疲れた。
ユイ。
私もです。
ミカ。
私も。
NoName。
今日はここまでです。
次回は軽めにします。
レナ。
本当に?
NoName。
本当です。
ミカ。
師匠の軽め、信用できないです。
ユイ。
同意します。
NoName。
調整します。
レナ。
絶対して。
NoName。
はい。
訓練が終わった。
NoNameがオフラインになる。
三人は、少しだけ残った。
ミカは、今日一番刺さった言葉をもう一度見返していた。
三人とも、私に勝ちたいと言いながら、私を中心にしすぎています。
痛かった。
本当に痛かった。
でも、必要だった。
レナが打った。
二人とも、大丈夫?
ミカ。
大丈夫です。
刺さりましたけど。
ユイ。
私も大丈夫です。
かなり考えることは増えました。
レナ。
私も。
ムカついたけど、壊れてはない。
ミカは少し安心した。
三人とも無事だった。
傷つかなかったわけではない。
でも、壊れてはいない。
むしろ、少し強くなった気がする。
ユイ。
今日、三人で拾えて良かったです。
ミカ。
はい。
一人だったら、たぶん無理でした。
レナ。
私も無理。
NoNameにあれ言われて一人だったら、多分突っ込んで死んでた。
ミカは笑った。
たぶん自分も撃ちに行っていた。
ユイも、指示を崩していたかもしれない。
三人だったから拾えた。
NoNameが言った通りだった。
言葉と行動の間に一秒あれば、三人なら拾える。
ミカはノートの最後に、新しい一文を書いた。
師匠を中心にしない。
でも、見失わない。
それは矛盾しているようで、今のミカには必要な言葉だった。
NoNameに勝ちたい。
その気持ちは消さない。
けれど、NoNameだけを見ない。
ユイを見る。
レナを見る。
盤面を見る。
相手を見る。
自分を見る。
その全部の中に、NoNameもいる。
特別な相手。
でも、盤面の一部。
ミカはノートを閉じた。
次にRogueが何を言ってきても、もう昨日までとは違う。
傷つく。
怒る。
証明したくなる。
でも、その一秒を三人で拾える。
三人の世界女王は、NoNameの言葉に刺されながらも、自分たちの形を少しずつ作り始めていた。
そして、その形はやがて。
Rogueが仕掛ける本番の煽りを、真正面から受け止めるための刃になる。




