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女装探偵  作者: 相澤 沁
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97/100

欲望の代償7

その週の土曜日。午後2時過ぎ。

郊外の駅ビル内にあるカラオケボックスの個室に、4人の女性が入った。

大場佳代、白井洋子、鈴木真由、そして美穂。

大場は最初から「私も行きたい! 仲間同士の親睦だもん!」と駄々をこねて、当然のように付いてきた。

美穂は表面上、目を輝かせて喜ぶ演技をこなした。

「わあ、大場さんも来てくれるんだ! 嬉しい〜!」

部屋に入ると、大場がリモコンを手に取り、元気よくマイクを握った。

「じゃあ最初は私が盛り上げるね〜! みんなで盛り上がろー!」

歌は次々と回る。

大場はアップテンポのアイドルソングを歌い、白井と鈴木は少し控えめにバラードを。

美穂は可愛く声を震わせながら、流行りのJ-POPを歌った。

全員が笑顔で拍手し、合いの手を入れる。

だが、白井の目は時折遠くを眺め、鈴木の笑顔はどこか固い。

1時間ほど歌い疲れたところで、4人はドリンクバーへ移動した。

冷たいドリンクをトレイに載せて部屋に戻る途中、美穂はタイミングを見計らって、恥ずかしそうに頰を赤らめた演技を始めた。

「……あのさ……」

全員が足を止める。

美穂は指を絡ませ、視線を床に落としながら、ぽつりと呟いた。

「……社長って、カッコイイよね……。あんなイケオジに憧れちゃう……」

一瞬の静寂。

次の瞬間、美穂は慌てて両手を振った。

「わっ、変なこと言っちゃった! ごめんなさい! 忘れて忘れて! ただの妄想だから!」

ワタワタと顔を覆い、肩を縮めてみせる。

完璧な「恥ずかしがり屋」演技。

白井と鈴木は少し驚いた顔で美穂を見たが、すぐに苦笑いを浮かべた。

「……まあ、社長は確かに貫禄あるよね。」

鈴木が小さく呟く。

だが、美穂の目は大場に固定されていた。

――その瞬間。大場の目が、鋭く細くなった。

口元が、ゆっくりと、ニヤリと吊り上がる。

笑顔のまま、だがそれはいつもの「底なしの明るさ」とは違う。

獲物を前にしたような、満足げで冷たい笑み。

大場はすぐに元の笑顔に戻り、手を叩いた。

「美穂ちゃん、かわいい〜! 社長に憧れちゃうなんて、純粋でいいじゃん!でも内緒だよ? みんなで秘密ね♪」

大場は美穂の肩を抱き寄せ、軽く頰を寄せた。

甘い香水の匂いがする。

美穂は照れたふりで身をよじりながら、心の中で確信した。

――この女、社長室で何が起きているか、全部知ってる。

ドリンクバーのトレイを手に、4人は部屋に戻った。

カラオケは再開されたが、美穂の頭の中はもう、次の手順に移っていた。

社長室への侵入チャンスを作って、盗聴器を仕掛ける。

山口彩花の死、21人+1人の妊娠、スタッフの疲弊……すべてを繋げる鍵は、あの部屋にある。

歌声が部屋に響く中、美穂はマイクを握りながら、青いリボンの隠しカメラが大場の横顔を捉えているのを確認した。

高木に送るべき言葉が、頭に浮かぶ。

――大場佳代、反応あり。

――社長への「憧れ」発言で、ニヤリと笑った。

――これは、罠に掛かったフリが効いた証拠だ。

外では、夕陽がビルに長い影を落としていた。

カラオケのネオンが、4人の顔を淡く照らす。


翌日の昼休み。

店舗のデスクで弁当を広げていた美穂のデスクの電話が鳴った。

大場からの内線メッセージ。

「美穂ちゃん、社長がお呼びだよ〜。 社長室に来てね♪」

美穂は小さく息を吐き、制服のスカートを軽く直した。

青いリボンの隠しカメラは、すでに録画中。

カバンの底に仕込んだ小型盗聴器を、そっと指で確認する。

社長室のドアをノックすると、中から宇都宮の穏やかな声が返ってきた。

「入っていいよ、美穂ちゃん!」

ドアを開けると、宇都宮はデスクの椅子から立ち上がり、にこやかな笑顔で迎えた。

CLAVATAのスーツが、午後の陽を吸い込むように光っている。

「来てくれたな。嬉しいよ!」

宇都宮は一歩近づき、短く、しかししっかりと美穂を抱き寄せた。

ハグは一瞬。

だが、美穂は背中に回された腕の力と、耳元でかすかに聞こえる息遣いから全てを察した。

大場から「餌」食いついたと報告があったんだと。

宇都宮は美穂を離し、椅子を勧めながら座った。

美穂も対面のソファに腰を下ろす。

宇都宮の目は優しいが、底に濁った光がある。

「最近、どうだい? 慣れてきた?」

美穂は頰を少し赤らめて頷く。

「……はい……みんな優しくて……」

宇都宮は満足げに頷き、プライベートに踏み込む質問を始めた。

「退勤後の夜は何をしてるんだい? 恋人はいるのかな? 休みの日はどう過ごしてる?」

質問は穏やかだが、執拗だ。

美穂は設定通りの「純粋で少し寂しがり屋の女の子」を演じながら、曖昧に答えていく。

「……夜は、家でスマホで動画を見てたり……。恋人は、いなくて……。休みは、散歩したり……お金ないから、外食とかあんまり……」

宇都宮はいつも通りのにこやかな顔で、相槌を打つ。

「そうかそうか……。大変だな。でも、ここで頑張れば、すぐに変わるよ。」

そして、立ち上がり、再び美穂を抱き寄せた。

今度のハグは、少し長め。

背中を撫でる手が、わずかに下へ滑る。

美穂は顔を真っ赤にして、照れた演技を全力で出した。

「……っ、社長……!」

慌てて宇都宮の腕から抜け出し、社長室の奥――観葉植物の鉢が置かれたコーナーへ駆け寄った。

「わ、わわっ……! いきなりそんな……社長の顔、見れないです……!」

背を向けたまま、観葉植物の鉢の土に指を差し込み、素早く盗聴器を埋め込む。

土を軽くかぶせ、葉で隠す。

動作は2秒足らず。

隠しカメラがすべてを捉えている。

宇都宮はくすくすと笑った。

「可愛いな、美穂ちゃん。……頑張ってくれよ」

美穂はまだ顔を赤らめたまま、ワタワタと手を振って社長室を飛び出した。

「ご、ごめんなさい! 私、戻ります……!」

ドアを閉めた瞬間、美穂の表情は一変した。

廊下を歩きながら、心の中で呟く。

――設置完了。

社長室の中では、宇都宮がデスクのインターホンを押した。

「大場、入ってこい。」

大場佳代がすぐに現れる。

宇都宮は椅子に深く腰を下ろし、好色な笑みを浮かべた。

「あの美穂って女、楽しませてくれそうだな。」

声は下品に濁っている。

大場はくすりと笑い、宇都宮の前に跪いた。

「社長も好きですね。」

大場の手が、宇都宮のズボンのベルトに伸びる。

ズボンを下ろし、宇都宮のモノをゆっくりと口に含む。

宇都宮は背もたれに体を預け、低く唸る。

「ん……いいぞ、大場……」

大場は慣れた手つきで奉仕を続け、硬くなったそれを自分のスカートの中に導いた。

社長室に、湿った音と息遣いが響く。

外の時間は、ゆっくりと流れていた。

店舗では来客がなく、スタッフたちは静かにデスクに座っている。

退勤時間になった。

美穂は制服のまま店舗を出て、Gurdean事務所へ急いだ。

2階のGuardean事務所に飛び込み、ドアを閉めた瞬間、息を吐く。

高木はすでにモニターの前に座っていた。

美穂はソファに崩れ落ちるように座り、声を低くした。

「盗聴器は設置成功した。 観葉植物の鉢の土の中だ。 宇都宮の反応から、大場からの報告を受けてたようだ。 プライベート質問も執拗だったし。 ところで、盗聴器の調子は?」

高木はキーボードを叩き、リアルタイムの音声データを確認した。

「受信良好。テスト再生する。」

スピーカーから、かすかな音が漏れる。

宇都宮の低く濁った声。

「あの美穂って女、楽しめそうだな。」

大場の笑い声。

そして、布ずれの音、湿った音。

美穂は目を閉じた。

「……これで、核心に近づいた。」

高木は静かに頷く。

「妊娠の件、スタッフの疲弊、山口の死……すべて、この部屋が鍵だ。」

美穂は青いリボンを外し、短い髪に戻って、いつもの「俺」の声で、静かに言った。

「次は、決定的な証拠を取る。」

事務所の明かりが、二人の影を長く伸ばした。

外では、夜が静かに降り始めていた。

ホワイトステートの「キラキラ」は、もう、剥がれ落ちる寸前だった。

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