表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女装探偵  作者: 相澤 沁
9/72

合宿の罠4

湯船から上がる時間になった。

湯気の立ち込める脱衣所は、湿気と笑い声で満ちていた。

美穂はバスタオルを胸元できつく巻き直し、由香の隣で髪を拭いていた。

他のメンバーたちは鏡の前でスキンケアを始めたり、髪を乾かしたりと、のんびりした雰囲気。

その時だった。

リンが、美穂の背後に音もなく近づいた。

「えへへ、サプライズ~!」

明るい声で笑いながら、リンの手が素早く伸びる。

美穂のバスタオルを、後ろから一気に剥ぎ取った。

脱衣所が一瞬、静まり返った。

剥ぎ取られたバスタオルが床に落ちる音が、やけに大きく響く。

全員の視線が、美穂の体に集中した。

そこにあったのは――

片方の乳房が完全に摘出された、痛々しい手術痕が残る女性の体。

色白の肌に、薄いピンク色の瘢痕が、はっきりと浮かび上がっている。

股間部分も、特殊メイクで完璧に女性器のように偽装されていた。

148cmの小柄な体型、細い腰、華奢な肩。

すべてが「女性」としてしか見えなかった。

美穂はその場にへたり込み、両手で体を抱きしめた。

震える声で、涙を溢れさせながら叫ぶ。

「や…やめて…!見ないで…!お願い、見ないでぇ…!」

号泣する演技は、完璧だった。

肩が震え、涙がぽたぽたと床に落ちる。

由香が即座に反応し、美穂の前に立ちはだかった。

「リン! 何やってんの!?美穂ちゃん、昔、乳がんの手術したって言ったでしょ!?」

他のメンバーたちも、一斉にリンを睨んだ。

「こんなのサプライズじゃないよ!!」

「美穂ちゃん、かわいそう…」

「リン、ありえない…出てってよ!」

「最低!!」

非難の声が、次々とリンを包む。

リンの顔から血の気が引いていく。

彼女の計画は完全に崩れていた。

――美穂の正体を暴いて、サークルから追い出し、由香を孤立させて外の男たちに拉致させる。

それが、仁の土地を狙う外国人組織の手先としてのリンの任務だった。

しかし、現実は逆。

剥ぎ取ったはずの「秘密」は、むしろ美穂を「被害者」に変え、リンを「加害者」に仕立て上げた。

リンは唇を震わせ、言葉を探すが、何も出てこない。

メンバーたちの視線が痛すぎる。

居たたまれなくなり、彼女はタオルを掴んで逃げるように脱衣所を飛び出した。

そのまま部屋に戻り、荷物を乱暴に詰め込み、旅館の裏口から姿を消した。美穂は由香に支えられながら、ゆっくり立ち上がった。

由香が新しいタオルを巻いてくれ、他のメンバーも優しく肩を叩く。

「美穂ちゃん、ごめんね…リン、ほんとに最低!」

「私たち、ちゃんと守るからね?」

「もう、リンなんかサークルにいらないよ!」

美穂は涙を拭いながら、弱々しく微笑んだ。

「…みんな、ありがとう。

私…もう大丈夫だから」部屋に戻る途中、メンバーたちは口々にリンを非難した。

「信じられない…」

「由香ちゃんの友達なのに、ひどすぎる。」

「絶対許せない…」

美穂は由香の手を握りながら、心の中で呟いた。

「…逃げたか。でも、これでリンの動きは止まらない。GPS発信機は、まだ生きてる」

高木が遠隔で追跡しているはずだ。

今夜のうちに、何かが起きる。

佐藤美穂は、部屋の鏡に映る自分の姿を見た。

特殊メイクの瘢痕が、薄暗い照明の下で痛々しく光る。

でも、その目は静かに燃えていた。

可愛い顔で、少しだけ、勝利を確信した目で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ