合宿の罠4
湯船から上がる時間になった。
湯気の立ち込める脱衣所は、湿気と笑い声で満ちていた。
美穂はバスタオルを胸元できつく巻き直し、由香の隣で髪を拭いていた。
他のメンバーたちは鏡の前でスキンケアを始めたり、髪を乾かしたりと、のんびりした雰囲気。
その時だった。
リンが、美穂の背後に音もなく近づいた。
「えへへ、サプライズ~!」
明るい声で笑いながら、リンの手が素早く伸びる。
美穂のバスタオルを、後ろから一気に剥ぎ取った。
脱衣所が一瞬、静まり返った。
剥ぎ取られたバスタオルが床に落ちる音が、やけに大きく響く。
全員の視線が、美穂の体に集中した。
そこにあったのは――
片方の乳房が完全に摘出された、痛々しい手術痕が残る女性の体。
色白の肌に、薄いピンク色の瘢痕が、はっきりと浮かび上がっている。
股間部分も、特殊メイクで完璧に女性器のように偽装されていた。
148cmの小柄な体型、細い腰、華奢な肩。
すべてが「女性」としてしか見えなかった。
美穂はその場にへたり込み、両手で体を抱きしめた。
震える声で、涙を溢れさせながら叫ぶ。
「や…やめて…!見ないで…!お願い、見ないでぇ…!」
号泣する演技は、完璧だった。
肩が震え、涙がぽたぽたと床に落ちる。
由香が即座に反応し、美穂の前に立ちはだかった。
「リン! 何やってんの!?美穂ちゃん、昔、乳がんの手術したって言ったでしょ!?」
他のメンバーたちも、一斉にリンを睨んだ。
「こんなのサプライズじゃないよ!!」
「美穂ちゃん、かわいそう…」
「リン、ありえない…出てってよ!」
「最低!!」
非難の声が、次々とリンを包む。
リンの顔から血の気が引いていく。
彼女の計画は完全に崩れていた。
――美穂の正体を暴いて、サークルから追い出し、由香を孤立させて外の男たちに拉致させる。
それが、仁の土地を狙う外国人組織の手先としてのリンの任務だった。
しかし、現実は逆。
剥ぎ取ったはずの「秘密」は、むしろ美穂を「被害者」に変え、リンを「加害者」に仕立て上げた。
リンは唇を震わせ、言葉を探すが、何も出てこない。
メンバーたちの視線が痛すぎる。
居たたまれなくなり、彼女はタオルを掴んで逃げるように脱衣所を飛び出した。
そのまま部屋に戻り、荷物を乱暴に詰め込み、旅館の裏口から姿を消した。美穂は由香に支えられながら、ゆっくり立ち上がった。
由香が新しいタオルを巻いてくれ、他のメンバーも優しく肩を叩く。
「美穂ちゃん、ごめんね…リン、ほんとに最低!」
「私たち、ちゃんと守るからね?」
「もう、リンなんかサークルにいらないよ!」
美穂は涙を拭いながら、弱々しく微笑んだ。
「…みんな、ありがとう。
私…もう大丈夫だから」部屋に戻る途中、メンバーたちは口々にリンを非難した。
「信じられない…」
「由香ちゃんの友達なのに、ひどすぎる。」
「絶対許せない…」
美穂は由香の手を握りながら、心の中で呟いた。
「…逃げたか。でも、これでリンの動きは止まらない。GPS発信機は、まだ生きてる」
高木が遠隔で追跡しているはずだ。
今夜のうちに、何かが起きる。
佐藤美穂は、部屋の鏡に映る自分の姿を見た。
特殊メイクの瘢痕が、薄暗い照明の下で痛々しく光る。
でも、その目は静かに燃えていた。
可愛い顔で、少しだけ、勝利を確信した目で。




