表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女装探偵  作者: 相澤 沁
8/67

合宿の罠3

合宿前日、盗聴を避けるため、再び佐藤探偵事務所「Guardean」に片桐由香を招いた。

マンションの2階、薄暗い階段を上る由香の足音は軽やかだった。

ドアを開けると、由香は両手を広げて飛び込んできた。

「美穂さん! 来たよ~!」

健一(すでに美穂モード)は、いつものようにため息をつきながらも、ソファを勧めた。

高木がコーヒーを淹れ、由香の前に置く。

由香はルンルンで座り、目を輝かせた。

「明日は合宿当日だから、ちゃんと作戦タイムだよ。由香ちゃん、頼むね?」

高木が切り出した。

「風呂の件だけど…美穂ちゃんは、過去に乳がんの手術で乳房を摘出してる設定でいく。だから、体にバスタオルを巻いて、手術痕を見せたくないからって言って、みんなと一緒に入る。由香ちゃんは古い友達として、フォローしてほしい。『美穂ちゃん、昔から体のこと気にしてるから、みんな優しくしてね』みたいな感じでさ。」

由香は真剣に頷いた。

「わかった! 私、絶対フォローするよ。美穂さんが恥ずかしがってるって言ったら、みんな気遣ってくれると思う。…でも、本当に大丈夫? バレちゃったら…なんか、ごめんなさい。」

健一は青いリボンを指で軽く摘みながら、静かに言った。

「バレたら人生ごと終わりかもね。でも、スポンサーからの依頼だし、由香ちゃんを守るためなら…背一杯やるしかないよ。」

由香は少し頰を赤らめ、ぽつり。

「…ありがとう、美穂さん。私、絶対に守ってもらうだけじゃなくて、美穂さんも守るからね!」

作戦の詳細を詰め、由香は満足げに帰っていった。

ドアが閉まると、健一はソファに沈み込んだ。

高木が肩を叩く。

「緊張してる?」

健一は不安を隠せずに言った。

「…当たり前だろ。成人男が、女の子ばっかりの風呂に堂々と入るんだぞ。しかも、リンって怪しい転入生がいる中で、目を離せない。最悪、バレたら俺の人生終わる。」

高木は苦笑した。

「でも、仁さんの依頼だ。絶対に成功させるしかないよ」

合宿当日。

山奥の古い旅館「霧ヶ峰荘」。

夕方になり、女子メンバーが次々と大浴場に向かう時間になった。

美穂(健一)は、いつになく心臓が鳴っていた。

女性用下着は完璧に着用済み。

胸のパッドは外し、平らに近い胸元をバスタオルで隠す準備は万端。

でも、手が震える。由香がそっと近づき、小声で囁いた。

「大丈夫だよ、美穂さん。私がついてるから」

美穂は小さく頷き、トイレに行くふりをして脱衣所の手前で立ち止まった。

リンのバッグが無造作に置かれているのを確認。

素早く手を伸ばし、マイク付きGPS発信機をバッグの内ポケットの奥に忍ばせた。

高木が遠隔で監視できるように。

――これで、リンの動きを追える。

深呼吸して、脱衣所に入る。

すでに数人の女子が着替えを終え、笑い声を上げながら浴場へ向かっている。

由香が先導して、美穂を連れて行く。

「みんな~、美穂ちゃんは昔乳がんの手術したから、体のこと気にしてるの。バスタオル巻いて入るけど、優しくしてあげてね!」

メンバーたちは

「あ、そうなんだ…」

「大変だったね」

「気にしないで!」

と口々に気遣いの言葉をかけた。

リンは少し離れたところで、静かに微笑んでいるだけだった。

美穂はバスタオルを体にきつく巻き、胸元をしっかり隠した。

148cmの小柄な体は、色白の肌が湯気の向こうでほのかに輝く。

長い黒髪をアップにまとめ、橋本環奈のような大きな瞳を伏せ気味に。

誰も疑わない。

誰も、気づかない。湯船に浸かる瞬間、美穂の背筋に冷たいものが走った。

周囲は笑い声と湯気の世界。

由香が隣に座り、手をそっと握ってくれた。

「…緊張してる?」

美穂は小さく頷き、囁いた。

「…リン、どこ?」

由香が目で示す。

リンは湯船の端で、一人静かに浸かっている。

視線が、由香の方をチラチラと見ている。

美穂は心の中で呟いた。

「…来るなら、来いよ。ここで、決着をつける。」

湯煙が立ち込める中、佐藤美穂は、華奢な肩をわずかに震わせながら、覚悟を決めた。

可愛い顔で、少しだけ、冷たい目で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ