友情と正義は勝つ3
そこから3日間、何も起こらなかった。
Guardean事務所のモニターは24時間体制で四方田ジムの入り口を映し続けていたが、画面は静寂そのもの。
会員の出入り、夜間の街灯の光、時折通り過ぎる野良猫の影――それだけだった。
健一と高木は交代で監視を続け、四方田には「今のところ平穏です。」と連絡を入れていた。
佐々木も毎日事務所に顔を出し、コーヒーを淹れながら、四方田が少しずつ笑顔を取り戻していると報告してくれる。
しかし、四日目の深夜2時。
事務所のモニターが突然、動きを捉えた。
1人の男が、フード付きのジャージ姿でジムの入り口に現れた。
既存のカメラの位置を確認するように周囲を見回す。
そして、後ろから素早く手を伸ばし――ダミーカメラをハンマーで叩き壊した。
その瞬間を新設の高所カメラがハッキリと捉えていた。
顔は照明の光でくっきりと映り、表情まで判別できるほど鮮明だ。
そして、バッグからビニール袋を取り出し、動物の死体を次々と撒き散らし始めた。
ネズミ、鳩、猫……血の臭いが画面越しにも伝わってくるかのよう。
同時に、植え込みに仕込んだ盗聴器が次々と音声を拾っていた。
「こんなジム、さっさと畳んじまえばこんな目に遭わずに済んだのに。」
「この立地なら土地買い手なんていくらでも付くって開発業者が言ってるって話らしいし。」
「まぁ、嫌がらせを続けて会員が全部逃げたら、諦めるしかねぇだろ。」
男が立ち去り、画面が再び静かになる。高木は即座にノートパソコンで録画と録音を巻き戻し、確認した。
「録画も録音も問題なし。顔ははっきり映ってる。声もクリア。証拠としては十分すぎる。」
健一はモニターを睨みながら、ゆっくりと笑った。
「こいつの処遇は……黒幕をやっつけてからだな。」
高木はモニターから目を離さずに言った。
「黒幕がいるとしたら…開発業者か、その下請けの可能性が高いな。」
健一はスマホを取り出し、佐々木に電話した。
「今から現場で動物の死体片付けます。佐々木さんも来られますか?」
佐々木は即答した。
「今すぐ行きます! ジム前で待っていてください!」
15分後、佐々木がジム前に到着した。
ジャージ姿で、手にはゴミ袋と消毒スプレー、懐中電灯を持っている。
「佐藤さん、高木さん……! その様子から察するに…何か動きがありましたね?」
健一は頷いて言った。
「完璧に押さえた。顔も声もバッチリ。録画も録音もパーフェクト。」
佐々木は拳を握りしめ、散乱した動物の死体を見つめながら言った。
「四方田さんのジムに……こんなことを……。しかし、これで奴らを追い詰められますね。」
高木は落ち着いた表情で言った。
「警察に提出する前に、黒幕の有無の特定を優先しよう。 録音から『開発業者』というキーワードが出てる。 土地の登記と最近の不動産取引を洗えば繋がるはずだ。」
健一はすでに死体の片付けを始めていた。
手袋をはめ、ビニール袋に一つずつ丁寧に入れていく。
「こんな物、四方田さんに見せたくないもんな。朝までに綺麗にしておこう。」
佐々木もすぐに手伝いに加わった。
三人で黙々と作業を進め、血痕を洗い流し、臭いを消す。
佐々木の目は怒りに燃えながらも、どこか穏やかだった。
「皆さん……本当にありがとうございます。四方田さんは、私の大切な友人です。このジムは、ただの場所じゃない。友情と汗と、筋肉の結晶なんです。」
健一は最後の死体を袋にしまい、立ち上がった。
「仲間を守るのに、理由なんかいらない。」
高木がノートパソコンを閉じ、静かに言った。
「次の一手は、黒幕の特定。 開発業者の名前が出てきたらすぐに動く。」
佐々木は深く頭を下げた。
「正義は……必ず勝つんです。皆さんと一緒に、四方田さんの笑顔を取り戻しましょう。」
夜明け前のジム前で、三人は拳を軽く合わせた。
モニターに映った男の顔は、今や証拠としてGuardeanの手の中にあった
翌日、四方田ジムの応接室は、昨日までの静けさとは打って変わって緊張感に満ちていた。
午前10時過ぎ。
ジムの営業開始前に、健一と高木、そして佐々木の三人が揃って四方田を訪ねた。
四方田は、まだ顔色は優れていない。
ドアを開けると、四方田は驚いたように目を丸くした。
「佐々木さん……佐藤さん……そして、この方は?」
佐々木は穏やかに、しかし力強く頷いた。
「四方田さん、こちらが高木悠斗さんです。 Guardean事務所の参謀で、普段は事務所で証拠の取りまとめや解析などを担当してくれている優秀なメンバーです。 今回の件で、非常に重要な役割を果たしてくれています。」
高木は軽く頭を下げ、いつものクールな表情でノートパソコンをテーブルに置いた。
「四方田さん、はじめまして。 高木です。 よろしくお願いします。」
四方田は少し緊張しながらも、ソファに腰を下ろした。
三人も向かいに座る。
健一はドアの方を軽く見やり、誰にも聞かれていないことを確認してから口を開いた。
「四方田さん、早速ですが……昨夜、犯人が動きまして。証拠を押さえました。」
四方田の目が大きく見開かれた。
「……本当ですか?」
高木はノートパソコンを開き、昨夜の録画ファイルを再生した。
画面に映し出されたのは、深夜2時のジム入り口。
ジャージ姿の男がダミーカメラをハンマーで叩き壊す瞬間、そして動物の死体を撒き散らす様子。
顔は照明の光でくっきりと映り、表情まで判別できるほど鮮明だ。
さらに、盗聴器の音声がスピーカーから流れた。
四方田は画面を見つめたまま、最初は無言だった。
やがて、体が小さく震え始めた。
「……平澤……敦……」
健一と高木、佐々木の視線が一斉に四方田に向く。
佐々木は四方田に尋ねた。
「四方田さん……知り合いの方ですか?」
四方田は震える声で、ゆっくりと頷いた。
「平澤敦……地元の小学校で教諭をしている男です。 一連の嫌がらせ事件に対して誰よりも怒りを露わにしていて……ジムに通う者の中で、俺に一番寄り添ってくれていたんです。 こんなことする奴は許せないって、何度も励ましてくれて……」
四方田は拳を握りしめ、項垂れた。
「全部……演技だったのか……。 平澤なら、ジムの元々の監視カメラの位置も死角も全部知ってるはずです。 俺、つい心を許して……カメラの配置や会員の出入り時間まで、全部話してしまってた……」
声が途切れ、四方田は両手で顔を覆った。
肩が震えている。
佐々木は静かに四方田の肩に手を置き、優しく言った。
「四方田さん……あなたは悪くありません。 信頼していた人に裏切られた痛みは、誰だって耐えがたいものです。 でも、今はもう私たちが証拠を握っています。 これで犯行の核心に迫れます。」
健一は冷静に、しかし優しく言葉を添えた。
「四方田さん、今回の調査については、誰にも話してないんですよね?」
四方田は顔を上げ、強く頷いた。
「はい……絶対に。 佐々木さんに相談した時も、 ジムの会員さんたちには『警察が動いてる』ってだけ言って、詳細は伏せてました。 平澤にも……もちろん、何も。」
高木がノートパソコンを閉じ、静かに言った。
「それなら、まだ平澤は気づいていないはずです。 録音にあった開発業者との繋がりを追いましょう。 平澤を駒として使った可能性もあります。」
佐々木は深く息を吐き、決意を込めて言った。
「四方田さん。もう少しだけ耐えてください。 私たちが、必ずこの裏切りを正します。 四方田さんのジムは友情と汗の結晶です。 絶対に守ります。」
四方田は涙を拭い、ゆっくりと立ち上がった。
目は赤いが、どこか力が戻っていた。
「……ありがとうございます。俺……まだ諦めません。 バッファローマンのように!」
健一はくすっと笑い、拳を軽く差し出した。
「それでいいよ、四方田さん。俺たちも一緒に突進するから。」
四方田は震える手で拳を合わせた。
佐々木と高木も続いて拳を重ねる。
応接室に、静かな決意の空気が満ちた。
外ではジムの会員たちがトレーニングを始め、汗と笑い声が聞こえてくる。
まだ知らない裏切りが、そこに潜んでいることを――。
Guardeanの戦いは、次の段階へ移ろうとしていた。平澤敦、そしてその背後の黒幕を、必ず炙り出すために。




