友情と正義は勝つ2
高木が新規会員のリストの解析を終えたのは、深夜2時過ぎだった。
高木は簡潔に告げた。
「新規会員リストは解析完了。不自然な点は一切なし。住所・入会動機・支払い履歴、全てクリーン。内部犯行の線は薄い。」
健一は天井を睨み、言った。
「了解。なら外部犯行確定だな。 犯人が行動する前に罠を完成させとかないとな。 佐々木さんには絶対に来ないよう悠斗から伝えておいてくれ。」
健一はすぐに準備を始めた。
黒いフーディに暗めのトレーニングパンツ、動きやすいスニーカー。
ポケットには小型工具と、事前に調達した機材の予備バッテリー。
高木も同じく、ノートパソコンと無線機器をバッグに詰め込んでいる。
翌朝――正確にはまだ夜明け前の午前4時。
四方田ジムの裏口近くに、二人は音もなく到着した。
街灯の薄い光が、ジムの入り口をぼんやり照らしている。
……そこには、すでに新たな動物の死体が散乱していた。
ネズミ、鳩、野良猫らしきもの……10体以上。血の臭いが鼻を突く。
高木は眉をひそめ、低く呟いた。
「……酷いことをするな。」
健一は周囲を素早く見回し、唇の端を吊り上げた。
「今こうなってるってことは、犯人はもう引き上げたあとだ。タイミングがいい。俺たちの出番だ。」
二人はすぐに作業を開始した。
こういう仕掛けには、どうしてもグレーな部分――特に盗聴器の設置――が付きまとう。
佐々木には「絶対に来ないでくれ。弁護士の立場が危うくなる」と、昨夜のうちに強く念を押してあった。
佐々木は渋々了承し、今は佐々木国際法律事務所で待機中だ。
健一がまず、既存の監視カメラの死角を埋める位置に新設カメラを設置。
壁の高い位置に小型のものを固定し、夜間赤外線モードを確認。
高木がノートパソコンを開き、無線接続を確立する。
次に、壊されたカメラの交換。
健一が素早くダミーカメラを元の位置に取り付け、配線を偽装。
犯人がまた破壊に来たら、その瞬間を新設カメラが捉えるはずだ。
最後に、入り口付近の植え込みに小型盗聴器を埋め込む。指向性マイク付きで、会話の断片でも拾える高性能なもの。
高木がリアルタイムで音声をテストし、クリアに聞こえるのを確認した。
「……全ての機材、無線接続完了。動作に問題なし。事務所のモニターからも常時監視できる。」
健一は頷いた。
「よし。後は、四方田さんの精神的負担にならないように……この死体を片付けるか。」
二人は手袋をはめ、ビニール袋と消毒スプレーを取り出した。
動物の死体を一つずつ丁寧に回収し、血痕を拭き取り、臭いを消す。
作業中、健一は静かに言った。
「四方田さんにはこんなの見せたくないよな。 ジムに来る会員さんたちも、こんな臭いの中じゃトレーニングどころじゃない。」
作業を終え、現場を何度も確認した後、二人はジムを後にした。
空はようやく薄明るくなり始めていた。
事務所に戻ると、佐々木がすでに待っていた。
コーヒーを淹れてくれていて、二人にカップを差し出す。
「佐藤さん、高木さん……お疲れ様です。どうでしたか?」
健一はソファに腰を下ろした。
「罠は完璧に仕掛けた。リストはクリーンだったから、外部犯行確定。次に奴らが動いたら、証拠をガッチリ押さえる。」
高木も続けた。
「監視は24時間体制で。三人で交代でモニターしよう。」
佐々木は深く息を吐き、静かに頷いた。
「ありがとうございます……四方田さんのジムは私にとっても大切な場所です。 皆さんがいてくれて、本当に心強い。」
健一は軽く笑って、コーヒーを一口飲んだ。
「礼は解決してからでいいよ。 佐々木さん、正義は勝つんだろ?」
佐々木の目に、再び力が宿った。
「はい……正義は、必ず勝つんです。」
事務所のモニターには、四方田ジムの入り口が静かに映し出されている。
ダミーカメラが無言で睨み、新設カメラが夜明けの光を捉え、盗聴器が微かな風の音さえ拾っている。
あとは、犯人が動くのを待つだけだった。




