国際弁護士とは?5
由香がスケッチブックをテーブルに広げ、完成したイラストをみんなに見せた瞬間、佐々木蔵之介の目が一気に輝いた。
「こ、これは……!」
佐々木は立ち上がり、両手を広げて天を仰いだ。
まるで神の啓示を受けたかのように。
「素晴らしい……素晴らしい!! 由香さん、天才です! 本当に天才です!!」
イラストには二つのメイン要素が描かれていた。
一つは、由香がデザインしたカフェ制服を着た可愛らしい女の子。
ミントグリーンのブラウスとフリルエプロン、大きなティアラ風カチューシャにゴールドのハートワッペン。笑顔でトレイを持ち、胸元に「佐々木国際法律事務所カフェ」の小さな盾マーク。
魔法少女のようなキラキラ感がありながら、どこか頼もしくて親しみやすい雰囲気だ。
由香自身をモデルにしたような、明るい茶髪のショートヘアの女の子が、ぴょんと跳ねるようなポーズで立っている。
そして、もう一つ――背景にどっしりと構えるマッチョなガードマン風のイメージキャラクター。
筋肉質の体躯に、黒いベストと白いシャツ、ネクタイを締め、腰に手を当てて仁王立ち。
胸に天秤マークと「S」のイニシャルの入った金色のバッジ、腰に小さな盾型のベルトバックル。
顔は厳ついが、口元に優しい笑みを浮かべ、頭には小さなポリスキャップ風の帽子。
完全にマッチョ寄りだが、威圧感は抑えられていて、むしろ頼もしさがある。
佐々木は特にこのマッチョガードマンに釘付けだった。
「この……このマッチョなガードマン! 素晴らしい! これぞまさに、私どもの事務所の精神を体現した存在です! お客様が来たら、この方が『ようこそ、正義の扉へ』と迎えてくれる……ああ、想像しただけで胸が熱くなります!」
由香が照れくさそうに笑った。
「えへへ、佐々木さん好みにマッチョにしたんだ~。でも、顔はちょっと優しくして、怖くならないようにしました!」
佐々木はイラストを指さしながら、声を張り上げた。
「これを……これを看板に描き入れましょう! お店の正面に、大きな看板を掲げて! オシャレな店名と共に!」
高木が静かに聞いた。
「店名、決まってるんですか?」
佐々木は即答した。
「はい! 『Justice Brew Café(ジャスティス・ブリュー・カフェ)』! 『正義を淹れるカフェ』という意味です。法律相談も、コーヒーも、正義の味で提供します! 看板は、左側にこの可愛い制服の女の子、右側にこのマッチョガードマンが並んで、店名を中央にゴールドの文字で! 夜はライトアップして、キラキラ光るように!」
健一が苦笑しながら言った。
「佐々木さん、完全にカフェの看板じゃなくて、ヒーロー映画のポスターみたいになってる……」
由香が手を叩いて興奮した。
「いいじゃん! それでこそ『愉快で明るい法律事務所』だよ! 私、このイラストをデジタル化して、看板用のデータに仕上げます! 佐々木さん、印刷屋さんとかご存じですか?」
佐々木は再び天を仰ぎ、両手を握りしめて感動の声を上げた。
「由香さん……本当にありがとうございます! このイラストがあれば、うちのカフェはただの喫茶店ではなく、『正義のシンボル』になる! お客様が来るたび、このガードマンが『お帰りなさい』と言ってくれているような……ああ、涙が出そうです!」
田中がそっと呟いた。
「……先生、さっきから天ばっかり仰いでる……」
スタッフ一同が笑いながらも、どこか嬉しそうにイラストを囲んだ。
かくして、佐々木国際法律事務所のカフェ改装工事が、ついに着工となった。
昭和製薬からの資金援助が大きく、予算は当初の予想を上回る規模に膨らんだ。
カウンターの奥には、ただのコーヒーコーナーではなく、昭和製薬の研究員が交代で常駐する「健康とダイエットの相談コーナー」も正式に設けられることになった。
メニューには「正義のプロテインラテ」や「免疫力アップ・ハーブティー」などが並び、法律相談の合間に「ちょっと体調の相談も……」という流れが自然に生まれる設計だ。
ある晴れた午後、佐々木国際法律事務所のスタッフ全員――田中を含む5名が、揃ってGuardean事務所のドアを叩いた。
中に入ると、いつものように健一と高木が迎え、由香は大学帰りでちょうど事務所に寄っていたところだった。
田中が代表して、深々と頭を下げた。
「Guardeanの皆様、本日はお時間をいただき、ありがとうございます。私たち事務所のスタッフ全員で、どうしてもお礼を言いたくて……」
他のスタッフも一斉に頭を下げ、田中が言葉を続けた。
「Guardeanの皆様と関わるようになってから、先生……佐々木先生が、本当に変わられたんです。とにかく明るくなった。笑顔が絶えないんですよ。」
田中は嬉しそうに続けた。
「以前は、ちょっとしたミスでもピリッとして、みんな緊張してましたけど……今は、ミスしても『大丈夫、次に活かせばいいんですよ』って、信じられないくらい寛容で。職場が笑顔で溢れて、ピリピリした感じが全くなくなったんです。ストレスが激減して、私たちみんな体調もずいぶん良くなりました。本当に……ありがとうございます。」
田中が目を潤ませながら言い終えると、他のスタッフも口々に頷いた。
「先生、最近ハルクの話ばっかりですけど……それも楽しそうで。」
「カフェの話で毎日盛り上がってて、仕事のモチベーションが上がってるんですよね。」
「由香さんのイラスト見てから、先生のテンションがさらに爆上がりして……」
高木は穏やかな笑顔で、静かに言った。
「それはむしろ、由香ちゃんの功績ですよ。」
一同の視線が由香に集まった。
由香は少し照れくさそうに、両手を振った。
「えー、私なんか! ただイラスト描いただけだよ~。佐々木さんが元々、みんなを大事に思ってる人だから、私の絵がきっかけになっただけだって!」
しかし、スタッフたちは全員、納得の表情で頷いた。
田中が優しく笑って言った。
「いえいえ。由香さんがいなかったら、先生は今でも『ハルク国際法律事務所』とか言い張ってたと思いますよ。」
一同がくすくすと笑い、事務所に温かい空気が広がった。
健一がコーヒーを淹れながら、静かに言った。
「佐々木さん、変わったのは本当だね。俺たちも、佐々木さんのカフェが楽しみになってきたよ。」
高木が笑って付け加えた。
「コスプレデーには、僕もアイアンマンで応援に行くよ。佐々木さんのハルクと並んだら面白そうだし。」
スタッフたちは目を輝かせ、口々に「ぜひ!」「楽しみです!」と声を上げた。
由香がスケッチブックを広げながら、にこにこした。
「じゃあ、カフェのオープン記念イラストも描いちゃおうかな!みんなで制服着て、ハルク店長と並んだバージョン!」
田中が手を叩いた。
「それ、最高です! オープン当日に店頭に飾りたい……!」
事務所は、再び笑い声と計画の熱気に満ちた。
佐々木国際法律事務所のカフェは、ただの改装工事ではなく、「笑顔と正義と、ちょっとした筋肉」が交差する、新しい居場所として、着実に形を成しつつあった。
こうして、佐々木国際法律事務所の1階には喫茶店『Justice Brew Café(ジャスティス・ブリュー・カフェ)』は開店した。
一風変わった喫茶店として雑誌の取材も訪れ、少しづつSNSでも話題になって行った。
カフェのオープンイベントは、佐々木国際法律事務所の歴史に残る一日となった。
オープン当日、街並みに面した佐々木国際法律事務所の1階は、朝から大勢の人で賑わっていた。
新しく掲げられた大きな看板――由香が描いた可愛い制服の女の子とマッチョガードマンが両サイドに立ち、中央にゴールドの文字で『Justice Brew Café』と輝くデザイン――が、通りすがりの人々の目を引いていた。
夜用のLEDライトアップも準備万端で、夕方以降はさらに目立つはずだ。
イベントのテーマは「正義の1日無料オープン!」
コーヒー・紅茶はチップ制ではあるが、全品無料。
法律相談は30分無料枠を先着順で設け、健康相談コーナーでは昭和製薬の研究員が「今日から始められる簡単ダイエット」をテーマにミニセミナーを開催。
さらに、由香の提案で「オープン記念コスプレデー」として、特別にハルク店長(佐々木蔵之介)が登場するサプライズも予定されていた。
朝9時のオープンと同時に、Guardeanの面々が続々と到着した。
由香は自慢のミントグリーン制服を着て、すでにカウンターに立っていた。
ティアラカチューシャがキラキラ光り、笑顔で「お待たせしました! いらっしゃいませ~!」と声を張る。
隣には美穂モードの健一が、静かにコーヒーを淹れながら「本日のオススメは……正義のプロテインラテです!」と接客。
お客様の多くが二度見し、スマホを構える人が続出していた。
高木はアイアンマンアーマーで店内を巡回し、「何かお困りごとがあれば、いつでもどうぞ」とクールに護衛役を務めていた。
そして、午前11時――待望の「ハルク店長登場タイム」。
BGMが一瞬止まり、照明がスポットライトのように集中。
控え室から出てきた佐々木蔵之介は、すっかりハルク姿。
緑のボディペイント、破れた紫パンツ、ムキムキの筋肉を惜しげもなく披露しながら、ゆっくりとカウンターへ歩み寄った。
会場がどよめき、すぐに歓声が爆発した。
佐々木は深々と一礼し、マイクを握って声を張った。
「皆様、本日は『Justice Brew Café』のオープンにお集まりいただき、誠にありがとうございます!
店長の佐々木蔵之介でございます。本日は……この筋肉で、皆様の正義をお守りいたします!」
会場は悲鳴のような歓声と拍手に包まれた。
由香が横で飛び跳ねながら「店長、かっこいいー!!」と叫び、美穂が静かに拍手。
高木はヘルメットを外して、にこやかに笑っていた。
その後、佐々木はハルク姿のままカウンターに立ち、接客を始めた。
お客様は笑いながら注文し、写真撮影をせがむ人が後を絶たなかった。
昭和製薬の研究員コーナーでは、安達社長自らが来店。
「蔵之介、素晴らしい店だ。うちのプロテインも置かせてもらってありがとう。」と笑顔で握手。
城崎常務も「これで共同研究所の打ち合わせも、ここでできますね。」と満足げだった。
片桐仁は、由香の制服姿を見て少し過保護モードになりかけたが、「由香が楽しそうで何よりだ。佐々木さん、娘をよろしく頼むよ。」と穏やかに言って、コーヒーを飲みながら見守るだけに留めた。
夕方近く、イベントのクライマックスは「みんなで正義のポーズ」タイム。
由香、美穂、アイアンマン姿の高木、ハルク姿の佐々木、スタッフ全員がカウンター前に並び、「正義を淹れるカフェ、オープンおめでとう!」と声を合わせてポーズ。
由香が魔法の指パッチン(演出)をすると、佐々木が最後に「スマッシュ!」で締めくくり、会場は大盛り上がりで幕を閉じた。
閉店後、片付けをしながら佐々木はスタッフ全員に頭を下げた。
「皆様、本日は本当にありがとうございました。このカフェは、ただの店ではなく……私たちの新しい『正義の場』です。これからも、笑顔と筋肉と、由香さんの魔法で、守っていきましょう。」
由香がハグする勢いで飛びついた。
「佐々木さん、最高のオープンだったよ! これからもレギュラーで入るからね!」
美穂は静かに微笑み、「……またエプロン着る日が増えそうだな。」
高木が笑って言った。
「次は月イチのコスプレデーだ。楽しそうだ。」
カフェの明かりが消えた後も、看板のライトアップが優しく街を照らしていた。
『Justice Brew Café』は、ただの喫茶店ではなく、笑いと正義と、少しの筋肉が交差する、郊外の街の新しい名所として、今日から本格的にスタートを切ったのだった。




