国際弁護士とは?4
佐々木は勢いに乗って、由香のスケッチブックを覗き込みながら、さらに言葉を続けた。
「由香さん、実はもう一つお願いがあるのですが……この喫茶店、開店したら、レギュラーとしてお手伝いいただけたら、本当に嬉しいのです! 由香さんの明るい笑顔とコスプレセンスがあれば、お客様がどんどん増えると思います!」
由香は色鉛筆を止めて、目を丸くした。
「え、私がレギュラー!? カフェ店員として!?」
佐々木は少年のようなキ目で言った。
「はい! もちろん、大学のお忙しい時期は無理をさせません。週末だけとか、イベントの時だけとか……由香さんのペースで構いません。」
慌てて付け加えた。
「もちろん、仁さんにはきちんと相談してからにします! 由香さんの安全とご意向が第一ですから。」
そう言いながら、佐々木はもうポケットからスマホを取り出していた。
由香が待ってと言う間もなく、佐々木はすでに片桐仁の番号をタップしていた。
「もしもし、佐々木です。お忙しいところ失礼いたします。」
電話の向こうから、仁の少し驚いた声が聞こえてきた。
「佐々木さん? どうしたんですか?」
佐々木は深呼吸して、丁寧に、しかし熱を込めて説明を始めた。
「実は、事務所の1階を喫茶店に改装する計画を立てまして……。その喫茶店を『愉快で明るい法律事務所』の顔として活用したいと考えているのです。で、由香さんにレギュラーとしてお手伝いいただけたらと思いまして……」
仁は少し間を置いて、静かに聞いた。
「……ほう。カフェですか。面白いですね。」
佐々木はさらに勢いづいて続けた。
「もちろん、由香さんの安全は最優先に考えます。ですが場所が法律事務所の1階ですし、変な客が来る可能性は低いと思います。仮に妙な行動をする者がいたとしても、すぐに私が対応します。それに……たまには美穂さんにも入ってもらう予定ですので、護衛の面でも万全かと。」
電話の向こうで、仁が小さく笑った気配がした。
「美穂さんまで……。佐々木さん、相変わらず大胆ですね。」
佐々木は照れくさそうに咳払いした。
「はは……仁さんのご理解があればこそです」
仁の声は、いつもの過保護なトーンを少し抑えつつ、穏やかだった。
「由香が良ければ、私は構いませんよ。娘のやりたいことを一番に考えていますから。」
佐々木はスマホをスピーカーモードに切り替えて、由香に近づけた。
由香は少し頰を赤らめながら、スマホに向かって明るく答えた。
「パパ! ありがとう! 私、やってみたいかも! カフェの制服、コスプレみたいに可愛くアレンジしちゃおうかな~」
仁の声が優しく返ってきた。
「ふふ、楽しそうに言うなあ……。じゃあ、佐々木さん、由香のスケジュールは由香と相談してください。過保護な親父は、遠くから見守りますよ。」
佐々木は深々と電話相手に頭を下げた。
「ありがとうございます、仁さん。本当に……由香さん、ぜひよろしくお願いします!」
電話を切った佐々木は、満面の笑みで由香を見た。
由香はスケッチブックに「カフェ看板娘・由香ちゃんバージョン」のラフを追加しながら、笑った。「佐々木さん、行動早すぎ! でも……なんか楽しそうかも。美穂さんも一緒にシフト入るなら、絶対面白いよ!」
健一は遠くからため息をつきながら高木に小声で言った。
「……俺、またエプロン着る羽目になるのか……」
高木は肩をすくめて笑った。
「健一、もう諦めろ。」
事務所に、再び明るい笑い声が広がった。
由香がカフェ制服のスケッチを完成させて満足げに頷いた頃、佐々木はさらに勢いづいて次の提案を口にした。
「由香さん、素晴らしいデザインです! それで……もう一つアイデアがあるのですが」
一同が「またですか?」という視線を向ける中、佐々木は両腕を軽く曲げて力こぶを作りながら真剣な顔で言った。
「弁護士の仕事が空いている時、私もカウンターに入ってはいかがでしょうか? 筋肉店長という姿で! コーヒーを淹れながら筋肉と共にお客様をお迎えする……お客様に『ここ、なんか頼りになりそう』と思っていただけるのではと!」
事務所が一瞬、凍りついた。
田中が即座に手を挙げて制止した。
「先生、それだけは……絶対にダメです!!」
若い男性スタッフが慌ててフォロー。
「筋肉店長が接客って……お客様がびっくりして逃げちゃいますよ! というか、法律事務所のイメージが完全に『マッスルバー』になっちゃう……」
由香もスケッチブックを抱えながら、笑いを堪えきれずに言った。
「佐々木さん、想像したらヤバいですよ!」
健一は静かに、しかしきっぱりと言った。
「佐々木さん、それは……お客様のためにも、控えめにしましょう。」
高木が苦笑しながら付け加えた。
「美穂ちゃんですらエプロン姿で接客するのに、佐々木さんだけ筋肉むき出しは……インパクトが強すぎます。」
佐々木は少ししょんぼりして肩を落とした。
しかし、由香がすぐにフォローに入った。
「でもね、佐々木さん! 全部ダメってわけじゃないですよ。店内コスプレの日を、定期的に設けたらどうですか? たとえば月イチの『コスプレカフェデー』とか! その日だけは思う存分、ハルク店長がいても大丈夫だと思います! お客様も覚悟して来てくれるし、SNSでバズりそう!」
佐々木の顔が、ぱっと明るくなった。
「本当ですか……!? コスプレデー……素晴らしい! それなら、事務所の『愉快で明るい』コンセプトにも合いますね! ふふっ、由香さん、最高の提案です!」
田中が安堵の息をつきながら言った。
「それなら……ギリギリセーフかも。事前に告知して、来る人は覚悟の上ってことで。」
佐々木はさらに続けて、スタッフたちに向き直った。
「それと、事務所の皆様にもお願いがあります。法律業務や事務仕事の手が空いている時は、ぜひ店員として入っていただけませんか? 私だけじゃなく、みんなで『チーム佐々木カフェ』として盛り上げたいのです!」
スタッフ一同が顔を見合わせたが、意外と乗り気だった。
若い女性スタッフが手を挙げた。
「私、コーヒー淹れるの好きですよ! 制服着てみたいかも!」
男性スタッフが笑いながら言った。
「俺もたまにはいいっすね。筋肉はないけど、笑顔で接客なら負けませんよ!」
田中がまとめ役として頷いた。
「じゃあ、シフトはローテーションで。先生は……コスプレデー以外はスーツのままでお願いしますね?」
佐々木は満面の笑みで深々と頭を下げた。
「もちろんです! 皆様、本当にありがとうございます。これで、佐々木国際法律事務所のカフェは、ただの喫茶店ではなく、『正義と笑顔と、たまに筋肉が溢れる場所』になるでしょう!」
由香がスケッチブックに追加で「コスプレデー専用ハルク店長ポスター」のラフを描き始めながら、目を輝かせた。
「じゃあ、次はコスプレデーのメニュー考えよう! 『スマッシュ・エスプレッソ』とか『筋肉マッスル・ミルクティー』とか!」
健一は遠くからため息をつきつつ、どこか楽しげに呟いた。
「……俺の美穂シフトも、コスプレデーと被ったら……もう逃げられないんだろうな。」
高木が肩を叩いて笑った。
「健一、みんなで楽しもうぜ。佐々木さんの第二の青春、完全にカフェ編に突入だ!」
事務所は、再び笑い声と計画の熱気に包まれた。




