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女装探偵  作者: 相澤 沁
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80/100

国際弁護士とは?3

佐々木国際法律事務所の会議室は、いつになく活気づいていた。

朝のミーティングが終わった後、佐々木蔵之介が突然立ち上がり、両手を広げて宣言した。

「皆様! この度、私の事務所にもイメージキャラクターが必要ではないでしょうか!」

スタッフたちは一瞬、固まった。

田中が恐る恐る聞いた。

「……イメージキャラクター、ですか?」

佐々木は力強く答えた。

「そうです! 今やどの事務所も、親しみやすさをアピールするためにマスコットやキャラクターを活用しています。私どもの『愉快で明るい弁護士のいる気軽に法律相談のできる事務所』というコンセプトにぴったりな、強い正義感と親しみやすさを兼ね備えたキャラクターを!」

佐々木の目はキラキラ輝いていた。

そして、続けて出した案が……。

「たとえば……緑色の肌で、破れた紫のパンツを穿いた、巨大な筋肉の塊のような……!」

一同、即座にツッコミ。

「それハルクじゃないですか!!」

「著作権的に完全にアウトですって!!」

「先生、もうハルクは卒業しましょう……!」

佐々木は少ししょんぼりしながらも、諦めきれずに別の案を出す。

「では……赤いマントを翻し、雷を操るマッチョな神のような……」

「それもアウトです! トールですよ!!」

「先生、マーベル縛りすぎです……」

スタッフたちは半笑いになりながら、佐々木の熱意に負けそうになる。

すると、若い男性スタッフが提案した。

「いっそのこと、由香さんに相談したらどうですか?由香さんなら、コスプレのセンス抜群ですし、イラストも描けますよね。きっと事務所にぴったりなオリジナルキャラクターを考えてくれそうじゃないですか?」

田中が即座に賛成。

「いいですね! 由香さんなら、正義感があって親しみやすいキャラを提案してくれそう!」

佐々木の目が一気に輝いた。

「素晴らしい! それでは早速、由香さんにご相談です!」

――そして、数時間後。

Guardean事務所のドアが開き、佐々木がスーツ姿で入ってきた。

後ろには田中と、もう一人のスタッフが控えている。

佐々木は緊張と期待で胸を高鳴らせながら、深々と頭を下げた。

「佐藤さん、高木さん、本日はお忙しい中失礼します。実は……事務所のイメージキャラクターについて、由香さんにご相談したくて参りました。」

健一は穏やかに微笑み、スマホを取り出した。

「由香ちゃんにLINEしてみますね。……あ、もう返信来た。『大学終わったらすぐ行く! 楽しみー!』だそうです。」

佐々木は思わず控えめにガッツポーズ。

「素晴らしい! 由香さんならきっと素晴らしいアイデアを……!」

彼の頭の中では、すでにマッチョなイメージキャラクターが暴れ回っていた。

緑の肌は無理でも、せめて筋肉質で、力強い腕を組んだ正義の弁護士風のマスコット……!

もしくは、ボディビルダー風のスーツを着たヒーロー……!

想像するだけで胸が躍る。

高木がコーヒーを淹れながら、静かに言った。

「佐々木さん、由香ちゃんはコスプレのプロみたいなもんですから、きっと事務所のコンセプトに合った、かわいくて強いキャラを考えてくれますよ。」

佐々木は照れくさそうに笑った。

事務所の時計が、由香の到着を待つようにカチカチと進む。

佐々木はソファに座りながら、スマホで過去のコスプレ写真、特に自分のハルク姿をこっそり見返しては、にやにやしていた。

田中が小声で呟く。

「……先生、完全に由香さん依存症になってる……」

健一が苦笑しながら頷いた。

「まあ、由香ちゃんのアイデアなら、きっとみんな納得すると思いますよ。」

やがて、ドアが勢いよく開く音がした。

「由香、到着! イメージキャラクターの相談、任せてー!!」

由香が、大学のカバンを肩にかけ、目をキラキラさせて飛び込んできた。

佐々木は立ち上がり、満面の笑みで迎えた。

「由香さん! お待ちしておりました!どうか……私どもの事務所にふさわしい、素晴らしいキャラクターを……!」

由香はテーブルにスケッチブックを広げ、ペンを握りながら言った。

「わかりました!『愉快で明るい、気軽に相談できる弁護士事務所』ですよね?頼りになる感じでいきたいですよね!」

佐々木の胸が、再び高鳴った。

由香のペンが動き始めた瞬間、事務所に新しい風が吹き始めた気がした。


由香がテーブルにスケッチブックを広げ、色鉛筆を並べて「よーし、まずはラフから!」と集中し始めた頃、佐々木は少し声を潜めて、健一と高木の方に体を寄せた。

「実はですね……もう一つ、皆様にご相談したいことがありまして。」

健一はコーヒーカップを置いて、静かに耳を傾けた。

「どんな計画ですか?」

佐々木は目を輝かせながら、ゆっくりと話し始めた。

「佐々木国際法律事務所の1階部分……今は倉庫兼資料室にしているスペースがあるのですが、あそこを改装して、喫茶店にしようかと考えているのです。」

高木が少し眉を上げた。

「……喫茶店、ですか?」

佐々木はにこやかに言った。

「はい。『愉快で明るい、気軽に法律相談のできる事務所』と謳うだけでは、まだ足りないと思いまして。普段から近所の方や通りすがりの人に『ここ、なんか楽しそうなところだな』と思ってもらって、気軽に入ってきてもらえる場所が必要だと。」

佐々木は両手を軽く握りしめ、熱を込めて続けた。

「たとえば、コーヒーや紅茶を飲みながら、ちょっとした法律相談ができるカウンター席。メニューには『相談ラテ』とか『相続ケーキ』とか、遊び心のあるネーミングを入れて……もちろん本気の相談も受けますが、まずは『怖くない弁護士』という印象を植え付けるのが大事だと思うのです。」

健一は少し考え込みながら、頷いた。

「確かに……事務所のイメージを根本から変えるには、効果的かもしれないですね。カフェ併設の法律事務所って、最近増えてるみたいですし。」

高木も感心したように言った。

「佐々木さんの発想、面白いです。1階をカフェにしたら、由香ちゃんも喜びそう。」

佐々木はそこで、ちょっと照れくさそうに、しかし真剣な顔で付け加えた。

「それで……もう一つお願いがあるのですが…」

二人が「?」と視線を合わせる。

「開店したら、たまにで結構ですので……美穂さんとして、喫茶店を手伝っていただけないでしょうか?」

一瞬、事務所が静まり返った。

そして、次の瞬間――「ぷっ……あははははは!!」

由香がスケッチの手を止めて、テーブルに突っ伏して爆笑した。

色鉛筆が転がる。

高木も肩を震わせながら、声を抑えきれずに笑い出した。

「美穂さんが!?喫茶店で!? エプロンつけて『いらっしゃいませ~』とか言うの!?」

由香が涙目で顔を上げ、息を切らしながら言った。

「想像したらヤバい! 美穂さん、148cmの小柄で可愛い顔で、トレイ持って『本日のオススメは……相談ラテでございます~』とか! お客さん、絶対二度見するよ!!」

健一は顔を赤らめながら、苦笑いを浮かべた。

「……佐々木さん、それは……ちょっと、ですね…」

佐々木は慌てて手を振った。

「いえいえ、もちろん強制ではありません! ただ、美穂さんのあの可愛らしい雰囲気と、意外な戦闘力のギャップが……事務所の『愉快で明るい』イメージにぴったりかと! しかも、女装潜入のプロですから、接客もこなせそうですし……」

高木が笑いを堪えながら言った。

「確かに、美穂ちゃんがコーヒー淹れてる横で、急に誰かがトラブル起こしたら……『私に任せてください』って合気道で制圧する展開とか……最高にシュールですね!」

由香がまだ笑いながら、スケッチブックに急いで何かを描き始めた。

「待って待って! これ、絶対イメージキャラクターに取り入れよう! カフェの看板娘バージョン! 美穂さん風のメイドさんみたいなキャラとかどう!?」

佐々木の目が輝いた。

「素晴らしい! 由香さん、天才です!」

健一はため息をつきつつ、どこか嬉しそうに呟いた。

「……俺、また美穂になる機会が増えるのか……。まあ、嫌いじゃないけど。」

高木が肩を叩いて笑った。

「健一、覚悟しとけよ。佐々木さんの計画、どんどんエスカレートしてるみたいだからな。」

事務所に笑い声が響き渡る中、由香のペンが勢いよく動き続けた。

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