国際弁護士とは?3
佐々木国際法律事務所の会議室は、いつになく活気づいていた。
朝のミーティングが終わった後、佐々木蔵之介が突然立ち上がり、両手を広げて宣言した。
「皆様! この度、私の事務所にもイメージキャラクターが必要ではないでしょうか!」
スタッフたちは一瞬、固まった。
田中が恐る恐る聞いた。
「……イメージキャラクター、ですか?」
佐々木は力強く答えた。
「そうです! 今やどの事務所も、親しみやすさをアピールするためにマスコットやキャラクターを活用しています。私どもの『愉快で明るい弁護士のいる気軽に法律相談のできる事務所』というコンセプトにぴったりな、強い正義感と親しみやすさを兼ね備えたキャラクターを!」
佐々木の目はキラキラ輝いていた。
そして、続けて出した案が……。
「たとえば……緑色の肌で、破れた紫のパンツを穿いた、巨大な筋肉の塊のような……!」
一同、即座にツッコミ。
「それハルクじゃないですか!!」
「著作権的に完全にアウトですって!!」
「先生、もうハルクは卒業しましょう……!」
佐々木は少ししょんぼりしながらも、諦めきれずに別の案を出す。
「では……赤いマントを翻し、雷を操るマッチョな神のような……」
「それもアウトです! トールですよ!!」
「先生、マーベル縛りすぎです……」
スタッフたちは半笑いになりながら、佐々木の熱意に負けそうになる。
すると、若い男性スタッフが提案した。
「いっそのこと、由香さんに相談したらどうですか?由香さんなら、コスプレのセンス抜群ですし、イラストも描けますよね。きっと事務所にぴったりなオリジナルキャラクターを考えてくれそうじゃないですか?」
田中が即座に賛成。
「いいですね! 由香さんなら、正義感があって親しみやすいキャラを提案してくれそう!」
佐々木の目が一気に輝いた。
「素晴らしい! それでは早速、由香さんにご相談です!」
――そして、数時間後。
Guardean事務所のドアが開き、佐々木がスーツ姿で入ってきた。
後ろには田中と、もう一人のスタッフが控えている。
佐々木は緊張と期待で胸を高鳴らせながら、深々と頭を下げた。
「佐藤さん、高木さん、本日はお忙しい中失礼します。実は……事務所のイメージキャラクターについて、由香さんにご相談したくて参りました。」
健一は穏やかに微笑み、スマホを取り出した。
「由香ちゃんにLINEしてみますね。……あ、もう返信来た。『大学終わったらすぐ行く! 楽しみー!』だそうです。」
佐々木は思わず控えめにガッツポーズ。
「素晴らしい! 由香さんならきっと素晴らしいアイデアを……!」
彼の頭の中では、すでにマッチョなイメージキャラクターが暴れ回っていた。
緑の肌は無理でも、せめて筋肉質で、力強い腕を組んだ正義の弁護士風のマスコット……!
もしくは、ボディビルダー風のスーツを着たヒーロー……!
想像するだけで胸が躍る。
高木がコーヒーを淹れながら、静かに言った。
「佐々木さん、由香ちゃんはコスプレのプロみたいなもんですから、きっと事務所のコンセプトに合った、かわいくて強いキャラを考えてくれますよ。」
佐々木は照れくさそうに笑った。
事務所の時計が、由香の到着を待つようにカチカチと進む。
佐々木はソファに座りながら、スマホで過去のコスプレ写真、特に自分のハルク姿をこっそり見返しては、にやにやしていた。
田中が小声で呟く。
「……先生、完全に由香さん依存症になってる……」
健一が苦笑しながら頷いた。
「まあ、由香ちゃんのアイデアなら、きっとみんな納得すると思いますよ。」
やがて、ドアが勢いよく開く音がした。
「由香、到着! イメージキャラクターの相談、任せてー!!」
由香が、大学のカバンを肩にかけ、目をキラキラさせて飛び込んできた。
佐々木は立ち上がり、満面の笑みで迎えた。
「由香さん! お待ちしておりました!どうか……私どもの事務所にふさわしい、素晴らしいキャラクターを……!」
由香はテーブルにスケッチブックを広げ、ペンを握りながら言った。
「わかりました!『愉快で明るい、気軽に相談できる弁護士事務所』ですよね?頼りになる感じでいきたいですよね!」
佐々木の胸が、再び高鳴った。
由香のペンが動き始めた瞬間、事務所に新しい風が吹き始めた気がした。
由香がテーブルにスケッチブックを広げ、色鉛筆を並べて「よーし、まずはラフから!」と集中し始めた頃、佐々木は少し声を潜めて、健一と高木の方に体を寄せた。
「実はですね……もう一つ、皆様にご相談したいことがありまして。」
健一はコーヒーカップを置いて、静かに耳を傾けた。
「どんな計画ですか?」
佐々木は目を輝かせながら、ゆっくりと話し始めた。
「佐々木国際法律事務所の1階部分……今は倉庫兼資料室にしているスペースがあるのですが、あそこを改装して、喫茶店にしようかと考えているのです。」
高木が少し眉を上げた。
「……喫茶店、ですか?」
佐々木はにこやかに言った。
「はい。『愉快で明るい、気軽に法律相談のできる事務所』と謳うだけでは、まだ足りないと思いまして。普段から近所の方や通りすがりの人に『ここ、なんか楽しそうなところだな』と思ってもらって、気軽に入ってきてもらえる場所が必要だと。」
佐々木は両手を軽く握りしめ、熱を込めて続けた。
「たとえば、コーヒーや紅茶を飲みながら、ちょっとした法律相談ができるカウンター席。メニューには『相談ラテ』とか『相続ケーキ』とか、遊び心のあるネーミングを入れて……もちろん本気の相談も受けますが、まずは『怖くない弁護士』という印象を植え付けるのが大事だと思うのです。」
健一は少し考え込みながら、頷いた。
「確かに……事務所のイメージを根本から変えるには、効果的かもしれないですね。カフェ併設の法律事務所って、最近増えてるみたいですし。」
高木も感心したように言った。
「佐々木さんの発想、面白いです。1階をカフェにしたら、由香ちゃんも喜びそう。」
佐々木はそこで、ちょっと照れくさそうに、しかし真剣な顔で付け加えた。
「それで……もう一つお願いがあるのですが…」
二人が「?」と視線を合わせる。
「開店したら、たまにで結構ですので……美穂さんとして、喫茶店を手伝っていただけないでしょうか?」
一瞬、事務所が静まり返った。
そして、次の瞬間――「ぷっ……あははははは!!」
由香がスケッチの手を止めて、テーブルに突っ伏して爆笑した。
色鉛筆が転がる。
高木も肩を震わせながら、声を抑えきれずに笑い出した。
「美穂さんが!?喫茶店で!? エプロンつけて『いらっしゃいませ~』とか言うの!?」
由香が涙目で顔を上げ、息を切らしながら言った。
「想像したらヤバい! 美穂さん、148cmの小柄で可愛い顔で、トレイ持って『本日のオススメは……相談ラテでございます~』とか! お客さん、絶対二度見するよ!!」
健一は顔を赤らめながら、苦笑いを浮かべた。
「……佐々木さん、それは……ちょっと、ですね…」
佐々木は慌てて手を振った。
「いえいえ、もちろん強制ではありません! ただ、美穂さんのあの可愛らしい雰囲気と、意外な戦闘力のギャップが……事務所の『愉快で明るい』イメージにぴったりかと! しかも、女装潜入のプロですから、接客もこなせそうですし……」
高木が笑いを堪えながら言った。
「確かに、美穂ちゃんがコーヒー淹れてる横で、急に誰かがトラブル起こしたら……『私に任せてください』って合気道で制圧する展開とか……最高にシュールですね!」
由香がまだ笑いながら、スケッチブックに急いで何かを描き始めた。
「待って待って! これ、絶対イメージキャラクターに取り入れよう! カフェの看板娘バージョン! 美穂さん風のメイドさんみたいなキャラとかどう!?」
佐々木の目が輝いた。
「素晴らしい! 由香さん、天才です!」
健一はため息をつきつつ、どこか嬉しそうに呟いた。
「……俺、また美穂になる機会が増えるのか……。まあ、嫌いじゃないけど。」
高木が肩を叩いて笑った。
「健一、覚悟しとけよ。佐々木さんの計画、どんどんエスカレートしてるみたいだからな。」
事務所に笑い声が響き渡る中、由香のペンが勢いよく動き続けた。




