見栄の罪を数えろ1
事務所のソファルームは、いつもより少し散らかってる。
テーブルの上には、段ボール箱が山積みになってて、その真ん中で健一が目をキラキラさせながら封を切ってる。
「よっしゃー! 届いたぞ! これこれ、これが欲しかったんだ!」
箱の中から出てきたのは、大量のDVDケース。
仮面ライダーWのジャケットがずらりと全巻並んでる。
それを確認した健一は高らかに笑った。
「ふはははっ! 完璧だ! これでやっと本気で追いつける!」
高木は、隣のソファに座ったまま、コーヒーカップを片手にぼんやりと眺めてる。
「健一、そんなに一気に観るつもりか? 全50話だぞ?」
健一は目を爛々と輝かせて言った。
「もちろん一気見だろ! 何言ってんだよ悠斗!」
健一は立ち上がって、両手を広げながら大真面目に宣言する。
「だって、俺たち探偵だぞ!? これは仮面ライダーで探偵だぞ!? こんなの観ないわけがないだろう!?ハードボイルドな左翔太郎と、頭脳派フィリップのコンビ…俺が翔太郎で、悠斗がフィリップだろ? な? な?」
高木は完全に呆れた顔で健一を冷たい目で見た。
「……僕、フィリップみたいに記憶力バグってないし。」
健一は耳を貸さない。
「細かいことはいいんだよ! 雰囲気だ! 雰囲気!ほらほら、由香ちゃんにも連絡したから、もうすぐ来るってさ!」
高木はため息をついて、カップをテーブルに置く。
「まあ、由香ちゃんが来るなら仕方ないか……でも僕はパスでいいよな?」
健一は少し眉間にシワを寄せて
「えー、悠斗も絶対観た方がいいって!ほら、探偵としての教養だぞ? クライアントの安全を守るためにも、こういう作品から学ぶことってあるんだから!」
高木は頭を抱えて下を向いて言った。
「……それ、完全にオタクの言い訳じゃないか……」
健一は笑いながらリモコンを手に取り、テレビの電源を入れる。
すでに1話のディスクをセット済みだ。
「よし、準備完了! 由香ちゃんが来たら即スタートだ!悠斗も寝るなよー? 一緒に盛り上がろぜ!」
高木はもう諦めたように、ソファに深く沈み込んで目を閉じる。
「……起こさないでくれ。僕はここで仮眠を取る。」
健一は、つまらなそうに言った。
「えー、冷たいなあ! まあいいや、起きたくなったら勝手に混ざってこいよ!……あ、インターホン鳴った。由香ちゃん来た!」
ドアの方から、元気いっぱいの声が響く。
「健一さーん! 由香、来ましたー! Wの一気見、楽しみにしてました!」
健一は満面の笑みで言った。
「よく来た! 由香ちゃん! さあさあ、こっちこっち!まずは1話からガッツリいくぞー!」
高木は目を閉じたまま、小さく呟く。
ソファの上で静かに居眠りを始める高木を横目に、健一と由香のハイテンションな笑い声が、事務所に響き始めた。
事務所のソファルームは、仮面ライダーWのBGMと効果音で一時的に風都の街並みに変貌していた。
画面では、仮面ライダースカルが登場。
重厚なシルエットに、由香が飛び上がる。
「きゃー! スカルさん来たー! かっこよすぎる!
あの白いコート、めっちゃ似合う!」
健一も拳を握りしめて立ち上がってる。
「来たぞ……! 渋いおっさんヒーロー!」
二人は息ぴったりで、画面に向かって声を揃える。
「さぁ、お前の罪を数えろっ!」
完全にシンクロしてる。
高木はもう限界だったらしく、ソファからゆっくり立ち上がり、奥の部屋へ向かう。
「……僕はもう寝る。お二人さん、夜通し楽しんでくださいな。」
ドアが静かに閉まる。
残された二人で、さらに盛り上がろうとしたその瞬間――健一のスマホが鳴った。
画面を見た瞬間、健一の表情が一変する。
「……城崎さん? こんな時間に?」
由香は怪訝そうな顔で訊いた。
「どうしたの、健一さん?」
健一は通話ボタンを押す。
「はい、佐藤です。……え、今から? 社長室にですか?」
スピーカーから漏れる声は、城崎幸三の落ち着いた、しかし切迫したトーン。
「佐藤君、申し訳ないが大至急だ。今から昭和製薬の本社に来てくれないか。社長室で待っている。……詳細は直接話したい。」
健一はいつもの探偵の表情に戻った。
「了解しました。すぐ向かいます。」
通話を切ると、健一は即座に動き出す。
「由香ちゃん、ごめん! 急用入っちゃった。今日はここまでだな。」
由香はつまらなそうに言った。
「えーっ! スカルさんの続き見たかったのに……でも、事件だよね? がんばって!」
健一は、由香をエレベーターまで送り、マンションのセキュリティを確認して、高木を呼んだ。
「悠斗、起きてくれ。城崎さんから緊急の調査依頼。昭和製薬の社長室、今すぐ来てほしいって。」
中から眠そうな声。
「……今、何時だよ……」
健一は高木を急かすように言った。
「午前5時過ぎ。寝不足上等だろ?探偵だぞ? 仮面ライダーWみたいに、夜も昼もないんだよ!」
高木は呆れ顔で返した。
「……お前のせいだぞ、これ。」
ドアが開き、高木がぼさぼさ頭で出てくる。すでにジャケットを着込んでおり、覚悟は決まってるらしい。
「車出すか。僕が運転する。」
二人は事務所を後にし、夜明け前の街へ車を走らせる。
健一は仮面ライダーWの余韻が抜けないようだ。
「……さぁ、お前の罪を数えろ、か。今度は俺たちが誰かの罪を数える番だな。」
高木はハンドルを握ったまま、ため息混じりに呟く。
「……寝不足でハードボイルド気取りか。まあ、いいけど。昭和製薬で何が起きてるんだろうな。」
車は高速を抜け、昭和製薬の本社ビルへと向かう。
朝焼けが空を染めていた。




