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女装探偵  作者: 相澤 沁
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73/100

見栄の罪を数えろ1

事務所のソファルームは、いつもより少し散らかってる。

テーブルの上には、段ボール箱が山積みになってて、その真ん中で健一が目をキラキラさせながら封を切ってる。

「よっしゃー! 届いたぞ! これこれ、これが欲しかったんだ!」

箱の中から出てきたのは、大量のDVDケース。

仮面ライダーWのジャケットがずらりと全巻並んでる。

それを確認した健一は高らかに笑った。

「ふはははっ! 完璧だ! これでやっと本気で追いつける!」

高木は、隣のソファに座ったまま、コーヒーカップを片手にぼんやりと眺めてる。

「健一、そんなに一気に観るつもりか? 全50話だぞ?」

健一は目を爛々と輝かせて言った。

「もちろん一気見だろ! 何言ってんだよ悠斗!」

健一は立ち上がって、両手を広げながら大真面目に宣言する。

「だって、俺たち探偵だぞ!? これは仮面ライダーで探偵だぞ!? こんなの観ないわけがないだろう!?ハードボイルドな左翔太郎と、頭脳派フィリップのコンビ…俺が翔太郎で、悠斗がフィリップだろ? な? な?」

高木は完全に呆れた顔で健一を冷たい目で見た。

「……僕、フィリップみたいに記憶力バグってないし。」

健一は耳を貸さない。

「細かいことはいいんだよ! 雰囲気だ! 雰囲気!ほらほら、由香ちゃんにも連絡したから、もうすぐ来るってさ!」

高木はため息をついて、カップをテーブルに置く。

「まあ、由香ちゃんが来るなら仕方ないか……でも僕はパスでいいよな?」

健一は少し眉間にシワを寄せて

「えー、悠斗も絶対観た方がいいって!ほら、探偵としての教養だぞ? クライアントの安全を守るためにも、こういう作品から学ぶことってあるんだから!」

高木は頭を抱えて下を向いて言った。

「……それ、完全にオタクの言い訳じゃないか……」

健一は笑いながらリモコンを手に取り、テレビの電源を入れる。

すでに1話のディスクをセット済みだ。

「よし、準備完了! 由香ちゃんが来たら即スタートだ!悠斗も寝るなよー? 一緒に盛り上がろぜ!」

高木はもう諦めたように、ソファに深く沈み込んで目を閉じる。

「……起こさないでくれ。僕はここで仮眠を取る。」

健一は、つまらなそうに言った。

「えー、冷たいなあ! まあいいや、起きたくなったら勝手に混ざってこいよ!……あ、インターホン鳴った。由香ちゃん来た!」

ドアの方から、元気いっぱいの声が響く。

「健一さーん! 由香、来ましたー! Wの一気見、楽しみにしてました!」

健一は満面の笑みで言った。

「よく来た! 由香ちゃん! さあさあ、こっちこっち!まずは1話からガッツリいくぞー!」

高木は目を閉じたまま、小さく呟く。

ソファの上で静かに居眠りを始める高木を横目に、健一と由香のハイテンションな笑い声が、事務所に響き始めた。


事務所のソファルームは、仮面ライダーWのBGMと効果音で一時的に風都の街並みに変貌していた。

画面では、仮面ライダースカルが登場。

重厚なシルエットに、由香が飛び上がる。

「きゃー! スカルさん来たー! かっこよすぎる!

あの白いコート、めっちゃ似合う!」

健一も拳を握りしめて立ち上がってる。

「来たぞ……! 渋いおっさんヒーロー!」

二人は息ぴったりで、画面に向かって声を揃える。

「さぁ、お前の罪を数えろっ!」

完全にシンクロしてる。

高木はもう限界だったらしく、ソファからゆっくり立ち上がり、奥の部屋へ向かう。

「……僕はもう寝る。お二人さん、夜通し楽しんでくださいな。」

ドアが静かに閉まる。

残された二人で、さらに盛り上がろうとしたその瞬間――健一のスマホが鳴った。

画面を見た瞬間、健一の表情が一変する。

「……城崎さん? こんな時間に?」

由香は怪訝そうな顔で訊いた。

「どうしたの、健一さん?」

健一は通話ボタンを押す。

「はい、佐藤です。……え、今から? 社長室にですか?」

スピーカーから漏れる声は、城崎幸三の落ち着いた、しかし切迫したトーン。

「佐藤君、申し訳ないが大至急だ。今から昭和製薬の本社に来てくれないか。社長室で待っている。……詳細は直接話したい。」

健一はいつもの探偵の表情に戻った。

「了解しました。すぐ向かいます。」

通話を切ると、健一は即座に動き出す。

「由香ちゃん、ごめん! 急用入っちゃった。今日はここまでだな。」

由香はつまらなそうに言った。

「えーっ! スカルさんの続き見たかったのに……でも、事件だよね? がんばって!」

健一は、由香をエレベーターまで送り、マンションのセキュリティを確認して、高木を呼んだ。

「悠斗、起きてくれ。城崎さんから緊急の調査依頼。昭和製薬の社長室、今すぐ来てほしいって。」

中から眠そうな声。

「……今、何時だよ……」

健一は高木を急かすように言った。

「午前5時過ぎ。寝不足上等だろ?探偵だぞ? 仮面ライダーWみたいに、夜も昼もないんだよ!」

高木は呆れ顔で返した。

「……お前のせいだぞ、これ。」

ドアが開き、高木がぼさぼさ頭で出てくる。すでにジャケットを着込んでおり、覚悟は決まってるらしい。

「車出すか。僕が運転する。」

二人は事務所を後にし、夜明け前の街へ車を走らせる。

健一は仮面ライダーWの余韻が抜けないようだ。

「……さぁ、お前の罪を数えろ、か。今度は俺たちが誰かの罪を数える番だな。」

高木はハンドルを握ったまま、ため息混じりに呟く。

「……寝不足でハードボイルド気取りか。まあ、いいけど。昭和製薬で何が起きてるんだろうな。」

車は高速を抜け、昭和製薬の本社ビルへと向かう。

朝焼けが空を染めていた。

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