経理の闇4
その日の夜も、VIPルームは朝方まで騒がしかった。
シャンパンタワーが何度も立てられ、キャストを全員指名しての独占状態。
大橋と武藤は交互に大声で笑い、キャストに高額チップをばらまき、「俺たちみたいな賢い奴は、金なんて簡単に入るんだよ!」と繰り返し自慢げに語っていた。
美穂は二人の間に挟まれながら、甘える演技を続け、
録音アプリを止めずにすべての会話を拾い続けた。
ようやく夜が明ける頃、大橋と武藤はフラフラになりながら会計カウンターへ。
大橋が分厚い札束を取り出し、現金で支払いを済ませた。
「また来るぜ!」と大声で言い残し、二人でタクシーに乗り込んで去っていった。
店内が静かになった瞬間、店長と残ったキャスト全員がホッとしたように息を吐いた。
美穂は立ち上がり、青いリボンを軽く直しながら、皆の方を向いた。
「みんな、お疲れ様。……奴らの不正の自白、ちゃんと取れたよ。録音に全部残ってる。もう少しで、あの二人はここに来れなくなるから……安心して!」
キャストの一人が、涙目で美穂の手を握った。
「美穂ちゃん……本当?毎回毎回、朝まで独占されて……もう嫌だったの……ありがとう……本当にありがとう……」
ママはカウンターの奥から出てきて、深く頭を下げた。
「美穂ちゃん……前回の乗っ取りの時も助けてくれたけど、今回も……本当にありがとう。あの二人がいなくなったら、キャストもアタシも、みんな笑顔で仕事できるわ。」
美穂は優しく微笑み、皆の肩を順番に軽く叩いた。
「みんなの笑顔を守るのが、私たちの仕事だから。もう少しだけ待ってて。必ず、片付けるから!」
キャストからは拍手と涙混じりの「ありがとう!」が上がり、ママは美穂を抱きしめて背中を叩いた。
「美穂ちゃん、いつでも遊びにきてね?最強VIPとして貸し切りで大歓迎しちゃう!」
美穂はくすっと笑て答えた。
「約束します。今度は、悠斗も一緒に連れてくるね!」
店を出て、朝焼けの歌舞伎町を歩きながら、
美穂はスマホを取り出し、高木に報告した。
「大橋と武藤の自白、追加分も完璧に録音。キャスト全員独占の豪遊ぶりも証言も多数ある。これで、言い逃れは完全に塞がった。」
高木は安堵した声で言った。
「お疲れ。これで証拠は決定的。佐々木弁護士に全データを送って、明日、安達社長に報告するか。」
美穂は青いリボンを指で軽く撫で、朝日を見上げて静かに呟いた。
「大橋、武藤……お前たちの『簡単な金』の夢はもう終わりだ。」
健一は事務所のデスクで、最後のまとめ作業を終えた。
ノートPCの画面には大橋と武藤の自白録音の完全字起こし、クラブ・エリートのママとキャスト複数名からの証言メモなどを証拠資料としてまとめた。
健一はファイルを暗号化し、USBに保存した。
「字起こしと証言まとめ、完了。これで二人の自白と豪遊の証拠は完璧。言い逃れの余地はゼロだ。」
高木も証拠資料の作業を終えた。
「こっちも、横領金の全額1億2千万円の流れの最終まとめ完了だ。」
横領金の全額1億2千万円の流れ:
・武藤→大橋の親族名義口座へ振込
・大橋がATMで現金引き出し
・歌舞伎町・六本木の高級クラブへ直行
・シャンパンタワー、指名、チップなどで消滅
銀行取引履歴、ATM監視カメラ映像、クラブの売上レシート、すべて時系列で紐づけ済み。
これで『私的流用』の立証も確定した。
そして、最終資料を一つのフォルダにまとめ、佐々木蔵之介弁護士にセキュアな共有リンクで送信した。佐々木からすぐに電話があった。
「高木君、佐藤君……届きました。これで完璧です。自白の録音、字起こし、証言、銀行履歴、ATM映像、レシート……これだけ揃っていれば、業務上横領罪、背任罪、詐欺罪の共同正犯で起訴は確実。言い逃れは一切できません。安達社長に今すぐ報告します。警察への被害届提出は、明日朝イチで進めます。……Guardeanの仕事、本当に恐ろしいほど正確で速いですね。これで、昭和製薬の内部浄化はひとまず完了だ。」
健一は電話を切り、高木と視線を交わした。
「調査完了。これで、最初の依頼はクリアだな」
高木は静かに頷き、PCを閉じた。
「安達社長に報告しよう。詳細は、警察が動いてからでいい。」
翌朝、安達社長と城崎常務に最終報告書を提出。
佐々木弁護士が同席し、警察への被害届提出が正式に決定した。
その日のうちに、刑事課の捜査チームが動き出し、大橋健司と武藤啓太郎への事情聴取と家宅捜索が始まった。
Guardeanの昭和製薬初陣は、完璧な勝利で幕を閉じた。
横領1億2千万円の全容が暴かれ、経理の闇は浄化されることになる。
その翌日、昭和製薬の本社応接室に、健一と高木は安達社長と城崎常務に招かれた。
部屋は広々としており、大きな窓から街並みが一望できる。
安達社長はソファの中央に座り、城崎常務が隣に控えていた。
二人は緊張した面持ちで入室し、深く頭を下げた。
「安達社長、城崎常務、本日はお招きいただきありがとうございます。……今回の調査、3週間もかかってしまい、大変申し訳ありませんでした。横領金の全額回収も叶わず、一部は大橋と武藤の浪費で消えてしまいました。私たちの力不足で、会社の被害を完全に防げなかったことを、心よりお詫び申し上げます。」
高木も静かに頭を下げて続けた。
「調査顧問として、もっと迅速に動くべきでした。申し訳ありません。」
安達は穏やかに手を挙げ、二人の謝罪を制した。
その目は、深い感謝と尊敬に満ちていた。
「佐藤君、高木君……頭を上げてくれ。謝る必要などないよ。むしろ……君たちに、心から感謝している。」
城崎が隣で頷き、静かに言葉を継いだ。
「社内の調査チームが10人で半年かけても、尻尾さえ掴めなかった横領の証拠を、君たちはたった3週間で、しかもたった2人で検挙まで持っていった。自白録音、金の流れの完全な紐づけ、クラブでの豪遊証言……これほど完璧な証拠を揃えた調査機関は、私が見てきた中でも類を見ない。Guardeanの優秀さは、言葉では表せないほどだ。」
安達は深く息を吐き、ゆっくりと言った。
「横領金の回収不能は想定内だ。最初から全額戻ってくるなど、誰も期待していなかった。それより……こんなにも迅速に被害を止めてくれただけで充分すぎる。君たちの調査がなければ、横領はさらに続いただろう。そして、どこまで膨らんでいったか想像するだけで恐ろしくなる。……本当に、ありがとう。」
健一は少し照れくさそうに頭を掻き、高木が静かに口を開いた。
「ありがとうございます。……ただ、佐々木蔵之介弁護士の仕事の確実さと迅速さに、かなり助けられました。銀行照会、ログ復元、映像入手……私たちだけでは、ここまで短期間で揃えられなかったと思います。」
安達はくすっと笑って言った。
「佐々木君も、君たちを『恐ろしいほど優秀』と言っていたよ。謙遜はいい。君たちの連携があってこそだ。これからも、昭和製薬を……いや、片桐ファーマシーも含めて、影で支えてくれ。」
城崎が立ち上がり、二人に深く頭を下げた。
「今後とも、よろしくお願いします。貴方たちGuardeanは、私たちにとってかけがえのない存在です。」
健一と高木は立ち上がり、二人とも静かに、しかし力強く頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。昭和製薬の信頼を守るため……全力で取り組みます。」
安達は二人を温かく見つめ、最後に優しく言った。
「これからも、よろしく頼むよ。」
Guardeanの昭和製薬初陣は、感謝と信頼で締めくくられた。




