田舎でBBQしよう1
仁からの電話は、いつものように穏やかだが、少し興奮した声だった。
「健一さん、高木くん……明日からの週末、群馬県にバーベキューに行くんだ。由香が『みんなでワイワイしたい!』って言い出してね。仕事は抜きで、ぜひ一緒に来てほしい。場所は藤岡市の鬼石っていう所にある小平公園のバーベキュー場だよ。由香も昨夜、内線で話してたみたいだけど……どうかな?」
健一は電話をスピーカーに切り替え、高木と顔を見合わせた。
高木は小さく頷き、「他のクライアントの調査は今、情報屋からの報告待ちだ。急ぎの締め切りもないし……行ってもいいんじゃないか?」
健一も同意した。
「仁さん、了解しました。たまには仕事抜きで外に出られるなんて、俺たちも楽しみです。明日、朝何時集合ですか?」
仁は明らかにホッとした声で、「ありがとう!朝9時に本社前に集合で。私の車でみんなで行こう。由香が大喜びしてるよ。」
そして、仁は最後に言いずらそうに付け加えた。
「出来たら…本当に出来たらで良いんだけど…健一くんじゃなくて美穂さんでお願い出来ないか?」
健一は苦笑いしてたが、高木がサッと答えてしまった。
「美穂ちゃんですね! 了解です!」
健一は、呆れ顔で承諾した。
翌朝、仁のプライベート車(いつもの白いベンツAMG)に乗り込み、4人で群馬県藤岡市へ。
由香は後部座席でずっと、「バーベキュー楽しみ~!美穂さん、高木さん、パパもみんなで肉焼くの!やったー!」と子供みたいにはしゃいでいた。
小平公園に着いたのは正午前。
公園内のバーベキュー場は、芝生が広がり、木陰のテーブル席が並ぶ開放的な場所。
仁が事前に予約していた区画に荷物を下ろし、炭火をおこし始めた。
由香は肉を焼く前に、公園内のアスレチックコーナーを見つけて大興奮。
「わー! ロープ渡りある!美穂さん、高木さん、一緒にやろ!」
由香はセーラームーンのTシャツに短パン姿で、アスレチックのロープに飛びつき、「ムーン・プリズム・パワー!」と叫びながら、軽やかに渡っていく。
髪をポニーテールにまとめて、頰を赤くして笑っている姿は、本当に楽しそうだった。
美穂(健一)は少し離れたベンチから、由香の姿を見守りながら、高木に小さく言った。
「由香ちゃん、ほんとに元気。仁さんも、今日は仕事の顔じゃなくて……普通のお父さんね。」
高木は炭火の火起こしを手伝いながら、「そうだな。過保護も少し落ち着いて、由香ちゃんの笑顔が一番大事だって、仁さんも分かってきてるのかもね。」
仁は肉を焼きながら、「由香、危ないから落ちないようにね!」
と声をかけつつ、時々こちらを見て、
「美穂さん、高木くん、本当にありがとう。こうして家族みたいに過ごせるなんて……夢みたいだよ。」
と照れくさそうに笑う。
由香がアスレチックから戻ってきて、
息を弾ませながら、「パパ! 美穂さん! 高木さん!次はみんなでロープ渡りしようよ!一緒に!」
美穂は苦笑しながら立ち上がら、高木もマントを脱いだような気分で、「俺も付き合うよ。タキシード仮面のプライドにかけて」
仁は笑いながら、「じゃあ、私も!」
4人でアスレチックに並び、ロープを渡る順番を決める。
由香が先頭で、「ムーン・ライト・アタック!」と叫びながら飛び出し、美穂が続き、高木が後ろから支え、仁が最後尾で「落ちないように!」と声をかけながら。
公園の芝生に、4人の笑い声が響き渡った。
バーベキュー場の炭火は、ゆっくりと肉を焼き続け、煙が優しく立ち上る。
すると、遠くで耳を劈く甲高いエンジン音が響き始めた。
最初は遠くから聞こえていた排気音が、徐々に近づき、小平公園のバーベキュー場にまで侵入してきた。
明らかに昭和の暴走族スタイルを今も引きずる男たちが、5台のバイクで公園の芝生を荒らしながら乗り込んできた。
由香は炭火の前で固まり、仁は由香を背後に隠すように立ち、顔を青ざめさせている。
「な、何だ……あいつら……」暴走族のリーダー格らしい男がバイクから降り、ヘルメットを外して地面に叩きつけた。
刺青の入った首筋が陽光に光る。
「おいおいおい、ここ俺らの縄張りだって知らねぇのかよ?バーベキューやってんじゃねぇよ、ここは俺らの溜まり場だ。やるなら一人10万よこせ。払わねぇなら、車も女も置いて帰れ。」
他のメンバーがゲラゲラ笑いながら、バイクのエンジンを吹かして威嚇する。
排気音が耳を劈き、煙が芝生に立ち込める。
仁は震え、由香は仁の背中にしがみつき、「パパ……怖い……」
美穂と高木は、呆れた様子で暴走族たちを見ていた。
美穂はゆっくり立ち上がり、静かな声で言った。
「今ならまだ見逃してあげる。どこか行きなさい。」
高木も隣で腕を組み、無言で暴走族を睨む。
その視線だけで、空気が一瞬ピリッと張りつめた。
リーダーが顔を歪め、「はぁ? なんだテメェら、なめてんのか?葬式出してぇのかよ!?おい、みんな!こいつらぶっ飛ばせ!」
暴走族たちが一斉に立ち上がり、チェーンやバットを取り出す。
由香が小さく悲鳴を上げ、仁は由香を抱きしめて後ずさる。
美穂はため息をつき、小さく呟いた。
「由香ちゃん、仁さん、少し下がってて。あんなのすぐ片付けちゃうから。」
高木はジャケットを脱ぎ、袖をまくり上げた。
二人はゆっくりと前に進み出る。
暴走族のリーダーがチェーンを振り回しながら、
「てめぇら、死にてぇんか!?」その瞬間――
健一の目が、鋭く光った。




