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女装探偵  作者: 相澤 沁
50/72

田舎でBBQしよう2

美穂はチェーンが振り下ろされる軌道を読み、一瞬で体を沈めた。

チェーンより低い位置から、リーダーの胃を狙って肘を叩き入れる。

鋭い打撃音が響き、リーダーは「ぐぅ……!」と呻いて膝を突き、そのまま前屈みになって嘔吐した。

胃液とビールの臭いが一瞬広がる。他の暴走族メンバーが一斉に動いた。

釘バット、鉄パイプ、チェーン……

それぞれが武器を振り上げ、「てめぇらぁぁ!」と怒鳴りながら襲いかかる。

美穂はサッと体を捻って最初の鉄パイプを躱し、相手の背後に回り込む。

合気道の要領で、相手の肩を掴んで関節を極め、軽く捻るだけで脱臼させた。

「ぐあぁっ!」

男は悲鳴を上げて地面に崩れ落ちる。

高木は無言で前に出た。

一人の暴走族が釘バットを振り下ろしてきた瞬間、高木は体をわずかに傾けて躱し、

相手の首の後ろをトンと叩く。急所を正確に突かれた男は、目を見開いたまま意識を失い、その場に崩れ落ちた。

美穂は倒れたリーダーの横で立ち、おどけた顔で両手を広げて言った。

「次はだぁれ?まだまだ遊べるよ~?」

暴走族の残りのメンバーは、倒れた仲間を見て顔色を変えた。

「やべぇ……こいつらヤバい……」

「逃げろ! 逃げろって!」

慌てて仲間を抱え上げ、バイクにまたがってエンジンをかける。

甲高い排気音が再び響き、5台のバイクは煙を吐きながら、

公園の出口へ向かって逃げ去った。

芝生の上には、嘔吐の跡と脱臼した男の呻き声だけが残った。

由香は仁の背中に隠れながら、震える声で言った。

「美穂さん……高木さん……すごい……」

仁は由香を抱きしめながら、呆然と二人の背中を見つめ、「君たち……本当に……ただの探偵じゃないな……」

美穂は髪を軽く払い、いつもの可愛らしい笑顔に戻って振り返った。

「大丈夫だよ、由香ちゃん。もう来ないから。怖かったよね?変なの来ちゃってビックリしたよね。」


帰り道、仁のベンツAMGは群馬の田舎道をゆったりと走っていた。

全員がバーベキューで満腹になり、車内は眠気と満足感に包まれていた。

美穂は後部座席で、お腹を軽くさすりながらおどけた顔で言った。

「アタシ、こんな食べたの久しぶりー!太っちゃうー! もう動けないよぉ~」

由香がクスクス笑い、「美穂さん、めっちゃ食べてたもんね!でも可愛いから太っても大丈夫だよ!」

仁も運転しながら苦笑し、「健一さん……いや、美穂さん、今日は本当にありがとう。由香も、こんなに楽しそうに笑ってるの見たのは久しぶりだ。」

高木は助手席で静かに頷き、親指を立てて同意を示した。

車内が柔らかな笑いに包まれたその瞬間――

また、甲高いエンジン音がけたたましく近づいてきた。後方から、さっきの暴走族のバイク5台が猛スピードで追い上げてくる。

排気音が耳を劈き、サイドミラーに赤と黒の特攻服が映る。

仁の顔が青ざめ、由香はシートに体を縮こまらせた。

暴走族たちは仁のベンツを取り囲むように並走し、大声で怒鳴り散らす。

「おい! 逃げんじゃねぇぞコラァ!」

「メンツが立たねぇだろ! 勝負しろよ!」

「てめぇら、さっきの仕返しだ! 止まれぇ!」

仁はハンドルを握る手が震え、

「こ、こいつら……まだ諦めてなかったのか……由香、シートベルトしっかり!」

由香は怯えた声で、「パパ……美穂さん……」

美穂と高木は、後部座席と助手席で呆れた顔を見合わせた。

美穂はため息をつき、「仁さん、車を止めてください。ここで片付けます。」

高木も無言で頷き、ジャケットの袖をまくり上げる。

仁は驚いた顔でバックミラーを確認し、「でも……危ないんじゃないか?警察を呼んだ方が……」

美穂は優しく、しかし確信を持って言った。

「大丈夫です。こんなのすぐ片付きます。車を止めてください。」

仁は迷った末、路肩に車を寄せて停車した。

エンジンを切り、由香を後部座席にしっかり抱き寄せる。

暴走族たちはバイクを横付けし、リーダーが地面に降りて、チェーンを振り回しながら近づいてきた。「おいおい、止まったじゃねぇか。今度は逃げねぇよな?さっきの仕返しだ!」

美穂は後部ドアを開け、ゆっくりと降り立った。

黄色いワンピースの裾を軽く払い、おどけた笑顔で言った。

「また来たの?さっき、十分遊んだよね?」

高木も助手席から降り、無言で美穂の隣に立つ。

二人の間に、静かな圧力が広がる。リーダーが顔を歪め、「てめぇら……なめてんのか!?今度はマジでぶっ殺すぞ!」

美穂は小さく首を傾げ、「ふふ……じゃあ、かかっておいで?でも、次に動いたら……本当に、動けなくなるよ?」

暴走族たちは一瞬怯んだが、リーダーがチェーンを振り上げ、「やっちまえぇ!」と叫んで突進してきた。

高木はリーダーがチェーンを大きく振りかぶるより先に、懐に飛び込んだ。

体を低く沈め、両手の人差し指と中指を鋭く立てて、リーダーの両鎖骨の窪みに同時にめり込ませる。

骨の折れる乾いた音が二つ響き、リーダーは「ぐぉあっ……!」と呻いて膝を突き、そのまま前屈みになって地面に倒れた。

チェーンが手から落ち、アスファルトに乾いた金属音を立てる。

ほぼ同時に、美穂は別の暴走族が振り下ろしてきた釘バットを、体をわずかに傾けて躱した。

バットが空を切り、美穂は瞬時に相手の背後に回り込む。

腕を捻じ上げ、手首を逆方向に極める。

「ガキィ!」

手首の骨が折れる音がして、男は悲鳴を上げてバットを落とした。

高木は倒れたリーダーの横で立ち、低い声で静かに、しかし冷たく言った。

「次はどいつだ?」

暴走族の残りのメンバーは、鎖骨を折られたリーダーと手首を折られた仲間を見て、顔色を変えた。

「やべぇ……こいつらマジでヤバい……」

「逃げろ! 置いてけ!」

仲間を抱え上げる余裕もなく、バイクに飛び乗り、エンジンを吹かして一目散に逃げ去った。

甲高い排気音が田舎の幹線道路に遠ざっていく。

美穂は倒れたリーダーの横で立ち、おどけ顔で両手を広げて言った。

「暴走族ってこわぁい!もう来ないでね~?」

由香は仁の背中に隠れながら、震える声で言った。

「美穂さん…高木さん…大丈夫?」

仁は由香を抱きしめながら、呆然と二人の背中を見ていた。

美穂は髪を軽く払い、いつもの可愛らしい笑顔に戻って振り返った。

「大丈夫だよ、由香ちゃん。もう来ないから。」

高木は倒れた暴走族の一人を軽く確認し、「気絶してるだけだ。今回は……警察も救急車も呼ばないでおくか。田舎道だし、こいつらも二度と近づかないだろう。」

仁はスマホを取り出しかけた手を止め、「本当に……いいのか?」

美穂は優しく頷き、「ええ。これ以上騒ぎを大きくする必要はないです。由香ちゃんの安全が守れたなら、それで十分。」

由香は、涙目になりながら美穂に駆け寄った。

「美穂さん……ありがとう……怖かったけど……美穂さんがいてくれて……高木さんも……大好き!」

美穂は由香を抱きしめ、優しく頭を撫でた。

仁は深く息を吐き、「ありがとう……本当にありがとう。君たちがいなかったら……」

高木は無言で車に戻り、ドアを開けて由香と仁を促した。

「帰ろう。もう大丈夫だから。」

ベンツAMGは静かにエンジンをかけ、田舎の幹線道路を走り出した。

後ろの暴走族のエンジン音はもう聞こえない。

車内は、由香の小さな寝息と、仁の感謝の呟きと、美穂と高木の静かな視線で満たされていた。

美穂は窓の外を見ながら、小さく呟いた。

「暴走族ってこわぁい……なんてね!」

高木はバックミラー越しに美穂を見て、小さく頷いた。

車は、群馬の道を静かに走り続ける。


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