とんでもない依頼3
片桐ファーマシー本社ビル地下駐車場。
午前9時半。
仁はすでに待機していて、白い軽自動車のトランクを開けていた。
4つのアタッシュケースは、旅行用のスーツケースやスポーツバッグに偽装され、さらに段ボールや毛布で覆われている。
外見だけ見れば、ただの家族旅行の荷物にしか見えない。仁は健一と高木に頭を下げた。
「本当に……頼むよ。3億8000万円。これが届けば、支社は正式に独立できる。食品会社の株取得が成功すれば、片桐グループの基盤が固まるんだ。」
健一はケースを一つずつ、Guardeanの軽自動車のトランクに移しながら、
「分かりました。下道メインで、目立たないルートを組みました。休憩はコンビニ2箇所と道の駅1箇所。万一の追跡対策で、ダミールートも頭に入れてる。時間は2時間弱。昼前には支社に着く予定です。」
高木は運転席に座り、エンジンをかけながら、
「助手席は……美穂ちゃんにお願いします。一見、ただの若いカップルがドライブしてるように見える方が安全ですので。」
健一は小さく頷き、助手席に座ってメイクを始めた。
すでに美穂モード。
長い黒髪のウィッグ、軽いメイク、白のブラウスに膝上丈のスカート姿。
一見すると、普通のデート中のカップルだ。
仁は最後にトランクを閉め、心配そうに言った。
「気をつけて。何かあったら、すぐに連絡を。」
軽自動車は静かに本社ビルを後にした。
下道を走る。
高速を使わず、一般道を慎重に進む。
美穂(健一)は助手席でスマホのGPSと後方確認を繰り返し、高木はミラーで周囲を警戒しながら運転する。
会話は最小限。
「異常なし」
「後ろもクリア」
それだけ。普通のドライブなら大したことのない距離。
しかし、助手席の美穂は、
時々後ろを振り返ってケースを確認する。
3億8000万円。
その重みが、車内の空気を少しずつ重くしていた。
支社まではあと30分というところで、
美穂が小さく呟いた。
「……悠斗、後ろの黒いセダン、さっきからついてきてる。」
高木はミラーを確認し、表情を硬くした。
「気づいてた。ナンバー控えた。さっきのコンビニで一度離れたはずなのに……また追いついてきたな。」
美穂はスカートの裾を軽く握りしめ、後方をミラー越しに睨みながら言った。
「Guardeanを狙ってる影……まだ誰も知らないと思ってたけど、どうやら誰かが嗅ぎつけてるみたい。」高木は頷き、ハンドルを握り直た。
「予定通り支社まで行く。でも、到着直前にスタッフに連絡。車から運び出すのは、僕たちじゃなく支社側に任せる。美穂ちゃんは……そのまま助手席にいてくれ。」
美穂は小さく笑って、
「了解。でも、必要なら……美穂じゃなくて、健一として動くね。」
軽自動車は静かに下道を進み続ける。
後ろの黒いセダンは、一定の距離を保ちながら、執拗に追尾していた。




