とんでもない依頼1
ある日、事務所にいつもの「ベートーベンの運命」の冒頭が鳴り響いた。
健一はデスクで書類を整理していた手を止めた。
「また由香ちゃんの件だな……」
ため息混じりにパソコン画面に目を向けた。
高木が隣でコーヒーをすすりながら、
「仁さん、最近は由香ちゃん関連ばっかりだったからな。合鍵の件で少し抑えられたと思ったのに…」
健一がメールを開くと、意外にも件名は『現金輸送の護衛依頼について』
本文は簡潔だった。
『健一さん、高木くん急な依頼で申し訳ありません。会社の支社に現金を届けなければならず、警備会社に外国人スタッフが増えていて信用できないため、「Guardean」に現金輸送を頼みたいと考えています。金額や詳細は口頭で伝えたいので、今夜10時過ぎに事務所へ伺います。よろしくお願いします。 片桐仁』
健一は眉を上げ、高木と顔を見合わせた。
「由香ちゃんじゃない……本格的な護衛依頼か…」
高木はカップを置いて、
「珍しいな。仁さん、普段は由香ちゃん関連しか頼んでこないのに。現金輸送って……きっと結構な額なんだろうな。」
健一は椅子に深く座り直し、
「まあ、仁さんの会社の規模を考えたら、数千万単位はあり得る。でも、警備会社を信用できないって……外国人スタッフが増えたってだけで、そんなに信用失うもんか?」
高木は肩をすくめて、
「仁さん、過保護を通り越して猜疑心が強いタイプだからな。由香ちゃんの件で僕たちを信頼してる分、他の部分には慎重になってるのかもね。」
夜10時過ぎ。
事務所のドアが静かにノックされ、仁が入ってきた。
いつものスーツ姿だが、ネクタイは緩め、目元に疲労の色が濃い。
「遅い時間にすまない。本当に急な依頼で……でも、他に頼める人がいなくて…」
健一は仁にコーヒーを勧め、ソファに座るよう促した。
高木も隣に座り、三人でテーブルを囲む。
仁はケースを開けず、まず深呼吸してから切り出した。
「会社の支社に、現金を直接届ける必要がある。金額は……かなり大きい。警備会社に頼むべきなんだが、最近外国人スタッフが増えて、どうも信用できない部分があって……君たちなら、安心して任せられると思ったんだ。」
健一は静かに頷いた。
「金額も含めて、詳細を聞かせてください。輸送ルート、時間、支社の場所……全部教えてくれれば、俺たちで最適な護衛計画を立てます。」




