彼氏のフリと本気の警護4
打ち合わせが終わった直後、由香はソファからぴょんと飛び上がった。
目をキラキラさせて高木に向き直る。
「じゃあ今から高木さんの服、選びに行こー!パパが新調OKって言ってるんだから、絶対カッコよくしなきゃ!」
高木は一瞬固まり、苦笑しながらスマホを手に取った。
「…今から? マジで?」
由香はすでに鞄を肩にかけ、ドアの方へ小走り。
「もちろん今から! 2月11日のカフェデートまで時間ないよ!高木さん、年上でカッコイイ彼氏なんだから、似合う服探さなきゃ!」
健一は腕を組んで、楽しげに二人のやり取りを見守っていた。
「由香ちゃんのテンション、すごいな。悠斗、覚悟しとけよ!」
高木はため息をつきながら仁に電話をかけた。
短いやり取りの後、スマホを切って報告する。
「仁さん、すぐに車出すから20分待っててくれって。…マジで来るらしい」
由香は両手を挙げて喜んだ。
20分後。
マンションの前に、純白のメルセデス・ベンツAMGが静かに滑り込んできた。
運転席から降りてきたのは、片桐仁本人。
スーツ姿で穏やかな笑みを浮かべている。
「高木くん、健一さん。由香の頼み事を聞いてくれてありがとう。」
仁は後部座席のドアを開け、
「この車、今回のデートで使ってくれ。由香の安全のためにも、目立つ車の方が抑止力になると思うんだ。」
高木は目を丸くして車体を見た。
「…これ、AMGですよね?僕が運転するんですか?」
仁は苦笑しながら頷き、
「そうだよ。由香が『高木さんが運転してくれたらカッコイイ』って言ってたからね。」
続けて、仁は自分のクレジットカードを由香に手渡した。
「服代はこれで好きなだけ使って。限度額は気にしなくていい。」
由香はカードを受け取り、飛び跳ねるように喜んだ。
「パパ、ありがとう! 最高!」
仁は最後に車のキーを高木に差し出した。
「じゃあ、頼んだよ。気をつけて行ってきて。」
そう言い残して、仁は近くの駅に向かって歩き始めた。
電車で帰るらしい。
健一と高木は、去っていく仁の背中を見送りながら、顔を見合わせた。
「……次元が違うな。」
二人の声が重なる。
感心と呆れが完全に混じった表情。高木は緊張した顔で運転席に乗り込んだ。
シートに座った瞬間、革の匂いとエンジンの低く唸る音に圧倒される。
「…僕、こんな車運転したことないんだけど…」
由香は助手席に飛び乗り、シートベルトをしながら笑った。
「大丈夫だよ! 高木さんならカッコよく運転できるって!さあ、行こー! 服屋さん!」
白いAMGが静かに発進し、マンションの前から去っていった。
一方、健一は事務所に戻り、ドアを閉めて一人でソファに沈んだ。
久しぶりに女装なしの仕事が決まった喜びが、じわじわと湧いてくる。
「…久しぶりに、男の俺で仕事できる。スーツ着て、影から睨んで、必要ならぶん殴って……最高じゃん!」
健一は鏡の前でネクタイを締め直す仕草をしてみた。
少し背伸びした姿が、妙に新鮮だ。
仁の過保護が、奇妙な形で皆を巻き込みながら、
新しい「仕事」が始まろうとしていた。




