ステージの裏側6
個別面談当日。
エターナル・プロモーションのオフィスビルは、都心の雑居ビルの上層階にあった。
美穂はエレベーターで上がる間、鏡に映る自分の姿を確認した。
今日は審査の時とは違い、フリルたっぷりのピンクのブラウスに、膝上丈のレーススカート。
髪には大きなリボン、首元にアクセサリーのネックレス、袖口に小さなチャームブレスレット。
可愛らしい「ぶりっ子」アイドル志望者そのもの。
しかし、そのフリルやアクセサリーのあちこちに、高木が仕込んだ超小型隠しカメラと盗聴器が埋め込まれていた。
胸元のリボン、ネックレスのペンダント、スカートの裾のレース、ブレスレットのチャーム……
すべてが、闇契約の現場を徹底的に記録するための目と耳だ。
面談室は狭く、窓のない密室だった。
ドアを開けると、すでに三人が待っていた。
エターナル・プロモーションの社長:50代半ばの男。笑顔だが目が冷たい。
Next Star Project 2026の審査委員長:60代前半。威圧的な態度で座っている。
プロデューサーらしき男:40代。
目つきが好色で、ジロジロと美穂の体を舐め回すように見ている。
社長が明るく立ち上がり、手を差し出した。
「ようこそ、佐藤美穂さん!合格おめでとうございます。今日は大事なお話があるので、よろしくね!」
審査委員長は偉そうに腕を組みんで言った。
「君はファイナリストの中でも特に目立っていた。これからが本番だ。誇りに思いなさい。」
プロデューサーは口元を歪めて、好色丸出しの顔で言った。
「可愛いねぇ……本当に可愛い。これからが楽しみだよ。」
美穂はにこにこ笑って頭を下げ、
「わー、ありがとうございますぅ!こんな私でよければ、よろしくお願いしまーす♪」
社長がテーブルの上に厚い契約書を置いた。
「この度、佐藤美穂さんがアイドルとして所属契約を結ぶのは、弊社『エターナル・プロモーション』です。こちらが契約書ですので、サインしてください。」
美穂は目を丸くして、ぶりっ子全開で首を傾げた。
「えーっ? いきなり契約書ですかぁ?まだデビューも決まってないのに、契約金とか……ちょっと、びっくりしちゃいますぅ……」
審査委員長が即座に声を荒げた。
「何を言ってるんだ!君は合格したんだぞ?こんなところで恥をかかせるな!さっさとサインしろ!」
プロデューサーは椅子に深く腰掛け、足を組んでニヤリと笑う。
「早くサインしないと……永遠に帰れないよ?ここから出る方法は、もう一つしかないんだからね?」
部屋の空気が一瞬で凍りついた。
美穂は怯えたふりをして目を潤ませて
「え……永遠に、ですかぁ?そんな……怖いですぅ……」
社長は笑顔のまま、契約書を美穂の方に押し進めた。
「心配しなくていいよ。サインすれば、1,500万円の契約金がすぐ振り込まれる。デビューも保証される。君みたいな可愛い子は、すぐに人気が出るよ。ただし……特別な『お仕事』もお願いするけどね。」
美穂は震える手で契約書に触れ、
「特別な……お仕事、ですかぁ?どんなのですかぁ……?」
プロデューサーが低く笑いながら
「それは……サインしてからのお楽しみだよ。まずはペンを持って。!ほら、早く」
美穂の指が、ゆっくりとペンを握る。
フリルの袖口のチャームが、わずかに光を反射した。
それは、高木が遠隔で監視している隠しカメラのレンズだった。
部屋の外では、高木がバンの中でモニターを凝視していた。
「…全部録れてる。脅迫、闇契約の匂わせ、映像の強要……これで決定的証拠だ。」
美穂は心の中で呟いた。
「…もう少し。もう少しだけ、喋らせて。」
可愛い顔で涙を浮かべながら、佐藤美穂は、ゆっくりとペンを契約書のサイン欄に近づけた。




