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女装探偵  作者: 相澤 沁
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ステージの裏側5

郊外マンションの2階、佐藤探偵事務所「Guardean」。

夜の11時を回った頃、部屋の照明はデスクのランプだけが灯っていた。

高木がノートパソコンを広げ、隠し撮りした映像を再生する。

画面には、最終審査のステージが映し出されていた。

高木は美穂の番だけでなく、他の参加者全員の様子を、袖から小型カメラで密かに記録していた。

理由はシンプルだ。

美穂の地味ダンスと、他の子の『基準通り』ダンスを比較するため。

健一は私服のTシャツ姿で椅子に座り、腕を組んで画面を見つめる。

映像が美穂の番に移る。

大人しいステップ、地味なターン、スカートがほとんど舞わない振付。

歌唱は確かに上手いが、審査員の表情が明らかに変わる。

「…ここ、見てみろ。」

高木が一時停止し、ズームイン。

審査委員長の顔が不満げに歪んでいる。

隣の審査員がメモに何かを書きなぐり、カメラマンがレンズを下ろしてため息をつく様子がはっきり映っていた。

次に、他の参加者の映像。

体を大きく揺らし、ターンを連発してスカートをひらりと舞わせる子たち。

審査員席は一転して熱を帯び、カメラが執拗に胸元と下半身を追う。

メモを取るふりをして、満足げに頷く姿。

健一は画面を凝視したまま、ぼそりと呟いた。

「…露骨すぎるだろ。俺の時だけ、明らかにイラついてる。基準を守らなかった罰ゲームみたいだな。」

高木は苦笑しながら首を振る。

「これ、完全にエロ目的の選抜だよ。体を揺らさない子は『使えない』って烙印押されてる。合格通知が来たら、きっと『特別指導』とか言って、闇契約を迫ってくるパターンだ。」

二人は映像を巻き戻し、何度も確認する。

呆れと怒りが混じった沈黙が部屋を包む。

その時、パソコンの通知音が鳴った。

メール着信。

件名:【Next Star Project 2026】最終審査結果のご連絡送信者はオーディション事務局。

本文を開くと、短い文面。

『佐藤美穂様最終審査の結果、合格とさせていただきます。おめでとうございます!詳細な契約内容および今後のスケジュールについては、近日中に個別面談にてご説明いたします。面談日時は追ってご連絡いたします。エターナル・プロモーション一同』

健一と高木は同時に顔を見合わせ、ニヤリと笑った。

「…かかったな。」

健一が低い声で呟き、高木が拳を軽く握る。

「これで、個別面談に潜り込める。面談室に隠しカメラ仕込んで、闇契約の全貌を録画する。契約金1,500万の裏側、全部暴いてやる。」

健一は椅子から立ち上がり、クローゼットの奥から青いリボンを取り出した。

指で軽く結びながら、静かに言った。

「次は、美穂として『喜んで』面談に行く。由香ちゃんみたいな子が二度とこんな罠に引っかからないように…全部、終わらせる。」

事務所の窓から、郊外の夜景が広がっていた。

ランプの光に照らされた青いリボンが、静かに揺れる。

美穂は、鏡に映る自分の姿を見ながら可愛い笑顔を練習した。

でも、目は冷たく、鋭く光っていた。

個別面談の日が、近づいていた。

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