ステージの裏側4
最終審査当日。
イベントホールのステージは、スポットライトが眩しく、客席は審査員と関係者だけで埋まっていた。
参加者は10人。
全員がミニスカートを義務付けられ、緊張と期待が入り混じった空気の中で並んでいる。審査委員長がマイクを握り、声を張り上げた。
「君たちは、この『Next Star Project 2026』のファイナリストだ!ここまで勝ち上がったこと自体、十分に誇れることだ。だが…更なる上を目指すなら、この最終審査を受けてほしい!合格すれば、賞金、デビュー契約金、そして最優秀者には夢のコラボステージまで用意されている!」
「ファイナリスト」という言葉の響きに、控え室が沸いた。
少女たちは目を輝かせ、手を叩き、互いに抱き合う。
美穂は壁際に立ち、静かに微笑んだふりをしながら、心の中で冷たく分析していた。
「…ファイナリスト全員に餌を撒いて、逃がさない気だな」順番が次々と進む。
多くの参加者は、審査基準通りに体を大きく揺らし、ターンを連発。
スカートがひらりと舞い、胸が上下するたび、審査員席のカメラが無言で追う。
美穂はステージ袖で高木に合図を送った。
スマホの画面で、短く「俺の番」。
自分の出番が呼ばれた。ステージに上がる。
照明が美穂を照らす。
148cmの小柄な体、色白の肌、長い黒髪に青いリボン。
ミニスカートが軽く揺れるが、美穂は深呼吸してスタート。
イントロが流れる。
Gold finger99の古いメロディーがホールに響く。
歌唱は予想外に確かだった。
透明感のある声で、感情を込めて歌い上げる。
高木が控室のモニター越しに親指を立てる。
そして振付パート。美穂は、わざと「地味」にした。
大人しいステップ。
ターンも最小限で、スカートがほとんど舞わない。
体を大きく揺らさず、腰も控えめ。
基準を完全に無視した、控えめで清楚なダンス。
審査員席がざわついた。
一人が眉をひそめ、隣の者に耳打ちする。
カメラマンがズームを調整するが、狙いが外れているのが分かる。
美穂は歌い終わり、軽くお辞儀をしてステージを降りた。
控室に戻ると、他の参加者たちが拍手を送ってきた。
「美穂ちゃんの歌、めっちゃ上手かった!」
「可愛い~!」
美穂は照れたふりをして頭を下げながら、心の中で呟く。
「…反応したな。基準を守らなかった俺に、イラついてる。」
最後の参加者が終わり、全員が控室で待機。
モニターに結果が映るはずだったが、審査委員長がステージに戻ってきて発表した。
「本日の審査は、非常に拮抗しておりました。全員のレベルが高く、即時決定は難しいため…結果は後日、個別に連絡いたします。今日はお疲れさまでした。解散とさせていただきます。」
控室がどよめいた。
「え、後日?」
「みんな合格かな…?」
一部の子は喜び、一部は不安げに荷物をまとめる。
美穂は静かに鞄を手に取り、出口へ向かった。高木が外で待機しているバンに乗り込むと、すぐに報告。
「後日連絡ってのは、怪しい。おそらく、個別面談で『契約金を受け取るなら、特別な条件を飲め』って持ちかけるパターンだ。俺のダンスが地味だったせいで、審査員の反応が悪かった。狙われてる可能性が高い。」
高木がモニターを確認しながら頷く。
「カメラのデータ、全部回収した。体揺らしダンスの子たちの映像は、明らかにエロ目的で撮られてる。
美穂ちゃんの分は、ほとんど無駄撮りになってるよ(笑)」
美穂はシートに沈み、青いリボンを指で摘んだ。
「…次は、個別連絡を待つ。来たら、そこで決定的証拠を掴む。由香ちゃんみたいな子が、この罠に落ちないように。」
夜の街を走るバンの中で、佐藤美穂は静かに目を閉じた。
可愛い顔の裏で、探偵の目は、ゆっくりと燃え上がっていた。




