ステージの裏側3
二次審査から二週間後。
佐藤探偵事務所「Guardean」のパソコンに、最終審査の詳細が届いた。
メールの件名はシンプルに「Final Audition Notice」。
課題曲:Gold finger99
(20年以上前のマイナーアイドルソング。アップテンポでキャッチーだが、今の若者にはほぼ知られていない古株の曲)
内容:歌唱パート:原曲通りのフルコーラスを歌う
振付パート:課題曲に合わせたオリジナル振付を自分で考えて披露
振付の基準(明記されている)なるべく体を揺らす(特に胸と腰の動きを強調)
ターンを随所に入れる(スカートがひらりと舞うように)
ミニスカートでの参加は義務(丈は膝上15cm以内推奨)
最終合格者特典:賞金100万円
デビューに向けた契約金1,500万円
最優秀グランプリ受賞者には、希望のアーティストとのコラボコンサートステージを用意
健一は画面を凝視したまま、長いため息をついた。
「…契約金1,500万?賞金100万にプラスで?しかもグランプリならコラボコンサートまで?あり得ねえだろ。こんな好条件、絶対に裏がある。」
高木は隣でコーヒーを吹き出しそうになりながら、爆笑した。
「いや、まず課題曲がヤバいって!Gold finger99って…マジで20年前の曲じゃん!今どき誰が知ってるんだよ!これ、絶対に『知らない子を狙って恥をかかせる』ための古い曲選んでるだろ!笑えるわ、ほんと!」
健一は椅子に深く沈み、青いリボンを指でくるくる回しながら呟いた。
「笑い事じゃねえよ。振付の基準見てみろ。『体を揺らす』『ターンを入れる』…全部、スカートめくれと胸の揺れを狙った指示だ。二次審査の隠しカメラと同じ。最終審査はもっと露骨に撮影して、合格後に『この映像をネタに契約しろ』って脅す気だろ。」
高木の笑いが徐々に収まり、真剣な顔になる。
「…確かに。1,500万の契約金ってのも、普通の新人アイドルじゃあり得ない額。闇金レベルの借金漬けにするための餌だな。枕営業か、違法な仕事の強要か…どっちにしろ、ヤバい」
健一は立ち上がり、クローゼットを開けた。
ミニスカートを何枚か並べて見比べながら、
「…最終審査で決定的な証拠を掴む。振付は自分で考えるって書いてあるから、俺は『体を揺らさないバージョン』を作って、審査員の反応を見る。カメラの位置、録画のタイミング、合格後の個別面談の有無…全部記録する。」
高木がパソコンを叩き始める。
「了解。俺は会場周辺の監視カメラの位置と、審査員の身元を洗う。Gold finger99の歌詞とメロディー、予習しといて。美穂ちゃんの歌声、楽しみだよ(笑)」
健一は鏡の前で、ミニスカートの丈を測りながらぼそり。
「…笑うな。俺は本気でアイドルになる気はねえけど、由香ちゃんみたいな子がこの罠に引っかからないようにするためだ。」
二週間後。
最終審査会場は、都心のイベントホール。
ステージ照明が眩しく、客席は審査員と関係者だけ。
参加者は10人ほどに絞られていた。
美穂は控室で、短いスカートを指で押さえながら深呼吸した。
課題曲のイントロが頭の中で流れ始める。
Gold finger99。
古い曲なのに、なぜか胸に刺さる。
でも、ステージに立つ瞬間、佐藤美穂の目は冷たく光っていた。
「…この曲で、全部暴いてやる。」
審査員席のカメラが、すでに回り始めていた。可愛い笑顔の裏で、探偵の牙が、静かに剥き出しになる。




