第4話 自分の「全裸」を勝手に頒布される(2/3)
レオンは、その変化に気づかないまま、真面目に依頼をこなしていた。
「助かったよ、冒険者さん! あんたが来てくれなかったら魔物に殺されていたよ……」
村人が、何度も頭を下げる。
「いえ、仕事ですのでお気になさらず」
「それでもだ! 本当にありがとう!」
レオンは、少し照れくさそうに笑った。
「また魔物が出たら呼んで下さい。すぐ駆けつけますから」
仕事は順調、新しい友だちもできて毎日充実している。
胸を弾ませながら、依頼完了を伝えにギルドへ戻るレオンだった。
――その頃、手芸部の部室では。
「……で、誰がレオン君と付き合うの?」
ミーナが、唐突に切り出した。
「は?」
エリスが、思わず針を落とす。
「いや、だってさ。
このまま曖昧にしてたら、絶対こじれるじゃん」
「もう十分こじれてると思うけど」
エリスが、冷静にツッコんだ。
「クララは?」
ミーナが、代表に視線を向ける。
「え、えっと……」
クララは、困ったように笑った。
「私は、その……みんなのことも大事だし……」
「それ、保留ってこと?」
「ミーナはどうなの?」
「私は好きだよ、レオン」
ミーナは、即答した。
「最初に“かわいい”って言ったの、私だからね」
「先着順なわけ? レオン君は」
「エリスは?」
「わ、私はそういのじゃないから」
エリスは、視線をそらす。
「でも、“すごいです、本当に”って言われたとき、
耳まで真っ赤になってたよね?」
「なってない」
「なってた」
「なってない!」
「ムキになるところが怪しい」
「……」
エリスは、口をつぐんだ。
「リサはどうなの?」
全員の視線が、部屋の隅に集まる。
我関せずと刺繍を続けるリサだが、ミーナが静かに切れた。
「それ……何の刺繍?」
「別に……」
――ダッシュで駆け寄ったミーナがリサの刺繍を取り上げる。
「あ、ダメっ」
そしてその図案を広げて叫んだ。
「レオンの顔じゃん! リサもレオン好きなんじゃん!」
「あっ、あっ、違うの! それは!」
往生際の悪いリサだったが、その背後に隠した作りかけの刺繍枠もミーナに取り上げられた。
「これもレオン! これもレオン! え、なんでこのレオン服着てないの」
「いやああっ!! 見ないで~~!」
ミーナが、じとっとした目で見る。
「つまり、全員、レオン君が好きってこと?」
三人は沈黙したが、答えが「是」であることは明白だった。
「じゃあ、誰がレオン君と付き合うか、決めよ」
ミーナが、机をばんっと叩いた。
「決めよ、って……」
「こういうの、ちゃんと話し合わないと、
後で取り返しつかなくなるんだよ!」
ミーナの目は本気だ。
「じゃあ、どうやって決めるの?」
「刺繍勝負」
「くじ引き?」
「それで決めるのはレオン君に失礼じゃないかしら?」
「じゃあ、どうすればいいのよ!」
ミーナの声が、少しずつ大きくなる。
「そもそも、最初にレオンと仲良くって言ったのは、クララでしょ!」
「えっ、私!?」
「"新入部員だから、みんな仲良くしてあげてね"って言ってたよね! じゃあ身を引くべきじゃないの?」
「そ、その言い方は卑怯よ!」
ミーナが、ぐいっと詰め寄る。
「エリス、何が刺繍勝負よ! 本気過ぎでしょ!」
「リサだって。レオンが来てから、しつこいぐらいお茶運んじゃってさ……今まで入れたことなんて無いくせに! レオン君の膀胱破壊するつもり!?」
「はあああ!!? カマトトぶってんじゃないわよ陰気女!」
「あざと色ボケ女!」
部屋の空気が、一気にきな臭くなる。
「ちょ、ちょっと落ち着こう?」
クララが、慌てて両手を広げた。
「レオン君のことは、一旦置いておいて――」
「置いておけないから揉めてるんでしょ! いい加減自分は関係ないみたいな態度やめなさいよ!」
ミーナの言い草に、ついにクララが限界を超えた。
「――レオン君を一番幸せに出来るのは私ッ! だから私が付き合いますッ!!!」
「そんな理屈ある?」
エリスが、眉をひそめる。
「じゃあエリスは? レオンと付き合ったら何するの?」
「二人で刺繍するんです。えへへ」
「なにそれ、つまんなぁ~い!」
「じゃあミーナは?」
「教えなぁ~い」
「クソ女……!」
言い争いは、あっという間にヒートアップした。
言葉の応酬が、やがて肩の小突き合いになり、
肩の小突き合いが、やがて本気の取っ組み合いになり――
「ちょ、ちょっと! やめなさい、二人とも!」
「三人とも、だよ!」
「リサ、後ろから抱きつくの反則!」
「……寝技は得意」
「そういう問題じゃない!」
机が揺れ、糸が散らばり、刺繍枠が転がる。
そこへ、慌ててギルドマスターが飛び込んできた。
「お前たち! 何を騒いでいるんだ! ギルド中に響いてるぞ!」
「マスター、聞いてくださいよ!
クララが――」
「ミーナが――」
「エリスが――」
「……全員、レオンが好き」
「リサ、それは言わなくていい!」
マスターは、こめかみを押さえた。
「……分かった。分かったから、一旦落ち着いて……ん、なんだこれは」
『ヤバッ』――四人の心の声が重なった。
「レオンの刺繍……なんでこのレオンは裸なんだ?」
「作ったのはリサだよ!」
「死ね」
「チクってんじゃねーよクソ女ァァァ……!」
「わた、私は何も、知りません!」
そして、深くため息をつく。
「手芸部は、活動停止だ」
「えっ」
「全員、ギルドのサークル活動から追放する。
落ち着くまで、しばらく顔を出すな」
「そ、そんな!」
「マスター、待ってください!」
「待たない!!」
マスターの怒声が、部屋に響いた。
「(こんなハレンチなものを作るとは……レオン君には見せられんな……)」
――その少し後――
レオンが手芸部に行くと、そこには一枚の紙が貼られていた。
「――?」
【重要】迷惑行為に伴う会員除名のお知らせ
昨日、ラウンジ内にて発生した乱闘騒ぎ、および「公序良俗に著しく反する刺繍作品(計48点)」の展示・頒布を確認いたしました。
つきましては、以下の4名を追放処分といたします。
・クララ
・ミーナ
・エリス
・リサ
これにより、手芸部は本日をもって無期限の活動停止といたします。
尚、事由を詮索する行為は固く禁じます。
以上。
「どうして……?」
レオンは、しばらくその紙を見つめていた。
◯
レオンが廊下で項垂れていると、
二人組の女性が声をかけてきた。
「どうかされました?」
物腰の柔らかい雰囲気の女性が、耳に長い髪をかけながら、心配そうに覗き込む。
「あ、いえ……手芸部が、なくなっちゃって」
「手芸部?」
短髪で声の低い女性が、眉をひそめた。
「あそこ、なんか揉めてたらしいね」
「揉めてた、ですか?」
「うん。詳しくは知らないけど」
短髪の女性は、肩をすくめる。
「私たちは文学クラブなんですが、興味あります?」
「文学クラブ?」
長い髪の女性が、にこっと笑った。
「本を読んだり、感想を話したり、たまに詩を書いたりするサークルです。まだ出来たばかりで私たちしかいないんですよ」
「ね、男の子入れていいの?」
短髪の女性が、少し渋い顔をする。
「男性の意見も必要だって言ってたじゃないですか」
「そうだけどさあ」
「レオンさんの意見もあるし、お互いにお試しで。ね?」
長い髪の女性が、レオンに手を差し出す。
「よかったら、一度見学に来てみませんか?」
「……いいんですか?」
「もちろん」
レオンは、その手を握り返した。
「じゃあ、お邪魔します」




