スパイ容疑1
俺が先生の申し出を断った次の日。
「おはようございますの、タケルさん。」
「ああ、おはようリリー。」
教室にいるのはいつものクラスメイト。
「天野は・・・・視聴覚室か。」
絵がうまいベレー帽の美少女は視聴覚室の奥で絵画にいそしんでいるはずだ。
「はあ・・・・。」
48回目の俺は何事もなく過ぎていくのだろうと思う。
何もできず、ただただ49回目を迎えるために日々を消耗して生きていいく。
そう考えると少々むなしくなる。
でも行動すればもっとむなしくなる。
だからやめた。
今までと違うのは加藤が出てこないことだ。
スパイごっこ好きの中二病のあいつがいないのは少々寂しい気もする。
暇だな。
総合演習、座学の繰り返しでこのまま過ぎていくのだと見通しが持ててしまったから。
ならば、少しでも楽しく生きると考えるのが人の性である。
「うまい飯でも食って、、、」
「なんですの??タケルさん。」
教室を出ていこうとする俺を追いかけるリリー。
「いや、、、なんだか退屈だからさ。」
「だめですよ。授業をボイコットなんてしたら・・・・その国に・・・・」
「リリーはまじめだな。大丈夫だよ。問題ない。」
そのまま振り返って教室を出ようとする。
リリーは俺の袖をつかむ。
顔を伏せたままだ。
「リリー??」
俺はリリーの顔を覗き込もうとする。
「あんまり・・・・ルールから外れようとしないでくださいまし。タケルさんが不幸になるだけですの・・・・」
目に留まらぬ早さで俺に視線を向けた。
その目は笑っていない。
何かこう俺の体を貫くようなきつい視線。
「いや・・・なんだよ。。リリー。」
「だめですの。授業を受けてくださいまし。そうでなければ・・・・私は・・・・私は・・・・あなたを・・・・」
「俺をどうするってんだ??」
「その・・・・・」
リリーは刃物のようなとがった視線をこちらに送ったまま、少し冷や汗なのか発汗している。
「だめですの。」
「いやに今回は・・・つっかかるな。」
「授業ヲ・・・はじめますヨ。」
ロボットのような声を出しながら苗村先生が教室に入ってきた。
「ちっ・・・・仕方ない。」
「授業は出てくださいまし。」
リリーは俺の袖を離す。
俺は仕方なく着席した。
「デハ・・・・33ページをひらいてクダサイ。」
苗村先生も日に日にガラクタ化が進んでいるようだ。
リリーの方を見る。
何か唇を動かしている。
こちらに刃物のように鋭い視線を送りながら。
「??」
唇を読んでみる。
「う・ら・ぎ・り・も・の・は・・・・」
後半も何か口を動かしていたが読み取れなかった。
「裏切者はヤッちゃうよ・・・?」
リリーの口から??
加藤がいつも言っている言葉が??
なぜリリーがその言葉を・・・・。
知っている?
加藤のいないであろうこの世界で。




